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番外③-2・燕真は部外者?~見えないバイク~火の車輪

-事務室-


 案の定、田村姉妹にコーヒーを差し出した紅葉は、その行動が当たり前のように粉木の隣のソファーに座って会話に参加をしていた。


「父のバイクが盗まれるまでは気にしたことも無かったのですが、

 盗まれて以降は、家の前を通るバイクの音が気になってしまって・・・。

 その音が、毎日、決まった時間に聞こえるんです。」

「お隣さんかお向かいさんがバイクに乗ってるの?」

「私も最初はそう思いました。でも違うんです。」

「んぇ?」 「違うとは?」


 バイクの音が気になった環奈は‘いつもと同じ時間’に窓から眺めて、「どこの家のバイクか?」を確認した。しかし、姿形は無く音だけが聞こえて、家の前で止まったのだ。怖くなった環奈は、翌日に響希同伴でバイクの音を待った。


「音だけしてバイクは見えなかったんだけど、

 お向かいの塀にバイクの影が映ってたの。」

「影が見えたのは響希だけで、私には音しか聞こえませんでした。」


 翌朝、姉妹は両親に「信じられない出来事」を説明をしたが、両親は‘決まった時間に訪れるバイクの音’すら聞いていない。つまり、他者には解らない物を、田村姉妹は認識したのだ。理解不能状態に陥った姉妹は、「妖怪の看板を掲げたYOUKAIミュージアムならば、何か解るかも?」と考え、今に至る。


「なるほど。音や影は、お嬢さん達に何かを伝えたいのかもわかれへんな。」

「ぅんぅん!絶対になんか伝えたいんだよ!」

「何かって、なんですか?」

「そら、話を聞いただけでは解れへん。」


 妖怪事件と直結するかは、まだ解らない。だけど、人間とは別の意思が働いているのは間違いなさそうだ。姉はバイクの音が聞こえて、妹はバイクの影も見えるのは、姉妹共に霊感が強く、且つ、姉よりも妹の方が感知力が高いからだろう。


「調査をする価値はあるってこっちゃ。」


 粉木が信じがたい話を受け入れてくれたので、田村姉妹は安堵の表情をした。

 引き続き、音が聞こえる時間などの不可思議事件の詳細や、念の為に盗難バイクの車種などを確認する。

 オーダーが完成した時には、話は既に終わっており、田村姉妹は店内で普通に食事をして帰った。見送る燕真は、事件の会話に1秒も加われなかったのが不満で仕方が無い。


「なんで、紅葉が会話に参加して、俺は部外者扱いなんだよ!?」

「だって、見えないバイクが、毎日おうちの前を走っても、

 もし燕真は『音がうるさい』くらいしか思わないでしょ?」

「見えないバイクってなんだ?」

「霊感ゼロの燕真では、音も聞こえんやろ。

 話に参加していたとしても、なんも答えられんっちゅうこっちゃ。

 早速、調査開始やな。」

「うん、そうだね!」

「なんの調査だ!?」

「燕真ゎ、ァタシをバイクの後ろに乗せる役ね。」

「俺の役割は、オマエのアシだけかよ?」


 蚊帳の外に出されっぱなしの燕真は悔しくて仕方が無い。だけど、「紅葉と粉木が言ってることは正解なのだろう」という自覚はある。




-21時頃・田村家(鎮守の森公園から1キロ程度東)-


 2階の一室で、大学合格を目指す環奈は真剣に、高校合格を目指す響希は散漫に、受験勉強をしていた。


「そろそろだね。」

「そうだね。」

「来るかな?」

「どうかな?怖いね。」


 ‘バイク音’の定時まで、あと僅か。来たら来たで怖いが、来なかったらYOUKAIミュージアムで嘘を付いたと思われてしまう。

 家の外の路肩では、バイク音と影を確認する為に、粉木がスカイラインに乗って待機をしている。



-田村家の南側にある国道-


 音は南方向から接近してくるらしい。つまり、田村家の近所で急に出現をするか、南に位置する国道を通過して市道に入るか、どちらかになる。全員が田村家周辺に待機をする必要は無いので、出所を搾る為に、紅葉とアシ担当の燕真は国道の路肩で待機をしていた。


「ホンダのドリームCB750FOUR・・・か。」


 燕真はバイクに跨がったまま、スマホに表示された‘田村姉妹の父親が盗難されたバイクと同型’の画像を眺めている。バイクに乗ってる影響で「アレが欲しい、コレに乗りたい」などと考え、バイクの知識をそれなりに有している燕真だが、昭和世代のホンダ・ドリームに関しては「見た目が典型的なバイク」で「生産は終わってる」以外のことは、よく解らない。

 紅葉に至っては「燕真のバイク以外は興味が無い」ので、全部同じに見えるようだ。


「こんな骨董品が町中を走ってれば、直ぐに解るだろうな。」


 粉木が言うには、半世紀近く前に生産されたビンテージ品で、故障しても修理パーツがロクに無くて、燃費が悪く保険料も高いので、金銭的に余裕のあるバイク好きじゃなければ維持が難しいらしい。


「なぁ、紅葉。

 盗難されたドリームと、姿の見えないバイクって、なんか関係あると思うか?」

「燕真うるさいっ!黙って!」

「はぁ?うるさいってなんだよ?いつもは、オマエの方がうるさ・・・・」

「遠くから音が聞こえるの!」

「なんのっ!?」

「うるさい乗り物の音っ!だから静かにしてっ!!」


 音の方向を睨み付ける紅葉。場の空気がヒンヤリと沈み、西(明閃大橋方向)から音が近付いてくるらしい。ちなみに、燕真は何も感じないし、普通に目に見える車の走行音しか聞こえない。


「来たっ!!」

「えっ?えっ?どこに??」

「通り過ぎた!追っ掛けてっ!」

「マジか!?これは大変だな!」


 紅葉はバイクの通過を確認して「追え」と言っているくらいの想像はできるが、少しも感知ができない燕真では、何を追えば良いのか全く解らない。


「案内しろ、紅葉!影は見えるのか?」

「半透明だけどバイクの形も見えるよ。」

「盗難バイクか?」

「よくワカンナイけど、燕真のバイクより格好悪い!」


 タンデムに乗る紅葉の指示を頼りにして、燕真は東に向かってバイクを走らせる。


「もっとスピード出して!」

「了解!シッカリ掴まってろよ」


 完全に速度超過だが仕方が無い。言われた通りにスピードを上げる。


「曲がった!」

「どこを!?」

「次の信号!」

「どっちに!?」

「左っ!」

「田村さんの家の方向か!?」

「ぅんっ!」


 燕真に見えないバイクは、いつも通りに田村家に向かっているらしい。燕真の駆るVFR1200Fが交差点を左折して市道に入り、アクセルを捻って速度超過を続ける。見えなくても目的地が解れば、紅葉の指示を待たず、自信を持ってバイクを走らせられる。


「離されてるか?近付いてるか?どっちだ?」

「近付いてるっ!幽霊バイクは、白いおうちの前!」


 紅葉の指定した家から燕真の現在地まで、距離にして20~30mくらい。国道とは違って、この時間帯は車や人の通行も少ない。


「紅葉!一瞬、眩しくなるから目を瞑ってろ!」

「んぇっ?バイクで走りながら変身すんのっ!?」


 燕真は「射程圏に入った」と判断して、Yウォッチから『閻』メダルを抜いて、予め装備していた和船ベルトのバックルに装填をした。


「幻装っ!」


 ザムシードへの変身完了!センサーが目の前を走る霊力を感知して、ザムシードの視覚と聴覚に送り込み、ようやく、バイクの形と走行音を認識できるようになった。無人のドリームCB750FOURが、田村邸に向かって走っている。


「コイツが盗難車らしいな。」


 だけど、一般人には見えないバイクを捕まえても返却することはできない。どんな理由で、姿無きドリームCB750が田村家に向かうのかは解らないが、コレではなく本物のドリームCB750の所在を突き止めなければならない・・・というか、田村姉妹からの依頼は、「盗難バイクを取り返す」ではなく、「バイク音の正体を突き止める」ことだ。


「燕真っ!何をする気っ!?」

「取っ捕まえる!」


 ザムシードの駆るVFR1200Fが、ドリームCB750に追い付いて並走!無人ドリームCB750を掴む為に、ザムシードが手を伸ばした!


〈コココココォ――――――――ンッ!!!!〉

「燕真っ!離れてっっ!!」

「くそっ!」


 甲高い鳴き声が轟き、紅葉が叫ぶのと同時に、ザムシードのセンサーは、ドリームCB750から妖気の放出を感知!ザムシードの防御力なら妖気を浴びても耐えられるが、「後に乗せている紅葉が耐えられない」と判断して、減速で距離を空ける!


「妖気で威嚇?」

「燕真に掴まるのがイヤみたいだよ!」

「妖怪に憑かれているのか?」

「・・・みたいだね。」


 ザムシードの接触を敵対行動と判断されたようだ!ドリームCB750の前輪から炎が上がり、車体全てを吸収して、炎の車輪と化してザムシードに突っ込んできた!


〈コココココォ――――――――ンッ!!!!〉

「げげっ!!」 「んわわっ!!」


 慌ててVFR1200Fのハンドルを切って、炎の車輪を回避するザムシード!炎の車輪はザムシードの真横を通過して、明閃大橋方面に戻っていく!


「帰る?なんで??」

「燕真にやっつけられると思ったんぢゃない?」

「追うぞっ!」


 バイクをUターンさせて、炎の車輪を追うザムシードと紅葉!このままでは、まだ通行量の多い国道に進入されてしまう!ザムシード1人ならばワープで先回りできるが、後に紅葉を乗せた状況では不可能だ!バイクを加速している状況で、紅葉に「降りろ」とは言えないし、バイクを停めたら炎の車輪を見失ってしまう!


「くそっ!」

「燕真っ!ザムシードをやめてみてっ!」

「そ、そうかっ!」


 ドリームCB750は、ザムシードに反応して炎の車輪に変化をした。ならば、変身を解除すれば、妖怪化を止めてくれるかもしれない。もし、炎の車輪のままなら、再変身をすれば良いだけ。ローリスクで済むのだから試す価値はある。

 変身を解除して、炎の車輪を追う燕真と紅葉。敵対意志が無いことを察してくれたのだろうか、炎の車輪はしばらく走った後、ドリームCB750に戻ってくれた。ただし、霊感ゼロの燕真の視点では「炎の車輪が消滅した」としか認識できない。


「どこに行った?解るか、紅葉?」

「明閃大橋の方に走ってくよ。どこまで行くのか追ってみようよ。」

「ああ・・・う、うん。」


 こうなってしまうと、燕真には全く把握ができないので、紅葉に言われるままバイクを走らせるしか手段が無かった。明閃大橋東詰の信号が赤に変わったので、燕真はバイクを停車させる。


「んぁっ!?止まるの??」

「そりゃ、そうだろう。信号無視はできん!」

「行っちゃったよ。」

「なにが?」

「燕真に見えないバイク。」

「・・・・・・・・・・・・・」


 改めて考えれば、追跡の対象は人ではないので、「赤信号は止まる」なんてルールは関係無い。目の前の信号が青に変わったので、燕真はバイクを進めた。


「まだ走るのか?」

「うん!だいぶ離れちゃったけど、まだ見えるから追って!」


 紅葉頼みで、離れた見えないバイクを追う。警察に見付かったら速度違反で確実に止められてしまうスピードを出して、見えないバイクとの距離を詰めるが、また信号機で足止めされて距離を離される。

 照明の多い市街地を抜けて、明かりの少ない郊外へ。燕真は、ドリームCB750を追っているのではなく、紅葉をタンデムに乗せて夜のドライブをしているような錯覚に陥ってしまう。


「・・・ホントにドリームを追っているのか?」

「モチロンだよぉ~!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 いくつかの信号機で足止めをされ、西の国道を横断したところで、紅葉でも見えないバイクを目視できなくなってしまった。


「わかんなくなくなっちゃった。」


 その後、念の為に辺りを見て廻るが、発見をできず捜索を諦めた。田村家の前で待機中の粉木に連絡を入れ、合流をする為に来た道を戻る。


「そうか。通りで、こちらは異常が無かったわけやな。」


 粉木が言うには、田村家には「いつも定時に聞こえるはずにバイクの音」は訪れなかった。これで、燕真が追い返したバイクの幽霊(?)と、田村家に来るバイクの音が同一と判明する。


「バイクって気持ちがあるのかな?」

「八百万の神ちゅう概念があるさかいな。バイクが意志を持っても不思議ちゃう。

 持ち主から大切の扱われたバイクやったら、

 持ち主の元に返りたいちゅう意思が働く可能性はあるな。」

「なら、バイクのユーレイ、ドコに帰ったんだろう?」

「俺にはよく解んねーけど、

 人間なら、死んでれば墓に、生きてるなら肉体に帰るんじゃねーの?」

「ぅんぅん!それだよそれ!

 もしかして、バイクのユーレイに付いてけば、盗まれたバイクの所に行ける?」

「試してみる価値はあるんじゃないか?」


 盗難されたドリームCB750の「持ち主の元に帰りたい意思」が心霊現象を起こし、しかも妖怪に憑かれている。本体を見付け出して思いを叶えてやれば、妖怪事件と盗難事件を同時にクリアできるのだ。燕真と紅葉は方針を見付けて喜ぶが、粉木の表情は浮かない。


「確かにおもろい発想やけど・・・。」

「どうしたんだ、爺さん?何か不満か?」

「不満に決まっとるやろう。」


 敵対意志を見せてしまった所為もあるが、バイクの心霊現象は燕真達からは逃げた。知らない奴を、本体の場所に案内するつもりが無いってことだ。つまり、田村家の人間しか、案内をしてくれない。


「オマン等の案では、妖怪事件を解決させる為に、

 姉か妹を巻き込まなければならんと言うこっちゃ。

 盗難バイクの確認はしてもらわなあかんが、

 危険な目に遭わすわけにはいかんで。」


 最速の解決方法だが、ベストのアプローチではない。その日は、電話で環奈に「バイクの音は追い払った」とだけ説明をして、議題は持ち帰ることにした。


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