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15-1・紅葉と雅仁の喧嘩~雅仁の過去

 燕真と紅葉がYOUKAIミュージアムに戻ると、駐輪場には、雅仁のバイク(ヤマハ・MT-10)が駐車してあった


「アイツ(狗塚)、戻ってたんだな。」

「ぁんにゃろぅ!すげームカ付くぅぅっ!!」


 紅葉は雅仁のバイクを見るなり、徐行中のホンダVFR1200Fのタンデムから降りて、慌ただしく店内に駆け込んでいった。


「・・・お、おい、紅葉!!」


 燕真は、操作中の愛車を放り出して紅葉を止めるわけにも行かず、肩を怒らせた紅葉の背中を見送ることしかできない。嫌な予感しかしない。



-店内-


 店内には、雅仁の他に客が一組。つい最近、燕真目当てでリピーターになった、2人組女性会社員が、仕事帰りの夕食を兼ねて訪れていた。彼女達にとって、燕真は「熱烈な推しメン」ではないが、それなりに会話を楽しめる相手。やや頼り無いが、それなりにイケメンだし、物腰はソフトなので、燕真だってそれなりにモテるのだ。


「もうちっとで帰ってくると思うで。」

「は~い!」

「なんなら、青二才やなくて、燻し銀のワシが話し相手になってやってもいいで。」

「あはははははっ!マスター、面白~い。」


 2人は粉木に声を掛けられ、軽食を食べながら燕真の帰りを待つ。そこへ、眼をつり上げた紅葉が、乱暴にドアを開けて飛び込んできた。店内を見廻し、テーブル席でホットコーヒーを飲む雅仁を見付けて駆け寄る。


「この、冷血野郎っっ!!!」


 両手の平で思いっ切りテーブルを叩く紅葉。上にあるティーカップが軽く飛び上がって、陶器同士がぶつかる音を立てた。カウンター内の粉木や、女性会社員達が、「何事か?」と眺め、張本人の雅仁は迷惑そうに紅葉を見詰める。


「・・・ん?」

「『ん?』ぢゃなぃ!!しらばっくれるな!!

 何で燕真を助けなぃ!!?目の前に妖怪ぃるのに無視すんな!!

 ァンタゎ、逃げてる人を見て、何とも思わなぃのか!!?

「ああ・・・また、そのことか?」


 雅仁は「先ずは落ち着け」と言う意味を込めて向かいの席に座るように促すが、紅葉は応じない。仕方なく‘大人の対応’を心掛けつつ、いきり立っている紅葉に、それぞれの立場を説明する。


「いいか?俺の使命は鬼退治。

 地域の妖怪に対しては、粉木さんのように専門の退治屋がいる。

 これは理解しているよな?」

「・・・だからなにっ!?」

「君の言う『目の前の困った人を助ける』のも解るが、

 目の前のことに捕らわれていれば、

 やがて鬼がもたらす大きな被害を抑えられなくなる。

 だから俺は、先に予想される‘大きな被害’を最小限に食い止めようとしている。」

「あっそう!それで!?」

「君だって同じはずだ。

 ザムシードの戦いを眺めていても、君は邪魔にしかならない。

 戦線を離脱して俺と一緒に行動をすれば、君ができることはいくらでもある。」

「バカにするな!ァタシゎ燕真のジャマぢゃない!!」

「俺が言いたいのは、君が邪魔かどうかではなく、

 むしろ、『君にもできることがある』なんだが・・・」

「目の前の怖がってる人達が死んじゃったら、ァンタゎどう責任を取るんだ!?」

「それは、俺達や退治屋の考えることではない。

 被害者をゼロに抑えるなんて無理に決まっているだろう。

 妖怪が存在するからには、犠牲を出さないなんて不可能なんだ!

 退治屋のするべきことは、妖怪の退治!俺のするべきことは、鬼の退治!

 その過程で、助けられる人も、助けられない人もいる!」

「違ぅもん!!燕真ゎ、沢山の人を護ってるもん!!」


 最初は冷静に対応をしていた雅仁だったが、紅葉に煽られて徐々に声を荒げる。

 他にも客のいる店内で怒鳴り合うなど何たることか?粉木は、大きな溜息をついてから、流し台にバケツを置いて、当事者達にぶっ掛ける為の水を注ぎ始めた。


「未熟者の論理を持ち出すな!!

 君は、あんな奴と一緒にいる所為で、自分の価値に気付いていない!!

 あの未熟者が、君の才能を潰していることに気付け!!」

「燕真を悪く言うなぁっっ!!!」

「論点は其処ではない!!君は君の才能を活かすべきと言っているんだ!!」

「サイノーとか、そんなの知ったことかぁぁ!!!燕真をバカにするなぁぁっ!!!

 燕真ゎァンタとゎ全然違うっっっ!!!」

「君に、俺の何が解る!?

 何も知らないクセに、未熟な理想主義者と比べるのは迷惑だ!!」

「ァンタのことなんて、なんにもワカンナイ!!

 ァタシゎ、男の人ゎ燕真しか知らないっ!

 でも、ァンタが嫌な奴ってくらいゎわかる!!

 燕真ゎァタシに優しくしてくれるけど、ァンタゎァタシを置いてったっ!

 燕真ゎ、面倒臭いと思っても、最後まで、ちゃんとしてくれる!!」


 聞きたくなくても、紅葉の怒鳴り声は店中に聞こえる。粉木と女性会社員達は、目が点状態。なんか、スゲーこと言ってないか?紅葉が言った「ァタシゎ、男の人ゎ燕真しか知らない」ってどういうこと?紅葉は、燕真を「男として」知っているの?「優しくしてくれる」「最後まで、ちゃんとしてくれる」って何を?


「やがて、そういう関係になっても不思議ちゃう思うとったけど、

 燕真のアホは、もうお嬢に手ぇ出したのか?」

「燕真君って、あんな子が趣味なの?」

「あの子、まだ未成年だよね?」


 紅葉は、そんなつもりでは言っていない。もちろん、まだ手は出されていない。プラトニックな関係・・・てか、燕真にとって、紅葉は子守対象で、付き合ってすらいない。だが、粉木と女性会社員達には、「燕真と紅葉は経験済み」にしか聞こえない。


「お、お会計お願いしま~す。」

「もう帰るんか?もうすぐ、燕真も来るで。」

「なんか、もう、どうでも良いです。」

「戻ってきても、話すことありません。」


 紅葉は意図せず、恋愛面でのライバル2名(しかも燕真にとっては年相応)、燕真に幻滅して脱落。


「燕真ゎァタシに優しぃし、ァタシゎ燕真を助けるのが一番良いんだぁぁっ!!!」


 怒髪天を衝く程に激怒した紅葉が、雅仁の胸ぐらを掴もうとする。ようやく燕真が店内に入ってきた。

 女性会社員達が、露骨に避けながら店から出て行くが、憐れな燕真は自分のファンが2人減ったことに全く気付いていない。


「何を怒鳴り散らしているかと思えば・・・喧嘩の理由は俺?」


 怒鳴り散らしている紅葉を、羽交い締めにして抑える燕真。狗塚は、少し落ち着きを取り戻してコーヒーに口を付けるが、やや呆れ顔、且つ、燕真を見下した眼で見ている。

 ちなみに、店の外では、女性会社員達が‘燕真が未成年の少女を後から抱きしめる(?)’様子を眺め、「やっぱりそうなんだ」と、汚物を見るような目で去って行った。きっと、彼女達は、二度のこの店には来ないだろう。


「コィツ、燕真をバカにしやがった!!」

「俺がバカにされたから、ここに到着するなり、店に怒鳴り込んでいったのか?」

「そぅだょ!燕真をバカにしたコィツがムカ付くから!!」


 羽交い締めを解き、燕真の方に向き直って怒鳴り続ける紅葉。


「こんなビーチサンダルみたいな奴、

 延髄を蹴り飛ばしてから、思いっ切り顔面を踏んづけてやる!」

「話の辻褄が合ってないぞ!とりあえず、落ち着け!

 ・・・てか、物騒なこと言うな!!

 ・・・てか、ビーチサンダル!?」

「燕真に謝れ!!そぅしたら許してやる!!」

「俺が俺に謝るの?怒鳴る方向が違うぞ、紅葉!

 喧嘩の内容は何だ!?先ずはそれを説明しろよ!」

「コィツが燕真をバカにしやがったからだ!!」

「だ~か~ら~・・・それでは話の辻褄が合わないってんだよ!

 ・・・てか、仲間内のライバル的なキャラと対立をするのは主人公の役割!

 ヒロインは狼狽えながら止める役!

 なんで、オマエが率先して喧嘩して、俺が止めてんだよ!?

 俺の見せ場(?)を取るな!

 せめて、俺抜きで喧嘩をするな!!俺がいる時に喧嘩しろ!!

 主人公が話に付いていけないのはオカシイだろう!!」


「いい加減にせい、オマン等!少し頭冷やせ!!」


バシャァァッッ!!

 次の瞬間、粉木の怒鳴り声と共に、燕真の背(紅葉と雅仁は軽く濡れる程度)に粉木が放った冷や水がぶっ掛けられた!


「わぁぁっ!冷てっっ!!!」


 ズブ濡れになった燕真、袖の当たりを少し濡らした紅葉、髪や上着を少し濡らした雅仁が、粉木に視線を向ける。


「なんで・・・俺メイン?」

「狗塚とお嬢にぶっ掛けるつもりやったけど、

 水が溜まる前に、オマンが仲裁入れよったからや。

 せっかく水が溜まったのに浴びせる場所がのうなったさかい、

 オマンに浴びせることにした。」

「だったら・・・かけるなよ?」

「悪う思うな・・・見せしめや」

「もう一度聞く・・・なんで、俺?」

「・・・見せしめや。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×3

「代表でズブ濡れになるわ、女の客に嫌われるわ、今日は災難やのう。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×3


 なんで燕真に「見せしめ」なのかは全く理解できないが・・・とりあえず、粉木の気転で、怒り任せの怒鳴り合いは沈静化される。




-21時過ぎ-


 紅葉を送った燕真が、自宅アパート経由で戻ってきて、粉木邸に上がり込む。


「なんや?アパートに帰らへんのか?」

「アイツ(雅仁)も泊まるんだろ?」

「そのつもりやろな。」

「だったら、俺も泊まらせてもらう。

 文架市に鬼が入り込んでいて、一応は‘緊急事態’なんだろうし。」


 口では「任務に忠実」をアピールしているが、燕真の本心は、雅仁への対抗意識。雅仁を嫌う紅葉から「負けるな」と煽られている。何かの事件が発生した時に、燕真は自宅で、雅仁だけがYOUKAIミュージアムにいる状況では、初動で遅れを取ってしまうと考えたのだ。


「そか・・・相部屋で良ければ好きにせい。」


 粉木は、特に追及することも無く受け入れる。


「うん、相部屋で構わない。」


 燕真は、寝室に宛がわれた和室に荷物を置いて茶の間に戻り、雅仁の姿が何処にも無いことを確認してから、縁側の障子戸を開けて土蔵を眺める。


「アイツは、また物置の閉じこもっているのか?」

「ああ。護符作りやら、鉱石への念封をやっておる。」

「・・・・・・・・・へぇ~。」


 燕真は、自分が雅仁から見下されている自覚はある。紅葉と雅仁の反りが全く合わないことも把握している。だが、黙々と努力をしている彼を見ると、高飛車なだけの嫌な奴とは思えない。しばらく土蔵を眺めたあと、卓袱台に戻って粉木と向かい合わせに座った。


「なぁ、アイツって・・・。」

「言うたはずやで、燕真。狗塚には深入りするなと。」

「・・・うん。そうだな。」


 粉木から忠告を受けた燕真は、それ以上の追及はせず、テレビを見たりスマホを弄って時間を潰し、21時台のバラエティ番組が終わったところで風呂を借りた。その後、再び茶の間に戻って粉木と共にテレビを見ていると、障子戸が開いて疲れ果てた表情の雅仁が顔を出す。


「風呂、借りますね。」

「おう、ゆっくり浸かってこいや。」


 雅仁と、寝転がってテレビを見ていた燕真の眼が合う。


「なんだ?まだ、君(燕真)がいたのか?」

「悪いかよ?」

「・・・どうでも良い。」


 雅仁は、燕真も泊まることを知って若干の不快な表情をした後、「相手にしていない」素振りを見せて、縁側経由で隣の寝室に行く。その後、2組み敷かれた布団の片方(燕真用)を、昨日と同じように端に寄せてから風呂に行った。

 物音で、寝室の状況を予想しつつ、「雅仁が風呂に籠もった」と判断した燕真が起き上がる。


「なぁ、ジイさん。アイツって・・・。」

「何度も言うたで。狗塚には深入りするな。」

「うん、それは解ってる。

 だけどさ、何も知らないままだと、どう歩み寄れば良いか解らないというか、

 しばらくはチームで動くことに成りそうなのに、

 紅葉とアイツが喧嘩ばっかしているのは拙いと思うんだよな。」


 燕真なりに、雅仁の苦労は察しているようだ。粉木からすれば、雅仁には深入りせず、大人として、ビジネスパートナーの対応が望ましいのだが、まだ社会人に成ったばかりの燕真では、まだ上手く割り切れない。燕真と雅仁だけのコンビならば、雅仁が踏み込まない態度を続けることでビジネスパートナーの関係を維持できるかもしれない。だが、お子ちゃまの紅葉が間に挟まって、イチイチ、雅仁に突っ掛かり、煽られた雅仁までがカッカさせられる状況では、燕真が、よく解らないまま仲裁に入るのも難しいだろう。


「数ある妖怪の中でも頭抜けておる‘三大妖怪’と呼ばれるヤツ等がおる。」

「聞いたことあるな。鬼と天狗と狐だっけ?」

「正確には、鬼の頭領・酒呑童子、大天狗・崇徳、妖狐・玉藻前や。

 約900年前、朝廷に仕える陰陽師として、

 大天狗を封印したのが、狗塚の家系になる。」


 以降、狗塚家は陰陽師の名門として、強大な天狗の力を武器として、朝廷を支え続けることになる。その過程で宿敵となったのが、圧倒的な戦闘能力と賢しい知力を使って権力者を危機に陥れた鬼族だった。


「天狗の妖幻ファイターに変身して鬼と戦うのは、先祖代々ってことか。」

「妖幻ファイターに変身するようになったは、奴の祖父の時代。

 技術が発達して、退治屋が妖幻システムを扱うようになってからや。」


 皇族直轄の狗塚家と、明治以降に政府の非公開組織として立ち上げられた退治屋は、全くの別物。

 しかし、陰陽師としての優秀な血が薄まり「枯れた家系」に危機感を持っていた雅仁の祖父は、退治屋に妖気祓いの一定の知識を提供する代わりに、技術協力を依頼した。その結果として開発されたのが、天狗の力をメダルに封印して使用する妖幻ファイターガルダ。


「枯れた家系や言うても、妖幻ファイターを扱う同条件では、

 ワシ等のような雑種に比べれば、血統書付きの狗塚の才能は頭抜けていた。

 そやから、狗塚は、退治屋に加わることはなく、

 一定の協力協定のみを結び、独自に鬼退治を続けたんや。」


 だが、狗塚家は、独自路線を通せなくなる。約20年前、狗塚家は雅仁を残して、鬼族に滅ぼされたのだ。

 まだ幼く、技術継承もされていなかった雅仁は、退治屋に引き取られて育てられる。彼が、鬼を恨み、周りの眼にコンプレックスを抱くようになったのは、それ以降になる。


「ガキの頃は、もうちっと愛想の良い坊主やったがな。

 様々な辛いことに直面して、スッカリ、他人を信じんくなってもうたんや。」

「・・・へぇ~。」


 燕真には、雅仁が背負っている宿命は理解が想像できない。両親共に顕在で、大学卒業までは特に不自由なく育ち、宿命などとは何の縁も無く退治屋に就職した。だから、「何も背負っていない呑気で身軽な者」と、格下に見られてしまう原因が、ほんの少しだけ理解できる。



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