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12-3・天野は鬼~鬼退治の家系

-YOUKAIミュージアム-


「やれやれ・・・どいつもこいつも・・・・」


 粉木は、通話を切って大きく溜息をついた後、出動準備のまま待機をしていた燕真に視線を向けた。


「おう、燕真!とりあえず安心せい!

 お嬢の居場所も、尾行相手の正体も判明したで!」

「え?もう解ったのか?」

「細かい説明は、みんな揃ってからするが、

 掻い摘むと、お嬢が言うとった『鬼っぽいジジイ』はワシの知り合いや!」

「なんだよ、その人騒がせなオチは!?」


 店を閉め、粉木は車で、燕真はバイクで、リバーサイド鎮守に向かう。




-数分後-


「あ!燕真!じぃちゃん!こっちこっち!」


 燕真達の到着をいち早く発見した紅葉が、大きく手を振って呼ぶ。紅葉と老人は、フードコートのテーブル席で、タコ焼きを食べながら待機をしていた。

 見付かった直後は警戒をしていた紅葉だが、尾行相手から「粉木の知人」と説明されて安心したらしく、もうスッカリと馴染んでいた。「いつまでも怖がれ」とは言わないが、もう少し人見知りをした方が良いのではないだろうか?


「・・・あのバカ。」


 呑気に手招する紅葉に対して、燕真は肩を怒らせて近付こうとしたが、粉木の方が数歩早かった。

 粉木は足早に近付き、紅葉が次の言葉を発する前に、ゲンコツで紅葉の頭を思いっ切り叩いた。鈍い打音と甲高い悲鳴が、フードコート内に響き、紅葉は眼から星マークを飛び散らせて頭を抱える。


「ぃったぁ~~~~ぃ!!!」

「アホンダラ!独断で危険に身を晒す行動は慎め!」

「でも~~~~」

「でもやない!!」

「まぁまぁ、娘は無事なんだから、そんなに目くじらを立てなくても良いだろう?」

「ワシ等の話や!オマエは黙っとれ!」


 相席をする老人が取り持とうとするが、粉木は取り合わない。普段は好々爺の粉木が、珍しく怒りを露わにしているので、さすがの紅葉でも反発ができない。


「・・・ゴメンナサ~イ。」


 傍目からは、少女へのDVと見られそうだが、行動が迂闊すぎる紅葉へのオシオキは必要なので、燕真は粉木を止める気が無い。むしろ、粉木が叩いてなければ、燕真が叩いていただろう。

 これで、反省して、温和しくなってくれれば気が楽なのだが・・・まぁ、多分、無理だろう。温和しくなっても、せいぜい2~3日程度・・・かな?


「さて・・・張り倒したいんは、お嬢だけやない。オマンもや。」


 粉木は、痛む頭を抑えている紅葉の隣に座り、同席していた老人を睨む。老人は、ヘラヘラと軽口で粉木と会話をするつもりだったが、粉木の真剣な表情に気付き、真顔になった。


 燕真的には、「紅葉への制裁」と「紅葉の回収」をして、「はい、終了!帰宅!」と思っていたのだが、粉木の思惑は違ったらしい。何となく「長くなりそう」と空気を察して、ドリンクを4つ購入してテーブルの上に並べ、空いている席に座った。


「なぁ、爺さん?この人は?」

「ワシの古い知人の天野や。」

「こんちは。佐波木です。」

「こっちの小娘は源川や!・・・まぁ、もう自己紹介は済んどるかもしれんがな。

 2人とも、ワシんところで、退治屋をやっちょる。」


 一通りの自己紹介を終えた粉木は、ドリンクに口を付けた後、社交辞令的な会話も無いまま、本題に突入する。


「天野・・・また、出歩きよったんか?えぇ加減にせえよ!」

「また、その話か?解っているんだが、家から出ないってのは暇すぎてな。」

「今の文架市が、以前と違うんは気付いてるやろ?」

「あぁ・・・気付いてる。最近は妖怪騒ぎが頻繁じゃからな。」

「必然的に、退治屋の動きも活性化する。

 解っとるんか?オマンかて、見方次第では討伐対象やで。

 現に、早速、ワシんとこの若いの(紅葉)に目を付けられおった。

 鬼専門の狗塚も、この地に来おったで。」

「だけど、ずっと隠れているってのは窮屈でなぁ~。」

「・・・悪い事は言わん。潮時や。隠れているのが嫌なら文架市から離れい。」

「う~~~~ん・・・それも面倒臭いなぁ~。」


 前置きが無いので、燕真には話の内容が全く解らない。「目の前のジジイはボケ老人だから、出歩くな」と言っているのだろうか?それにしては、会話の端端に退治屋のキーワードが出てくるのが説明できない。紅葉が会話を理解しているらしく、所々で「ウンウン」と相づちを打って何となく会話に参加をしている。

 燕真が、頭の中を「?」だらけにしていると、老人との一定の会話を終えた粉木が、燕真に老人の紹介をしてくれた。


「紹介が遅れたな、燕真・・・この老人は、ワシの友人で天野っちゅうねん」

「あぁ・・・それは、さっき聞いた。」

「ほれ、この写真見てみい。」

「・・・ん?」

「ワシの若い頃の写真や。そいで、隣に写っちょよるんが天野はんや。」

「へぇ・・・。」


 粉木は、自分のスマホに画像を表示させて、燕真に渡した。紅葉が席を移動して覗き込む。ガラケー時代に撮影した画像をスマホに移したのだろうか?かなり荒い画質の画像に、2人のオッサンが並んで写っていた。


「へぇ~!じいちゃん若い。何歳の時の写真?」

「20年くらい前や。」

「ジイさんが50才くらい頃か。」

「若い時のじぃちゃんて、マカデミアナッツみたぃ!

 結構イケメンだったんだねぇ~。」

「・・・オマエ(紅葉)の美的感覚では、マカデミアナッツって格好良いのか!?」

「イケてるワシの風貌など、今はどうでも良い。

 見て欲しいんは隣に映っちょる天野はんの風貌や。」

「・・・ん?」 「あれぇ?」

「どや?違和感あるやろ!」


 画像を実像を交互に見比べる燕真&紅葉。画像では天野より粉木の方が若く見えるが、今は粉木の方が老けて見える。・・・と言うか、天野の風貌は、今と全く変わらない。


「どういうことだ?」

「天野はんは、ワシがオッサンじゃった頃からジジイやった。

 ・・・これがどういうこっちゃか解るか?」

「今は、見た目以上に年寄りってか?」

「そや・・・とうに1000歳は越えちょる。」

「千!!?嘘を付くな!そんな人間がいるわけ無いだろ!」

「そっか、やっぱり、そのぉ爺ちゃんゎっ!」

「まさかっ!そういうことかっ!!」


 天野老人は妖怪に憑かれ、他者から精気を吸い上げる術で、若い姿を保っている!そう察した燕真は、警戒をして息を飲み、椅子を後方にずらして少しだけ間合いを空けた!


「そうや!・・・天野はんは、人間やあらへん。

 お嬢が感じた通り、鬼や。鬼が人間を装っておんねん。」

「・・・・・・・・・・・・・・え、鬼!?」

「どうも!本名は天邪鬼と申す。」

「急に立ち上がって、ど~したの、燕真?トイレ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 燕真の予想は外れていた。妖怪に憑かれた老人ではなく、妖怪その物だった。それならそれで、「もっと警戒しなきゃなんじゃね?」と思うのだが、「鬼のカミングアウト」を受けても、粉木&紅葉の対応が特に変わらないので、燕真も平静を装い、椅子に座り直して会話を続ける。


「な、なんで、鬼が知り合いに?」

「お氷と同じ・・・天野のおじぃちゃんも、悪くなぃヒトなんだね?」

「あぁ、そうや。人間社会に害せず、共存を楽しむ妖怪や。

 人畜無害なただの小鬼、戦闘力で考えれば、氷柱女の方が余程危険なくらいや。

 些か悪戯好きで、以前、蛙に羽を付けたり、カラスを赤く塗装して、

 『妖怪発見』なんて騒いで世間の注目を集めようとしたが、それも止めさせた。」

「適当なモンを並べて、インチキ博物館やってる粉木ジジイと変わんねーじゃん。」

「おもしろそうっ!燃えながら飛ぶ鳥のヨーカイとかゎ発明してないの?」

「燃える鳥はいないのう。」

「オマエ(紅葉)の発想が怖い。鳥を燃やしたら悪戯のレベルじゃ済まん。

 動物愛護団体からクレームが来るぞ。」

「下らん悪戯しかせえへんから見ぬフリをしとるが、皆が見逃すわけではあらへん!

 特に、狗塚はな。天野はん、オマンだって、それくらいは解るやろ?」

「それなら、家に籠もって、久々に新しい妖怪の発表でもするかな。

 ゴールデンコックローチ(金色のゴキブリ)・・・とかな。

 どうだ?紅葉ちゃんも手伝うか?」

「ぅへぇ~~~・・・ゴキちゃんゎ嫌だなぁ~~」

「目立つ事はするなと言うとるんや!」

「解った解った。相変わらず心配性じゃな。」


 粉木としては、どうにか古き知人の行動を制限したかったのだが、天野にのらりくらりと話題を回避され、結局は、何となく言いたい事だけを伝えて、「営業日なのにいつまでも店を閉めたままにはできない」と言う理由で、終了・解散となった。




-YOUKAIミュージアム-


 燕真達が職場に戻ると、紅葉目当ての客数人が店の前でスマホのゲームをしながら開店を待っていた。彼等は、貴重な収入源だ。最近では、退治屋の稼ぎより、茶店の売り上げの方が良い。今の利益なら、週休3日くらいにしても充分に生活できそうだ。正義の味方一派が、お節介で絡んでくる女子高生の魅力で生計を成り立ててというのは随分と嘆かわしいが、事実なんだから仕方がない。

 ちなみに、言うまでもなく稼ぎ頭は紅葉なのだが、17歳の子供に歩合の給料=高額を払うのも問題有りなので、彼女への支給額は、以前のバイト(マスドナルド)より若干高い(時給で100円アップ)程度に設定してある。紅葉自身、稼ぐことより、楽しむことが目的なので、時給に対する不満は特に無い。


「ぁ!ぃらっしゃぃませぇ~~~!」

「お~~~~~~~~~~!!」×数人

「コイツ等、他にすることはないのか?」


 慌ただしく店を開け、客の対応をして、20時の閉店までの時間が瞬く間に過ぎた。



-閉店後-


 燕真は戸締まりをして、夕方は(天野の前では)聞きにくかった疑問を粉木に訪ねてみた。

 先日は「狗塚には深入りするな」、そして先ほどは「狗塚は甘くない」的な言い様。嫌でも「狗塚」という青年が気になってしまう。


「なぁ、爺さん?

 随分と警戒しているみたいだけど、アイツ(狗塚)って危険人物なのか?

 そんなふうには見えなかったんだけどな。」

「へぇ~・・・燕真はそぅ思ったんだぁ?

 ァタシゎ、気難しそぅで、あんまり仲良くなりたくなぃ感じがしたょぉ。」

「危険人物ではあらへん。歴とした退治屋や。

 せやけど、先祖代々鬼とは宿敵の関係にあり、鬼には一切の容赦をせえへん。」

「つまり・・・天野の爺さんは、狗塚に見付かればヤバイと・・・?

 でも、今まで1000年以上、退治されずに済んだんだろ?」

「今まではな。せやけど、‘今まで’と‘今’は違うで。

 今の文架市には、妙な妖気が集中しておる。

 龍脈に集まる妖気も、これまでとは比較にならんほど濃い。

 妖怪の発生率が急激に上がっとるんは、オマンかて解るやろ。

 氷柱女のような人里離れた山奥とは違い、

 街中は、鬼が隠れ住むには刺激が多すぎるんや!」


 粉木には、天野を温和しくさせて守りたいと同時に、天野と狗塚が絡めば、その争いに燕真や紅葉が巻き込まれ、深入りをしてしまう不安もあった。ゆえに、天野には派手な活動は謹んで欲しかった。


「でもさ、狗塚ってのと鬼が宿敵なんてのは、平安時代くらいの話だろ?

 先祖代々、未だに宿敵なんて、考え方が、あまりにも古くないか?」

「考えが古くとも・・・狗塚からすれば、そう言うもんなんや。

 オマエかて、そない考えなんて理解できんやろ。

 せやから、奴には深入りするなと言うとるんや」


 燕真は「狗塚と鬼」について全部を納得できたわけではなかったが、「自分には理解のできない世界」と一定の理解をすることにした。


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