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15-2・先代ガルダと禁断メダル~新妖怪バスターズ

-浴室-


 疲れ果てた雅仁が、浴槽に浸かって目を瞑り、体と心を休ませる。

 幼い頃に、父を除く一族の全てを鬼に殺害されて失った。以降は鬼の討伐の為に、父と共に全国各地を廻った。一地域への定住をしなかったので、幼馴染みの類いはいない。


(・・・父さん。)


 雅仁の脳裏に浮かぶのは、父の死に際の光景。それが原点。



-回想-


 父と退治屋達が鬼達との死闘を繰り広げる様子を、物陰に隠れた幼い雅仁が眺めている。「父さんは誰よりも強い」と信じて疑わなかった雅仁の目には、悲痛な光景が映っていた。


「父さんっ!!」


 数本の刀で体中を貫かれ、満身創痍だが、力強く大地を踏みしめたガルダが、酒呑童子に対して、妖槍を構える!


「何故だ!?何故、倒れぬ!?」

「倒れるわけにはいかん!!オマエを倒すまでは!!」


 妖幻ファイターガルダ=狗塚宗仁は、既に死に体だった。霊力も、妖幻システムのエネルギーも尽きていた。次の一撃を繰り出すパワーも無い。しかし、鬼の襲撃によって、嫡子の雅仁を除いて一族全てを殺害された恨みが、ガルダの肉体を動かしていた。狗塚宗仁には、1つだけ残された手段があった。


「メダルの重ね掛けによる、妖幻システムの暴走!

 俺自身の魂が食われる事を前提にした禁断の一撃!」


 ガルダは、胸プロテクターの窪みに白メダルを、鳥銃・迦楼羅焔に雷メダルをセットして、妖槍に風メダルをセットして身構える!


「・・・ぐぅぅぅっ!」


 妖幻システムは、メダルの重ね掛けをできない。多大な負荷から装着者の生命を守る為に、メダルの複数使用をすれば自動でリミッターがかかってしまう。それは、ガルダも承知している。

 だから、リミッターを強制解除する!翼を模したベルトのバックルに、禁断のメダルを装填!安全装置が解除される!同時に、ガルダの全身は、天狗の強大な妖気に覆われ、狗塚宗仁の肉体を蝕む!


「うぉぉぉぉぉっっっっっっっ!!!」


 宗仁の恨みの精神は、天狗の妖気を凌駕していた!全身を一筋の流星に変えて、酒呑童子目掛けて突っ込んでいく!酒呑童子が繰り出す闇の矢が、次々と流星に突き刺さる!しかし、ガルダの特攻は止まらない!


「真っ二つにしてくれるわぁぁっ!!」

「オマエだけは道連れにするっ!!!」


 突進をしてきたガルダ目掛けて大剣を振り下ろす酒呑童子!しかし、その直前に、ガルダの妖槍が酒呑童子を貫いた!


「鬼の大将・・・討ち取ったぞ!!」

「・・・ぐむぅぅぅ!」


 酒呑童子の傷から噴き出した闇が、ガルダの妖槍に填め込まれた白メダルに吸収されていく。


「バ・・・バカ・・・な・・・」


 ガルダが命を賭した一撃により、酒呑童子はガルダの白メダルに封印されると思われた。しかし、酒呑童子の妖気があまりにも強大すぎて、白メダルの容量が満タンになっても酒呑童子は存在を維持している。


「そんな・・・討ち・・・・もらした?」

「クックック・・・ハッハッハッハッハ!!俺を甘く見たな、狗塚っっ!!」

「うおぉぉっっっ!!!まだだ!!退治屋達よ!!此奴を貫けっっ!!!」


 執念を込めて、鳥銃・迦楼羅焔の引き金を引くガルダ!ゼロ距離から発せられた雷撃が、酒呑童子だけでなくガルダも焼く!


「狗塚殿っ!」 「狗塚さんっ!!」 「その覚悟、無駄にはしない!」


 共同戦線を張っていた退治屋の妖幻ファイター3人が武器に白メダルをセットして、動きを止めた酒呑童子に押し寄せて貫く!


「グォォォッッッ!!!」


 立て続けに封印の力を喰らって堪えきれなくなった酒呑童子が爆発四散!爆風に弾き飛ばされる妖幻ファイター達!散った闇は3つに分かれ、退治屋達が使用した各白メダルに収まる。


「父さんっ!!」


 全てを擲ったガルダは、変身を解除されて宗仁に戻り脱力をして倒れた。物陰から飛び出し、父に駆けていく雅仁。懸命に父の名を呼ぶが、宗仁は精も根も、そして魂をも尽きていた。震える手で『酒』の文字が浮かんだメダルを雅仁に差し出す。


「すまん・・・雅仁。あとは・・・オマエに託す。」

「父さんっっっっ!!!」


 やつれ果てた父は、そう言い残して、2度と目を開かなかった。



-回想・終わり-


 全ての身寄りを失った雅仁は、退治屋に引き取られる。僅か7歳で、ガルダの変身アイテムと、当主の座を受け継いだ狗塚雅仁にとって、鬼は「倒すべき敵」ではなく「倒さなければ先に進めない仇」になっていた。


(鬼は・・・皆殺し。)


 鬼は仇であり、共存などという選択は有り得ない。しかし、自力では限界を感じている。だからこそ、目的達成の為に有能なる才能が欲しい。雅仁の脳裏に、怒りを露わにして食って掛かる紅葉の顔が浮かぶ。


(・・・源川紅葉が傍にいれば。)


 紅葉と組めば、雅仁の目的は大きく前進する。彼女が後継ぎを産んでくれれば、枯れかけた血筋は潤う。しかし、紅葉は雅仁のことを全く受け入れる気配が無い。それどころか、何の面白味の無い凡人(燕真)ばかりを優遇して、類い希な才能を無駄遣いしている。それが腹立たしい。




-十分後-


 雅仁が寝室に戻ったら、2組の布団は均等間隔(間は開いている)で敷き直されており、片方で燕真が寝転がっていた。

 雅仁は、「また、自分の布団は外に追いやられている」と予想していたので少々意外に感じる。燕真は何も言わないが、燕真の荷物は部屋の真ん中よりハミ出しておらず、雅仁の荷物は、部屋のもう片側に収まっているので、「中央を境界線にして、半分ずつを自分の陣地にするという暗黙の決まりにしたのだろう」と察し、黙って自分に与えられたエリアに収まった。


 それから十数分後、雅仁が荷物を整えたのを見計らって、燕真が「(電気)消すぞ」と声を掛けたのに対して、雅仁は「ああ」とだけ答えて消灯される。




-翌朝-


 雅仁は朝方に起きて再び土蔵に籠もったので、朝食の時間帯には起きてこなかった。10時過ぎに開店中のYOUKAIミュージアムに来て、昨日と同じメニューを注文する。


「店としては、アンタが飯代を金を払ってくれた方がありがたいけどさ、

 朝食くらい、ちゃんと起きて、ジジイの家で一緒に食ったらどうなんだ?」

「余計なお世話だ。」

「朝、健全な時間帯に起きろと言うつもりは無い。

 俺だって家にいたら、朝飯抜きで寝ていることはある。

 眠いなら、朝食を食ってから、また寝りゃ良いじゃん。

 だけどさ、ジジイの家で世話になってるんだから、

 朝は一緒に食うくらいは、礼儀としてできるんじゃね~のか?」

「・・・ふん。」


 雅仁は、ホットサンドを口の中に押し込み、コーヒーを飲んで、食事代を払い、昨日と同じように、粉木がいる事務室に入っていった。


「・・・相変わらず無愛想な奴だな。」


 溜息まじりに雅仁を見送る燕真。幼い頃に全ての家族を失い、同世代がいない退治屋の施設で育った為、「飯の時間を共有して楽しむ」発想が無いのだろうと想像する。

 その後、雅仁は、単独で鬼の印を探す為に愛車のヤマハ・MT-10に乗って出掛けて、戻ってきたのは昼過ぎだった。




-16時過ぎ-


「ちぃ~~~~~~~~~っすっ!」


 下校をした紅葉が、YOUKAIミュージアムに顔を出す。テーブル席で待機をしていた雅仁が立ち上がろうとするが、カウンター内の燕真が先に動いた。


「よし、(鬼の印潰しに)早速行くぞ!」

「んぇっ?今日もやるの?」

「昨日は、二口女が暴れた所為で、(鬼の印を)ロクに探せなかったからな。」

「ん~~~・・・ワカッタ。」

「アンタ(狗塚)も、準備はできているんだろ?」

「何様のつもりだ?君に催促をされるまでもない。」

「だったら、ちょっと、こっちに来てくれ。・・・もちろん、紅葉もな。」

「・・・?」 「・・・んぇ?なぁ~に?」


 雅仁は無視をしたかったが、紅葉が寄って行って燕真の提示するスマホを見ながら打合せを始めたので、渋々と覗き込む。スマホの画面には、文架市街地の地図が表示され、いくつかのポイントが落とし込んであった。


「なんの場所?」

「妖気センサーの履歴から、鬼の印が施された可能性がある場所を記したんだ。」

「それが何だ?俺だって、その程度はやっている。」

「アンタは、ポイントされた場所に行って、自分で鬼の印を探しているんだろ?

 このポイントの周辺に鬼の印がある可能性が高いなら、

 紅葉を連れて行って見せれば一発で解るよな?

 漠然とバイクを走り回って探すより効率的だ。

 センサーで拾えない郊外で探すのは、時間的に余裕がある土日。

 時間が限られた平日は、ピンポイントで探す。

 町中なら、多少薄暗くなっても、町の灯りで探せるだろうし。」

「お~~~~~~!それなら、さがすの早いねっ!」

「どうだ?これが一番効率的だろ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 雅仁は、燕真の提案に対して黙り込んでしまう。「有る」と解っている場所は、雅仁が自分の霊力を消耗させて探し、紅葉と組む場合はセンサーで感知できない場所を探すつもりだった。だが、「有る」と解っている場所に紅葉を連れていけば、ピンポイントで対応ができる。霊力を酷使するデメリットだけでなく、無駄に探し回る時間すら要らない。

 言われてみれば、当たり前のこと。才能の有る雅仁は、自分の才能では及ばない場所を紅葉に任せるつもりだった。だが、才能の無い燕真は、自分の才能に縋り付く無駄なプライドを持ち合わせていないので、最もシンプルな提案をできるのだ。雅仁には、反論の余地が一つも無かった。


「ジイさん、店番頼むな。」

「おう、行ってこい!」


 事務室に顔を出して粉木に店を任せ、燕真&紅葉&雅仁は駐車場へ。燕真がホンダVFR1200Fに跨がると、当たり前のように紅葉がタンデムに飛び乗る。


「急にどうしちゃったの、燕真?」

「何が?」

「何か、スゲー協力的だけど、

 昨日までゎ、ビーチサンダル(雅仁の渾名)と仲悪かったぢゃん?」

「渋々付き合っても面白くないから、協力してやることにしたんだよ。

 ・・・てか、俺は、特に仲は悪くない。

 アイツ(雅仁)と険悪なのはオマエだ!」

「アイツも入れたげて、新妖怪バスターズ結成だねっ!」

「『新』以前に『妖怪バスターズ』などという組織は無い!」


 3人は、「先ずは、此処から数百mの場所で発生した反応」に向かって、バイクを走らせる。


「纏め役は、やはり燕真か。

 天才同士は才能がぶつかるが、凡人が挟まることで少しは整いそうやの。」


 事務室から窓越しに眺める粉木は、燕真が歩み寄ったことで、同室での共同生活を強制した効果が発揮され始めたと感じていた。




-18時-


 スッカリ暗くなったので、紅葉の眼でも探せなくなり、YOUKAIミュージアムに戻ってきた。


「ふぇ~・・・おなか減ったぁ~~~~!」


 駐車場に入るなり、紅葉はタンデムから降りて、YOUKAIミュージアム内に駆け込んでいく。燕真と雅仁は建物際にバイクを並べて駐めた。


「明日も同じことをすんのか?」

「もちろんだ。」

「俺にはよく解んねーけど、札には限りがあるんだろ?」

「ああ・・・明日までに護符は増やしておく。」


 このペースでは、新しい邪気祓いの札を作っても、明日中には数が不足をするだろう。たった2時間、チームワークが満足に機能しただけなのに、潰した鬼の印は20以上。ピンポイントで鬼の印が有る可能性が高い場所に行き、即座に紅葉が発見するのだから、凄まじく効率が良い。


「明日以降の為に、早速、土蔵を使わせてもらう。粉木さんに、伝えてくれ。」

「飯は食わないのか?」


 雅仁は、改めて紅葉の才能に驚嘆し、且つ、燕真の才能が無いゆえに才能に執着せずに、簡単に転換できた発想を認めるしかなかった。だからこそ、紅葉が燕真の指示にしか従わないことも含めて、凡族の燕真に出し抜かれているような気がして面白くない。


「君が勘違いをしないように言っておきたいことがある。」

「急に何だ?」

「鬼の印を破壊しているのは俺、発見をしているのは源川さん。

 君は、彼女のアシ以外には何の役にも立っていないことを忘れるなよ。」

「はぁ?嫌味か?・・・言われんでも、解ってるよ。」

「・・・ふんっ!気楽な奴め。」


 雅仁の挑発的な態度にイラッとする燕真。雅仁は、YOUKAIミュージアムに寄ることも無く、粉木邸に行ってしまった。


「・・・何だアイツ?」


 燕真は、去って行く雅仁の背中を眺て「あかんべえ」をした後、YOUKAIミュージアムに入った。


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