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番外③-4・火車出現~響希の願い~温室育ち~バイク返却

-渡帝辺高の近くのコンビニ-


 店内で紅葉と響希が立ち読みをしていると、幾つもの轟音が鳴り響いて数台のバイクが駐車場内に入ってきた。「耳障り」と感じながら駐車場を眺めた響希が、数台のうちの1台に眼を止める。


「あのバイクっ!」


 バイクのことは詳しくないが、「父のバイクが珍しいバイク」ってことは粉木に教えてもらった。


「もしかして?」


 響希は店から飛び出し、バイク集団に駆け寄って燃料タンクを確認した後、頭に血を上らせて搭乗者を睨み付けた。


「そのバイク、盗んだヤツですよね!?」

「・・・はぁ?何言ってんの?そんなわけ無いじゃん。」

「嘘を付いてもわかります!」

「あれ、オマエ、優高の文化祭で出会ったカワイコちゃんじゃん。」

「えっ!?」

「もしかして、俺が忘れられなくて会いに来たのか?」


 ヘルメットを脱いだ搭乗者は、優麗祭で響希をナンパしてきた男だった。


「ち、違います!お父さんのバイクを取り返しに来たんです!」

「俺のバイクだよ!」


 ナンバープレートは偽装済みなので、男は「バレるわけがない」と考えている。だが、響希の確証は揺るがない。


「絶対にお父さんのバイクです!

 その証拠に、そこ(タンク)に私が貼ったシールを剥がした跡があります!」


 響希が指をさした場所には、シールを適当に剥がした残りが付着していた。それは、幼い時に響希が「大好きなパパの為」と思って貼ったシール。今にして考えれば、ビンテージバイクには不似合いなワンポイントだが、父は響希の想いを汲んで、そのままにしていた。それを剥がされたのだから、響希は激怒をしていた。


「警察に言いますよ!」

「・・・チィ。」


 搭乗者は戸惑うが、仲間の窮地を察した周りの連中が黙っていなかった。バイクから降りた数人が、響希を囲む。


「俺のソウルメイトにイチャモンを付けるんじゃねー!」

「うへへっ!通報したきゃしろよ。」

「ただし、俺達全員と肉体関係を持ったお友達になって、

 ちゃんと記念撮影もして、それを流出されても構わないならな!」

「にぃっひっひぃ!

 こんな可愛い子が、バイクのオマケで付いてくるなんてラッキーだぜ!」


 響希の腕を掴んで、ひとけの無い方に連れていこうとする渡高生達。紅葉が突っ込んできて、響希の腕を掴んでいる男の背中に跳び蹴りを叩き込んだ!


「ぐわぁぁっっ!!!」


 前のめりに倒れる渡高生。紅葉が割り込んで響希を庇う。


「源川先輩っ!」

「オマエ等、最低!!」


 蹴飛ばされた男が立ち上がる。紅葉を睨み付ける渡高生達。


「おうおう、こっちのツインテールも可愛いじゃん。」

「萌えるぜ!燃えるぜ!」

「オマケ2つ・・・儲けたな。」

「マヂで最低っ!」

「最低で上等。この世は汚ねえ事の方が多いんだよ、温室育ちのお嬢ちゃん。」

「・・・温室?」

「親の敷いたレールで安穏としてオマエ等と違って、

 俺達は、運に恵まれず、劣悪な環境の中で、

 それでも理不尽に抗って苦労をしながら生きているんだよ!

 温室育ちは解らねーだろうけどさ!」

「だから、不自由していない金持ちの道楽を、

 苦労人の俺達が頂戴するくらい、どうだって良いだろう!」

「・・・んんんっ!」


 渡高生達は、どんな理不尽の中で生きているのだろうか?乱暴者達に搾取をされる気は無いが、紅葉と響希は「温室育ち」の自覚があるので戸惑ってしまう。


「解ってくれたか?だったら、可哀想な俺達を慰めてくれよ。」

「俺の彼女になってくれたら、親父さんのバイクに乗せてやるからさ。」


 紅葉と響希に掴み掛かる渡高生達。燕真に助けを求めたいが、まだ戻って来ない。


「寄るな、こんにゃろう!」

「助けてっ!!きゃぁぁっっっ!!」

「ヒビキちゃんがヤバいんだぞ!何とかしろ、ユーレイバイクっ!!」


 紅葉の叫び声と響希の悲鳴に反応して、ホンダ・ドリームCB750から闇が上がる!闇は炎に変わってドリームCB750から離れ、炎の車輪に変化!飛び回って、渡高生達を弾き飛ばした!


〈コココココォ――――――――ンッ!!!!〉

「ぐわぁぁっっ!!」×たくさん

〈汚イ手デ 響希ニ 触レルナ・・・クズ共ガ。〉

「んぇっ?」 「なにっ!?」


 炎の車輪は、紅葉と響希を庇うようにして渡高生との間に入り、キツネ頭の人型=妖怪・火車に変化!甲高い鳴き声で渡高生達を威嚇しながら、両手の鋭い爪を振るって渡高生達を殴り飛ばす!


「ひぃぃっっ!!!」 「化け物だぁぁっっっ!!!」


 方々に逃げ散らかす渡高生達!火車は、車輪形態になって体当たりで弾き飛ばし、人型になって響希の腕を掴んだ男を踏み付け、バイクを盗んだ者の胸ぐらを掴んで引っ張り上げた!


「お、おい!助けてくれよ!ソウルメイトなんだろ!?」

「知らねーよ、バカ!」


 他の連中は、火車に掴まった2人を見捨て、バイクを放置して揃って全速力で逃げていった。


「う~~~ん・・・なかなか、ややこしい状況になってるな。」

「嬢ちゃん達の声で妖怪が覚醒しおった。」


 逃走する渡高生が、燕真と粉木の乗るバイクの脇を通過していく。紅葉と響希が危機に陥った時点で割って入ることはできたのだが、様子がおかしいので、粉木の指示で様子を見ていたのだ。


「バカ共(掴まった渡高生2人)が成敗されるまで眺めていても良いか?」

「ダメに決まっとるやろう!」

「だけどさ、爺さん。

 あんな軽薄なヤツらの前でザムシードが姿を見せるのはマズいんじゃねーか?

 どう言いふらされるか、解ったもんじゃねーぞ。」

「しゃーないのう。連中が気絶をするまでなら、目を瞑ってやる。

 ただし、命にかかわる場合は、助けるんやで!」

「了解!」


 いくらアホ共でも、見殺しにしちゃマズいことくらいは、燕真も理解をしている。いつでも助けに行ける準備をして、掴まった2人がオシオキをされる様子を眺める。


〈コココココォ――――――――ンッ!!!!〉


 火車が足に力を込めると、踏まれていた渡高生が恐怖と苦悶の声を上げて意識を失う。残った盗難犯は恐怖の絶頂だ。地面に叩き付けられ、マウントを取った火車が口の中に炎を溜める。


「ひぃぃっ!お助けっっ!!」

〈先程ノ言葉通リ 理不尽トヤラ二 抗ッテミロ!〉


 眺めていた燕真は、「流石に焼かれちゃマズい」と、準備していた『閻』メダルを、和船ベルトのバックルに装填を・・・。


「それ以上はダメェェ!!」

〈コココ―・・・ンッ!?〉


 庇われていた響希が火車にしがみついた。火車の攻撃的意志が揺らぐ。


「オマエ、お父さんのバイクなんでしょ?」

〈ワカルノカ?〉

「私が小っちゃい時から一緒にいるんだから雰囲気でわかるよ!

 ソイツを殺しちゃダメ!!」

〈ヒビキヲ 傷付ケヨウト シタノダゾ〉

「助けてもらったから大丈夫!

 私の所為で、お父さんの大切にしているバイクが、

 人殺バイクになるのはイヤなの!」

〈・・・ソウカ〉


 火車は、吐き出そうとしていた炎を止め、盗難犯の首を絞めて気絶をさせると、それ以上は何もせず、響希の説得を受け入れて盗難犯から手を離した。


〈我ハ ヒビキガ 無事デ 我ガ 田村家に帰レルナラ ソレデ良イ〉


 火車は、実体化を解いて闇の霧に戻り、ホンダ・ドリームCB750FOURに吸い込まれて戻っていった。


「終わったようやな。」

「え?これで終わり?俺の出番は?」

「無しや。あの娘(響希)が沈めよったからな。」

「妖怪討伐の報酬は?」

「倒して封印してないんやから、もちろん無しや。」

「マジかよ?俺、今回、アシ以外、何もやってないじゃん。」

「阿呆共が成敗されるまで悠長に待ってるから、こんなマヌケなオチになるんや。」


 顛末を見届けた燕真が、紅葉&響希の所に寄っていく。


「来るのが遅いよ、燕真!結構ヤバかったんだからね!」

「スマンスマン。

 でも、コンビニか車の中にいれば安全なのに、

 勝手に動き回ったオマエ等にも問題はあるぞ!」

「それは、カエルちゃんが勝手に・・・」

「私はカエルじゃありません!」

「・・・かえる?」

「ヒビキちゃんのことだよ。可愛くてカエルに似てるよね?ゲコゲコ。」

「似てません!」 「似てる・・・のか?」


 紅葉の価値観では、美少女とカエルは同レベルらしい。


「火車を覚醒させたんは、持ち主の娘の声か・・・或いは・・・?」


 粉木は紅葉を眺めていた。妖怪が自分自身や依り代の意思ではなく、他者の意思で目覚めたのを初めて見た。妖怪を強制的に起こせる存在など、粉木の知識では、鬼くらいしか思い付かない。




-YOUKAIミュージアム-


「むぅ~~~~~~~~」


 事件は解決したのに紅葉の表情は浮かない。客のいる時間帯は、愛嬌で済む程度のミスをしつつ何とか持ち堪えたが、客がいなくなると、カウンター席に座って考え込んでいる。


「どうした、紅葉?らしくねーなー。」


 燕真は、トレイで紅葉の頭を軽く叩いてから話しかけた。


「ヒビキのパパゎドーラクで高いバイク持ってるの?」

「まぁ・・・否定はしないけど、頑張って仕事して稼いで、

 家族に迷惑を掛けない余力で道楽するなら、別に良いんじゃねーの?

 俺もそれくらい稼ぎたいよ。」


 田村姉妹が親に買い与えられたバイクを乗り回してイキっていたらアホだと思うが、自分で稼いだ金の余力を趣味に使うのは力の象徴。恥ずべきことなど何も無い。


「ァタシって、温室育ちなのかな~?」

「はぁ?」


温室育ち:大事にされて育ち、世間の苦労を知らず、鍛えられていないこと。


「バイク盗んだ奴等に言われちゃったの。

 ァタシゎ温室育ちで、アイツ等ゎ理不尽に抗う逞しいヤツなんだってさ。」

「アイツ等が逞しい?どこが?オマエが悩んでる内容が良く解らん。」


 努力をしないからチャンスを掴めず、サボり続けて劣悪な環境に落ちたのは自業自得。理不尽に抗う云々は、身勝手を聞いてもらえないだけでは?


「でもまぁ・・・確かに紅葉は温室育ちだな。」

「・・・そっか。

 あんなダメな奴等にバカにされないように、もっと頑張らなきゃなんだね。」


 燕真は、紅葉を見つめて言葉を探したあと、もう一度トレイで紅葉の頭を軽く叩いた。


「だけどな、紅葉。俺も温室育ちだぞ。」

「んぇ?そ~なの?」


 親の扶養で生活して、親のおかげで学校行けるなら、皆、温室育ちだろう。問題は、その事実に気付いて感謝できているかどうか。


「もちろん、渡帝辺の奴等も温室育ちだ。」

「アイツ等も温室?でも、アイツ等、苦労してるって・・・。」


 自分達も温室にいるのに、義務から逃げて遊び呆けて、他人を「温室育ち」と見下すなんて、どれほど世間知らずなんだろうか?他人事ながら「そんな甘えた認識で、社会に出てやっていけるのか?」と憐れに思える。


「アイツ等が主張する苦労なんて、他の人たちは苦労や努力とは感じず、

 当たり前に受け入れてるんだろうな。

 要は、アイツ等はソレすらできないってことだろ。」


 彼等が、自分で生活費や学費を稼いでる逞しい連中なら、退廃的ではなく、もっと物事を大事にして真剣に生きるだろう。だが、彼等は、親に守られていることに感謝をせず、場合によっては親を泣かせている。

 立派なのは虚栄心だけ。義務と向き合わないから世間を知らずで、真っ向勝負をできずに適当な方向に逃げているから根性も鍛えられていない。


「オマエなんかより、アイツ等の方が、余程、温室育ちじゃねーか?」

「そーなのかな?」

「粉木ジジイの世代が温室育ちかどうかは解んねーけど、

 今の日本じゃ、大半が温室育ちだよ。

 キチンと親に感謝して温室から羽ばたくか、

 いつまでも温室にいて親に迷惑をかけ続けるか?

 大切なのは、その辺なんじゃねーのかな?」

「・・・燕真ゎ、アイツ等よりァタシの方が頑張ってるって思ってくれる?」

「比較になんねーよ。

 まぁ、俺自身、まだ人生経験が少なくて、偉そうなことは言えないけど・・・」

「そっか。・・・んふふふふっ。燕真ってイイヤツだね。」


 ニンマリと満足げに微笑む紅葉。悩みが解消されて機嫌が直ったらしい。



 火車事件のあと、粉木の通報によって警察官達が駆け付け、妖怪に成敗された渡高生2人は保護をされた。駐車場に放置されたバイクは、高校生では買えないような高額のバイクばかり。調べたら半分以上が盗品だったので押収される。

 保護をされた2人は、盗難車の追及を受け、見捨てた仲間達のことを洗いざらい暴露して、メンバーの数人は無免許だったことが発覚。チームは、補導者だらけ&人間不信で崩壊をした。

 ちなみに、「狐顔の怪物に襲われた件」については、好き勝手をやって信頼を得ていない連中が主張しても相手にされず、「変な薬でもやって幻覚を見たのでは?」で処理をされる。

 この大失敗を期に、甘すぎる考えを捨てて、少しくらい現実を見られるように立ち直って欲しい。




-数日後・田村家-


 ガレージに戻ってきたホンダ・ドリームCB750FOURの、以前と同じ場所に、響希が新しいシールを貼る。それを見ていた姉の環奈が文句を言った。


「もう、響希!幼稚園児じゃないんだよ。

 バイクの雰囲気と合わないから、変なシール貼るのやめなよ。」

「いいのいいの!」


 ビンテージバイクに不似合いなシールってことは、響希も承知している。だけど、バイクに詳しくない響希が、シールの跡のおかげで父のバイクに気付けた。不似合いなシールは、バイクと自分をもう一度結びつけてくれた絆なのだ。


「ありがとうね。ドリームちゃん。」


 響希は、礼を言い、火車を思い浮かべながら、手の平でバイクを撫でる。盗難バイクが「持ち主の元へ戻る」と言う思いを叶えたので、バイクの念も、それに憑いた火車も、今は温和しく眠っているのだが、響希の耳には「コーン」と懐くような狐の声が聞こえたような気がした。

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