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14-3・単独行動は無駄な労力~紅葉合流

-翌朝-


「朝やで。起きんか、燕真。」


 燕真が、粉木に声を掛けられて目を覚ます。朝だから明るいのは当たり前なんだけど、明るいを通り越して眩しい。・・・と言うか、目を空けたら空が見える。


「なんで、こないとこで寝とんのじゃ?オマンが夢遊病とは知らんかったで。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・????」

「部屋から追い出されたんか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・?」


 しばらくはボケ~っとしながら、頭の上に沢山の「?」を浮かべていたが、徐々に意識がハッキリしてきた。辺りを見回して、布団も掛けずに庭で寝ていたことに気付く。


「・・・あんにゃろう」


 飛び起きて和室を覗き込んだら、雅仁が部屋の中央で布団に入って寝息を立てていた。熟睡している間に追い出されたらしい。

 自分は縁側で許してやったのに、庭に放り出すとは何事か?・・・めっちゃムカ付くんだけど、縁側と庭の違いはあるとは言え、先に部屋から追い出そうとしたのは燕真だし、起床時刻になってから布団を入れ替えても意味が無い。・・・本日の陣取り合戦は、燕真の敗北で決まった。


 その後、朝食の時刻になっても雅仁が起きてくる気配は無い。朝が弱いのか、だらしない性格なのかは解らないが、見た目や雰囲気には似合わず随分とルーズなようだ。

 朝食の食器を洗う時間になっても、まだ雅仁が起きてくる気配は無い。


「アイツ・・・いつまで寝てんだ?」

「好きに眠らせときや。

 一寝りして朝方に起きて、また土蔵に籠もっていたさかいな。

 念込めの塊か、護符かは知らんけど、随分と作っているようやで。

 お嬢のお陰で鬼の印を苦労なく潰せんのが刺激になったんやろうな。」

「紅葉のお陰・・・ねぇ。

 天野さんの一件があるし、

 アイツ(紅葉)が狗塚に、いつまでも協力するとは思えないんだけどな。」

「ワシには、天野はんの事があったさかい、二の舞をせん為と、

 狗塚の鼻っ柱をへし折る為に、お嬢は意地になって協力しとるように見えるで。」

「・・・それは、言えてるな」


 燕真は、洗い終えた食器を拭き、食器棚に戻しながら、何度も、雅仁が寝ている部屋の方角を眺める。




-AM10時-


 YOUKAIミュージアムが開店して、燕真がカウンター内にスタンバイしていると、ようやく雅仁が顔を出した。起き抜けの茶の間ではなく、一般客が立ち寄る店の中なので、一様に身なりは整えいる。雅仁は、入るなり店内を見廻して、「あれ?」的な表情をした後、もう一度店内を見廻して、カウンターから離れたテーブル席に座る。


「オーダーか?飯を食いたいだけなら、ジジイの家の台所で食え!」

「ホットサンドとアメリカン。

 食費まで迷惑を掛ける気は無い。飯代くらいは払う。」

「今は客な扱いのワケね。・・・コーヒーはいつお持ちすれば良いでしょうか?」

「パンと一緒で良い。」

「・・・かしこまりました。」


 燕真は、手際良く指定された注文品を仕上げる。紅葉の料理の上手さの所為で影が薄いが、燕真にだって、簡単な料理くらいは苦もなく作れる。10分ほどして、トレイに乗せたホットサンドとアメリカンコーヒーを、雅仁の座っているテーブルに並べた。


「源川紅葉は・・・まだ出社しないのか?」


 露骨に「オマエ(燕真)には用は無い」みたいな仏頂面で「紅葉」を注文する雅仁。


「オマエまで、アイツ目当てかよ?近所の彼女イナイ歴=年齢な連中と一緒だな。」


 ムカ付いた燕真は、膨れっ面をして「オタク扱い」の嫌味で返す。


「アイツ(紅葉)の朝食が食いたきゃ、夕方4時過ぎに起きてこい!」

「・・・夕方?彼女は、その時間まで、この店には来ないのか?」

「当たり前だろ。アイツ(紅葉)は学生だ。今頃は、高校で授業を受けてるよ。

 オマエ、あんなガキみたいなアイツを見て、まさか社会人とでも思ったのか?」

「そうか・・・学生だったのか?それでは仕方がないな。

 朝から彼女をアテにして、昨日は護符造りを張り切ったのだが・・・空振りか。」

「・・・護符?」

「あぁ、そうだ。

 さもしい考えしかできない君に説明する気にもなれないが、

 勘違いをして欲しくないので言っておく。

 俺は彼女の飯を食いたくて、此処にいるわけではない。

 彼女と組めば、1日で‘鬼の印’の100や200は雑作もなく潰せる。

 だから、此処にいるんだ。」

「・・・あっそう!」


 どうやら雅仁は、茶店のウェイターとして「燕真に用は無い」のではなく、退治屋として「燕真に用は無い」と言っているらしい。実際に、紅葉の能力に比べれば、燕真の能力なんてゼロに等しい(・・・てか、ゼロだ)が、出会ったばかりの奴に言われるのは、かなり腹立たしい。


「粉木さんは事務室か?」

「そうだよ!それがなんだ!?」


 その後、これと言った会話は無し。雅仁は、ホットサンドを黙黙と口の中に押し込み、コーヒーを飲んで、食事代を払い、粉木が居る事務室に入っていった。




-事務室-


 粉木の元を訪れた雅仁は、一礼をしてから、早速、粉木が調べ上げた妖気反応を履歴に眼を通す。大きな妖気反応(加牟波理入道や天邪鬼)に混ざって、小さな反応が幾つもある。普段なら「自然発生をした小さな妖気溜まり」として見逃す反応だが、おそらく、これらのうちの幾つかが鬼の印を示している。


「彼女が学生ってこと、アナタが未成年に手伝わせていること、

 アナタらしくないと驚きましたよ。

 ですが・・・彼女の才能を考えれば、理解はできます。」

「あぁ・・・お嬢の事か?」

「正規の退治屋のはずの彼(燕真)よりは、余程役に立ちますからね。」

「えらい言い様やの。

 あれ(燕真)はあれで、土壇場では腹が据わるよって、なかなかのもんなんや。」

「アナタの思惑はどうであれ、俺は、未熟すぎる彼を相手にする気はありません。」

「まぁ・・・オマンがそのつもりなら、ワシは特には何も言わん。好きにせいや。」

「さて・・・夕方まで彼女が動けないのなら、日中は単独で動くしかない。

 最新の反応は・・・コレとコレとコレ。先ずは、この辺から探ってみます。」


 雅仁は最新の妖怪反応のうちから、遡って5箇所分に眼を通し、その場に向かうべく、YOUKAIミュージアムから出て行った。粉木は、窓越しにその光景を眺めながら溜息をつく。


「やれやれ・・・

 気持ちは解らんでもないが、もうちっと肩の荷を降ろせんかのう?」




-数分後-


 此処はYOUKAIミュージアムの南東側にある土地開発区(明森町)。雅仁はバイクを路肩に停車して周囲を見回す。妖気の履歴データを見ると、8時間ほど前に小さな交差点付近で反応が出ているが、異変は感じられない。


「やはり・・・目視では解らないか。」


 バイクから降りて交差点歩道で地面に手を置き、大地の気の流れを探ってみる。3mほど離れた場所に鬼の印の存在を感じたので、特定された位置に護符を置き、印を切って鬼の印を潰す。

 履歴から、ある程度の位置は確認できるが、ピンポイントで鬼の印を見付けるには労力を必要とする。決して難しい動作ではないが、一定の知識や技術は必要であり、雅仁のキャパシティーでは「大地の気を探る為に気を流す」のは、1日に20回程度が限界。紅葉と行動を共にする安易さを考えると、凄まじく燃費の悪い鬼の印潰しになってしまう。


「やってられないな。」


 鬼の印全てが妖怪を生み出すわけではない。無数にバラ巻かれたうちの幾つかが邪気や思念に反応して、妖怪を発生させる程度であり、他の鬼の印は誰にも気付かれないまま、やがては大地に溶け込んで自然に浄化される。鬼の印の虱潰しは、体力を消耗させてまで、やるべき価値は無いのだ。

 雅仁は、履歴で周辺に確認されている場所を3つほど確認して潰し、それ以上の行動は「無駄な労力」として諦め、YOUKAIミュージアムに戻った。




-午後4時過ぎ・YOUKAIミュージアム-


「ちぃ~~~~~~~~~っすっ!ぉまたせぇ~~~~~!!」


 待ちに待った紅葉が、ようやく顔を出した。雅仁は早速立ち上がり紅葉に歩み寄る。


「さぁ、行こう!」

「・・・ん!?」

「解るだろ?昨日の続きだ!」

「え?今から!?まぁ・・・ィィけど、直ぐに暗くなるょ?

 黒ぃモヤモヤだから、暗くなると見えにくぃんだょねぇ~~。」

「日が暮れるまでで充分だ!頼む!」

「もぉ~!しょうがないなぁ~!」


 紅葉は、連日の鬼の印探しを想定していなかったが、雅仁の熱意に押されて協力を承諾する。


「ょぉ~し!そ~ゆ~ワケだから、行くょ、燕真!」

「ハァァ?何で俺が!?」 「何故、彼(佐波木)まで!?」

「だってぇ~~・・・燕真が行かないと、ァタシ歩かなきゃぢゃん!」

「コイツ(狗塚)に乗せてもらえ!」 「俺の後ろに乗ればいい!」

「ぇ~~~~~・・・燕真行かなぃのぉ!?なら、ァタシも行かな~い!」

「俺まで出たら、店はどうすんだよ?」

「ぉ店と退治屋さんと、どっちが本業なのぉ?退治屋さんでしょ?

 それに、ぉ店にゎ粉木じぃちゃんがいるじゃん!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ま・・・まぁ、そうだけど」

「だったら、行こぉ!」


 燕真が鬼の印潰しで活躍する場面は一つも無い。探すのは紅葉で、潰すのは雅仁。燕真は紅葉のアシをしているだけ。

 しかし、紅葉は「燕真がいなきゃダメ!」らしい。粉木から「紅葉の子守は燕真の役目」と言われているので無視はできない。


「何や有るかもしれんし、人数多い方がえぇやろ!

 店は任るさかい、オマン(燕真)も行きや!」

「メンドクセーな~~~!!」

「素直じゃないのう、燕真!お嬢のご指名なんやから、もっと喜べや!」

「そぉ~だそぉ~だ!」

「喜んでね~よ!!オマエ(紅葉)、何様だよ!?

 俺を、オマエ目当ての客共と同類にするな!」


 雅仁は燕真同行を納得していないが、「紅葉が望むなら仕方がない」と渋々頷く。




-30分後-


ピーピーピー!!!

 妖気発生の警報が、事務室を経由して燕真と雅仁のYウォッチを鳴らす。バイクを路肩に寄せ、粉木の発信に応答をする燕真。文架大橋の東詰で妖怪が暴れているらしい。


「了解!今から向かう!」

「ぃそげぇ~~~!」

「もしや、鬼が!?」


 鬼の印を5つ潰して、6つ目の捜索中に、本日の活動は変更となった。燕真&紅葉&雅仁は、粉木が指定をした場所にバイクを走らせる。


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