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12-2・結界と紅葉の異才~粉木の警告~タワシ顔の老人

「わっ!わっ!凄ぃょ、凄ぃ凄ぃ!!」


 先程まで燕真の隣で興味津々と銀塊を見つめていた紅葉が、いきなり奇声を発した。燕真が振り向くと、紅葉が掌に銀塊を乗せて嬉々として騒いでいる。


「ねぇねぇ、粉木じぃちゃん!溜まった溜まった!これで良ぃんでしょ!?」


 燕真の目には、紅葉が掌に銀塊を乗せているようにしか見えないが、粉木は驚いた表情をして、紅葉の手のひらにある銀塊を慌てて奪い取った。つい先程までは何も籠もっていなかった銀塊に、今はズシリと重たく感じるほどの念が籠もっている。


「は、話は終いや!!燕真では結界は操れん!解ったやろ!!」

「でも、ァタシなら霊力込めができるみたぃだょぉ!

 試しに、開放もできるかやってみょっかぁ?」

「試してみろよ!」

「アカン!もう終いや!!」

「ぇ?なんでぇ!?」

「試すくらい良いんじゃないのか?どうせ、紅葉が込めた念なんだろ!?」

「ええか、お嬢!オマンは結界術は使てはアカン!!」

「ぇ?なんでなんでぇ!?」

「知識が無いままで使えば、命の関わる事もあるんや!

 結界には、身を削るほどの生命力が必要なんやぞ!!」

「あぁ、そっか!でも、なら、ちゃ~んと、ぉ勉強するから!」

「アカン!!そない勉強をしとる暇があるなら、学校の勉強をせい!!

 この話は終いや!!」


 粉木がそれ以上は取り合わず、燕真と紅葉は納得ができないままで‘結界の勉強会’は終了をする。




-数時間後-


 紅葉が帰宅をしたあと、粉木は改めて燕真を呼び寄せて座らせ、しばらくの無言の後、重たい口を開いた。


「なぁ、燕真・・・お嬢からは目を離しちゃアカンで!」

「危険な目には合わせるなってんだろ!・・・いつだってそのつもりだよ。

 子守をさせられる俺としては、迷惑なんだけどさ。」

「部外者のはずのお嬢の手伝いを黙認している理由・・・

 そろそろ話さなアカンな。」

「・・・え?なんのことだ!?」

「ワシがお嬢を部外者に排除せんのは、お嬢から目を離してはマズイからや。」

「どういうことだ?言ってることが矛盾してないか?

 危険だから目を離すなってなら、部外者にしてしまえば一番安全なはず・・・。」

「えぇか、燕真!ワシが危険視しとるのは、お嬢の身の安全やない。お嬢の才能や。

 あれは危険すぎる。

 初めて会った時から、妖怪の居場所を適確に見抜いたり、素手で妖怪を祓ったり、

 かなり違和感は感じておったが、銀塊の件で確信に変わった。

 訓練もしとらん人間に、あない流暢に念なんて込められへん!

 狗塚の家系ですら無理や!」

「アイツには、狗塚以上の才能が有るってことなのか?」


 粉木は、深く頷き、目の前にある湯飲み茶碗を銀塊に見立てて握り締め、説明を続ける。


「湯飲みなら、眼で見て、どの程度の茶が入るかを把握して、急須に湯を注ぐ。

 湯飲みの1/3にも満たない湯しか準備せんとか、

 湯飲みの倍の湯を急須に注ぐバカはおらんやろ。」

「まぁ・・・そうだな。」

「鉱石の場合は、込められる霊気の量は、体積ではなく質や純度で変わる。

 触れて感覚的に内空量を把握し、

 その分の霊気をできるだけ無駄なく的確に銀塊に込める。

 退治屋が結界の訓練をする場合、

 最初にするんが、鉱石の内空を少ない誤差で把握する事や。

 それができんければ、1個の銀塊に必要な霊気量が解らず、

 霊力の無駄使いに成ってまう。」

「へぇ~・・いきなり霊力を込めるんじゃないんだな。」

「鉱石に力を込めるんに、10の霊力を放出したとして、

 一定の訓練を受けたワシは、7程度の霊力が銀塊に留め、

 3は無駄に垂れ流されてまう。

 他の退治屋でも5~8程度、

 狗塚の家系でも余程の訓練を積んでも9を留められるかどうかやな。

 訓練を受けておらんければ、1~3しか留められんのが一般的や。

 つまりは、鉱石に念を満タンにすんに、

 1.1倍から10倍の霊気が必要なんじゃ。」

「・・・・・・・・・・」

「せやけど、お嬢は、訓練も無しに、掴んだ直後に銀塊の内空を把握して、

 ほぼ無駄なく、10の霊気を銀塊に込めおった。・・・瞬時にな。」

「へぇ~・・・アイツ凄いじゃん!」

「・・・異常や!ワシの知る限り、あない芸当ができる者など覚えが無い」


「なら、紅葉はなんで?」

「才能としか言い様が無い・・・ただ、あきらかに異常や!」

「考え過ぎじゃないのか?」

「あの才能は、妖怪に気付かれれば、間違いなく目の仇にされてまう!

 才能に対して精神面が未熟すぎやから、いつ悪に染まるかも解らん!」

「紅葉が悪に?まさか、そんなことは」

「お嬢の行動理念を考えてみい!その理念を色にしたら、何色か考えてみい!

 行動理念は、人助けや慈善事業やない!

 お嬢のは興味や欲求や!

 純粋がゆえに、今はまだ透明色やけど、

 白色か黒色かで言うたら、黒に近い透明なんやで!!

 せやから、ワシは、茶店や退治屋手伝いの名目で、

 お嬢を監視下においておるんや!

 好き好んで、あない年端もいかん娘に、

 オマンのサポートをさせてるわけじゃないんやで!」

「・・・え?監視!?」

「そや!監視や!!

 退治屋に絡んどらんでも、遅かれ早かれ、妖怪には目を付けられる!

 せやから、目の届かん所には置けんのや!

 燕真、オマンに黙っておったんはスマンかったが、

 今後は、そのつもりでいるんやで!」

「紅葉を・・・監視・・・。」


 いつの間にか、紅葉と行動を共にする事を‘当たり前’と感じていた燕真にとって、粉木の真意はあまりにも意外だった。紅葉が悪に染まるなんて考えたこともなかったし、今でも、紅葉の限って、その様なことは無いと考えている。だが同時に、それは燕真の勝手な想像であり、何の確信も無いことを思い知らされていた。言われてみれば確かに、素直で可愛げがある反面、度々、独断や身勝手で衝動的な行動に振り回されている燕真は、彼女が‘純粋な白’ではないことを理解ができる。


「解った・・・今後は、少し気を付けるよ」


 燕真は、気持ちの上では全く納得していないが、粉木の注意喚起に対して、反論をできなかった。


 その後、しばらくは、優麗高の芸能発表会や、雪女の帰還などがあり、特に事件らしい事件は無いまま、平穏な日々が経過をした。「監視をしなければならない紅葉」と、どう接すれば良いのか迷った燕真だったが、紅葉の笑顔を見て、いつものように紅葉に振り回されているうちに、自然と、いつもと同じ対応をするようになっていた。




-数日後の夕方-


 下校中(バイトに向かう途中)の紅葉は、川沿いの大型ショッピングモール前の歩道上で自転車を止め、振り返って、すれ違った老人の背中を眺めた。ほんの僅かだが、老人からは一般人とは違う気配・・・妖気を感じる。悪意に満ちた物ではないが、先日怖い思いをした時と同種の、苦手意識を持つ「鬼の妖気」だ。


「ぉ爺ちゃん・・・憑かれている?」


 紅葉は、カバンからスマホを引っ張り出して、燕真に連絡を入れる。


「タワシみたいな顔をした鬼っぽぃお爺ちゃんがいたから、

 バィトに行くの、チョット遅れるねぇ。」

〈たわし?・・・おい、おい、紅葉!いい加減・・・・・・〉


 燕真は止めるが、紅葉は一方的に告げて通話を切り、いつもの興味半分&怖さ半分で老人を尾行する。



-YOUKAIミュージアム-


 閑散としている店内に、燕真の大声が響き渡る。


「おい、紅葉!

 いい加減、勝手なことばかりしてないで、俺がそっちに行くまで・・・・・・」


 燕真は、電話越しに「紅葉の無謀さ」を怒鳴りつけたが、言い終わる前に通話は切られてしまった。「タワシ顔」も気になるが、今は、それどころではない。ジャジャ馬娘は、相変わらず、こうと決めたら、他人の言うことなんて全く聞く気が無いらしい。しかも、言葉足らずで詳細を伝えない為、燕真からすれば「どんな鬼がいて」「何をされたのか?」と心配で仕方がない。慌てて電話をかけるが、尾行中の紅葉はマナーモードのまま通話を受けようとはせず、直ぐに留守録に変わってしまう。 その為、「捕まって電話に出られない?」と一層不安になる。ましてや、粉木から「危険な存在だから目を離すな」と言われたばかりだ。

 燕真が、居ても立ってもいられなくなって、店を飛び出そうとすると、その光景を見ていた粉木が、大きな溜息をつきながら止めた。


「おう、燕真!何処に行く気や!?・・・お嬢が何処にいんのか解っとるんか?」

「・・・・・・・・・・え!?・・・・・・・・・・あ!!・・・解らない。」

「ちっとは落ち着かんか、アホンダラ!センサーに妖怪反応は出ておらん!

 お嬢が何をほざいたかは知らんけど、

 それほど、慌てんでも大丈夫なんとちゃうか?」

「あぁ・・・うん」

「言うてみい、お嬢は何を言うておったんや?」


 粉木は、燕真から「紅葉の伝言」を聞いて、再び大きな溜息をついた。確かに、燕真が怒鳴り声を上げた気持ちは理解できる。喉元過ぎれば何とやらと言うべきか、先日、不用意に鬼の住処を刺激して命の危機に晒されたのに、行動があまりにも迂闊すぎる。紅葉には「紅葉の危険性」は伝えていないが、「自制をを促す為にも本人にキチンと説明するべきか?」と考えてしまう。


「鬼っぽいジジイ・・・か。」


 粉木には心当たりがある。恐らく、放っておいても、紅葉が危険に晒されることも、事件に発展する可能性も無いだろう。しかし、危機管理能力が低すぎる紅葉には、少しばかりお灸を据えねばならない。


「まぁ・・・お嬢を捕獲する為に、久しぶりに連絡を取ってみるかいのう。」


 粉木は、カウンター脇の固定電話の受話器を取って、ボタンをプッシュする。



-リバーサイド鎮守前-


 紅葉は、老人の後方5mくらいのところで、息を殺して尾行を続けている。3分が経過して、ふと背後を振り返る老人。紅葉は、慌てて、近くの電柱に身を隠した。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 10秒ほど間を置いて、「恐らく、老人は、また歩き出しているだろう」と予想をして、コッソリと電柱の陰から顔を出して、老人の動向を探る。老人は、ジ~っと紅葉の方を見つめている。バッチリと眼が合ってしまった。


(やばい、見付かる!)


 咄嗟にカバンで顔を隠す紅葉。一方の老人は、ニコリと微笑みながら歩み寄ってきた。


「なぁ、娘さん?わしに何か用か?

 オナゴから後追いをされるのは、嫌な気分ではないが、

 できる事なら、若くて可愛らしい娘とは、並んで歩きたいのう。」

「・・・ぇ!?見付かっちゃった!?」


 カバンで顔を隠しながら、眼を大きくして驚く紅葉。・・・てか、見付かるもクソも無い。尾行があまりにも下手くそすぎる。「素人だから見付かった」って次元ではない。「隠れる気があるのか?」って次元だ。老人は、紅葉が尾行を開始した直後から、背後の視線に気付いていた。つ~か、「鬼っぽぃお爺ちゃん」て電話の内容は、モロに聞こえていた。


ピピピッ!ピピピッ!

 老人のポケットから着信音が鳴り、老人は立ち止まって携帯電話を取り出して通話に応じる。


〈ワシや、粉木や!〉

「おぉ!粉木か!?どうしたんじゃ?」

〈今、何処におるんや?

 ワシの言いつけ守らんと、またフラフラとしとるんか!?〉

「今は、鎮守の森公園の前にいる。それがどうした?」

〈ワシの見当外れなら気にせんでもらいたいんじゃが、

 オマンの近くに、二つ結いの娘はおるか?〉

「ん?二つ結いの娘?おぉ、テレビでも充分通用しそうな美少女が目の前におるぞ。

 わしに一目惚れしたみたいで、後ろから着いてきてる。

 今から、でーとに誘うつもりだ。」

〈アホ!その娘は、ワシんとこで働いとる娘や!

 つ~か、デートて、おのれの見た目を自覚せいや!〉

「なに?おまえの連れなのか?そりゃ、残念。流石に手垢をつけられんなぁ~。

 しかしまぁ、おまえも随分と趣味が変わったな。

 以前はもっと落ち着きのあるオナゴを・・・。」

〈余計なお世話や!

 そっちに行くさかい、目の前の娘と一緒に待っとれや!〉


 通話を終えた老人が、優しい眼で微笑んで、警戒中の紅葉を見つめる。

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