14-4・妖怪を無視する雅仁~燕真は優しい
-数分後・文架大橋東詰-
燕真達が到着をすると、人々が逃げ惑い、その中心で2体の妖怪が暴れていた!2体とも二口女だ!
「あれ?アイツ、だいぶ前(第7話)に倒したよな?」
「うん!燕真がマキ姉ちゃんにフラれた時のヨーカイだよ!」
「フラれてない!勝手な黒歴史を作るな!」
「また、間違ぇて子妖を封じたんぢゃなぃの?ぃっものことぢゃん!」
「毎回ミスってるような言い方をするな!『たまに』だ!!」
「なら、マキ姉ちゃんの時が『たまに』だったの?
マキ姉ちゃんにフラれてショック受けて、やらかしちゃった?」
「ゴチャ混ぜにすんな!フラれたのは、妖怪を倒したあと!
妖怪と戦っている時は冷静だった!」
「ほら、やっぱりフラれてんぢゃん。」
「フラれてない!」
燕真と紅葉の問答を聞いていた雅仁が、溜息をつき、呆れ顔で口を挟む。
「個体数が1体に限られるのは、上級クラスの妖怪のみ!
下級や中級クラスは、複数の同一個体が存在をする!
不特定多数の念が渦巻く場所に鬼の印のような悪質な起点が置かれた場合、
複数の念が同時に引っ掛かって、下級妖怪が数匹同時に育つこともある!
そんなことも知らないのか!?未熟者め!」
「へぇ・・・知らんかった。」
「ザコゎたくさんいるってことなんだね?」
「何体いようが、全部倒せば問題無いってことだろ!
・・・紅葉、オマエはここにいろ!」
「ぅんっ!」
燕真は、左手のYウォッチから『閻』メダルを抜き取って和船バックルに嵌めこんだ!
「幻装っ!!」
妖幻ファイターザムシード登場!妖刀ホエマルを装備して、二口女目掛けて突進する!
二口女Aが髪の毛を蜘蛛の巣のように張って、ザムシードの突進を妨害!ザムシードは苦もなく髪の毛を振り払うが、背後から二口女Bが伸ばした髪の毛に右腕を絡め取られる!
二口女は、一度戦っており、「それほど厄介な妖怪ではない」と判断したのがミスだった。
「チィィ!連携かよ!」
想定外の二口女C(3体目)まで出現して、伸びてきた髪がザムシードの首に巻き付く!
「ゲッ!3体目!?マジか!?」
更に、ザムシードが気を取られた隙に、二口女Aの髪の毛が、ザムシードの足を絡め取った!3匹が3方向から同時に髪を引き、ザムシードはバランスを崩して転倒する!
妖刀を握った右腕に髪の毛を巻き付けられている為、思うように剣を振るえない!ザムシードが四苦八苦していると、二口女の髪は容赦なく左手や胴体に巻き付き、全身の自由を奪う!
「鬼の出現を考慮して来てみたが、違ったか。
さぁ・・・行こう。直に日が暮れてしまう。」
しばらく、ザムシードと妖怪の戦闘を眺めていた雅仁が、まるで‘当たり前’のように、紅葉に声を掛けた。
「・・・え?」
紅葉が振り返ると、雅仁はバイクの向きを戦場とは反対側に向けて、紅葉に「タンデムに乗れ」と催促している。紅葉は、雅仁が何を言っているのか理解ができない。
「行くって何処に?」
「鬼の印探しに決まってるだろう?」
「燕真、戦ってるょ?」
「俺には関係無い!俺が優先するのは、鬼討伐だからな!」
「・・・・・・へ?」
「現地の妖怪退治は、俺の仕事ではない。
それに、君が此処にいたところで、
アイツ(ザムシード)の戦いに参加するわけでもあるまい。
俺も君も、此処で眺めていても時間の無駄。やれることをやるべきってことさ。」
「ふぅ~~~ん・・・あっそう!・・・・・・なら、ァンタだけ、行ってイイよ。」
「・・・なに?」
「ァタシゎ、燕真の応援に行くっ!」
「待て、行っても危険なだけだ!」
紅葉は、雅仁に背を向け、雅仁の制止に一切耳を傾けずに、戦場に向かって掛けて行く。理路整然と説明をしたつもりだった雅仁は、紅葉が一切理解をしてくれないことが理解できず、呆然と紅葉の背中を見送った。
「才能はあるが・・・順序立てて対局を読む力は無い・・・
未熟なアイツ(燕真)と一緒に居る所為で、
能力の有効活用もできないとは・・・。
この様な才能の無駄使い・・・粉木さんは把握しているのか?」
雅仁は、紅葉を呼び止めることを諦め、事前に確保しておいた‘妖気センサーの履歴’に目を通してから、バイクを発車させる。
背後でバイクのエンジン音を聞いて振り返る紅葉。
「ぁんにゃろぅ!・・・マヂで先に行きやがった!」
パターン的に「何だかんだ言いながら燕真を助ける」だろうと紅葉は予想をしていたのに、口約通り「次の鬼の印を探す為」に立ち去りやがった。
「アイツ、すっげームカ付く!」
紅葉は、バイクで去って行く雅仁の背中をしばらく睨み付けた後、交戦中のザムシードに視線を戻した。
3体の二口女に髪の毛を絡められて身動きのままならないザムシードは、妖刀を放棄して力任せに右手を左腕に寄せ、Yウォッチから『炎』を書かれたメダルを抜き取ってYウォッチの空きスロットに装填!
「たかが髪の毛を絡めたくらいで、いい気になるな!!」
ザムシードの両手甲と脛当てが炎を発して、手足に絡み付いていた髪の毛を焼き切る!直後に、炎を帯びた右手刀で、胴と首に巻き付いていた切り祓った!全ての拘束から解放されたザムシードが構える!
「さて・・・問題はこれからだ。」
『蜘』や『鵺』等の強い妖怪で作った武器用のメダルを2枚以上の同時使用はをすると、必要妖力が妖幻ファイターのキャパシティーを越えてしまう為、自動でリミッターが掛かる。妖刀や弓銃に『炎』等の属性メダルをセットすることも使役妖怪の妖力を高めてしまい、妖幻ファイターの制御能力を超える危険がある為に、自動でリミッターが掛かってしまう。つまり、妖幻システムはメダルの重ね掛けはできない。
例外的に、妖怪の封印に使用する白メダルだけが、妖怪の能力が封印されている武器に填め込んで使用できる。
「さすがに、まだ封印できる状態ではない!
武器を装備するか・・・このまま炎の力で戦うか・・・?」
手足に炎を纏っていれば、二口女の髪を焼くことができるが、攻撃力が低く、倒すことはできない。武器を装備すれば倒せるが、多方向から髪で牽制されると対応できない。
ザムシードが迷っている間に、二口女×3が、髪の毛を伸ばしながら襲いかかってきた!
「先ずは弱らせるべきかっ!」
三方向から絡み付いてくる髪を炎の手刀で焼き払い、二口女Aに突進をする!懐に飛び込んで炎の拳を叩き込んだ!二口女Aは一定のダメージを受けて炎に巻かれながら弾き飛ばされるが、直ぐに立ち上がる!やはり、炎の拳では、致命的なダメージを与えられない!
「倒せないのは想定内だ!」
ザムシードは二口女Aの間合いに踏み込みながら、Yウォッチのスロットに填められていた『炎』メダルを外し、裁笏ヤマ(木製ナイフ)を装備して柄の窪みに装填!裁笏ヤマから炎が発せられる!
妖怪が封印された武器に属性メダルをセットすることはできない。だが、基本武器(裁笏ヤマ)には属性メダルの効果を発揮させることが可能だ!
「おぉぉぉっっっっっっっっっ!!!」
炎を放つ裁笏ヤマで二口女Aを薙ぎ払う!胴体から上下に両断されて転がる二口女A!だが、斬っただけでは妖怪は倒せない!白メダルの効果を発揮させた攻撃で封印しなければ復活をしてしまう!
「封印は後回しだ!先に、あと2体を戦闘不能にする!」
倒せてはいないが、大ダメージを受けた二口女Aは、簡単には戦線復帰はできない!体の向きを変え、二口女Bに向かっていくザムシード!二口女BとCは堤防方向に逃走をする!
「燕真っ!」
「オマエはここで待ってろ!」
ザムシードは、紅葉に一声掛けてから二口女を追う!堤防上で追い付き、絡み付いてきた髪を炎を発する裁笏で焼き払い、戦場が高水敷に移動したところで二口女Bを切り伏せた!それを見た二口女Cは、背を見せて再び逃走をする!堤防斜面を駆け上がる二口女Cを追うザムシード!
「げっ!わぁっ!!こっち来た!!」
逃走経路の先には、「待っていろ!」と言われたのに追って来た紅葉の姿がある!慌てて足を踏ん張らせて立ち止まり、振り返って逃げようとするが、二口女Cは突然転がり込んできた美味そうな餌に髪の毛を伸ばした!
「あの・・・バカ!」
ザムシードは、走りながらYウォッチに『鵺』メダルをセットして、弓銃カサガケを召喚!小弓モードで二口女Cの背中に光弾を当てて体勢を崩す!
「横に飛べ、紅葉!」
指示をされた紅葉は横っ飛びで逃げる!ザムシードは弓銃を強弩モードに切り替え、予め準備をしておいた白メダルをセットして、必殺の一撃を狙い撃った!二口女Cは紅葉の目の前で爆発四散!散った闇が弓銃カサガケに集まって、メダルに『二』の文字が浮かび上がる!
-数分後-
「・・・ったく、毎回毎回、邪魔ばかりしやがって!」
「ごめぇ~~ん。」
「頼むから、もう少し温和しくしててくれ!!」
「は~~~~~~ぃ。」
ザムシードが紅葉の尻ぬぐいをするのは今回が初めてではない。その度に紅葉を叱るのだが、紅葉は学習能力が低いらしく、しばらくすると、また同じことをする。
「でも良かったぁ~~~!
ァィッが言うみたぃに、燕真ゎァタシのこと無駄だと思ってぃなぃもんね!」
「オマエ・・・耳あるか?たった今、邪魔をするなといったつもりだが!」
「ぅん、聞こえたょ!ぃつもぁりがと!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ザムシードにとって、紅葉の迷惑は戦闘の一連になりつつあった。それでも、燕真は「いつもの事」として、紅葉を受け入れている。
「いつも、ありがとねぇ!」
「・・・ど~いたしまして。」
屈託のない笑顔で改めて礼を言う紅葉に対して、ザムシードは恥ずかしそうにそっぽを向いた。そこでようやく雅仁の姿が無いことに気付く。
「あれ?アイツ、何処に行った?」
「知~らないっ!でも、やっぱり、燕真ゎ、アイツ(雅仁)とは、全然違うねっ!」
「アイツと違って、弱い妖怪相手に苦戦しているとでも言いたいんだろ?」
「ヒミツっ!燕真ゎ、ァタシのこと置いていかないもんね。」
「なんだそりゃ?よく解らんが、置いていくに決まってんだろう。」
「んへへっ!燕真ゎ絶対に置いてかない。」
その後、二口女AとBも白メダルに封印をして、変身を解除した燕真の手には『二』の文字が浮かぶ3枚のメダルが集まる。
「封印しないわけにはいかないから、白メダル使っちゃったけど・・・
同じメダルばっか、こんなに集めて意味あんのかな?
ジジイから‘要らない’と言われて、報酬を差っ引かれそうで怖い・・・。」
「燕真っ!」
「・・・ん?」
呼ばれて振り向いたら、いつの間にか、紅葉は燕真のバイクのタンデムに跨がって「帰ろう」と催促をしている。燕真は、紅葉の‘せっかち’ぶりに呆れつつ、バイクに駆けていく。
「サッサと行くよ!」
「一息くらい、つかせろよ。」
「もう、一息ついたでしょ?行こっ!」
紅葉は、雅仁の‘鬼の印’探しに協力をする気はある。ただし、それは燕真が一緒にいることが条件であり、雅仁のバイクに乗って、雅仁の背中に身を預ける気は無い。
-その頃-
ザムシードの戦場から数キロ離れた場所で、地の気を探り鬼の印’潰す雅仁の姿があった。
紅葉が「無駄無く正しい行動」を拒否して、ザムシードの戦闘を見守るという「無駄な行動」を選択したのが腹立たしい。そして同時に、他人には期待をしない自分が、「何故、紅葉を腹立たしく思うのか?」に困惑をする。
狗塚雅仁は縁石に腰を下ろして、しばらく思案に耽り、一連の行動を振り返り、1つの結論に至った。
「枯れた家系が、才能溢れる胎盤を得れば・・・
再び、栄華の血を呼び覚ます事ができる・・・?」
狗塚の血筋という慢心は、年端もいかない小娘にアッサリと撃ち抜かれた。自分自身を「名ばかりの家系」とコンプレックスに感じる雅仁は、紅葉の持つ潤った才能に嫉妬をしている。
そして同時に、紅葉の才能を欲している。しかし、紅葉は、未熟者(燕真)ばかりを優先させて、自分のことを全く相手にしない。雅仁は、紅葉と燕真に、同時に嫉妬しているのだ。
「・・・下らない!俺は、あんな小娘相手に何を考えているんだ!?」
雅仁は夕焼けに染まった空を見上げながら、「他人には期待をしない自分が、紅葉に期待をしてしまう理由」を、必死で否定する。