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9-4・亜美は雪女に憑かれている

-粉木宅-


 2人で適当に飯を食べるつもりだったが、紅葉があまりにも寒がるので、予定を変えて、粉木邸に転がり込むことにした。茶の間では、燕真&粉木がお茶をすすり、紅葉は、エアコン(暖房)の前に立って体を温めている。


「・・・・で、飯食うのをやめて、ここに転がり込んだんかい?」

「まぁ~な!

 真冬並みに室温が下げられた店内って・・・店長は一体何を考えてんだろうな?」

「・・・なぁ、燕真?」

「・・・ん?」

「おまん、全く気付いとらんのか?お嬢のツレ・・・憑かれとんで。」

「・・・・・え?」

「その娘をバイト先まで送って、その娘のとこで茶を飲んで、

 かなり長う接しとったようじゃが、なんも気付いとらんのか!?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「相変わらずダメなやっちゃのう。」

「・・・・・・・・・」

「いつもと違うて思わんかったか?」

「・・・そりゃ、多少は。

 でも、それなら紅葉が気付くんじゃないか?コイツ、普通に会話してたぞ。」

「お嬢は気ぃ付いた上で接しとるんやないか?どや、お嬢?」

「ん~、知ってるょ!ぁれ~?燕真も知ってると思ってたぁ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「燕真に会ったとき、ちゃんと『ぉ雪です』って自己紹介したょねぇ?」

「・・・あ゛~~~~~」

「思た通りや・・・オマン、どんだけ鈍いんや!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 燕真は、頭を掻きながら、放課後からファミレスまでの一連を思い起こしてみる。


「なら、もしかして、ファミレスが寒かったのは、

 平山さんに憑いている妖怪の所為か?」

「それは無いやろ!そないことすれば、センサーが反応するわい!」

「きっとぁれゎ、妖気とか関係無くて、

 ぉ雪が、ぉ店の温度を自分の過ごしやすい設定にしたからだねぇ。」

「ドリンクバーの故障は?」

「ただの故障でしょ。」

「俺のケーキセットがカチカチだったのは?」

「ぁのぉ店のケーキセットゎ、ぃつもぁんなだょ。

 普段なら、常温で少し解けて直ぐに食べゃすくなるんだけど、

 今日ゎ、ぉ店の中が寒かったから、解けなかったんだねぇ。

 もしかしたら、ぉ雪が運んだから、ぉ雪の体温で、もっと凍っちゃったかな?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そっか」

「ぅん」


 ファミレスで発生したことが、妖怪の悪事とは関係無いことは解った。だが、燕真は、まだ納得ができない。


「・・・てか、なんで、友達が憑かれてんのに放置してんだよ?」

「ぉ雪とァミが約束したから。ァタシもちゃんと立ち合ったょ!」

「どない約束や?」

「悪ぃことゎ絶対にしなぃこと。ァミを傷付けたりしなぃこと。

 ァミの体を借りるのゎ、ァタシの前と、1人の時と、どうでも良いときだけ。

 学校(特に先生の前)や、パパやママの前でゎ、ァミに体を返すこと。」

「それで、穏やかな平山さんと、異常に冷たい平山さんがいたワケか。

 ・・・・・・てか、俺は『どうでも良い』に入れられたワケね。」

「いつから気付いておったんや?」

「ァミの中にぃるのが解ったのゎ月曜日の朝だょ。

 土日に旅行に行って連れて来ちゃったみたぃだねぇ。

 でもね、最初ゎずぅ~っとァミの中に隠れてて、

 昨日の下校の時に初めてお試しでァミの体を借りたんだょ。」

「初めて表に出たんが昨日の放課後か。

 ・・・今日はどのタイミングで表に出よった?」

「放課後だょ!雪女のォーディションの時!」

「なるほどな、センサーが反応したんと時間が合いよるわ。」

「雪女役を雪女本人がやったのか?そりゃ、合格するはずだ。

 妖気反応の原因が判明して、悪い妖怪じゃないって解ったから事件解決か?

 ・・・事件起きてないけど。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ぅんぅん!解決だね!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 和気藹々と事件終了を喜ぶ燕真&紅葉とは対照的に、眉間にしわを寄せて黙り込んでいた粉木が徐に口を開く。


「なぁ、燕真・・・その妖怪が悪さをしないって保証できるんかい?」

「・・・・え?」

「この先ずっと、人間社会に馴染んでいけると思うんかい?

 人間と妖怪では、生活環境が違いすぎるで!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「なぁ、お嬢・・・妖怪はいつまで友達ん中におるんや?

 おまんの友達は、本当にそれで良いんかい?

 そろそろ、友達のバイトが終わる時間やろ!

 今から2人して会って、憑いてるモンには出て行ってもらい!」

「・・・・・・で、でも」

「でもやない!退治屋の仕事は人間社会に巣くう妖怪の排除や!

 今すぐに退治されても、なんも不思議じゃないんや!

 お嬢は、友達を危険に晒す気か!?

 何も起きんうちなら、ワシは聞かんかったことにも出来るが、

 問題を起こして存在が公になれば、そうはいかんで!

 退治屋が動かなアカンくなる!そいじゃ、遅いんやで!」

「・・・・・・ぅ・・・ぅん」

「・・・解ったよ」


 燕真と紅葉は、家から追い出されるようにして、再びバイクで亜美の所に向かう。


 粉木は窓から2人を眺めながら、こめかみに手を当てて目を閉じた。紅葉の情報を整理すれば、亜美の中の妖怪が表に出て来たタイミングと、センサーが反応したタイミングで辻褄は合う。しかし、妖怪の知識が無い紅葉が、何を根拠にして「安全」と言っているのだろうか?燕真に至っては、何故、紅葉の一方的な主張に疑問を感じないのだろうか?

 しばらくしてから目を開けて、遠い景色を眺めた。その視線の先には、羽里野山はりのやまが聳えている。


「アイツ等、よりによって。・・・嫌な予感がすんで!」


羽里野山はりのやま

 文架市の西側、隣の市の境界にある標高600mくらいの、何処にでもある山。

 手軽なハイキングコースがあり、小学校の遠足や中学校のキャンプに利用される。



-公園前通り-


 走行中のバイク上で紅葉が亜美のスマホを鳴らしてみるが、亜美とは連絡が付かない。


「まだバィト終わってなぃのかな?」

「DOCOSまで行ってみるか!」

「ぅん!行ってみて!」

「了解!」

「・・・・・・・・・・・・・ぁれっ?ちょっと待って!」

「どうした?」


 燕真はバイクを路肩に停車する。紅葉はヘルメットを脱いで、真剣な表情で周囲を見廻す。


「公園の中だけ・・・変な霧みたぃなのが掛かってるょ!ほらぁ!」

「ん?どこだ?」


 燕真は、紅葉の指をさしている公園の方向を眺めるが、紅葉が言うような現象は、何も感じない。だが、この展開はもう慣れている。燕真には解らないだけ。いつも、紅葉が反応を示す場所では、ほぼ間違いなく妖怪絡みの事件が発生しているのだ!


「行ってみるか?」

「ぅん!」


 燕真が目的地を変更してバイクを走らせると、今度は、粉木からの「鎮守公園で妖怪反応有り」との連絡が入った。やはり紅葉の感応は正解だ。公園の入口で、燕真はバイクを一時停止させる。


「オマエは降りろ。」

「なんでっ?ァタシも行く!」

「問答をしている暇は無い!

 オマエは、安全かどうかを確認してから来い!」

「ん~~~~~~~~~~っっ!」


 紅葉は露骨に不満な表情をしたが、燕真に説得をされてタンデムから降りた。紅葉が素直(?)に応じるのは、紅葉の直感が危険を感じているからなのだろう。つまり、公園に踏み込むには、それなりの覚悟が必要だ。

 鎮守公園内は車輌乗り入れ禁止だが、悠長なことを言える状況ではない。燕真は、一気合い発し、単身でバイクを駆りって公園内に乗り込み、左手のYウォッチから『閻』メダルを抜いて和船バックルに嵌めこんだ!


「幻装っ!!」 


 燕真の体が光に包まれ、妖幻ファイターザムシード登場!それまで見えなかった妖気が、妖幻システムを通して見えるようになる。続けて、Yウォッチから『朧』メダルを抜いて、Yウォッチの空きスロットルに装填。


《オボログルマ!!》


 ザムシードの背後の時空が歪んで、妖怪・朧車が出現!ホンダVFR1200Fに取り憑き、マシンOBOROに変形をした!




-鎮守の森公園内-


 帰宅中の亜美の前に、白い着物の女が立ち塞がっている。長くて乱れた青髪には雪の結晶のような氷の髪飾りを付けている。その肌は透き通るように白く、目は切れ長で鋭い。

 白い女を睨み付けながら、構えて数歩後退する亜美。白い女が手を上げると、頭上に霊気が集中をして、幾つもの全長1m程の‘つらら’を形作った!


「・・・消え失せろ!!」


 女が手を振り下ろすと同時に、冷たく尖ったつららが亜美に向かって飛んでいく!


「うおぉぉぉっっっ!!」


 亜美と白い女の視線を遮るように、横からマシンOBOROが飛び込んできた!タイヤを横滑らさせながらマシンを急停車させ、ザムシードが妖刀を振るって‘つらら’を弾き飛ばす!


「オマエ・・・悪いことはしないって、紅葉と約束したんじゃなかったのか?

 周りに誰もいなくなった途端に、憑依した平山さん本人を狙うとは、

 随分と礼儀知らずな妖怪だな!」

「約束?なんの事だ?」

「約束なんてハナっから聞く気なんて無いってか!?

 如何にも悪役って感じだな!」

「・・・フン!その女の肩を持つなら、容赦はしない!」


 白い女は手を掲げ、頭上に幾つもの‘つらら’を作って次々と撃ち出す!妖刀を振って襲い来る巨大つららを打ち砕くザムシード!

 所詮はただの氷の絡まりだ。それほど重たい飛び道具でもない。攻撃を凌ぐことに何の問題も無い。しかし、妖怪の標的は、ザムシードではなく亜美。攻撃をする為に亜美から離れれば、亜美が飛び道具の餌食になってしまう。このままでは攻撃に転じられない。


「飛び道具には飛び道具だ!」


 ザムシードは、Yウォッチのから『鵺』と書かれたメダルを抜いて、空きスロットに装填!目の前の時空が明るく歪んで、中から弓銃カサガケが出現する!

 武器を持ち替え、連射に特化した‘小弓モード’を選んで、次々と光弾を撃ち出し、つららを相殺するザムシード!妖怪とザムシードの間で幾つもの雪煙が上がって目眩ましとなり、つららの間隙を縫うようにして放たれた光の矢が妖怪の肩を掠る!

 小さく悲鳴を上げ、傷口を押さえて数歩後退する妖怪。肩からは、血の代わりに、白い冷気が吹き上がる。


「おのれ・・・揃って、我が安住を奪うつもりか。」

「約束破って、人を襲っておいて、その言い分はないだろう!!」


 ザムシードは、Yウォッチから抜き取った空白メダルを右足の窪みにセットして、ゆっくりと腰を落として身構える!右足が赤い光を纏い、妖怪との間に幾つもの小さい火が上がり、炎の絨毯を作る!

 そして、妖怪が頭上に浮かべていた巨大氷柱は、炎に熱せられて次々と砕けていく!


「これは・・・地獄の炎!?

 くっ・・・そうか・・・オマエが?」

「えっ!?」


 妖怪は、雪煙に溶け込むように一体となり、その場から消えた。

 構えを解き、念の為に妖気を探るザムシード。雪煙に紛れて見え隠れするのは、残存妖気のみ。妖怪本体は遠くに逃げたようだ。

 一般人を守ることを優先させた為、妖怪を仕留められなかったのは仕方がない。ザムシードは自分にそう言い聞かせて、一先ず、安堵の溜息をもらした。


ふぅーーーーーーーーーーーーーっっ!

 その直後、無防備の背後から、全身が凍り付くほどの冷気が浴びせられる!


「・・・え?」


 途端に視界が歪み、全身の力が抜け、真っ直ぐに立っていられなくなって、その場に両膝を着くザムシード!背後から白い手が回され、ザムシードの首を絞める!


「どういうつもりかは知らぬが、氷柱女つららめを退けたことは礼を言う

 だが、警告したはずだ閻魔!私に干渉するなと!」

「・・・お・・・おまえ?」

「足掻いても無駄だ!我が冷気により、おまえの神経は麻痺をしている!」


 ザムシードに守られていたはずの亜美が、全身から冷気を発しながらザムシードに襲い掛かってきた。首を掴んでいる手は氷のように冷たく、徐々にザムシードのパワーと体温を奪っていく。

 亜美の中から浮き上がるように、もう一つの姿が出現する。途端に、それまでザムシードの首を絞めていた亜美は脱力して、その場に倒れた。

 白い着物、長く美しい白髪、透き通るような白い肌、鋭く冷たい眼・・・その名は雪女!


「うわぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!


 ザムシードは、全ての生命力を、雪女に凍り付かされようとしていた!


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