11-4・ガルダ登場~星熊&温羅討伐~演劇は悲惨
「Yウォッチ!?アンタ、一体!?」
「妖怪共からは、ガルダっと呼ばれているようだ!」
ガルダは、ベルトのホルダーに収納してあった鳥の顔を模したハンドガン=鳥銃・迦楼羅焔を抜いて、目の前の温羅鬼に向ける!両腕を広げて、ガルダに掴みかかる温羅鬼!
ガォンガォン!
獣の咆吼のような銃声が鳴り響き、嘴型の周囲にあるガトリング型の銃口から光弾が放たれて温羅鬼に命中!直撃を受けた温羅鬼は、数歩後退をして片膝を付いた!
「今度は逃がさん!」
「アンタ、コイツ等を追っていたのか!?」
「そいつ等には、あと一歩のところで、逃げられてしまってな!
文架の支部長から、鬼が隠れている可能性を聞いて訪れたんだ!」
「粉木のジイさんから?」
「さすがは粉木さん。予想通りだったってことさ!
君達の所為で段取りを崩されて迷惑半分!
鬼達に警戒をされている俺の存在に気付かれずに接近できたから感謝半分!
プラスマイナスでチャラってことだ!
(実際には優れた選眼のお陰で探す手間が省けたから感謝の方が多い)
温羅鬼の方は任せてもいいか!?俺は大物(星熊)に専念したいんでね!」
「え!?・・・そ、そうか!アイツが張った結界相殺の中なら、変身ができる!」
「そう言う事だ!
それに、相殺結界が鬼の結界を抑えているから、
相殺結界外でも数十秒程度なら、妖幻ファイターとして戦える!」
燕真は、温羅鬼を睨み付け、左手のYウォッチから『閻』メダルを抜き取って和船バックルに嵌めこんだ!
「幻装っ!!」 《JAMSHID!!》
燕真の体が光に包まれ、妖幻ファイターザムシード登場!
「お言葉に甘えて、アイツ(温羅鬼)は貰う!だいぶ恨みがあるからな!!」
ザムシードは、ガルダに警戒しながら構えている温羅鬼を睨み付ける!一方のガルダは、少し離れた場所で構えていた星熊童子に銃口を向けながら、間合いを詰める!
「任せたぞ!」
ガォンガォンガォンッ!
鳥銃・迦楼羅焔から放たれた光弾が星熊童子目掛けて飛ぶ!星熊童子は素早く回避をしつつ、弓を装備して、ガルダに向かって矢を射た!しかし、ガルダの射撃は、矢を的確に撃ち落とし、数発の光弾が星熊童子に命中をする!
一方、ザムシード目掛けて突進をする温羅鬼に、弓銃カサガケ(連写モード)から撃ち出された弾が命中!温羅鬼は突進速度を弱めながら、お構い無しに突っ込んできて金棒を振り下ろす!ザムシードは難無く回避!!何度も空振りをしたうちの一撃が大木に炸裂して薙ぎ倒した!自ら倒した大木によって、一瞬だけ温羅鬼の視界が塞がれ、その視界が開けた時には、ザムシードが弓銃カサガケを一撃必殺モードに切り替えて、目の前で構えていた!
「そのパワー、そのタフさ、流石だな!!・・・だが、それだけだ!!」
ザムシードがゼロ距離発射をした光弾が、温羅鬼に炸裂!更に、右ストレートが腹に、蹲って下がった顔面に蹴りが、仰け反って開いた腹に2発目の蹴りが叩き込まれる!5~6歩後退をして尻餅をつく温羅鬼!
ザムシードは、Yウォッチから空白メダルを抜き取って、右足ブーツのくるぶし部分にある窪みに装填!温羅鬼の間に炎の絨毯が発生する!
「地獄の炎!!オマエは一体!?」
「上司の名前くらい知ってんだろ!?
鬼なら鬼らしく、閻魔様の下でコキ使われてろ!!」
「う、うわぁぁぁぁっっっっっっ!!」
閻魔大王の名を聞き、慌ててザムシードに背を向け、逃走をする温羅鬼!ザムシードは温羅鬼の背中目掛けて突進!両足を揃えて空高く飛び上がり、空中で一回転をして、右足を真っ直ぐに突き出した!
「うおぉっ!!! エクソシズムキィィーーーッック!!!」
朱く発光したザムシードの右足が温羅鬼の背中に突き刺さり、貫通をする!
「ガォォォォォォォォォン!!!」
温羅鬼は、大声で嘶いたあと、俯せに倒れて、黒い炎を上げて爆発四散!撒き散らされた黒い霧は、ブーツにセットされたメダルに吸い込まれて消えた!ザムシードがメダルを確認すると、表に『温』、裏に『鬼』の文字が浮かび上がっている!
「へぇ・・・鬼を封印すると、両面に文字が浮かぶんだ?」
離れて見守っていた紅葉が、周囲の空気が変化したことに気付く。温羅鬼が倒れたので、羽里野山全域を覆っていた結界が消滅をしたのだ。
「んぉぉっ!?ギラギラしたのゎ、まだぁるけど、ザヮザヮしたのゎ無くなったぁ!
そっかぁ、ぉ氷を追ぃ出した結界ゎ、ァィツ(温羅鬼)が張ってぃたんだねぇ!」
ガルダは、鳥銃・迦楼羅焔の銃身後方を展開させて、『雷』のメダルを装填!銃口を星熊童子に向けて引き金を引く!数発の雷撃弾が発射され、回避する星熊童子を追尾して炸裂!いくつもの小爆発を起こしながら吹っ飛ばされた星熊童子が、悔しそうに歯軋りをしながら立ち上がってガルダを睨み付ける!
星熊童子が深手を負った為、山頂付近に張られていた結界も消滅をする!
「随分と動きが鈍い!残存妖気が少ないようだな!
素人丸出しの囮に惑わされ、調子に乗って結界を張り、
軽率に妖力を大幅消費させたのがオマエのミスだ!」
「おのれっ!傷さえ癒えておれば、これしきの結界など簡単にっ!!」
「だから、そうなる前に、わざわざここまで追っ掛けてきたんだ!
諦めて、封印されろ!!」
ガルダは、鳥銃・迦楼羅焔の銃身後方を展開させて、空白メダルを装填!
星熊童子は、数歩後退しながら地面に向かって邪気を吐き出し、土煙で煙幕を作って姿を隠す!
「チィィ!また逃げる気か!?」
濛々と立ちこめる土煙が消えた時、その場に星熊童子の姿は無かった。
〈フン!これで勝ったと思うなよ!〉
負け犬の遠吠えの典型のような言葉だけが周囲に響き渡る。・・・が、その直後!
〈鬼め!コケにしてくれた報いを受けよ!!〉
地響きと共に、周囲が吹雪が吹き荒れ、ザムシードやガルダを包むようにして、今度は山頂一帯に氷の結界が発生をした!結界内の敵意は、鬼のみに向けられている!
ザムシードと紅葉は、覚えのある気配を感じ取り、顔を見合わせて相づちを打つ。
「ぉ氷の結界!?・・・そか、鬼の結界が無くなったから戻ってきたんだぁ!!」
「うわぁ~・・・土壇場でこうくるか?スゲ~嫌がらせ!
・・・あの手のタイプの女って、怒らせちゃダメなんだな!怖っ!!」
霊体化をして空に逃走をするつもりだった星熊童子は、雪結界に弾かれて退路を塞がれ、実体化をして地面に落ちた!
「グゥゥゥゥ・・・バカな!!」
それを見たガルダが、鳥銃・迦楼羅焔の照準を星熊童子に向ける!!
「ギガショットッ!!」
鳥銃・迦楼羅焔の中央にある嘴が開き、風のエネルギーが凝縮されて白く輝いた空白メダルが発射され、星熊童子の腹を貫通した!
「グウォォォォォォォォォン!!!」
星熊童子は断末魔の悲鳴を上げ、全身の力を失って地面に両膝を落とし、黒い炎を上げて爆発四散!撒き散らされた黒い霧は、メダルに吸い込まれて完全に消る!
同時に、鬼の逃亡を邪魔していた雪の結界が解かれた。
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「ぉ~~~~ぃっ!ぉ氷~~~~~~~っ!!!」
周囲を見回して大声で氷柱女の名を呼ぶ紅葉の隣に、戦いを終えて変身を解いた燕真が歩み寄る。
「いるのか、氷柱女?」
「ぅん、姿は見えなぃけど、気配ゎ感じるょ。
邪魔者が居なくなったから、ぉ山に戻ったんだねぇ。
でも、なんで、姿を見せてくれなぃんだろ?
手伝ってくれたぉ礼、言ぃたぃのになぁ!」
「無愛想な奴だからな。でも、いるって解るなら、それで充分だろ?」
「そっか・・・そぅだね!」
互いの眼を見て頷き合う燕真と紅葉。2人は疑問だらけの答えを求めて、ガルダのいた方向に視線を向ける。だが、既に、インテリ系イケメンの姿は無かった。この場所での仕事を終えた為に、早々に立ち去ったのだろう。
「ぁの、絵心がある3歳児が描ぃたディーン・フジ○カみたぃな顔の人、
もう帰っちゃったのかなぁ?」
「・・・絵心がある3歳児が描ぃたディーン・フジ○カ?」
燕真は、絵心がある3歳児の絵が、上手いのか下手なのかは解らなかったが、チョットだけ紅葉の表現が理解できた。
「早く帰って、ジジイに御報告しなきゃな。さぁ、俺達も行こう。」
「ぅんっ!そ~だね!」
紅葉は、山頂を見廻し、大きく息を吸い込んだ。
「おひょ~~っ!!また、会ぉ~ねぇぇ~~~~~~~~~っっ!!!」
どこにいるか解らない氷柱女に対して、山頂全体に響き渡るほど大声で叫ぶ。
-数日後(11月)・優麗高校-
体育館の舞台上では、紅葉達のクラスの演劇が披露されている。
巳之吉(紅葉)の体験談を聞いたお雪(亜美)が寂しそうに立ち上がり、一時的に照明が暗くなって、次に明るくなった時には、お雪(亜美)の姿は雪女の物に変わっていた。
「喋ってはいけないと言ったのに、何故、喋ってしまったのですか?
~~中略~~
私にはあなたを殺すことは出来ません。
どうか、子供をあなたのような素敵な人間に育ててください。」
そう言い残して、巳之吉(紅葉)に背を向け、その場から立ち去ろうとするお雪(亜美)。しかし、巳之吉(紅葉)は立ち上がって咄嗟にお雪(亜美)の手を掴み、力任せに引き寄せて、思いっ切り抱きしめる。
「行っちゃダメェ~~~~!!ぉ雪ゎ離さないょぉ~~~!!!」
「・・・巳之吉!」
「山の神様なんて怖くなぃもん!!
もし、ぉ約束を破って罰が当たるんなら、ァタシが山の神をやっつけたげる!!
だから、ぉ雪、ずっとァタシのところにぃなさぃ!!」
巳之吉(紅葉)の提案を受け入れ、熱い抱擁を交わす2人。こうして、お雪は何処かに立ち去ることもなく、巳之吉と、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし♪
「・・・脚本も・・・紅葉の演技も・・・・酷い出来だな。」
燕真と粉木は、最後方に立って、紅葉達の劇を見物している。
「あのストーリーはオマンの所為やろ?
しかも、なして、お嬢が巳之吉役なんや?お雪の方が背が高いやんけ?」
「紅葉の話によると、
平山さんが、『ラストで抱き合うのを男子とはやりたくない』と言い張って、
急きょ、巳之吉役も、女子から選ぶ事になったらしい。
だけど、よりによってアイツかよ?・・・巳之吉に成りきる気ゼロじゃん!」
「オマンがお嬢の練習に付きおうてやらんから、こうなるんやで!」
「・・・俺に雪女役で練習に付き合えってか?・・・絶対に嫌だよ!」
舞台上で紅葉と亜美が抱擁をするシーンで照明が暗くなり、幕が下りる。
同時に、亜美の体がスゥッと軽くなり、抱き合う2人にだけ、小さく穏やかな声が聞こえる。
〈亜美、色々と迷惑をかけて済まなかったな。
お陰で、良き経験をし、私の伝承を知る事もできた。礼を言うぞ。〉
「もう行っちゃうの?」
〈あぁ、氷柱女との約束だからな。〉
「ねぇねぇ、ァタシ達の‘雪女’ゎどうだった?」
〈・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・〉
「・・・ねぇ、お雪?」
〈ポンコツ男が提案していた‘でーぶいでぃ’は、どうすれば借用できるのだ?〉
「ぉ雪~~~・・・もしかして、遠回しに、ァタシ達のぉ芝居のダメ出ししてる?」
「遠回しじゃなくて、ほぼ直球でしょ?」
〈もみじよ、おまえと佐波木の行く末・・・、
わたくしと巳之吉のようになるのか、この芝居のようになるのか、
おまえ等が、どんな未来を選ぶのか、遠くから見守らせてもらう。〉
「・・・・え?お雪?」
意味深な言葉を残して、霊体化したお雪は、亜美の体から抜け出す。その日を境にして、雪女の気配は、紅葉達の周りから完全に消えるのだった。
-深夜-
文架市内の、とある空き地に、変身前のガルダ=狗塚雅仁の姿があった。周囲にヒッソリと静まりかえって生活音は無く、時々、遠くの道路の走行音が聞こえる程度だ。しかし、彼の耳は、人が出す音以外の、騒がしい雑音を捉えていた。
その場に片膝を付いてしゃがみ、地に掌を充てて、何かの痕跡を辿る。
「星熊だけではない。・・・鬼達の胎動が聞こえる!」
退治屋と鬼の戦いは終わっていない。むしろ、始まったばかり。