12-1・ガルダ奇襲の回想~狗塚は血統書付き
-数日前(羽里野山の戦い)-
逃走をする温羅鬼!ザムシードは温羅鬼の背中目掛けて突進!空高く飛び上がり、右足を真っ直ぐに突き出した!
「うおぉっ!!! エクソシズムキィィーーーッック!!!」
朱く発光したザムシードの右足が温羅鬼の背中を貫通!温羅鬼は俯せに倒れて爆発四散!
一方でガルダが、鳥銃・迦楼羅焔の照準を星熊童子に向ける!
「ギガショットッ!!」
鳥銃・迦楼羅焔の中央にある嘴が開き、白く輝いた空白メダルが発射され、星熊童子の腹を貫通!星熊童子は断末魔の悲鳴を上げ、黒い炎を上げて爆発四散をした!
「早く帰って、ジジイに御報告しなきゃな。」
「ぅんっ!そ~だね!」
隠れて戦いを見守っていた紅葉のところに燕真が合流した時、ガルダの姿は無かった。
-山頂の神社-
ガルダの変身者=インテリ系イケメンの姿は、信者の宝物殿にあった。
「鬼がこの地を占拠したからには‘ある’と思ったのだが、考えすぎだったか?」
彼は‘何か’を捜しているようだが、目的の‘それ’は此処には無いようだ。
-羽里野山の麓-
同時刻、山頂を見つめる者(人間)がいた。長髪を後ろで束ね、体格が良い男だ。
「星熊童子・・・功を焦りすぎたか。
結界封じた狗塚の倅と、氷柱女と雪女と諍いを仲裁した文架の退治屋・・・
奴等を侮れば、星熊童子の二の舞と成ろうな。
しばらくは、迂闊な動きは控えた方が良さそうだ。」
***数ヶ月前・回想***************************
-京都府・大江山-
幾人もの鬼が集まっている。そして、集団より1段高い岩の上に、長髪の男によく似た青鬼や、他に2人の鬼がいる。
青鬼の名は茨城童子、他の2人は、羽里野山で倒された星熊童子、巨漢の熊童子・・・鬼族の幹部達だ。
「皆の者!ようやく、御館様の所在が判明した!!
誇り高き鬼族の力を集結させて奪還するぞ!!」
茨城童子が号令を掛けると、群がった鬼達は一斉に咆吼に似た歓声を上げる!
「おぉぉうっっ!!!」×たくさん
その直後!山の各所に仕掛けられた呪符が輝き、それぞれの光が繋がって、大江山中腹から山頂を包む巨大な光の柱が立ち上がった!そして、呪符の光に反応をして、山のあちこちにバラ巻かれていた銀塊や石つぶてが、白い光に包まれながら空に跳び上がり、鬼達の集団を目掛けて弾丸のように一斉に降り注ぐ!
「ガォォォォン・・・これは!」
「妖怪封じの結界!?いったい誰が!?」
「いかん!身を守れ!!」
不意突かれた鬼達は、各々で防御をしたり障害物に身を隠すが、何体かは白い光の弾にハチの巣にされて崩れ落ちる!幹部達は妖気で防壁を張ったが、対応が後手に廻ってしまい、何発かの銀塊に防壁を貫通されてダメージを負う!
「掛かったな・・・鬼共!!
オマエ等の動きは事前に察知をしていた!
必ず、酒呑童子の終焉となったこの地に集結すると予想して、
結界を仕掛けておいたのだ!!」
白光の雨が止んだ直後、不敵な笑みを浮かべ、鬼達の中心に歩みをを進める者がいる。羽里野山で燕真達を救ったインテリ系イケメンだ!
「おまえは!!・・狗塚の!!」
「そうか、今の攻撃は貴様が!!」
「この結界内では、オマエ等はロクに力を発揮する事ができまい!
一網打尽にしてやる!!」
インテリ系イケメンは、左腕の裾をまくり、左手首に巻いた腕時計型のアイテムを正面に翳して、『天』と書かれたメダルを抜き取って、五芒星を模したバックルに嵌めこんだ!
「・・・・幻装っ!!」 《GARUDA!!》
男の体が光に包まれ、翼を模したマスク、翼を模した肩当て、そして翼のある黄色い異形=妖幻ファイターガルダに変身完了!
鳥の顔を模したハンドガン=鳥銃・迦楼羅焔を連射しながら、縦横無尽に暴れ回るガルダ!小鬼が倒されていく!不意打ちで傷を負った茨城童子や星熊童子は、構えながら数歩後退をして、巨漢の熊童子が同胞を庇って立ち塞がった!
「兄者達は、この地を離れろ!!」
「熊童子!!」
「いくら、鬼封じの結界とは言え、兄者達ならば抜けられるはずだ!!」
「・・・させるか!!」
ガルダが最優先で狙うのは最高幹部の茨城童子!熊童子を跳び越え、銃口を茨城童子に向ける!熊童子は、振り返って両腕を振り上げ、ガルダ目掛けて振り下ろした!ガルダは素早く身を退いて回避し、銃口を熊童子に向けてトリガーを引く!
「邪魔だ!」
その間に、他の幹部クラスの鬼達は闇の霧化をして飛び上がり、その場から離れていった!ガルダは、空に逃走した鬼達を見て舌打ちをしたあと、邪魔をした熊童子を睨み付ける!
「熊童子!!オマエだけでも潰しておく!!」
両腕を振り上げながら突進をしてくる熊童子!鳥銃・迦楼羅焔の銃口を熊童子に向けるガルダ!
数分後、熊童子は、ガルダが放ったギガショットで風穴を空けられ、爆発四散をするのだった!
***回想終わり*****************************
長髪男は片膝を付き、掌を地面に充てて呪文を唱える。一瞬だけ、男の姿が青い皮膚で角のある姿に変わり、掌から地面に禍々しい闇が灯された。
「他の妖怪を呼び寄せる呪・・・
もうしばらく、退治屋共の警戒は‘他’に向けてもらう!
・・・お館様の復活まで!!」
長髪男は立ち上がり、もう一度羽里野山の山頂を見つめたあと、踵を返して立ち去っていく。
-羽里野山の戦い夕方-
燕真達は報告の為にYOUKAIミュージアムに戻っていた。一連の報告を終えた燕真は、疑問点を粉木にぶつける。その質問は、同席をしている紅葉も知りたかった。
「なぁ、粉木のじいさん・・・ガルダって、一体?」
「燕真のザムシードと似てたけど、色が違って鳥みたいなヤツだったよ。」
「狗塚の使う天狗の妖幻ファイターや。」
「アイツ、狗塚ってのか。」
「あぁ、狗塚雅仁・・・
千年以上も前から、朝廷の狗として成り立った先祖代々の退治屋の家系や!」
「・・・イヌ?」 「わんちゃん?」
燕真や粉木のように組織には所属せず、基地となる支部を持たない、フリーの妖幻ファイター。それが狗塚家。
陰陽師だった狗塚家は、約900年前に天狗を倒して封印した。その力を現代の退治屋の技術で武装化したのが、妖幻ファイターガルダ。
「へぇ~・・・そんなのがいるのか?」
「狗言うても、現代のような‘飼い犬’とバカにした表現ではあらへん。
偉いさんの守り手っちゅうこっちゃ。
ワシ等のような勤め人の雑種退治屋とは違う、血統書付きって奴やで。」
「俺等は雑種かよ!」
「今でこそ、狗塚の陰陽と退治屋のシステムを持ち寄って、
共有の妖幻システムを使っておるが、考え方は退治屋とは全くの別もんや。
退治屋で飯を食っていくつもりなら、あまり深入りをせん方がえぇで。」
「『深入り』たって・・・アイツを呼んだのはジイさんなんだろ?」
「お友達ぢゃないの?」
「別に特別に親しゅうしてるワケちゃう。
狗塚家は、鬼退治の専門やから呼んだんや。」
「オニタイジ?・・・桃太郎さんみたいなの?」
「まぁ、そういうこっちゃ。」
「ジイさん、今回の事件に鬼が絡んでいるって知っていたのか?」
「お氷を問答無用で縄張りから追い出すような奴やからな。
可能性くらいは考えておった。
そやさかい、厄介思たら直ぐに引き替えせと釘を刺したのに、
忠告を無視して、アッサリと巻き込まれやがって・・・。
ワシが狗塚を呼んでおれへんかったら、確実に死んどったぞ。」
「・・・それを言われると、ぐうの音も出ない。」
ガルダについては、もう少し興味があったが、粉木からの、それ以上の説明はなかった。しかし、「狗塚」には深入りしないとしても、燕真には、今日の戦いで知り、興味を持ったことが他にもある。
「アイツ、相殺結界ってのを使ってたな。
結界って、妖怪だけじゃなくて人間にも使えたのか?」
「奴は血統書付きやからな。結界を使えたとしても何も驚くことはない。」
「結界について、もう少し教えてくれよ。
今後も、鬼や氷柱女みたく結界を張る妖怪と戦うかもしれないからな。」
結界
一定の技術を習得した人間や、一定の言語や知能を持つ妖怪が使用する、術者に有利に働く空間。
広域結界
広範囲に薄く張り巡らせる結界。範囲は、術者の力量による。
発動者が縄張りを目的として使用する結界で、部外者の進入は比較的容易。
温羅が山全域に張った結界や、絡新婦が優麗高に張った結界が該当する。
集中結界
密集した範囲に強く張り巡らせる結界。範囲と部外者への強制力は、術者の力量次第。
部外者の進入妨害、閉じ込めた者の脱出妨害、内部での能力低下などが生じる。
星熊童子のように、戦闘中に結界を張って戦いを有利に進める等の戦略面に有効だが、その反面、広域結界に比べて術者への負担も大きい。
結界破壊
外部から集中結界を破壊すること。結界以上の妖力をぶつけて押し潰すか、結界の起点を破壊して結界全体のバランスを崩す。
粉木は、氷柱女が施した起点を突いて結界を破った。強い妖力を用いて内部に別の大きな結界を張り、既存結界を妨害することも可能。要は力業。
結界相殺
広域結界、または、集中結界の内部に別の結界を張って、一部を清浄化する。
結界破壊ほどの妖力は必要としないが、既存結界の種類を把握して状況に合わせた呪文の詠唱をする為、一定の知識や技術が必要。
「なるほどね・・・
それでさ、その結界術ってのは、狗塚って奴にしか使えない技術なのか?」
「いや、そない事はあれへん。ワシ等退治屋も時と場合で使っておるで。
ただし、人間が結界術を用いる場合は、
逐次、膨大な妖力を保有してるわけちゃうさかい、手順が必要やねん。
妖幻ファイターに変身をして妖力を利用するか、
日常的にアイテム(銀塊や護符)に霊力を蓄えとき、
使用時に妖力に変換をして開放する。
宝石・金塊・銀塊は霊力を備蓄しやすう、特に金塊は備蓄に適してるけど、
そんな高価な物を、幾つも所有することはでけへん。
一般的には銀塊が使用されてる。」
「そっか、血統証が無くても使えるんだな。
だったら俺にも教えてくれ。・・・てか、なんで教えてくれないんだよ?
狗塚ってのに『結界相殺を知らないのか?』ってバカにされたんだぞ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「なぁ、粉木のじいさん!」
粉木は溜息をついて立ち上がり、外に出て直系5㎝くらいの石を拾い、室内に戻って燕真に渡した。
「・・・石?」
「オマンも、石には念が残るって話は聞いた事あるやろ?
金や銀ほどではないが、石にも霊力は溜められる。
結界の事を教えて欲しいなら、その石に霊力を込めてみい。」
「・・・・・・・・・・え!?」
「オマンにできるなら・・・な!」
「・・・試してみる。」
燕真は石を掌に乗せて、しばらく見つめてから握り締めて瞑想をしてみる。
「なにやってんの燕真?寝るの?」
「チゲーよ!石に念を・・・。」
「そりゃ、力を込めて石を握って、目を閉じとるだけや!
念なんてなんも籠もっておらん!
霊力の‘れ’の字も知らんオマンに、霊力を溜めるなんてできるワケがないんや!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ~~~」
次に粉木は、金庫の直系2㎝くらいの銀塊を一粒取り出して、呪文が書かれた紙と一緒に燕真に渡した。
「呪文を詠唱しながら、銀塊にオマンに内在する霊力を一押しだけ送り込んで、
銀塊の中に溜まった霊力を開放してみいや!」
「・・・・あぁ・・・・・・・うん・・・・」
燕真は、掌にある銀塊を見つめてから、紙に書かれた呪文を読み上げてみる・・・が、ぶっちゃけ、燕真自身が「成功する」とは思っていない。
「話にならんわ!」
「あのさ、燕真・・・その銀の石、念なんてカラッポだよ。」
「えっ?マジで??騙したのか、粉木ジジイ!」
「ワシは、ハナっから、オマンが念の開放なんぞできるとは考えておらん!
それどころか、触れてみて念が籠もっとるか籠もっとらんかも解らん奴に、
結界の何を教えれば良いんじゃ!?」
「・・・・・・・・」
「せやから先日言うたやろ!
オマンの場合は、妖幻ファイターになって、
外側から力業で結界を破壊する以外には対処法なんてあらへん!
なんで、霊感の才能ゼロのオマンが退治屋になれたのか、ワシには解らへん!
せやけど、霊感ゼロゆえに、干渉を一切受けずに、
相手の結界から脱出できるんは、オマンの強みや!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
霊感ゼロをバカにされるのは毎度のことだが、さすがに、結界の便利さを知った直後に、「才能がゼロなので、結界の対処法が力業しか無い」と言うのはショックだ。 燕真は大きな溜息をつきながら、銀塊をテーブルの上に置いて、ガシガシと髪の毛を掻き、スッカリ覚めてしまったお茶をすする。