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9-3・ファミレス二往復~紅葉は彼女?

 優麗高前のコンビニ駐車場に到着すると、店内で雑誌の立ち読みをしていた紅葉が、直ぐに気付いて駆け寄ってきた。今度は紅葉を乗せて、再びDOCOSに向かう。亜美とは違い、紅葉は、体を燕真の背中にピッタリと密着させながら、ペラペラと話し掛けてくる。いつもなら「運転に集中できないから少し黙れ!」と言うところだが、亜美から冷たい悪態を喰らったばかりなので、ちょっとだけ気持ちが和む。互いに服を着ているとは言え、密着している背中に暖かみを感じる。

 文架大橋西詰めで信号待ちをしながら、燕真はそれとなく亜美のことを聞いてみた。


「なぁ、平山さんて、あんなに喋らない子だったっけ?」

「ん!?ァミがどうしたの?」

「人見知りでおとなしい子だとは思っていたけどさ、

 あんなに喋らないとは思ってなかったよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ん?どうした!?」


 紅葉はしばらく黙ったあと、燕真の質問とは全く関係の無い質問を返してきた。


「ねぇ、燕真・・・

 もしさ、妖怪がぃて、でも、悪ぃことをしない子だったら、どぅなるの?」

「・・・ん?」

「悪くなぃ妖怪でも、やっつけなきゃなの?」

「う~~~ん・・・考えたこと無かったな。

 俺だったら、人に害の無い妖怪なら、放置しても良いと思うけど、

 粉木のじいさんならどう判断すんだろな?・・・なんで?」

「うぅん・・・気にしないで!ちょっと考えっちゃっただけ!」

「そっか!」


 信号が青に変わって前方の車が進み出したので、会話を止めて再び走り始めた。DOCOSに到着すると、先ほどとは違い、店の前には数台の自転車が駐輪してある。


「ぁ!サッチン達、もぅ来てる!」

「サッチン?」

「学級委員長の子だょ!会ったこと無かったっけ?」

「ね~よ!サッチンどころか、たまに話題に上がるミキとユーカも一緒なのか?」

「ミキとユーカは別のクラスなんだから、打合せに来るわけないぢゃん。」

「だからオマエの友好関係なんて知らないって。オマエがどのクラスかも知らない。

 俺が、オマエの同級生で知ってるのは、平山さんだけだ。」

「そうだっけ?でも、アミがいるから大丈夫だね!さぁ、行こぅ!」

「おうっ!・・・・・・・って、ちょっと待て!!『行こう』ってなんだ!!?」


「ん!?これから打合せだから一緒に。」

「はぁぁっっっ!!!?」

「ぇ!?ィヤなの!?」

「当たり前だ!!」

「なんで!?」

「『なんで』もクソも無いだろう!

 俺がオマエ等の学校の先生ってならまだしも、

 どこの世界に、文化祭の打合せに参加をする近所のオッサンがいるんだ!?」

「なら、先生のフリをすればぃぃじゃん!」

「オマエはバカか!?顔を出した瞬間にバレるわい!!」


「ぇ~~~~~~~~~~~~・・・ぢゃ、どぅすんの!?」

「な・に・が!!?」

「ァタシを待ってる間!」

「え!?待つの!?」

「ぅん!」

「帰っちゃダメなの?」

「ぅん!」

「ここで待たなきゃなの!?」

「そりゃそぅでしょ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「てっきり、打合せに参加してくれると思ってなのにぃ!」

「・・・・・それは・・・無い!」

「なんで?」

「話が堂々巡りすんぞ!」


 議論の内容がオカシくないか?ここは「ここで紅葉を待つ」「待たずに燕真はサッサと帰り、紅葉はここから自力で帰る」「一度帰るが、打合せが終わったあと迎えに来る」、この3点で議論をするところではないのか?

 「終わったら連絡するね~!」「めんどくさい!歩いて帰ってこい!」「え~、なんで?迎えに来てよ!」「イヤだ!なんで俺が!」、こんな言葉の応酬なら理解できる。・・・が、今の議論はなんだ?既に「待つ」は前提になっていて、「待ってる間、打合せに参加するかどうか」で揉めている。


「解った解った!だったら、別の席で飯でも食いながら待つよ!

 それで良いんだろ!?」


 先に帰るという選択肢が与えられていないのは納得できないが、一切関係の無い打合せに参加させられるよりは数倍マシだ。


「ご飯ゎダメ!今ゎドリンクバーとデザートだけにして!

 ご飯ゎ、打合せが終わったら、2人で一緒に食べようよ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はいはい」


 燕真は半ば諦めモードで頷く。かなり譲歩をして、ファミレスで紅葉を待ちながら、早い夕食を済ませて時間を潰すつもりだったのに、それも許してくれないらしい。今の時刻は16時半。3時間程度はここで足止めされる覚悟をするべきだろう。その間、妖怪反応の呼び出しが来ないことを願う。いや、むしろ呼び出された方が気楽かもしれない。


「ご飯ゎダメだからねっ!」

「アホじゃないんだから、何度も言われなくても解るよ!」


 店内に入ると、紅葉と同じブレザー姿の男女4人組が「こっちこっち」と手を振ってきた。紅葉は、小走りで寄っていって、ソファー席の女生徒に「ちょっと詰めて~」などと言いながら仲間達に合流する。


「なんでアイツがいんだよ?」

「ァタシのこと待っててくれてるの。」

「だれだれ?」 「彼氏?」

「んへへっ!ヒミツ!こっちに呼んで良い?」

「ちょっと格好良いじゃん。呼んで良いよ。」

「ダメに決まってんだろう。」

「お兄ちゃん?彼氏じゃなかったら、私に紹介してよ。」

「カッコ良くないから紹介したげない。」

「えっ?格好良くないの?」

「ぅん、燕真ゎ0点なの。」

「0点野郎と一緒にいると人間性疑われるぞ!」


 いきなり話題にされているようだ。燕真は、高校生グループの会話が聞こえないふりをして、離れた席に座る。グループの男子の中に、露骨に燕真を睨んでいるヤツが1人居る。多分、紅葉を好いていて、一緒に来た燕真を目の仇にしているのだろう。 ボロクソの評価をされて地味にイラつく。


(・・・せめて、俺に聞こえない声で喋れ。)


 店員呼び出しのチャイムを押すと、バイト中の亜美がオーダーを取りに来た。少々意外だが、さっき送った時とは違い、幾分かは愛想良く対応をしてくれる。


「え~っと、ミートドリアと唐揚げとドリンクバーでお願いします。」

「ドリンクバーとケーキセットですね。かしこまりました。」

「いや、ミートドリアと・・・」

「あちらの席の彼女様に、

 ドリンクとデザート以外はキャンセルするように言われてます。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」

「ご注文を繰り返させて頂きます。ドリンクバーとケーキセットですね。」

「・・・いや・・・あの」

「・・・・へぇ~、クレハのこと『彼女』って言ったのに、否定しないんですね。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

「紅葉も茶化すと照れて誤魔化しますけどね~。

 私には付き合ってるようにしか見えませんよ♪」

「・・・え~と・・・あの」


 亜美は嬉しそうな笑みを浮かべて去っていった。幾分かどころか、随分と愛想が良い。何度か、紅葉を挟んで会話をしたことのある、温和しくて穏やかな、燕真のイメージ通りの亜美だった。だったら、先ほどの無愛想&暴言を吐いた亜美はなんだ?双子?それとも2重人格なのか?


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ!」


 亜美の豹変に気を取られて、「彼女様」と「ケーキセット」を訂正するタイミングを逃してしまった!訂正を怠り、あとでこの件が紅葉の耳に入るなんて、想像しただけでも背筋が凍り付く!


(フロアに紅葉の友人がいるうちは、飯を頼んでもキャンセルされるだろうから、

 ケーキセットは甘んじて受け入れよう。

 だが、「彼女様」についてはキッチリと訂正しておかねばならん!)


 燕真は、ドリンクバーで煎れたホットコーヒーを飲みながら、その機会を待った。 しばらくすると、こちらに気を使っているのか、同級生に気を使うことができないのかは不明だが、紅葉が寄って来て、燕真の隣に密着するように座り、会議の進捗状況を報告しつつ意見を求めてきた。


「あっちに戻れ!」

「休憩っ!チョットくらいイイぢゃん。」

「なら、せめて、隣じゃなくて向かい側に座れ。」

 オマエの連れが、泣きそうな眼で俺を睨み付けて来やがるぞ!」

「ん!?ホントだ!永遠輝、どうしたんだろ!?」

「アイツ、トワキって名前なのか?」

「ぅん、そぅ!3足500円のソックスの右足片方だけみたぃな顔をしたヤツね!」

「・・・くつしたみたいな顔?逆に誰のことを言ってるのか解らなくなった。

 まぁ・・・彼は、俺のことが嫌いなんだろ?」

「なんでだろ?燕真って、人から嫌われるタイプじゃないのにね?」

「イイから戻れ!オマエがここにいると、俺がもっと嫌われる。」

「は~ぃ!」


 紅葉が仲間達の元に戻って数分後、亜美の手でケーキセットが運ばれてくる。「彼女様」を訂正するチャンスだ。


「なぁ、勘違いすんなよ。俺と紅葉は付き合うとかそんなんじゃ・・・」

「若僧!わたくしに話し掛けるなと言ったはずだ!殺されたいのか!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 店員さんが怖かったので訂正をできませんでした。それなりに愛想が良かったり、無愛想なんて次元を通り越すくらい態度が冷たかったり、何がなんだか解らない。あんな態度で客に接したら、即座にクビにならないか?もしかして、今のガキの間では、あんな遊びが流行っているのだろうか?

 燕真は不満げな表情をしながら、スプーンで、ケーキの横にあるバニラアイスを突いて、些細な違和感を感じ、店員さん(亜美以外)を呼び止めて質問をしてみた。


「あの、ケーキは凍っているんですけど。」

「アイスケーキなので当たり前です。」

「そりゃそうですよね~。」


 店員さんは「コイツ、何言ってんだ?新手のナンパか?」みたいな表情をしながら去って行った。確かにアイスケーキが凍っているのは当たり前だ。あんな質問をすれば相手にされないのは当然だろう。だが、凍りすぎている。スプーンもフォークの歯が立たないくらいカチカチに凍っている。

 つ~か、店内が寒い。外は涼しいのに冷房入れてんの?客への嫌がらせ?ハァ~っと息を吐くと白い。そのうち、他の客達も騒ぎはじめた。


「スミマセ~ン!暖房の温度を上げてくださ~い!」

「ドリンクバーが動かないんですけど~!」

「スープが冷えてます!」


 店員達が対応をしているが全く改善されない。どうやら、店内の空調、その他機械が故障をしてしまったようだ。


「このままでは風邪を引いちゃう。」

「今日の打合せは止めよっか。」


 打合せ中の紅葉達も、寒すぎて居心地が悪くなり、店から出る算段を始めた。店に紅葉を連れて来てから1時間も経過していないが、揃って会計に立ち上がる。3時間の足止めを覚悟していた燕真としては嬉しい誤算だ。

 同級生達を見送った紅葉が、燕真の元に寄ってくる。それを見た男子生徒(多分、永遠輝)が、窓の外から凄い形相でガンを飛ばしているのがウザイ。


「寒ぃっ!ぃこっ、燕真!」


 バイクに乗って風を受けることを前提に比較的厚着をしている燕真でも寒いのだから、スカートの紅葉が寒がるのは当然だろう。生足が真っ赤になっている。


「なぁ、この店って、いつもこうなのか?

 オマエの友達、よく、こんな店で働いてられるな?」

「さぁ~むぅ~ぃ~~~・・・風邪引くっ!」

「でも俺、まだ、カチカチに凍ったケーキセット、一口も食ってない。」

「ケーキぃぃから、もぅ帰ろっ!」

「あぁ・・・うん。勿体ないけど仕方ないか。」


 ケーキは惜しいが、目の前で震えている紅葉が見るに堪えない。燕真が会計をする為にレジに行くと、亜美が対応をしてくれた。燕真も紅葉も他の客も店員達の震えているのに、亜美だけは平然としている。


「平山さん、寒くないのか?」

「おまえには関係無いだろう!」

「ぁとで電話するねぇ。」

「いや、わたくしの方から連絡を入れるように心掛けよう。」

「ぢゃ、ぉ願ぃね。」

「あぁ、承知した。」

「バィバ~ィ。」

「うむ!風邪を引かぬように気を付けるのだぞ!」

「ぅん、ぁりがと!」


 亜美は、燕真への対応は冷たいが、紅葉とは比較的普通に会話をしている。

 会計を済ませて外に出てみると、店内よりも暖かい。たまたま、ブラックリストに載っている客が来店しており、その客を帰らせる為に店内の温度を下げて嫌がらせをしていたのだろうか?もしそうだとしても、巻き込まれた一般客は溜まったものではない。店の経営方針を疑ってしまう。

 燕真は、2~3回ほど店側を振り返ったあと、紅葉をバイクに乗せて店から離れる。


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