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13-4・天邪鬼暴走~冷徹なガルダ

-羽里野山の麓-


 燕真達が到着をすると、路線バスが転倒して炎を上げながら道路を塞いでおり、数台の乗用車が足止めをされていた。逃げ惑う一般人達に紛れて、正気を失った数人が暴れ回っている。


「燕真!ぁの人達、子妖に憑かれてる!」

「オマエは、ここにいろ!」

「ぅんっ!」


 燕真はバイクを止めて駆け出し、左手のYウォッチから『閻』メダルを抜き取って和船バックルに嵌めこんだ!


「幻装っ!!」


 燕真の体が光に包まれ、妖幻ファイターザムシード登場!

 妖怪センサーを介して正気を失った人々を見ると、一様に、頭の天辺に小さな角が生えている。蓄積済みのデータは、彼等を鬼族の子妖=餓鬼と照合した。

 センサーは引き続き周囲に充満する妖気を追い、バスから上がる炎の中に、妖怪の本体=天邪鬼を発見する。

 天邪鬼がザムシードの存在に気付き、炎を掻き分けて近付いてくる!


「天野さん・・・そんなところで、何をやってんだよ!!」

「ガォォォォォォッッ!!やっちまえ!!」


 天邪鬼の命令を受けた餓鬼達が、一斉にザムシード目掛けて突進!すかさず、裁笏ヤマ(木製ナイフ)を装備して餓鬼達に打ち込むザムシード!子妖を祓われた人々は、穏やかな表情を取り戻して、次々とその場に倒れる!


「ガォォォォォォッッ!!」


 天邪鬼が怪力で乗用車を持ち上げ、ザムシード目掛けて放り投げる!


「チィィ!!」


 回避は容易だが、回避をすれば、祓われて足元に倒れている一般人が自動車に潰されてしまう!1~2人ならともかく、複数人を安全圏に救出する時間も無い!


「ハァァァッ!!」


 ザムシードは勢い良く跳び上がり、飛んでくる自動車に蹴りを叩き込み、人がいない場所目掛けて叩き落とす!その隙を突いて、ザムシードの頭上から襲い掛かる天邪鬼!しかし、ザムシードは、天邪鬼の行動を読んでいた!車を蹴り落とす際の反動を利用して、更に高く跳び上がり、天邪鬼に応戦!空中で互いに一撃ずつ拳を喰らい、体勢を崩しながら地面に着地をする!


「目を覚ませよ・・・天野さん!」


 妖刀ホエマルを装備して、天邪鬼との間合いをはかるザムシード。未熟なりに戦闘を重ねてきたザムシードには、天邪鬼は強敵とは思えない。恐らく、力業一辺倒の類だろう。本気で戦えば、容易に倒せるように感じられる。


「だけど・・・戦って良いのか?どうしてこんなことに?

 天野さんに戻す方法は無いのか?」


 構えるばかりで、攻めに転じようとしないザムシードの迷いは、見守っている紅葉にも伝わっていた。


「・・・燕真」


 しかし、紅葉も、どうすれば良いのか解らない。

 天野老人は、自分が鬼と自覚しながら、人間社会で穏やかな生活を送っていた。鬼に乗っ取られたのではなく、今も昔も鬼のままだ。では、どうしてこんなことに成っているのか?原因は何なのか?なにが、天野を急変させたのか?


「!!!!」


 紅葉は、文架市のあちこちに沈んでいる邪気の塊の様な物(鬼の印)を思い出した。穏やかな鬼が、それに触れてしまったらどうなるのか?小さな猫の念が凶悪な絡新婦を育てたように、邪気の塊が闇の力を増幅させる元凶ではないのか?現に天野は「触れたら精神ごと闇に食われる」と言っていた。


「燕真っ!!容赦なくやっつけちゃえ!!」

「・・・え!?」


 この閃きは、あくまでも直感的な仮説であり、確証は一つも無い。だが、その仮説で辻褄が合うのも事実だ!

 封印メダルを使用せず、妖刀で何度も切って邪気を祓い続ければ、やがては穏やかな天野老人に戻るかもしれない。

 一撃で決着を付けられる封印メダル使用に比べ、決定打には成らない攻撃を何度も叩き込むのは、かなり手間がかかる。しかしそれでも、「倒さない」ようにして「倒す」しかないと、紅葉は考えた。


「多分・・・封印さぇしなければ、大丈夫だから!」


 紅葉から、「戦っちゃダメ」と言われると思っていたザムシードには、意外すぎるアドバイスだった。


「・・・とりあえず、弱らせてから考えるってか!」


 ザムシードには、紅葉の思惑は解らない。しかし、何の打開策も無く、だからと言って眺めているわけにもいかない。「妖気を祓い続けて徹底的に弱らせる」なんて、極めて面倒臭い戦い方だし、結論の先送りとしか思えないが、何もしないよりはマシだ。


「名案でも何でもないけど、その案に乗った!!」


 迷いは吹っ切れた!妖刀を構え、天邪鬼に突進するザムシード!両腕を振り回しながらザムシードに飛び掛かる天邪鬼!ザムシードは、天邪鬼が太い腕から繰り出す大振りの一撃を横に回避!同時に脇腹目掛けて妖刀を振り切り、返す刀で背中への斬撃を叩き込んだ!


「ガァゥゥゥゥゥッッッッ・・・ぅぅぅわぁぁっ!!」


 妖怪の咆吼に混ざって、人間の悲鳴が聞こえたような気がする!次の一撃を叩き込もうとしていたザムシードは、天野老人の声に戸惑い、追い打ちのタイミングが逸れてしまい、慌てて間合いを空ける!


「くそっ!やりにくい相手だ!」


 戸惑うザムシードとは対照的に、紅葉の目には天邪鬼が切られた時の違和感がハッキリと見えていた。

 脇腹への一撃が入った時、天邪鬼の腹の真ん中で闇のような物が歪んだ。通常時には見えていないが、妖気祓いの武器が触れた瞬間にだけ、その光景が見えた。背中への一撃の時は、天邪鬼が切られただけで、特に不思議な現象は無かった。


「燕真!!ぉ腹だよ!!ぉ腹だけを攻撃してっ!!」


 天邪鬼の腹に仕込まれた闇が、天邪鬼(天野老人)を支配している。


「え!?・・・・腹指定!?」


 苦戦する敵ではないが、必殺の一撃(封印メダル)は使用禁止で、「攻撃は腹だけと」は凄まじいハンデだ。戦ってる身にもなって欲しい。

 しかも、大声で「腹だけ」などと言ったら、余程のバカでもない限り‘腹’だけは狙われないように気を付けるだろう。


「アホッ!こっちの作戦を晒してどうすんだよ?」


 ザムシードは、右手で妖刀ホエマルを、左手で裁笏ヤマを構え、やや前傾姿勢で突進をする!振り下ろした妖刀を、天邪鬼は素手で払って受け流す!続けて、天邪鬼の腹目掛けて裁笏を振るう!しかし、天邪鬼は腹を引っ込めて回避!切っ先が僅かに掠っただけ!案の定、天邪鬼は、腹への攻撃を警戒している!


「もう1人、妖幻ファイターがいてくれれば、

 抑え付けてもらって、腹だけを叩くことができるんだけどな。

 そんな都合の良い展開に成るわけないか。」


 天邪鬼の腹を無防備にするには、どう戦うべきか?構えながら思案をするザムシード。

 ・・・次の瞬間!


「鬼は・・・皆殺しだ!!」


ガォンガォンガォンガォンガォンッ!

 獣の咆吼のような銃声が鳴り響き、頭上から天邪鬼目掛けて幾つもの光弾が降り注いだ!


「・・・なっ!!?」


 ザムシードが上空を見上げる!空中には、翼を展開してハンドガン=鳥銃・迦楼羅焔カルラほむらを構えた妖幻ファイターガルダの姿がある!


「狗塚!!」


 不意打ちの直撃を喰らった天邪鬼は、ダメージを負い、全身から煙を上げながら、グッタリと膝を落としている!

ガォンガォンガォンガォンガォンッ!!

 なおも響き渡る銃声!容赦のない光弾の雨が降り注ぎ、天邪鬼は苦しそうな咆吼を上げながら地に伏した!

 しばらくは呆然としながら状況を傍観していたサムシードだったが、我に返り、倒れた天邪鬼を庇うように立ち、ガルダを見上げる!


「もういい!やめてくれ!」

「・・・ん?」


 ガルダは、ザムシードの制止を聞き、首を傾げながらも構えていた銃を下ろし、広げていた翼を収納して着地をする。


「何故庇う?」

「コイツはそんなに悪い奴じゃないんだ!」

「どういうことだ?」

「コイツは、人間社会への共存を望んでいる!倒す必要は無いんだ!」

「これほどの被害を出しているのに共存だと?」

「確かに被害は出した!でもそれは、コイツの意思ではない!

 ・・・きっと、何かに操られて!

 でも、多分、コイツを支配している闇を祓えば元に戻る!!」

「きっと?・・・多分?・・・君の言っていることが理解できない。」


 今度は、天邪鬼に対して、至近距離からハンドガンを構えるガルダ!それを見た紅葉が、慌てて駆け寄ってきて、ガルダと天邪鬼の間に立つ!


「やめて!!

 ぉじぃちゃんゎ、ぉ腹に変な妖気を入れられてパニクってるだけなんだょ!

 ぉ腹にぁるのを消してぁげれば、ぃっものぉじぃちゃんに戻るのっ!」

「・・・変な妖気?そうか、コイツ、茨城童子の‘鬼の印’を取り込んで?」

「そう言うことだ!!(鬼の印とか言われても解んね~けど)」

「そぅそぅ!だから、大丈夫!!」

「・・・コイツ、天野の爺さんて言うのか?」


 ガルダにとって、紅葉の説明は稚拙で言葉足らずながらも、状況を把握していないザムシードの説明よりは理解ができた。先日の羽里野山の鬼退治で、紅葉は隠れている鬼の居場所を、退治屋の名門である自分よりも先に適確に見抜いた。その妖気感応力を考えれば、「腹に変な妖気を入れられて操られている」と言う判断は、信用できる。


「君達の理屈は解った・・・

 だが、それでも、コイツが鬼という事実に変わりはない!」

「・・・・・・・・ぇ?」

「・・・なに!?」


ガォンガォンガォンガォンガォンッ!!

 ガルダは、前に立つ紅葉を軽く押し抜けるようにして、銃を突き出し、倒れている天邪鬼を狙い打つ!

ガォンガォンガォンガォンガォンッ!!

 無数の光弾を一身に浴び、弱々しい悲鳴を上げながら体を震わせる天邪鬼!


「や、やめろっ!!」


 見かねたザムシードがガルダの腕を取り、天邪鬼から鳥銃・迦楼羅焔の照準を外す!睨み合うザムシードとガルダ!力尽くで照準を戻そうとするガルダと、力尽くで妨害をするザムシード!天邪鬼は、その隙を見て立ち上がり、覚束ない足取りで逃走をする!


「邪魔をするな!!」

「操られてるだけって解ったんだろう!?なのに何故!?」

「鬼の印を祓えば、共存を望んで温和しくなるかもしれないが、

 裏を返せば、再び鬼の印を取り込めば忘我して暴れるということだろう!」

「そ、それはっ!」

「・・・君が邪魔をするつもりなら!」

「・・・え!?」


ガォンガォンガォンッ!!

 力尽くのせめぎ合いで、鳥銃・迦楼羅焔の銃口がザムシードに向いた瞬間、発せられた光弾がザムシードの胸部や腹部に炸裂!自分への攻撃を想定していなかったザムシードは、無防備に全弾を受けて弾き飛ばされる!


「所詮は鬼!・・・生かす価値は無い!!」


 ガルダと天邪鬼の間に障害物が無くなった!

 ガルダは、鳥銃・迦楼羅焔の銃身後方を展開させて『雷』のメダルを装填!銃口を逃走中の天邪鬼の背に向けて引き金を引く!数発の雷撃弾が発射され、天邪鬼に炸裂!いくつもの小爆発を起こしながら、脱力をして、その場に両膝を着く天邪鬼!


「や、やめろぉっ!!」


 ザムシードは、我を忘れてガルダに突進!拳を握り締めて、ガルダの顔面をブン殴る!思い掛けない横槍を受けて数歩後退するガルダ!しかし、すかさず、銃口をザムシードに向けて、迷うことなく引き金を引いた!


「退治屋が妖怪討伐の邪魔をするとは、どう言う了見だ!!」


 強烈な電撃を帯びた光弾がザムシードに炸裂!大ダメージを受けて十数mほど弾き飛ばされ、変身が強制解除をされて、燕真の姿に戻って地面を転がる!

 ガルダは動かなくなった天邪鬼を睨み付け、鳥銃・迦楼羅焔の銃身後方を展開させて空白メダルを装填!


「やめて!!」


 紅葉の大声が届いているにも関わらず、耳を傾けようとはしない!

 迦楼羅焔の中央にある嘴が開き、風のエネルギーが凝縮されていく!ガルダは、両手で構え直し、銃口を天邪鬼に向け、引き金に力を込める!


「鬼は皆殺しだ!!」


 ギガショット発動!耳を劈くほどの轟音が鳴り響き、高エネルギーを纏って白く輝いた空白メダルが発射され、容赦なく天邪鬼の腹を貫通した!


「グウォォォォォォォォォン!!!」


 天邪鬼は断末魔の悲鳴を上げ、全身の力を失って地面に倒れ、黒い炎を上げて爆発四散をする!

 撒き散らされた黒い霧は、爆心地に集まりメダルに吸い込まれて消え、『天』と『鬼』の文字が浮かんだメダルが、アスファルト面に冷たい音を立てて落ちた。


 燕真は地に伏したまま、紅葉は棒立ちのまま、正気を失った天野老人の最後を、呆然と見つめる。


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