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10-3・雪と紅葉~燕真は彼氏?~さらわれた亜美

-6時半・鎮守の森公園(公園通り側入り口)-


 まだ通勤時間には早く、行き交う人は少ない。燕真は、白い息を吐きながらスマホで時計を確認する。通常時ならば、紅葉と亜美がこの場で待ち合わせるのは7時半、あと1時間ほどある。


「・・・早く来すぎたか?

 紅葉のやつ、『待ってろ』と言ってたけど、

 まさか、通学時間より1時間も早く出てくるほどバカではないだろうな。」


 雪で少し早く出るにしても、30分~45分は待たなければならない。


「早く出て来て悪ぃか!」

ヒュン・・・どかっ


 聞き覚えのある声と同時に、燕真の背に何かが軽くぶつかる。呆れた表情で振り返ると、白い息を吐き、ブレザーの上にコートを着て、マフラーを巻き、黒ストッキングとブーツを履いた紅葉が立っていた。素手を真っ赤にして雪玉を握り、燕真を見てニコリと笑う。


「ぉまたせぇ!」

「雪でテンションが上がって1時間も早く家を出てくるなんて、

 どんだけお子ちゃまなんだ?」

「だって、楽しいぢゃん!誰も歩いてない雪の上を歩くの気持ちイイし!」

「まぁ・・・それが同感だな。」

「でゎでゎ、雪だるま作ろ~!」

「作らね~よ!」

「ぶぅ~ぶぅ~!つまんな~ぃ!」


 燕真は、文句を言いながら紅葉が投げてきた雪玉をヒラリと避ける。当てるまで投げるつもりなのか、もう1個投げてきたので、手のひらで弾く。すると今度は、雪玉を振り上げ、奇声を上げて腕を振り回しながら突進をしてきた。


「はしゃぎすぎだ!転ぶぞっ!」

「わぁっ!わぁ~~~っ!」


 注意をした直後に、雪で足を滑らせる紅葉。燕真は咄嗟に手を出して、紅葉の腕を掴んで引っ張り、転倒を防いでやる。


「言わんこっちゃ無い。少しは落ち着け!」

「ぁりがとぉ~!」


・・・と言いながら、紅葉は、握っていた雪玉を、燕真の顔面にぶつける。


「ぶはっ!冷てっ!!」

「やぁ~い!燕真、雪まみれぇ~~!」

「ぺっ!ぺっ!・・・口の中に雪がっ!」


 顔に掛かった雪を払い、口の中に入った雪を吐き出す燕真を見て、ケラケラと笑う紅葉。この状況が「妖怪の為の待機」でなければ、燕真も幾分かはテンションが上がっただろう。雪を喜ぶ美少女は、それくらい微笑ましい風景だった。




-7時-


 登校の待ち合わせ時刻まで30分。違和感を感じた紅葉が公園側に視線を向ける。


「ねぇ、燕真・・・この公園、さっきまでとチョット違ぅみたぃ。」

「・・・ん?」

「少しだけドンヨリしているょ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 燕真は、紅葉に促されて公園内を見るが何も感じることができない。 粉木から「妖気発生」の連絡が来るかとYウォッチを見るが、反応は無さそうだ。


「念の為、行ってみるか?」

「ぅん!」


 燕真と紅葉は、やや小走りで雪の敷かれた公園内に踏み込む。時折「何か感じるか?」と質問をする燕真。見廻して「ょくヮカンナィ」と答える紅葉。公園中央の亜弥賀神社付近では、立ち止まって付近を眺める。


「・・・ここ、一番ドンヨリしてぃる。」

「氷柱女の妖気か?」

「公園全体がモヤモヤしてるからハッキリとヮカラナィ。

 ・・・でも、ぁんまり近寄らなぃ方がィィかも。」

「なら、友達が近付かないように、こっちから迎えに行って、別の道を通るか?」

「ぅん!」


 2人は神社前を通過して、公園の東側出入り口を目指した。やがて、反対方向から、亜美が2人に手を振りながら駆け寄ってきた。傘を差してブーツは履いているが、紅葉とは違い、コートもストッキングも着ていない。生足全開である。見ている燕真の方が寒くなってしまう。


「ァミ、そんな格好で寒くなぃのぉ?」

「うん、こんなに雪が降ってるのに全然寒くないんだよね。」

「ぉ雪がァミの中で同居してるから寒さに強ぃのかな?」

「どうなんだろね?」


 亜美は、首を傾げたあと、燕真と紅葉を交互に眺めて「んふふ」と笑う。


「朝から熱いなぁ~~!」

「暑い?こんなに雪が降っているのに!?

 雪女って、この気候を暑いと感じるのか?」

「違う違う!クレハと佐波木さんのこと!」

「・・・・・はぁ?」

「ァタシと燕真?」


 意味深発言を聞いて首を傾げながら、燕真は紅葉を、紅葉は燕真を見つめる。そしてまた首を傾げる。


「2人とも鈍感だな~~。

 私は『朝から一緒なんてラブラブだな~』って言ってるの。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・朝から一緒?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・らぶらぶぅ?」

「そっ!ラブラブ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2



 笑みを浮かべる亜美。燕真と紅葉は、どちらからともなく赤面をした。


「ふぅんぬぅ~~~~~っ!!燕真とァタシゎそんなんぢゃなぃモン!!」


 紅葉は解りやすい照れ隠しを全開にして腕を振り回し、足元の雪を抱えて亜美にぶっ掛ける。亜美は笑いながら紅葉から逃げ回る。雪に対して年相応の反応を見せる女子高生達を眺め、思わず笑ってしまう燕真。

 しかし、いつまでも遊んでいるわけにはいかない。神社付近を避けて登校する為に、少しばかり遠回りをしてもらう必要があるのだ。燕真は「亜美が狙われていること」を悟られないように気を使って、言葉を選んで喋る。


「この先は雪が多くて歩きにくい。

 登校は、公園内じゃなくて、公園外周の歩道に行った方が良いぞ。」

「・・・え?学校?・・・あっ、やっぱり、クレハ、解ってなかったんだ?」

「んぇ?何の話?」

「紅葉からの連絡が来たあと直ぐに、学校から『雪で休校』の連絡が来たよ。」

「げっ!マヂで!?」

「クレハに電話しても出てくれないし、

 クレハの家に電話してお母さんに聞いたら、もう学校に行ったって言うから、

 もしかしたら、待ち合わせ場所で私を待ってるかもって思って来てみたの。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 紅葉がスマホを確認したら、学校からの休校の通知と、亜美からの着信が入っていた。ちょうど、夢中になって燕真とジャレていた時間帯だ。


「・・・あっちゃ~~~。」

「はしゃいで、早く来すぎなんだよ!

 平山さんが来なかったら、何も知らずに学校に行ってたんじゃないのか?」

「んへへっ!」

「笑って誤魔化すな!」


 にわかに風が出て来た。降っている雪が横殴りの吹雪に変化をする。同時に、紅葉の表情が険しく変化をした。風を背に受けて身を屈め、眼を細めながら、公園中央を睨み付ける。


「・・・ぃる。」

「・・・え?」

「来てぃるょ、燕真!昨日のヤツ!!」

「氷柱女か!?」

「ぅん!」


 燕真は構えながら紅葉と同じ方向を睨み、Yウォッチに手を添えた!直後に、ゴォォッっと轟音と共に猛烈な吹雪が吹き荒れ、3人の周囲をホワイトアウトさせる!あまりの強風で立っていられず、身を低くして耐える燕真!紅葉は悲鳴を上げながら、燕真の腕に抱きついて吹雪を凌ぐ!スカートが派手に靡くが、抑えている余裕が無い!


 数秒の後、吹雪は次第に治まり、視界が開けてきた。安堵の息をもらし、腕にしがみついている紅葉に視線を向ける燕真。些か驚いた表情で、髪が乱れたまま、燕真を見詰める紅葉。2人は眼を合わせたあと、周囲を見回して、身近で発生した異常事態に気付いた。


「・・・ァミが・・・いない!」


 強風に煽られて吹き飛ばされたのかと、付近を探す燕真。紅葉は、真っ直ぐに公園内を見つめる。


「燕真!ぁっち!!」


 紅葉に促されて公園内に視線を向けて眼を見開いた。神社周辺だけに白い雪煙が舞い上がり、積もった雪を舞上げ、降りしきる雪と相まって、吹雪を作り出している。 まるで、神社周辺の一角だけが白い壁に覆われているようだ。


「おいおい、どうなってんだ?」

「多分・・・アミゎ、あの中・・・。」


 Yウォッチに粉木からの通信が入る。


〈燕真!鎮守公園に妖怪反応ありや!〉

「今、その公園だ!目の前で異常が発生している!」

〈気ぃ付けや!〉


 通信を切り、駆け足で神社方向に向かう燕真と紅葉。しかし、渦巻く強風は、白い壁の内側に入ろうとする燕真と紅葉を拒んでいるようだ。


「うわっ!」 「きゃっ!」


 紅葉は強風に煽られて2~3歩後退をして、舞い上がったスカートを羞恥全開で抑える。


「オマエはココにいろ!」

「でも!!」

「戦闘中にスカートを抑えて蹲られていても、邪魔なだけだ!!」

「燕真のパンツ(ズボン)を脱いで貸して!

 どうせ変身するんだから、無くてもィィでしょ!?」

「良いワケ無いだろ!」


 燕真は、左手のYウォッチから『閻』メダルを抜き取って和船バックルに嵌めこんだ!


「幻装っ!!」 《JAMSHID!!》


 燕真の体が光に包まれ、妖幻ファイターザムシード登場!白い渦の壁に突っ込んでいく!



-猛吹雪の中心-


 氷柱女と亜美(人格はお雪)が争っていた!氷柱女が作り出した大きなつららが飛び、亜美(お雪)は雪の壁を作り出して防御をする!しかし、鋭利なつららは、雪壁を貫通して破壊した!


「・・・ちぃっ。」


 立て続けに飛んで来たつららを、亜美(お雪)は吹雪に乗って宙を舞い回避!だが、無数に飛んでくるつららの一つが、宙に逃げた亜美(お雪)の足元を掠めた!体勢を崩した亜美(お雪)が、凍てついた地面に落ちる!


「・・・くっ!結界まで造って、わたくしを狙うか!?」

「あぁ、そうだ!昨日のように、邪魔が入っては困るからな!!」


 雪女と氷柱女は、雪を降らせたり吹雪を起こす能力は、ほぼ共通だ。雪女の特殊能力は、生物の体温を奪い、凍死させること。氷柱女の特殊能力は、つららを作り出して攻撃をすること。同族には全く効果が無い氷結と、物理的なダメージを及ぼす攻撃。勝敗の行方は戦う前から決まっていた!


「おまえは所詮は人間を凍らせるだけ!

 寒さに弱い生物には強いのだろうが、私を止める手段は持ち合わせておるまい!」

「・・・ぬぅぅぅ」

「この地から手を引いて去るのならば見逃すつもりだった。

 だが、私への愚弄をやめる気は無いのであろう?もはや許す気は無い!」

「何のことだ!?」

「しらばっくれるな!!消えろ!!」


 氷柱女が凄むと、何者の侵入も拒むかのように戦場の吹雪は一層強まり、頭上にはこれまでより一回り大きなつららが浮かび上がり、氷柱女の右手にはつららで作られた剣が出現をする!氷の剣を構え、亜美(お雪)に突進をする氷柱女!!



-その頃-


「うぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!」


 1m先も見えない猛吹雪で突っ走るザムシード!侵入を拒む白い壁を抜けたらしく、ようやく視界が開け、周りが明るくなる!


「無事か、平山さんっ!」

「燕真!!?なんでぇ!!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え!!?」


 ザムシードが抜けた先にいたのは紅葉。吹雪で方向感覚を狂わされたザムシードが到達をしたのは出発地点。振り返り、神社の方向を見つめる。神社周辺の一角は、相変わらず白い壁に覆われたままになっている。


「どうなってんだ!?」


 スタート地点に戻ってきたのは、「ザムシードの天然ボケ」ではなく「氷柱女の作った特殊な空間に拒まれた」と、白い壁から漏れ出す妖気から紅葉に伝わる。

 氷柱女は亜美(お雪)だけを、白い壁の向こう側に閉じ込める為に連れ去った。このまま指をくわえて待っていれば、亜美とお雪は、氷柱女に殺されてしまう。


「ァミィィッッ!!!」

「お、おい!!無茶をすんな!!」


 居ても立ってもいられなくなった紅葉は、なりふり構わずに白い壁の中に突っ込んでいく!慌てて紅葉を追うザムシード!

 1m先も見えない猛吹雪を掻き分けて突き進むと、ホワイトアウトを抜けて視界が開く!


「紅葉っ!!」


 ザムシードが到達をしたのは、またもや出発地点だった。それまでと変わらない風景が目に映る。・・・しかし、たった1つ、先ほどと違う光景があった。


「・・・紅葉?どこに行った?」


 ザムシードの少し先を走っていたはずの、紅葉の姿が無い。僅か1~2秒程度のホワイトアウト寸前までは紅葉の後ろ姿を確認していたはずなのに・・・。


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