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12-4・鬼の印~天野の回想~トイレの妖怪

-翌日の夕方・リバーサイド鎮守前-


 昨日、紅葉と遭遇した場所・同じ時間の15分前、天野老人の姿があった。脇には、封筒が抱えられており、中には、「紅葉が興味を示した珍種の写真」が入っていた。

 彼は、同時刻に下校して来るであろう紅葉に珍種の写真を見せ、彼女に笑顔を見たら、粉木のアドバイス通り、直ぐに自宅に戻って温和しくするつもりだった。


「きゃぁぁっっ!!!」


 ショッピングモール内で、幾つもの悲鳴が上がり、天野老人の耳を衝く!


「ん?なんじゃ?」


 声は、昨日、紅葉とデート(?)をした場所=フードコートから聞こえた。店内(フードコート部分)からは、青ざめた客達が逃げ出してくる。ガラス越しには、店内を逃げ惑う客達の姿も見える。


「妖気?・・・妖怪が出現したのか?」


 天野は、騒ぎの場所に向かおうとしたが、直ぐに足を止めた。粉木の「温和しくしていろ」というアドバイスが脳裏を過ぎる。見ぬフリをして、この場から離れた方が賢明と判断する。


「・・・だが」


 今は、文架市の妖怪関連は、知人の粉木が統括をしている。しかし、騒ぎや犠牲が大きくなれば、やがては、この地に沢山の退治屋が派遣されるだろう。

 どの道、この地は、住みにくい土地になってしまう。粉木が見逃した妖怪は、天邪鬼だけではない。沢山の退治屋が派遣されれば、この地に土着した妖怪達は、皆、安息を奪われるかもしれない。


「ならば・・・逃げずに、被害を食い止めるべきじゃな!」


**************************************


 それは、20年くらい前の思い出。


「うっひゃっひゃっひゃっひゃ!キンイロのザリガニの妖怪じゃ!」

「アホか、バカバカしい。」

「ザリガニを塗料で塗ったのね。動物虐待だわ。」


 嬉々として金色に塗装したザリガニを見せびらかす天野。今よりも若い粉木と、隣に立つ女性が、呆れた表情で対応をする。その女性は、紅葉とは違って凜とした表情をしているが、どことなく紅葉の面影がある。


*************************************


「わしは、安息の地を追われたくないんじゃ!」


 天野老人は、喧騒のショッピングモール内に向かって駆け出していった。




-リバーサイド鎮守の北側出入り口-


 天野が向かう出入り口とは別の場所に、長髪を後ろで束た男が姿がある。店内のトイレに闇を灯し、妖怪を招き、恐怖を発生させたのは彼だ。彼にとって、妖怪を呼び寄せる場所は何処でも良かった。たまたま、大型ショッピングモールが目に止まり、「ここで騒ぎを起こせばどうなるか?」と試したくなっただけ。

 彼は、直ぐ近くに、平穏を望む下級の同族(天野)がいることも知らない。退治屋が駆け付けるまでの間に、誰が犠牲になろうが、何人の命を奪われようが、どうでも良かった。


「ふむ・・・多くの雑念が渦巻く施設ゆえに、早々に妖怪が育ったな。」


 長髪男は、駐車場に設置してある防犯カメラを横目に見て、小さく舌打ちをする。一昔前ならば、怪しい素振りを見られても、目撃者を始末すれば証拠の隠滅はできた。だが現代は、防犯カメラよって記録に残されてしまう。


「人間の技術が生んだ‘姿を記録に残す’道具か。なかなか厄介な代物だ。」


 人間が多すぎる場所で妖怪を呼び寄せた場合、妖怪の成長が早すぎるゆえに、妖怪が発生と同じ場所で長髪男が撮影されてしまう。1回や2回なら偶然と判断されるだろうが、同じ状況が続けば、誰かが「関係があるのでは?」と気付く可能性がある。退治屋がデータを回収して確認すれば、高確率で気付かれるだろう。


「妖怪の育成が早いのは便利だが、

 力を蓄えるべき今は、あまり好ましくない・・・か。」


 長髪男は「防犯カメラを気にする素振り」を見せないように心掛けながら、騒動の場を離れていった。




-フードコート-


「カッカッカッカッカ!!」


 上半身だけが通常の2倍くらいの大きさで、老人の姿に成った者達が暴れている!逃げ遅れた人を抑え付け、冷たい息を吹きかけた!


「ひぃぃぃっっっっっ!!!」


 だが、息を吹きかけられた人に、凍り付く等の障害は発生せず、拘束を解かれて逃げていった!他の老人妖怪も、一般人を抑え付けて、冷たい息を吹きかけるだけで解放をする!そのうちの一匹が、泣き叫んでいる子供に襲い掛かる!


「やぁぁぁぁぁっっ!」   バキィ!!


 天野老人がイスを振り上げ、妖怪の背中を殴打!怯ませた隙に、子供の手を取って後退する天野老人!上半身だけが通常の2倍サイズの者達が詰め寄り、天野老人はイスを振って威嚇をする!

 相手(上半身だけが通常の2倍サイズの者達)は子妖に憑かれた人間だ。本性が鬼の自分が本気を出せば、簡単に撃退できるだろう。最悪、命が危険になれば、それも仕方がないと覚悟はしている。しかし、人外がバレることは避け、この地に留まりたい。彼は、そんな思いで、人として、人を救おうとしていた。




-公園通り路上-


 妖気反応を受けた燕真がホンダVFR1200Fを駆り、騒然とするショッピングモールに到着!逃げ惑う人々を縫うようにしてバイクを走らせ、建物脇に駐車をして店内に飛び込み、ひとけの無い物陰を選んで隠れ、左手のYウォッチから『閻』メダルを抜いて和船バックルに嵌めこんだ!


「幻装っ!!」 


 燕真の体が光に包まれ、妖幻ファイターザムシード登場!

 フードコートに到着すると、逃げそびれた人々がテーブルやイスを盾にしながら震えており、子妖に憑かれて正気を失った者が3人ほど徘徊をしている。すかさず、裁笏ヤマを振るって憑かれた人々から子妖を祓い、隠れている人達に「この人達はもう大丈夫」と伝えてから周囲を見回す。


「小妖3匹終了・・・本体は何処だ?・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」


 視線の先、憑かれた者に対してイスを振って牽制中の天野老人を発見。ザムシードは、素早く憑かれた者の背後に近付いて子妖を祓い、天野老人に声を掛けた。


「アンタ・・・粉木の爺さんのアドバイスを聞く気が無いのか?」

「ん?その声は、昨日会った退治屋の坊や・・・確か、鯖煮メンマか?」

「坊や扱いされる歳じゃね~し、そんなマヌケな名前でもない!

 まさか、この騒ぎ、アンタが元凶ってことはないよな?」

「わしは、紅葉ちゃんに写真を見せたくて、たまたまここに来ただけじゃ。」

「俺の名前は覚えてないクセに、紅葉の名前はインプット済みかよ!?

 まぁ、いいさ!アンタを倒すって展開じゃなくて少し安心した!」

「子妖の形から察するに、親は‘加牟波理かんばり’じゃろうな。」

「カンバリ?」

「冷たい息を吹きかけて、対象を便秘にする恐ろしい妖怪じゃ。」

「それ、恐ろしいのか?・・・まぁ、スゲー迷惑だけどさ。

 なぁ、天野さん!本体がどこにいるか解るか!?」

「もちろんじゃ!こう見えても、妖怪のエリート種族!

 妖怪の索敵なんぞ、朝飯前じゃ!」


 ザムシードは、天野老人の先導で、子妖を蹴散らしながら本体の居場所に駆けていく。数分後、2人は、フードコート脇の男子便所の前で足を止めて、天野老人が便所内を指さした。


「いるぞ!」

「流石は純正妖怪だけあって、妖気の索敵はお手の物だな!」

「親は男子便所の中だ!」

「例え任務とはいえ、女子トイレには入りたくないからな。

 妖怪が変態じゃなくて助かった!」

「息を浴びると便秘に成るから気を付けろよ!」

「了解!」


 ザムシードは、妖刀ホエマルを召還して白メダルをセットしてから、カンバリが潜んでいる男子トイレに足を進めた。ザムシードのセンサーでは、濃厚な妖気を感知している。しかし、妖怪の姿は確認できない。


「・・・あれ?」


 警戒して周囲を見廻すザムシード!その背後に煙が集まり、足の無い巨大ジジイが出現!察知をしたザムシードは、体を半回転させて妖刀を振るうが、カンバリは煙に変化して消え、妖刀は空を切る!直後にザムシードの死角に出現したカンバリが、ザムシードの背中を殴打する!


「くっ!」


 ザムシードは体勢を崩しながら妖刀を振るって牽制する!しかし、カンバリは煙に成って消え、再びザムシードの死角に出現して、冷たい息(便秘にする息)を吐き出した!慌てて回避をするザムシード!


「チィ・・・素早い!」


 死角でしか実体化をしないカンバリも厄介だが、狭いトイレ内では、妖刀のリーチを活かして大きく振るえないのも厄介!カンバリがトイレから出てくれれば戦いやすいのだが、そのつもりは無さそうだ!


「トンマ君!カンバリは、厠神かわやかみの側面も併せ持つ!

 自分のテリトリーである便所内では無敵だ!」


 苦戦を察知した天野老人が、トイレに入ってきて、ザムシードに声を掛ける!


「トンマじゃなくて燕真だ!」

「カンバリの習性を利用して、罠にかけるんじゃ!」

「どんな習性だ?」

「個室に入って便器に座れ!それが、カンバリの習性を発揮させる条件だ!」

「・・・なんだよ、その、ふざけた条件は?」


 ザムシードは言われるまま個室の入ってドアを閉め、洋式便器(蓋は閉めたまま)に腰を降ろした。


「・・・・・・・・・・・・・うわぁ~~~~。」


 途端に妖気の集中を感知したので見上げたら、大きなジジイの妖怪が、天井とパーテーションの隙間から覗いている。


「簡単に罠に掛かった。・・・マジか?」


 ザムシードが大便中で動けないと判断して、便秘にする息を吐きかける為に、大きく息を吸い込む。だが、ザムシードは大便中ではない。便器に座っていただけだ。


「カンバリには、厠を覗く習性があるのじゃ!」

「嫌な妖怪だな~!」


 座ったまま、隠していた妖刀で、覗き込んでいるカンバリの顔に突き刺す。


「オーン!封印!!」

「ぐわぁぁ~~~~~~~~~~~~」


 妖怪は、恨めしそうな悲鳴を上げながら妖刀に吸い込まれ、束にあるメダルに吸収をされる。天野老人の的確なアドバイス(?)のお陰で、この度の妖怪退治はアッサリと終了をした。




-文架大橋-


 妖怪の仕掛け人・長髪男は、橋の中央付近で足を止め、大型ショッピングモールを振り返る。「たった今、妖気が消えた」と感じ取ったのだ。


「想像していた以上に終息が早いな・・・。

 いや、様々な人間が存在する場所では、暗く上質な念を選べず、

 稚拙な念に引っ掛かってしまい、出来の悪い妖怪が育ったと言うべきか。

 無駄に騒ぎだけが大きくなり、得る物は無し・・・。

 この様な愚策、2度と打つまい!」


 退治屋には興味がある。だが、長髪男は、「その様な感情が無意味で愚か」、「今はそのタイミングではない」を理解している。


「御館様を封印せしメダルの所在を突き止めること・・・。

 妖怪事件を乱発させて、御館様の復活に相応しい邪気を、この地に集めること。

 今、重要なのは、この2つだ!」


 やがて、必ず、退治屋と対峙をする時は来る。それは‘御館様’を復活させ、万全の戦力を整え、退治屋に勝利する時でなければならない。

 長髪男は、橋の手摺りに保たれて、無表情のまま、しばらく眺めた後、大型ショッピングモールに背を向けて去って行く。

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