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2-1・押し掛けてきた少女

-------妖怪憑依の特性①-------------------


・妖怪は、強くて邪悪な念を媒体とし、恨みや憎しみなどの強い邪念を持つ人間、もしくは、強い念の残った物に寄りやすい。

・妖力が弱い状態では長時間の実体化はできず、憑いた物(者)の中に潜んでいる。

・物に憑く場合は、その‘物’を持った人間の意識を支配する場合と、子を産んで付近にいる人間に憑かせて支配し、子に養分を集めさせ、戻ってきた子を食う事で力を蓄える場合がある。


・妖怪の力を物に憑かせ、その‘物’をツールとして支配、または、利用する者を‘妖幻ファイター’と称する。

-陽快町・YOUKAIミュージアム-


 燕真がソファーに腰を下ろし、少し離れた事務机で粉木がパソコンのキーボードを叩きながら‘今回の出動の精算’処理を行っている。昨夜は目も当てられないお駄賃しか貰えなかったが、今回はそれなりの手当が期待できるはず。燕真は、事務処理を続ける粉木を眺めながら、期待に胸を膨らませていた。


「燕真・・・アカンわ。まだ、終わっとらへん。」


 バツの悪そうな顔をした粉木が、先程妖怪を封印したばかりのメダルをチラつかせながら燕真を見詰める。


「このメダル、本体を封印した時の文字が浮かんどらん。」

「・・・え!?なんで!?」

「本体ではなく、子妖を封印したっちゅうこっちゃ。」

「え!?でも確かに俺は本体を!」

「オマン、本体を仕留める前に、子妖を斬ったやんか。

 絡新婦じょろうぐものヤツ、オマンに斬られる直前に子妖を生んだやろ。

 アレは、子妖を囮にして封印から逃げる為だったんやな。」

「・・・・そっか」


「気にすんなや、燕真。

 今回はワシも他に気ぃ取られてしもて、メダルの確認を怠ってしもた。

 まだ、行動内訳を打ち込んだばかりで、精算の計算はできてへんけど、

 今回はそれなりの報酬になるんちゃうやろか?」

「そうかな?」

「マイナス査定は、価値の無い封印後メダルと、

 女子生徒を助ける為に窓ガラスを突き破った分。

 それと、生徒数人をモップでしばいて歯折ったり鼻の骨を折った分。」

「え!!!?・・・モップ!?それって俺じゃなくて、あの小娘が勝手に」

「アカ~ン・・・オマンの監督不行届や!」

「え~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」

「まぁ、それでも、救出規模がデカかっただけに、プラス査定の方が多いはずや。」

「・・・なら良いんだけど。」


ピロリロリィ~~ン♪ピロリロリィ~~ン♪

 博物館の出入り口を通行する際に反応するチャイム音が鳴る。見学客が来たようだ。こんな平日の昼間に誰だろう?休日に、看板に騙された市外の客はいるが、YOUKAIミュージアムがただの趣味の陳列と知れ渡っている市内に在住の客は滅多に訪れない。時計の針は14:00を示している。近所の小学生達が妖怪関連の玩具を目当てに集まる時間には早すぎる。


「誰だ、こんな時間に?」

「燕真、行って入館料もろて来い」


 入館料は大人300円・子供150円。決して高くはないが、「この展示内容で300円はボッタクリ」である。粉木が「妖怪が憑いている」と言い張っている石や刀、粉木が作った子泣き爺のオブジェ等々インチキ臭い物ばかりが並んでいる。粉木館長が不在の時は、見学に来た客に「ガッカリするから入らない方が良い」と追い返すことさえあるのだ。


「いらっしゃいませ、見学ですか?何名様でしょう?」


 燕真は「客が気の毒」と思いつつ、精一杯の笑顔を作って受け付けカウンターに入って客を見た。

 ブレザーを着て、前髪がピョンと立ったツインテールの可愛らしい美少女が、こちらをジッと見詰めている。


「・・・・・・ぁ!やっぱりココにいた、60点!」

「ゲッ・・・・モップ女!!」

「ねぇねぇ、さっきの変な鎧のヤツさぁ・・・」

「わぁぁぁっっっっ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」

「ぇぇ?・・・ちょっと、なに!?」


 慌てて少女の肩を掴んで博物館の外に押し戻し、出入り口を施錠して、カーテンを閉める!

 何故、こんな行動をしているのか、燕真自身全く説明できない。ただ、60点扱いしたり、モップを振り回して思いっきりマイナス査定を入れてくれた少女となんて絡みたくない。そんな思いが先行していた。


「ぉ~~~ぃ!開っけろぉ~~~~~!!」


 出入り口の向こう側では、少女がバンバンとドアを叩いている!燕真は、背中でドアを押さえ、ガンガンと響く振動を受けながら叫んだ!


「スミマセ~~ン・・・今日は閉館で~~~~すっっ!!」


 その光景を、粉木が事務所から呆れ顔で覗いている。


「いきなり変身バレて、アジト突き止められて・・・

 こりゃ、でっかいマイナス査定つくやろな。

 オマンの取り分、のうなったかもしれんでぇ~!」

「えっっっっっ~~~~~~~~~~~~~~~~~~マジかよぉぉぉ!!!?」


 館内に燕真の声が虚しく響き渡る。




-数分後-


 YOUKAIミュージアムの事務室。もの凄くガッカリした表情の燕真がソファーにドッカリと腰を下ろし、粉木が差し出した封筒を受け取る。中に入っているのは100円1枚と10円1枚。


「えかったなぁ、燕真。販売機のジュースくらいは飲めんで!」

「飲めね~よ!ジュース110円て・・・いつの時代の話だよ?」


 テーブルを挟んだ向かい側のソファーには、ツインテールの少女がチョコンと座って、粉木が煎れたコーヒーを飲んでいる。つい先程まで、約15分間ほど、博物館の出入り口を挟んで「入れろ」「帰れ」の言い合いが続いていたが、見かねた粉木が招き入れたのだ。博物館の見学ではなく、燕真に用があって訪れたらしい。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 互いに聞きたい事は山ほどあるのだが、何から聞けばいいのか整理が付かない。しばらくの沈黙の後、粉木が少女の隣に腰を下ろした。


「お嬢ちゃん、学校は終わったんか!?」

「ん~~・・・ホントならまだ授業中なんだけど、今日ゎお休みになっちゃったぁ!

 今、学校にゎ、ぉ巡りさんがぃっぱい来てるょ!」

「そりゃそうやろなぁ・・・

 生徒や先生が集団で気絶しとるんやさかい、警察沙汰になんのは当然やな。

 そんで?生徒さん達はみんな帰ったんか?

 お嬢ちゃんみたいに憑かれんかった子は他にもおったんか?」

「ぅん。ァタシ以外にも異変に気付ぃて隠れてぃた子ゎぃたみたぃだょ。

 ァタシの教室ゎ2階なんだけど、無事な子ゎ1階のクラスに多かったみたぃ。

 体育館で朝練してた子も大丈夫だったみたぃ。

 おかしくなった子ゎ、入院した子もぃるけど、

 殆どの人ゎぉ医者さんの診察だけ受けて帰ったょ!

 そう言えば、何人か、歯が折れたり、鼻の骨が折れたり、

 鼻血が止まらない人がいたなぁ~。」

「そりゃ、オマエにモップでブン殴られたからだろうに!」

「今ゎ調査中で、原因が解るまでゎ休校だってさぁ~。」

「他に妙な事は無かったかいな!?どんな些細な事でもええで!」

「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 少女は、しばらく俯いて、話すべきか話さないべきか迷っていたが、やがて顔を上げて話を始めた。


「2~3日前から学校が変な感じがしたんだけど、関係ぁんのかな?

 閻魔大王のヒーローが来なかったら、まだあのまんまだったのかな?」


 事件が起こるまでは、「変なことを言う娘」とレッテルを貼られるのを恐れ、違和感は‘気のせい’で片付けていた為、話して良いかと躊躇ってしまったらしい。燕真と粉木は「2~3日前から続く変な感じ」こそが「絡新婦じょろうぐもが学校に憑いた現象」と瞬時に把握したが、少女を必要以上に怖がらせない為に、その件についてはこれ以上は追求しなかった。・・・が、それはそれとして、少女はさりげなく関係者しか知らないはずの固有名詞をポロッと言いやがった方が気になってしまう。


「お嬢ちゃん・・・なんで、コイツ(燕真)が『閻魔大王』て知っとるの!?」

「ん~~~~~~~~~~さっきのぉ化けが、60点のことをそぅ言ってたから。」

「・・・60点かいな?」

「60言うな!俺は80点はある!!」


 粉木は笑いを堪えながら、少女から60点と評価された若者を見る。


「お嬢ちゃん・・・なんで、60点が閻魔大王のヒーローて知っとるの!?」

「アンタまで60言うな、粉木ジジイ!」

「誰が子泣き爺やねん!?」

「ん~~~~~~~~~~雰囲気が似てぃたって言ぅか、

 なんとなくそう思ったから・・・かな。」

「なんとなくて・・・なんちゅう勘の鋭さや?」

「ぁと、60点の乗ってぃる100点のバィクと、

 閻魔大王のバィクが同じだったから!」

「60言うな!!」

「バイク100点・・・解んの?あのバイクの良さ!?」

「解るょぉ~!西陣織と九谷焼、最高だょねぇ~~!」

「のほほぉ~~~~!嬢ちゃん、ええセンスしとるで!」

「どんなセンスしてんだよ!?

 つ~か、支給されたバイクの所為でバレたのに、

 俺がマイナス査定されんのか!?」


 燕真は露骨に不満な表情をしてそっぽを向くが、粉木は気にせずに会話を続ける。


「・・・で、お嬢ちゃん・・・なんで、60点が此処におるて知っとるの!?」

「ぇへへ!そんなの超簡単だょ!」

「まさか、また、『なんとなく』ってんじゃね~だろうな!

 そんな理由で手取りをポンポン引かれたんじゃ割に合わね~ぞ!!

 ここに到着するまで、一般人の尾行が無いように細心の注意を払ったんだ!」

「・・・尾行?そんなメンドイの必要無いょ~!

 それに、『なんとなく』で居場所を突き止めるなんて無理だってぇ!」

「だったらどうやって!?」

「ぇへへ!これこれぇ!!」


 少女は、鞄の中からピンク色のスマホを取り出して、燕真と粉木に見せびらかす。


「おいおい・・・そんなんでどうやって?

 検索機能でここがヒットするワケじゃないだろうに!」

「ァタシのスマホをさぁ・・・

 正門のところに置ぃてぁった100点バイクの西陣織とィスの間に挟んでぉいて、

 あとで、友達のスマホのGPS機能で、ァタシのスマホの場所を調べたんだょ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・燕真、尻の下にあないもん仕込まれてんのに気付かへんかったん?」

「・・・発信器って・・・なんちゅうおっかない女だよ!」

「気付けや・・・オマンがマヌケすぎるやろ。なけなしの110円、没収やな。」


 粉木は深い溜息をつきながら考える。特に規則は決まっていないのだが、暗黙の了解で‘退治屋’は一般人を巻き込まない様に心掛けている。本体捜索の過程で情報を聞き出したり、妖怪から救出した被害者の保護はするが、必要以上のプライベートにまでは踏み込まないし、退治屋の情報も最低限度しか教えない。そして退治が終われば二度と接点は作らない。


 少女の能力に興味があるものの、一般人の彼女に対して、「何故、妖怪の位置が解ったのか?」とか「優先的に妖怪に狙われた心当たり」をダイレクトに聞く気は無い。彼女は部外者なので、聞かない方が彼女の為なのだ。


「なぁ、オマエ・・・なんで、妖怪の本体の居場所が解ったんだ!?

 狙われた心当たりは!?」


 だが、まだ退治屋になって日の浅い若者が、何の考えも無しに聞きやがった。


「うわ~~~~~~・・・それ聞くんかいな!?」

「ぇ!?さっきのぉ化けって妖怪なの!?ぅわっ!ぅわっ!何かスゲェ~~~!!

 テレビで見たことあるぅ~~!!

 ぇ!?ぇ!?もしかして、手が鬼の手に成ってて、それで妖怪やっつけんのぉ!?

 手ぇ、見せてょ!ァレ?普通の手だ!だったらどうやってやっつけんのぉ!?

 ぁぁ、そっか!だから代ゎりに閻魔大王になるんだねぇ!

 剣とか棒で戦ってたけど、ァレで妖怪をやっつけるんだょねぇ!?

 ぁの剣で斬っても妖怪しか斬れないのゎ何で!?

 同じコトする仲間って沢山いるの?

 みんな格好良いバイクに乗ってるの?

 どうやって変身すんの?

 それでそれで、閻魔大王ってのには・・・なんたらかんたら・・・・・・・・・」


 少女の一方的なトークが延々と続く中、粉木は頭を抱えながら燕真にぼやく。


「どうすんねん、ドアホ!これ、まだ続くんか?」

「知らね~よ!俺に聞くな!」

「オマンの質問のせいや!

 しかも一般人相手にあないに直球で聞いてどうするつもりじゃ?

 おかげさんで、退治屋の任務まで思い切りバレとるやないけ!

 オマン、このまんまじゃ、マイナス査定だらけで当分はただ働きになんで!」

「え~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~・・・」


 その後、お喋りに火が付いてしまった少女の弾丸トークは1時間ほど続き、「本体の居場所が解った理由」は「なんとなくそう思った」、「狙われた心当たり」は「無ぃ」で終わり、最終的には学校の異変や妖怪の話ではなく、好きなアイドルだの、バイトの店長への愚痴になり、何故か、「今度みんなでカラオケに行こう」という話でまとまった。



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