10-4・氷の結界~青騎士アデス~粉木と氷柱女
-猛吹雪の中心-
紅葉の視界には、後退りをしながら構える亜美(お雪)と、亜美に氷の刃を向ける氷柱女が映っていた。紅葉は、亜美(お雪)の元に駆け寄って気遣う。氷柱女とお雪は、入れるはずのない侵入者に驚いた。
「ァミィ!!」
「我が雪の結界を貫通する小娘・・・か?」
「もみじ・・・無茶をしおって。」
「もう大丈夫だょ!直ぐに燕真も来るから!!」
振り返って、ザムシードを呼ぶ紅葉。だがザムシードの姿は無い。
「えっ?なんでっ!?」
「あの男は来ぬ。氷柱女の結界に拒まれるからな。」
「・・・けっかい?」
「対象を閉じ込め、部外者の侵入を拒絶する結界だ。」
「ぇっ!?でもァタシ・・・入れたよ?」
「それは、もみじが特殊だから・・・。」
「ァタシがトクシュ?なにそれ?」
攻勢に出ていたはずの氷柱女は、手を止めて紅葉を眺めている。
「・・・そうか。この娘が。」
-猛吹雪の外側-
白い壁の外側に空間の歪みが発生して、中からマシンOBOROに乗ったザムシードが出現する。足を出して、雪で滑る車体を停め、周囲を見回してから背後を振り返る。
何度試しても、出発地点と同じ場所に戻ってくるだけ。OBOROの異空間移動能力を使っても、猛吹雪の向こう側に入れない。
「クッソォ!!腹立つっ!」
亜美を連れ去られ、紅葉を見失った。今までの紅葉の奇行を考えると、単身で壁の内側に潜り込んでしまった可能性は充分に考えられる。理由は説明できないが、紅葉ならば、それをやってしまうような気がする。
「・・・あのバカ、毎回毎回、勝手なことばかりしやがって!!」
何をやっても状況を覆せない。常識で考えれば、ベテランの先輩に指示を仰ぐのだろうが、冷静さを失ったザムシードには、その時間すら惜しく感じられる。
退治屋としての知識の乏しい燕真でも、白い壁が妖力によって造られたことは推測できる。
「だったら、妖気の干渉を全く受けない状態なら入れるかもっ!」
絡新婦の領域に気付かず、霊体を見ることができず、妖気の感知が全くできない状態ならば、氷柱女の妖力も干渉しないのではないか?
「迷ってる暇は無い!・・・やるっきゃないだろ!」
ザムシードは、和船バックルから変身メダルを引き抜いて変身を解除する。燕真の姿に戻り、神社方向を見つめる。雪を含んだ竜巻のようなものが神社周辺を覆っているのは解るが、先程のような白い壁は見えない。吹雪の向こう側に、いくつかの人影が見える!
「紅葉・・・やっぱり、中に入ってやがったのか!」
やや前傾姿勢になって吹き荒れる竜巻の中に突進する燕真!横殴りの雪が全身に打ち付け、突進速度を弱める!腕を翳して、顔にかかる吹雪を防ぎ、足を踏ん張らせて突き進む!
「紅葉っ!平山さんっ!」
今度は、ホワイトアウトやフリダシへ戻されることもなく、猛吹雪を抜け、紅葉達の元に辿り着いた!燕真は、紅葉と亜美(お雪)を庇うようにして、氷柱女の前に立つ!
「随分苦労したが、やっと入ってこられた!」
「・・・燕真!」
「チィ・・・我が結界の干渉を受けない若者・・・。余計な介入をしおって。」
「辿り着ければ、あとはこっちのものだ!!」
燕真は、左手のYウォッチから『閻』メダルを抜き取って和船バックルに嵌め、一定もポーズを決めた!
「幻装っ!!」
燕真がボーズを決めたまま、数秒の時が経過する。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
いつものような、《JAMSHID》という電子音や、燕真の体が光り輝く現象が発生しない。
「・・・どうしたの、燕真?」
「あれ?・・・なんで?」
「・・・愚かな者め。」
もう一度バックルにメダルを装填するが、やっぱり何も変化をしない。燕真は、慌てて、Yウォッチをいじったり、和船バックルを開いたり、妖幻メダルを眺めるが、何が悪くて変身ができないのかサッパリ解らない。
「え?なんでなんで??・・・システムが壊れたのか!?」
「なに遊んでるの?早くザムシードになってょ、燕真!」
「空気読め!遊んでるようには見えんだろ!?したくてもできないんだよ!!」
「ぇ~~~~~~~~~~~~~~~~!!!?ぅっそぉ~~~~~~っ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やれやれ」
最初は、「相手にしたくない」雰囲気を全開にして燕真をシカトしていた雪女だったが、苛立ちを募らせ、溜まりかねて口を挟んできた。
「結界の干渉を受けなかったのは、凡俗以下の、おまえの体だけだ!!
結界の干渉下では、閻魔の力を解放することはできぬ!!
その程度のことも解らずに来たのか!?足手纏いの愚か者め!!」
「え!?マジで!!?」
「・・・チョットやばくね?」
殺る気満々の氷柱女に対して、こちらは戦闘能力はゼロ。「チョットやばい」なんて次元ではない。
「邪魔をするな。おまえ達に危害を加える気は無い。」
燕真が紅葉と亜美(お雪)を庇いながら体を硬直させる!しかし、氷柱女が手を翳すと、燕真と紅葉の体が吹雪の渦に包まれて弾き飛ばされる!氷柱女の正面には、亜美(お雪)だけが残った!
「クソッ!させるかよっ!!」
直ぐに立ち上がり、再び亜美(お雪)を庇う為に駆ける燕真!一方の紅葉は、何らかの気配を感じて、上空を見上げて指をさした!
「UFO!?なんか来るっ!!」
燕真達の真上の遥か上空!漆黒のドリルのようなものが、先端を下に向けて、錐揉み状に急降下をしてくる!そしてそれは、雪の結界に突き刺さった!!
パァァァンッッ!!
白い壁のようなもので覆われていた空間はパンクをするように弾け、漆黒のドリルは人型に変化をして地面に降り立った。雪煙が上がり、覆っていた吹雪が弱まり、拡散した妖気は周囲の空気に混ざりながら消えていく。
氷柱女の結界が消えたのだ。(ただし、燕真には結界が見えない為、ドリルが降りてきたら吹雪が弱まった程度にしか把握できない。)
雪煙で見え隠れする人型は、黒いアンダースーツに、青いマスクと西洋騎士のプロテクターで身を包み、槍状の武器を持っている。
「燕真、お嬢、もうちっと考えてから動かな、命が幾つあっても足らんで!
まぁ、その、仲間を思うがゆえの無茶はキライじゃあれへんけどな!」
「・・・え?その声?」
「粉木のじぃちゃん?」
「結界を破るなら、その妖力を超えるだけの妖力をぶつけて相殺せなあかんのや!
覚えときや、燕真!」
雪煙が晴れて視界が開ける。青い騎士がいた場所には粉木勘平が立っていた。粉木は、燕真と紅葉を見て無事を確認したあと、視線を反対側の氷柱女に向ける。
「久しぶりやな、お氷!」
「おまえは・・・異獣サマナーアデス!」
燕真と紅葉は、粉木と氷柱女の対峙を、固唾を飲んで見守り続ける。
「なぁ、お氷。先ずはそのけったいなつららを収めや!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「オマンが、雪女に腹を立てている理由は知らんが、
うちの若い奴2人が、命を張って守ろうとしているんやで。
問答無用に攻撃するんやなく、少しは信用してやったらどうや?」
「・・・・・・解った。」
氷柱女が振り上げていた手をゆっくりと下げると、手に握っていた氷の剣と宙に浮いていた巨大つららは砕け散り、吹雪が止んだ。
「もう随分と前に、若いもん達に一線を譲って引退をしたんやがな、
今回の一件には、オマンが絡んどると気付いて、出張ってきおったわ!」
「ふん・・・随分と老けたな、。」
「大きなお世話や!」
2人の会話を聞く限り、粉木と氷柱女は古い顔見知りらしい。今朝の会話で、粉木が氷柱女の行動パターンを読んでいた理由が何となく理解できた。
燕真は、いつからの知り合いなのか?何故、粉木が妖怪の存在を黙認しているのか?聞きたい事は沢山あるが、今は口を挟む時ではと思い、静かに見守り続ける。だが、片割れには、そんなデリカシーは持ち合わせていない。度胸があるというか、何も考えていないというか、こういう所がなければ、文句無しの純然たる美少女なのだが・・・。
「へぇ~~~!アンタ、オヒョーってゆーんだ!?
粉木のじぃちゃんとどんな知り合ぃなの!?
なんで、ぉ雪を狙ぅの!?ねぇ~、なんでなんで!?」
「うるさい娘だ。氷漬けにして黙らせても良いか?」
「ふぅんぬぅ~~~~!!
コィツ、超ムカ付く!!頭から熱湯かけて融かしてやるぅぅぅっっっ!!!」
「なぁ、燕真、ちぃとばかし、お嬢の口を塞いでくれんか?」
「・・・・はいはい」
溜息をつきながら、紅葉を押さえ付けて、両手で口を塞ぐ燕真。紅葉は「もがもが」と言いながら暴れている。
「なぁ、お氷。何があったんや?
ここ数日、町中で感知された妖気は、雪女を威嚇したオマエのモンやな?
ワシは、オマンが意味も無く雪女を眼の仇にするヤツではないと知っとる。
多少目障りやったとしても、オマンは見過ごすヤツや。
オマンが出張るっちゅうんは、余程の事があったんやろう?
せやけど、若い奴等がオマンを怒らせる事をしたとも考えられへんねん。」
「それは・・・そいつ(お雪)が、我が安住を妨げたからだ!
だから、そいつを消し去って、安住を取り戻そうとしている!!」
粉木は一呼吸置いて、亜美(お雪)に視線を向ける。
「お氷はこう言うとるが、どや?オマン(雪女)は、なんか言い分はあるか?」
「何の事だ!?わたくしには覚えが無い!
わたくしは、亜美や、もみじと居る事に心地が良くて、この地に留まっただけ!」
「ふざけるな!羽里野山に妙な結界を張って、
我が安住の地から私を排除したのは、おまえだろう!
この町に、おまえの気配を感じた日から、
私は羽里野山に入る事ができなくなった!
私に取って代わり、この地に根を下ろすつもりなのだな!」
「結界など知らぬ!おまえの縄張りを荒らす気も無い!」
「もがもが」とイチャ付いていたバカップル(?)は、話が進み始めたと気付いて、動きを止めて耳を傾ける。
「雪女が言うんは事実やろな!雪女に結界を張るような妖力なんぞあれへん!
現に、ロクに実体化もできずに、お嬢の友達ん中に留まっておる。
そない状態で、どないして、オマンを追い出すほど強烈な結界を張れんねん!?
おおかた、雪女がワシ等の周りを彷徨いてるんを見て動揺したんやろうが、
オマンらしゅ~ない冷静さを欠いた判断やで!」
「だがしかし・・・山には私を拒む雪の結界が!!」
「確かに、ここ数日、山の表情が変わったんは気付いとった!
ワシはてっきり、オマン(お氷)が、なんかを企んどると思うてたわい。」
「山を追われた私が、その様な事をできるはずもあるまい。」
お氷とお雪の言い分を聞きながら、羽里野山を眺める粉木。紅葉も、粉木と同じ方向に視線を向ける。
「・・・そう言うことか。だいたい解った。」
「ぉ山に、お氷とも、ぉ雪とも別の・・・なんか、嫌なヤツがぃるんだねぇ。」
「そういうこっちゃ!
ワザワザ御丁寧に、雪女が入ってきたタイミングでお氷を山から追い出し、
2人が勘違いで争って共倒れをするように仕向けとんねん!」
粉木と紅葉に倣うようにして、燕真も羽里野山を睨み付ける。倒すべきは、雪女でも氷柱女でもない。本当に倒さなければならない敵は羽里野山にいるのだ!
「行くか!!」
「ぅん!」
「そうするしかないやろな!」
燕真と紅葉は、並んで羽里野山を睨み付け、力強い一歩目を踏み出す!