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16-1・虎熊到着~体調不良の紅葉~酒呑のメダル

第16話は、同時投稿をしている本作の簡易版【妖幻ファイター】ではカットされたストーリーです。

 悪しき気配は、西の方角(優麗高付近)から感じる。ザムシードとガルダはバイクに跨がり、優麗高に向かって走り出した。

 しかし、優麗高の正門が正面に見えてきたところで、空気の変化を感じたガルダが急ブレーキを掛けてマシンを止める。


「待て、佐波木!」


 呼び掛けられたザムシードが、少し先行したところでマシンを止めた。


「ん?どうした?」

「結界がある。5mほど下がれ。」

「ああ・・・なるほど。」


 結界は術者には圧倒的に有利で、敵を致命的に不利にする。結界内に閉じ込められる=四面楚歌。余程の力量差が無い限りは、相手の結界内で戦えば負けが確定する。


「相殺できるんだろ?」

「無論だ。」


 ガルダは、バイクから降りて、警戒をしながら数歩前に出て地面に手を当て、結界の有無と種類を確認する。


「ん?・・・結界が消えた。」

「え?なんで?」

「挑発の主は去ったようだ。」

「鬼の幹部ってヤツか?」


 ガルダは空を見上げて、威圧的な気配が無いことを確認してから、変身を解除して雅仁の姿に戻る。


「相変わらず小賢しい奴・・・今回は、こちらの出方を探りに来ただけのようだ。」


 ザムシードも変身を解除して、燕真の姿に戻った。紅葉ならば、学校の雰囲気が変化したことに気付いたのだろうか?少し心配をして、紅葉がいる優麗高を見上げる。


「どうした佐波木?この学校に何かあるのか?」

「言ってなかったっけ?ここが、紅葉の通っている高校だ。」

「何故、彼女の学校付近に結界が張られたのだろうか?」

「俺に聞かれても解らん。

 だけど、以前から張ってあった結界なら、多分紅葉は気付いている。

 俺達の接近に合わせて張られた結界なんだろうな。

 夕方になって紅葉が来たら、異常が無かったか聞いてみよう。」


 やはり、紅葉抜きで鬼印潰しを実行したのは正解だった。今のところ、鬼の幹部には、紅葉の存在は気付かれていないだろう。

 2人は、しばらく優麗高を眺めたあと、次の鬼印を潰す為に、バイクに跨がって去って行く。




-駅西・文架高-


 屋上に着地した闇の霧が伊原木鬼一に変化をする。人間に紛れている茨城童子(伊原木)は、人間と同じ行動をする為に、学校まではバイクで来ており、取りに戻らなければならない。彼が、生徒から興味を持たれない講師ならば、バイクを放置して帰っても誰も気にしないだろう。しかし、彼の意図に反して女生徒からの人気がある為、彼の青いバイク(ドゥカティ・パニガーレV4)があれば、女生徒達が「伊原木先生がいる」と騒いでしまうのだ。


「人間のフリをするというのは、実に面倒臭い。」


 何食わぬ表情で階段室に入ろうとした伊原木は、空から猛スピードで妖気が接近してきたことに気付いた。だが、伊原木が見上げた時には、既に空に気配は無かった。代わりに、背後に立つ気配を感じた。伊原木は、気配に背を向けたまま話しかける。


「来たか・・・虎熊童子。」


 鬼の四天王・虎熊童子。銀髪に2本角が生えていて、緑の肌で、目を赤布で覆い、緑の着物を着た華奢な青年。腰には日本刀を帯刀している。


「熊と星が倒されたそうだな。」

「ああ・・・狗塚の小倅の奇襲でな。」

「いくら陰陽師の末裔とは言え、ソイツ(狗塚)って人間だろ?

 四天王が2人も倒されるなんて、有り得るのか?

 アイツ等(熊童子&星熊童子)、ちょっと舐めすぎていたんじゃね~の?」

「いや、慢心をしたのは私だ。狗塚は17年前に滅んだと、高を括っていた。」

「・・・へぇ。」

「だが、計画遂行に何の問題も無い。オマエをアテにすればな。」

「もちろん・・・いつでもアテにしてもらって構わねーよ。

 ‘金の小僧’も、近々、合流してくるだろう。」

「では早速・・・オマエにやって貰いたいことがある。」


 ようやく振り返り、虎熊童子を見詰め、不敵な笑みを浮かべる伊原木。




-16時・YOUKAIミュージアム-


「ふぇ~~・・・マヂか~?

 学校の近くで戦ってたんだぁ~?全然わかんなかった~。」


 紅葉が店に来たので、「河川敷での鉄鼠との戦い」「鬼の幹部の気配」「鬼の結界」を紅葉に説明したのだが、紅葉は1つも感知していなかった。


「オマエが何も気付かないなんて珍しいな。」

「ん~~~~・・・ちょうどその頃、調子が悪かったんだよねぇ~。

 そのせいかも。」

「風邪でも引いたのか?」

「ぅんにゃ、カゼひいてない。生理もなってないよ。」

「そんな込み入ったこと(生理かどうか)まで聞いてないのに答えるな!」

「急に調子が悪くなったの。」

「苦手な授業を受けていたとか?」

「源川さんを、君の価値観で考えるなんて失礼だぞ。

 源川さんに苦手科目など無い。」

「ぅんにゃ、数字とアルファベットゎ苦手だよっ。

 先生の話聞いてると、眠くなっちゃうの。

 英語ゎアミに聞くけど、

 数学とかゎ、良くわかんないところ、燕真に教えてもらってる。」

「・・・なにぃ?」


 雅仁は、「燕真が紅葉の苦手科目を教える光景」を想像して、少し羨ましく感じてしまう。


「でもね、調子悪くなった時ゎ、得意科目だったの。

 最近、急に調子悪くなっちゃうことがあるんだよね?

 何日か前ゎ、生理だったから、そのせいだと思ったんだけど、違ったみたい。」

「だから、オマエの体の周期なんて、誰も聞いていないってば。」


 燕真は、紅葉の話す余計な情報に興味が無いフリをしつつ、数日前に、異常に機嫌が悪くて、やたらと雅仁に突っ掛かっていた理由を、なんとなく理解した。


「まぁ・・・体調を崩していたなら、気付けなくても仕方が無いな。」


 紅葉が調子を崩す原因は、伊原木鬼一が高めた感知力から逃れる為に、紅葉の本能が紅葉の能力を低下させているから。しかし、茨城童子の存在感と紅葉の体調の相互関係に気付く者はいない。


 昨日発見した鬼印は、日中に雅仁が全て潰し(午後からは、妖怪が仕掛けられた罠×2)、且つ、手元に残った札は僅かなので、新しい札を作らないと発見しても対処できない。本日は鬼印探しは中止して、通常のバイトをすることになった。

 いつも通り、燕真は2階の受付(窓際族)に追いやられ、メイド服に着替えた紅葉がフロアに立つ。


「俺も何か手伝いましょうか?」

「なんや、狗塚?どういう気紛れや?」

「粉木さんには世話になりっぱなしなので、俺もたまには店の協力くらいは・・・」

「ほぉ、良い心がけやの。せやったら・・・」

「はぁぁ?何言ってんの!?アンタゎ、お札作ってろ!

 お札が無い所為で、今日ゎ印探しできないのをわかってないの??」

「あ・・・あぁ・・・そうだな。」


 粉木は「なんとなくチームワークが芽吹き始めた」と解釈して、雅仁にも喫茶店の手伝いを頼もうとしたのだが、紅葉が至極正論の横槍を入れた。雅仁は一言も反論できずに店から追い出され、破邪の札を増産する為に土蔵へと籠もる。

 燕真は2階から喫茶フロアの様子を眺めながら、「数日前に、紅葉の異常に機嫌が悪くて、やたらと雅仁に食って掛かった理由は生理だったから」ではなく、単に「雅仁と仲良くする気が無いからなんだな」と感じるのであった。


 この日以降、退治屋文架支部と雅仁の思惑に反し、鬼幹部の挑発や、鬼印が無造作に増えることも無く、淡々と数日が経過をして、12月を迎える。



 

-文架市・YOUKAIミュージアム-


 雅仁は暇なので、喫茶店を手伝うようになっていた。紅葉とは、初対面の頃は衝突をしたが、今は比較的円滑・・・と言うか、トラブルが発生しないので、紅葉が突っ掛からなくなった。燕真がカウンターに収まると、紅葉は客の視線を気にせずに燕真に戯れ付いてばかりになるが、雅仁には普通に対応するので、結果として、燕真は客が来ない2階に島流しにされたままで、喫茶店は紅葉と雅仁が担当するようになっていた。


「まさっち!ホット3つと、ピザトースト2つと、ミートソース1つ!」


 客のオーダーを受け取った紅葉が、カウンター内の雅仁に依頼をする。


「オーダーは了解した・・・が、その呼び方は止めてもらえないか?」

「んぇぇっ?まさっちって呼ぶよりゴボウって呼んだ方がイイ?」

「もっと嫌だ!俺のどの辺がゴボウなんだ!?普通に呼んでくれ!」


 紅葉からは、いつの間にか「まさっち」と呼ばれるようになっていた。雅仁的には、緊張感が無い呼び方で嫌なのだが、「アンタ」とか「アイツ」とか「ビーチサンダル」とか「ゴボウ」と呼ばれるよりはマシなので、仕方無く受け入れている。

 露骨な気毛嫌いをされなくなったので、紅葉は年相応の表情を見せる(燕真の前では実年齢よりも幼い表情を見せる)ようになっており、雅仁は、彼女の才能と容姿の両方を高く評価していた。


(やれやれ・・・

 普通にしていれば見た目や仕草は可愛らしいのだが、言動がな・・・。)


 鬼の幹部は、まるで動きを見せない。妖怪事件は数日に一度発生する程度。現状だけで判断をすれば、雅仁が文架市に滞在を続ける理由は無い。だが、雅仁は「鬼は機会を探って潜んでいるだけ」「必ず文架で決起をする」と予想していた。



-回想(昨夜)-


 紅葉がバイトを終えて帰宅をした後、粉木は「若い連中に最初ほどの軋轢は無くなった」と判断して、燕真と雅仁を事務室に呼んだ。


「疲れてるとこ、すまんな。

 おっきな事件が発生してへん今のうちに、オマン等に話しときたいことある。」

「いえ、疲れるほどの労働はしていません。」

「急になんだよ?」

「なぁ、狗塚・・・。鬼が、この地に居座る理由・・・

 文架の地は、龍脈が整うとり、

 妖怪が隠れて傷を癒やすには都合のええ土地やから・・・

 それ以外にも目的があることを、解っとるんやろ?」

「はい・・・この地で失われた酒呑童子のメダルを探しているんですよね?」

「酒呑童子のメダル?そんな凄いモンが、行方不明なのか?

 退治屋の管理システム、杜撰すぎないか?」

「少し黙っとれ。順を追って説明する。」

「あぁ・・・うん。」

「『酒』のメダルは‘失われた1枚’だけやない。狗塚・・・持っておるのやろ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


 粉木は真剣な表情をしている。雅仁は、しばらく黙って回答を渋ったあと、誤魔化しても無意味と判断して、Yウォッチの中から『酒』のメダルを取り出してテーブルの上に置いた。


「どういうことだ?酒呑童子って2体いたのか?」

「いや、1枚のメダルでは封印をできず、4枚に分けて酒呑童子を封印したんだ。」

「今とは違うて、当時の退治屋の技術では、

 酒呑童子の莫大な妖気を1枚のメダルに封印することはできんくてな。」


 雅仁の父・狗塚宗仁だけでは酒呑童子を封印しきれず、3人の退治屋が討伐を手伝った。


「だがな・・・酒呑童子は死んでおらんかった。」

「・・・や、やはり。」

「聞いとったんやな。」

「はい・・・引き取られた退治屋の施設で『父は討ち洩らした』と嫌味半分に。」

「酷なこっちゃ。

 4枚のメダルに粗方を封印されても倒されへんかった酒呑童子は、

 文架の地に逃れて、当時の文架を守っとった妖幻ファイターに倒されたんや。」

「妖幻ファイターハーゲンってヤツか?」

「なんや、燕真?知っとったんか?」

「いや、知っていたわけじゃない。

 過去の氷柱女や天野の爺さん(天邪鬼)の事件を調べてたら、

 ハーゲンって妖幻ファイターに辿り着いてさ。

 17年前だと、ハーゲンの時代だなって思ったんだ。

 だけど、何処の誰なのか解らなかった。

 今でも現役で退治屋をやってるヤツなのか?」

「いや、既に引退をしてる。

 ハーゲンのことは、機会があったら説明したる。今は、酒呑童子のこっちゃ。」


 酒呑童子は先代ガルダとの戦いで4枚のメダルに妖力の大半を封印され、文架に逃れてハーゲンによってメダルに封印されて、トドメを刺された。

 酒呑童子を弱体化させた4枚のメダルのうちの1枚は雅仁が持ち、残り3枚は退治屋の本社で保管をされる。そして、ハーゲンが封印したメダルは、長らく行方不明の扱いになっている。


「鬼共が文架市に来た理由は・・・」

「酒呑童子終焉の地で、酒呑童子の欠片を探し出す為やろうな。」


 酒呑のメダルが1枚でも鬼の手に渡れば、酒呑童子は復活をしてしまう。そして、復活をすれば、自分の片割れが何処に隠されているのか、酒呑童子ならば容易く見付けてしまうだろう。


「でもさ、もし失われた1枚が、鬼の手に渡って酒呑童子が復活したとしても、

 3枚が本部に保管されていて、1枚がここにあるなら、

 完全復活はできないってことか?」

「ヤツ等が、簡単に諦めてくれるような連中やったらな。」

「だけど、鬼は、それほど諦めの良い奴等ではない。

 それは、ヤツ等を追って来た俺が一番良く解っています。

 文架市で酒呑のメダルを見付けられなかった鬼共が次に狙うのは、

 所在がハッキリしている俺のメダルか、

 退治屋本部に保管されたメダルになるでしょうね。

 どれか1枚を見付け出して、酒呑童子が復活をすれば、

 失われた1枚の在処は判明してしまう。」

「そう言うこっちゃ。」


 鬼は、必ず仕掛けてる来る。鬼との我慢比べは、今は沈静化をしているだけで、まだ続いている。


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