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16-4・『二』メダル~凡人の説得術~茨城の観察


「そ、そんなこと・・・言われなくたって解っています。」


 未だに好意を忘れられない初恋相手の恋人(?)に、正論で説教をされているのだ。木山少年がしがみついていた僅かな自尊心が崩れていく。

 全身から発せられる闇が増幅され、少年の腹に鬼印が出現をして闇を吸収する!集まった闇が球体となって広がり、木山少年を飲み込んだ!


「燕真、ヤバいよ!」 「佐波木、煽りすぎだ!出現するぞ!」

「良いんだよ、これで!」


 今までは‘重たい雰囲気’しか感じていなかった亜美達にも、闇の球体が見える!立ち上がって構える燕真と雅仁!闇の球体は、室内いっぱいに広がり、ドアを開けて、木山少年をコアにしたまま通路に飛び出した!


「逃げたっ!」

「ヤバいじゃん!なんで逃げるんだ!?」

「ここでは、狭すぎて実体化ができないんだ!」


 紅葉と雅仁は、燕真が少年を挑発して妖怪化をさせたのが想定外。燕真は、妖怪が出現前に移動したのが想定外。燕真&紅葉&雅仁は、慌てて闇の球体を追い掛ける。


「えっ?デカい妖怪って、実体化する前に場所を変えるのか?」

「狭い場所ぢゃ、大きい妖怪が出てこれないんだから当たり前ぢゃん!」

「そんなことも知らなかったのか、未熟者め!」

「知らんかった!先に言えよ!知ってたら、店に入る前に説教したっての!」

「そっくりそのまま言葉を返す!

 あえて挑発をして実体化をさせる作戦なら先に言え!」

「燕真のアホアホっ!」


 店を飛び出して駐車場に辿り着く燕真&紅葉&雅仁!闇の球体は直径3mほどに膨れあがり、中から身長3mで1つ目の怪僧=一つ目入道が出現をした!


「幻装っ!」×2


 Yメダルをベルトのバックルに装填する燕真&雅仁!全身が輝いて、妖幻ファイターザムシード&ガルダ登場!鳥銃・迦楼羅焔を装備したガルダが、一つ目入道目掛けて光弾を連射!着弾をした一つ目入道は数歩後退をする!


「うおぉぉぉぉっっっっっっっっっっっっっんっっ!!!」


 一つ目入道は大声で嘶いて周囲に闇の衝撃波を撒き散らした!ザムシードは紅葉を庇い、ガルダは重心を落として衝撃波に耐える!一つ目入道が闇の球体に姿を変え、飛び上がって逃走をする!ザムシードは、1つ目入道を追う為にマシンOBOROバイクを呼び寄せた!


「佐波木!」

「どうした!?」

「子妖だ!奴は、闇の衝撃波で子妖を撒き散らしたんだ!」


 数百匹の身長3センチくらいの一つ目妖怪が、カラオケ店の駐車場を走り回っている。


「わっ!わっ!」


 ザムシードによじ登って子妖から逃げる紅葉。数百の子妖は、店から出て来た紅葉の仲間達、散歩中の中年、自転車に乗る学生達、近くのスーパー等々、憑く対象を探して一斉に走って行く。


「マズいな。紅葉と狗塚は、子妖祓いを頼む!俺は本体を潰す!」

「待て、佐波木!実力で考えれば、俺が本体討伐で、君は子妖処理だろうに!」

「アイツ(木山少年)は、俺が何とかしてやりたいんだ!

 だから、ザコは頼む!」

「燕真~!ァタシに素手で3センチの小人を叩き潰せっての?

 さすがにチョット、キショい。」

「オマエには、これを貸しておく!」


 ザムシードは、基本装備の裁笏ヤマ(木製ナイフ)を紅葉に渡し、この場はガルダを任せて、バイクに跨がって一つ目入道を追う!スタートが遅れた所為で距離が開いてしまったが、問題が無い!マシンOBOROの朧フェイスの口から発せられた妖穴に飛び込んだ!

 数秒後には、一つ目入道を覆った闇の球体のど真ん中に、マシンOBOROを駆るザムシードが出現!一つ目入道をバイクで弾き飛ばした!

 空き地に墜落する一つ目入道と、着地をしたバイクから降りて妖刀ホエマルを構えるザムシード!


「おい、少年!俺の声が聞こえてるか!?」

「うおぉぉぉぉっっっっっっっっっっっっっんっっ!!!」

「ちぃっ!ダメか!」


 呼び掛けに対して返ってくるのは一つ目入道の嘶きのみ。依り代の少年は、完全に取り込まれて、強制的に意識を眠らされている。妖怪を弱体させるには、バイクの体当たりだけでは足りないようだ。


「だったら・・・」


 妖幻システムの装備は、白メダルを使用しなければ、妖怪を封印する効果を発揮しない。裏を返せば、白メダル無しの攻撃なら、徹底的に妖怪を弱らせて、妖怪に憑かれた状態の依り代を目覚めさせることができる。


「良い機会だ!試してみたいメダルがある!」


 ザムシードは、Yウォッチから二口女のメダルを抜き取る。決して強い妖怪ではないので、強力な武器ではない。妖幻ファイターは、『蜘』や『鵺』等の、強い妖怪で作ったメダルを同時には使えない。2枚以上の強力なメダルの同時使用をすると、必要妖力が妖幻ファイターのキャパシティーを越えてしまい、自動でリミッターが掛かる。妖刀や弓銃に『炎』や『斬』のメダルをセットすると使役妖怪の妖力を高めてしまい、妖幻ファイターの制御能力を超えてしまう危険がある為に、自動でリミッターが掛かってしまう。

 つまり、ザムシードの能力では、妖怪メダルの同時使用は出来ない。しかし、二口女のメダルには、新たなる試みが為されている。元々弱い妖力をYメダル変換時に更に抑え込み、メダルの同時使用を可能にしてある。


 『二』と書かれたメダルを、Yウォッチの空きスロットに装填!目の前に光の渦が出現して、脇腹(下緒部分)に窪みのある朱色の鞘が出現!妖鞘を握り締め、妖刀ホエマルを納刀し、鞘の窪みに『炎』メダルをセットして、脇に帯刀するザムシード!


 其の鞘に攻撃力は無い。ただし妖刀を納めて10秒を経て、抜刀の一閃にだけ、設置した属性メダル(今回は炎)の効果をホエマルに纏わせる!


「徹底的に弱らせる!・・・9・・・8・・・7・・・」


 抜刀のカウントダウンをしながら、帯刀した束に手を掛け、腰を低く落として構えるザムシード!「敵は動きを止めた」と判断した一つ目入道が突進をして来る!


「6・・・5・・・4・・・3!」


 ザムシードは一つ目入道に突進をして、掴み掛かってくる手を回避!


「2・・・1・・・ハァァァッッッ!!!」


 妖鞘から妖刀が抜刀され、炎を帯びた刀身が一つ目入道のど真ん中に叩き込まれた!1つ目入道の腹に取り憑いていた鬼印が消滅をする!

 悲鳴を上げ、全身の闇を撒き散らしながら弾き飛ばされる一つ目入道!妖刀に白メダルを装填してあれば、今の攻撃で決着が付いていただろう!だが、ザムシードは、敢えて決着を付けなかった!


「おい、少年!この場には、俺しか居ない!

 俺は、君を知らないんだから、君を見損なうことも、見下すことも無い!

 君を知る者はいないんだから、君は、ここでは、過去の体裁を繕う必要もない!」


 ザムシードは、妖怪との決着をつけなければ成らないのは、ザムシードではなく、依り代の木山本人だと思っている。


「教えてくれ!何があって、そんなに卑屈になっているんだ!?」


 燕真ザムシードは、何もかもが平凡な青春時代を送った。特に学業が優秀なわけでも、スポーツでエースを経験したわけでも、女子の人気が集中したわけでもない。だけど、上手にできなくても腐ること無く、逃げず、投げ出さず、何度負けても、常に正面から挑み続けた結果、それなりに充実した青春を送ることができた。


「君は、俺と違って、輝かしい実績がある優秀なヤツなんだろ?

 優秀な君が、心を閉ざす理由が知りたいんだ!」


 一つ目入道は弱り、依り代は自我を取り戻しかけている。ザムシード声は、依り代に届いている。


「うぅぅ・・・ぉぉぉ・・・」


 ザムシードのセンサーには、一つ目入道を取り巻く闇が増幅されたことを感知する。ザムシードが発した言葉の中に、依り代の嫌がる単語が有るってことだ。


「・・・そう言うことか。

 君に一目置く連中が集まった激励会じゃ解消されないわけだ。」


 ザムシードは理解をした。中学では優秀だったとしても、同レベルが集まる高校では、優秀を維持するのは難しい。皆が優秀なんだから、その学校では優秀が普通になって埋没をする。ずっと、周りから一目置かれ続けた木山少年は、それが耐えられなかったのだ。


「君と同じレベルや、君以上に凄いヤツ等がいるのを知って、

 『優秀』って冠が苦しくなったんだな。」


 木山少年とイジメッ子の間に何があったのかは解らない。でも、大元の原因はイジメではない。苛められて卑屈になったのではなく、卑屈になったから、もしくは、卑屈を誤魔化す為に虚勢を張ったが周りから受け入れられず、イジメの標的にされたのだ。


「俺の知り合いにさ・・・スゲー優秀なヤツがいるんだ。

 俺の何倍も知識があって、俺じゃ敵わないくらい強くて、

 しかもイケメンで、オマケに名門の血統証付き。

 才能が違いすぎて、会ったばっかの頃は、

 ソイツの行動言動の何もかもが鼻についてさ・・・

 でも、最近になって解ったんだ。ソイツが凄いのは、優秀だからじゃない。

 名門ってレッテルが嫌で、スゲー努力をしているからなんだ。」


 燕真ザムシードは、態度には出さないが、雅仁の凄さを認めている。彼は、名門だから高飛車なのではなく、自分に厳しいからこそ、他人にも厳しく接し、幼少期から努力家を続けたからこそ凄いのだ。


「うぅぅ・・・ぉぉぉ・・・」

「君も同じなんだろ?

 現状が嫌なら逃げても良い。

 でも、自分でそれが納得できないなら、挑むしか無い。

 挑んで、毎回勝てるヤツなんて、ほんの一握り。たいていは、どこかで負ける。」

「うぅぅ・・・ぉぉぉ・・・逃げたく・・・ない・・・

 でも・・・負けるのが・・・怖い。」

「それって、きっと優秀なヤツの視点なんだよな。

 平凡な俺なんて、負けてばっかだ。」

「ぉぉぉ・・・負けて・・・ばかり?」

「うん・・・勝った経験なんてあるのかな?って次元だよ。」

「ぉぉ・・・ぉ・・・悔しく・・・ないんですか?」

「悔しいに決まってんじゃん。年中、悔しいことだらけだ。

 でも、悔しさから目を背けたら、試合放棄になってしまう。

 俺は、自分に嘘を付いて、中途半端に諦めるのが嫌なんだ。

 適当な言い訳をして、自分を誤魔化して、負けてないフリをするよりは、

 悔しくても、事実を受け止める方がマシだと思っている。」


 ザムシードは、「霊感ゼロ」「才能が無い」と散々な評価をされても、自分なりにできることがあると信じて、退治屋を続けている。自分より優秀な者を素直に認め、自分の足元を把握して、無駄な背伸びをして他人を見下さず、周りから要領が悪いと言われても、自分にできる最大限の挑戦をする。


「僕にも・・・でき・・・ますかね?」

「それは君次第だろ?」


 一つ目入道の依り代が求めていたのは、特別扱いではなく「自分は特別ではない」と解ってしまった心の落とし処。ザムシードが「皆、優秀ではない自分に藻掻いている」と伝えたことで気持ちが楽になり、憑いていた妖怪が剥がれる。


「うん・・・それで良いんだ。」


 ザムシードは、妖刀に白メダルをセットして、憑けなくなった一つ目入道を両断。一つ目入道は散り、白メダルに『目』の文字が浮かび上がった。


「さぁ、皆、心配しているだろうから戻ろう。」


 変身を解除した燕真が、バイクの後ろに木山少年を乗せて、カラオケ店へと向かう。



-数分後-


 合流した木山少年は、先程までとは別人のように穏やかな顔をしていた。仲間達が「何があったのか」と尋ねられるが、恥ずかしそうに笑って誤魔化して、紅葉にだけはコッソリと告げる。


「あの人・・・格好良いな。」

「燕真のこと?・・・んへへっ、木山くんにもわかっちゃう?」

「うん・・・ちょっとだけね。」


 今はまだ、10年以上‘特別’に胡座をかいた自分では、佐波木燕真の人間力には勝てない。紅葉が、燕真に惹かれている理由が解る。木山少年の言葉は、初恋が失恋に変わったことを正式に認めた発言だった。少し寂しいけど、清々しい気持ちで自分を納得させる。


「彼と何があったんだ?」

「優秀なヤツには理解できない‘熱い語り’だよ。」


 雅仁が燕真に経緯を尋ねるが、燕真はそっぽを向いて適当に誤魔化す。優れたヤツとして、雅仁の名を出したことを本人に説明できるほど、まだ素直にはなれない。




 少し離れたビルの屋上では、伊原木鬼一と虎熊童子が、燕真達を眺めていた。


「どう思う、虎熊童子?」

「問答無用で妖怪を倒すのではなく先に依り代を救うなんて、奇特なヤツだな。

 閻魔大王の力が優れているから、あんな悠長なことができるんだろうな。

 ちょっと・・・チョッカイを出してみたくなってきた。」


 鬼は、宿敵・狗塚の戦闘能力を熟知している。強敵だが、倒せない相手ではない。紅葉の才能が隠された現状で、彼等の興味は、佐波木燕真に向いていた。

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