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16-2・里穂入店~木山激励会の企画

-回想終わり-


 近いうちに酒呑メダルの防衛戦が始まる。鬼の幹部達は、どう仕掛けてくるのか?雅仁は想像を張り巡らせていた。


「まさっち!ボケッとしてないでよ!」

「・・・ん?」


 紅葉の声で我に返る雅仁。オーブンの中でピザトーストが黒焦げになっていた。


「もうっ!ちゃんとやってよねっ!!」

「す、すまん。」


 見かねた紅葉がカウンター内に入ってきて、焦げた品をオーブンから取り出し、手際良く新しいピザトーストを作ってオーブンに入れる。


「捨てるの勿体ないから、黒焦げピザは、まさっちの晩ご飯ね。」

「・・・あ・・・そ、そうだな。」


 嫌味を言ったつもりなのに雅仁が素直に応じたので、紅葉は拍子抜けをして首を傾げる。


「ど~したの、まさっち?いつもなら、もっと言い訳すんぢゃん。」


 少し心配になった紅葉が、雅仁の顔を覗き込む。雅仁は、いきなり紅葉の顔がアップになったので驚いてしまった。

 一方、事務室から店内を覗き込んでいた粉木は、やや呆れ気味に溜息をつく。雅仁は、1つに集中することに対しては優秀だが、要領良く多岐を同時に熟せない不器用なタイプのようだ。


「まぁ・・・鬼に対する備えで気が抜けんのは解るがな・・・。

 ヤツ(狗塚)も、なんもせずにボケッとしとったらええ2階に、

 島流しにしたるべきやろうか?」


 店の出入口が開き、長髪の少女が覗き込み、紅葉を見付けて安堵の表情を浮かべてから店に入ってきた。


「紅葉ちゃん、久しぶり~!」

「おぉぉっ!里穂ぢゃん!ど~したの?」


 紅葉の知り合いらしい。類は友を呼ぶと言うべきか、亜美と同様に、整った顔立ちをしている。


「紅葉ちゃんがここのカフェでバイトしてるって聞いて来てみたの。」

「美味しーのいっぱい有るから食べてって!」

「前は‘気持ちの悪い博物館’だったから、

 カフェじゃなかったらどうしようって、ちょっとドキドキしちゃった。」

「んへへっ!今も、2階は‘変な博物館’だよ。」

「気持ちの悪い博物館は言い過ぎやろ。」


 事務室にいた粉木が、客の少女にツッコミを入れながら店に入ってくる。カウンター内の雅仁は少し怪訝そうな表情をしたが、粉木に目配せをされて平静を装う。紅葉は、客の少女に席を勧め、親しげに会話をしながら、フロアスタッフの分際で相席をして、メニューの紹介をする。この場に燕真がいたら「店員が客に混ざるな」とツッコミを入れるだろうが、粉木と雅仁は眺めているだけで注意をしない。


「なに食べる?

 オススメゎパワフルビザトーストとモンスターパフェとバケツクリームソーダ!」

「そ、そんなには食べられないよぉ~。

 サンドイッチと暖かいミルクティーをお願い。」

「了解!

 まさっち、里穂にサンドイッチとホットミルクティーとモンスターパフェ!」

「えっ!?パフェは頼んでない。」

「パフェゎ、ァタシがおごってあげるから安心してイイよ!

 久しぶりに里穂に会えたお祝いっ!」

「・・・た、食べれないからキャンセルお願いします。」


 オーダーを受けた雅仁は、少女を気にしつつ調理を始める。粉木に呼ばれた燕真が、2階から降りてきて階段に座って待機をする。

 客の少女には子妖が憑いていた。だから紅葉は、彼女の環境を聞き出す為に、店の奥に招き入れ、相席をしているのだ。


「ァタシに何か用があるの?」

「うん、ちょっとね。」

「なになに?カレシできたとか?」

「違う違う、そんなんじゃなくて・・・」

「お金なら1万円くらいなら貸したげるよ。」

「違う違う、そんなんじゃなくて・・・」

「だったら、ど~したの?」

「あ、あのさ・・・木山拓馬くん・・・覚えてる?」

「おぉっ!カツオブシみたいな顔をした木山くんね!覚えてるよ!」

「確か、中2の時に紅葉ちゃんとデートしたんだよね?」

「デート?映画見に行っただけだよ。

 もしかして、木山くんと付き合ってるの?木山くん頭イイもんね。」

「違う違う、そんなんじゃなくて・・・」


 紅葉は、彼氏と金以外には興味が無いのだろうか?聞き耳を立てている粉木と雅仁は、問い質したい気持ちに駆られてしまう。そして燕真は、「カツオブシみたいな顔」がどんな顔なのか想像をしていた。


「木山くんがね・・・最近元気無いの。

 中学の時、木山くん、紅葉ちゃんのこと好きだったでしょ。

 だから、皆で一緒にカラオケやボーリングに行って、

 元気にしてあげたいな~・・・って思っちゃって。」

「おおっ!久しぶりに皆で遊ぶのイイね!

 亜美や、燕真や、粉木のじいちゃんや、まさっちも連れてってイイ!?」

「エンマとか、コナキノジイチャンとか、マサッチって誰?

 東中(文架東中学・紅葉の出身校)の人?」

「どこの中学だろ?よくワカンナイ。あとで聞いとくね。」

「亜美ちゃんは知ってるから良いけど、面識の無い人はチョット・・・。」


 動揺した面持ちで互いの顔を見合う燕真&粉木&雅仁。いつの間にか、「会ったこともない木山くん」の激励会メンバーに加えられている。


(お嬢を好いとる少年の目の前で、お嬢と燕真を同席させたら、

 お嬢が燕真とベッタリしてもうて、少年がもっと落ち込むねん。)


 里穂と呼ばれる少女の話では、紅葉達と同じ中学出身の木山という少年が、最近になって学校内でイジメッ子から暴力を振るわれているらしい。聞いている燕真&粉木&雅仁は、「どうにかしてやりたいが、部外者ではどうにもならない」と知っている。学校、親、友人、そして本人でクリアしなければならない問題だ。


「里穂ゎバイトとかやってるの?」

「校則で禁止されてるし、勉強が忙しくて、バイトやってる暇なんて無いよ~。」

「塾ゎ行ってるの?」

「授業のペースが早すぎて、塾に行かないと授業に付いていけないの~。」

「うへぇ~~・・・里穂みたいに頭イイ子でも大変なんだぁ~?」


 相談を終え、中学時代の昔話で盛り上がった後、里穂は会計をする。


「話、聞いてくれてありがとうね。ごちそうさま。」

「また、いつでも来てね~。」


 紅葉は、軽くスキンシップを取るフリをして里穂の肩を叩いて子妖を祓ってから、里穂を見送った。直後に燕真が寄ってきて、紅葉の隣に立つ。


「紅葉、もう少し詳しく説明しろよ。」

「ぅん。説明したげる。」


 訪れていた少女の名は、町田里穂。中学時代の紅葉の同級生なので、家はYOUKAIミュージアムから比較的近い。だから、YOUKAIミュージアムがインチキ博物館と知っており、最初は戸惑いながら入店してきたのだ。今は、文架市でトップの学歴を誇る文架高校に通っている。

 彼女が話題に出した木山拓馬も同じ東中出身。学業成績は常に上位で、夏休みの自由課題では県で表彰され、周りからは「文架高に進学して当たり前」と言われるほど優秀な少年だったらしい。


「へぇ・・・凄いんだな。ソイツ、モテてたのか?」

「モテてたかどうかはよくワカンナイ。お勉強を教えてもらったことゎあるよ。」

「デートしたらしいな?」

「ん~~・・・映画見に行っただけなのにデートなのかな?

 でも、映画見たあと、付き合いたいって言われて断ったから安心してイイよ!

 んへへっ!もしかしてヤキモチ?」

「チゲーよ!・・・てか『安心して良い』って何を?」

「燕真だって、マキ姉ちゃんにコクってフラれたからオアイコだね!」

「コクってねーし、フラれてねーし、どこがどうお相子なのか解らん!」

「燕真は、今までに何回フラれたことあんの?コクられたことは?

 今までにもらったチョコの数は?来年はァタシがあげよっか?」

「俺の話はどうでも良いだろ!」

「イチャ付けへんで話を進めろ、バカップル。」

「イチャ付いてねーよ!」 「バカップルぢゃねーし!」


 店内にはまだ客がいるのだが、紅葉が他の客を気にせずに燕真に絡み始めるので、見かねた粉木は割って入り、話を本題に戻す。


「陰湿な仲間外れくらいはあっても、

 暴力みたいな露骨なイジメって、進学校だと珍しいんじゃないのか?」


 進学校に通う生徒にとって、敵は他人ではなく自分。他者の足を引っ張る暇など無く、自己研磨が優先。他者に自分の価値観を求めず、我が道を行くので、多少の仲間外れなど気にしない。無意味なマウントで他者を見下して承認欲求を得る者など、あまり聞いたことが無い。


「源川さんの学校(優麗高)は、イジメはあるのか?」

「ぅんにゃ、聞いたことない。優高はイイコばっかりだよ。」

「紅葉の場合は、イジメが有っても気付かないだろうから、

 聞いてもあまり参考にならんぞ。」

「ァタシ、そんなに鈍感ぢゃないよぉ~!

 お友達がイジメられてれば気付くモン!

 小学校の時、アミがイジメられてたの助けたモン!」

「また話が逸れとるで。イチャ付きたきゃ、自分の家(燕真のアパート)でやれ。」


 紅葉が得た情報だけでは、子妖の親(妖怪)に繋がる明確な情報は無かった。家、塾、買い物先等々、里穂の行動範囲の何処かに妖怪が潜んでいることしか解らない。


「学校は調べてみる価値が有りそうだな。」

「だがその前に、木山という少年と接触してみるべきだな。」


 妖怪に憑かれると感情が陰に陥る可能性は有る。妖怪に憑かれることで、正常な判断ができなくなって、攻撃的になる可能性も有る。且つ、負の感情には妖怪が寄りやすい。様々な観点から、木山少年、及び、イジメッ子の周辺を調査してみる価値は有る。


「なぁ、紅葉。木山ってヤツには会えるか?」

「皆でカラオケに行くんだから会えるに決まってんぢゃん!」

「行かねーよ!」

「佐波木に同意だ。

 俺はカラオケに行ったことが無いので、何をどうすれば良いのか解らん。」

「アンタと一緒にするな!

 俺は、カラオケに行ったことが無いから行きたくないわけじゃない!」

「えっ?まさっち、行ったこと無いの?だったら、教えたげるから今から行く?」

「アーティストでもない俺が、人前で歌わねばならないんだろ?

 些か恥ずかしいな。」

「今からカラオケ行くなら店はどうすんねん?客は放置かいな?」

「論点がおかしい!

 俺が言いたいのは、なんで、高校生の親睦会に、

 俺達が参加しなきゃならないのか?ってことだ!」

「だって、その方が楽しいぢゃん!」

「楽しいのはオマエだけだ!

 オッサンやジジイが混じっていたら、他の連中は、みんな萎縮するぞ!」

「なぁ、お嬢。遠目で見るだけでええ。

 お嬢や狗塚やったら、木山っちゅう少年に憑いているか解るんちゃうんか?」

「ん~~~・・・多分。」

「俺なら、依り代に触れて念を送れば、妖怪の種類を判別できますよ。」

「その全く意味の無いマウント、要らねー!

 どのタイミングで触れるつもりだよ!?

 触れる為には親睦会に参加しなきゃならねーぞ!」

「同じ東中出身やったら、少年の家は、此処から近いんやろ?」

「行ったことないから、おうちの場所ゎよくワカンナイ。

 小学校ゎァタシとゎ違うところだから、ちょっと遠いかもしんない。」

「連絡は取れるか?」

「直ゎムリ。里穂か永遠輝経由なら連絡できると思うけど・・・。」

「事件に無関係のモンを間に挟むのとややこしなるやろうな。

 仕方があれへん。あらゆる手段をつこて、木山少年と接点を作らんかい。」

「どうやって?」

「決まってるやろ。オマン等2人、親睦会に参加をするんや。」

「はぁぁっっ!!?」 「なにぃっ!!?」

「当日の店番は、ワシに任せてもろてええで!」

「おっけ~!そんぢゃ、あとゎ、アミを誘っとくね。

 やるのゎ、今週の土曜日でイイかな?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2

「木山少年に何の異常も無かったら、

 若人達とのカラオケを楽しんでくれば良いだけや。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2


 燕真は猛反対をしたかったが、他に木山少年と接触する手段は無し。


「狗塚・・・お嬢の真骨頂は、無意識に、大ごとになる前の妖怪事件に飛び込んで、

 被害を出せへんで解決できることや。

 ええ機会やさかい、間近で経験してこい。」

「・・・は、はい。」

「おいおい、簡単に納得するな。」


 しかも、尤もらしいことを言って、雅仁が説得されてしまう。こうして、燕真と雅仁は、「木山拓馬くんを励ます会」に出席をすることが決まった。

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