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9-2・ダイコン役者~妖気反応と優麗高~冷たい亜美

-仕切り直し-


 卓袱台の上にあるミカンの山を焚き火役にして、しばらく手を翳して暖まった(ふりをした)あと、粉木と燕真は横になって眠り始める。


ガタガタッ!スゥッ!バァン!!・・・・・・ガァン!!

 障子戸が勢い良く開いた拍子に戸枠から外れて倒れ、障子戸側で寝転んでいる粉木に激突した!


「あ痛っ!!」

「ぶぅ~~~・・・なんで外れちゃぅだょぉ~~~!?」


 しかし、紅葉は障子戸を退かして、そのまま芝居を続けるつもりらしい。


(これはコントか!!?)


 燕真はツッコミを入れたかったが、話が先に進まないので我慢をすることにした。

 紅葉は居間のテレビ側を観客席側とイメージして、大声でテレビに説明をするようにして台詞を喋る。


「ぉっほっほっほっほ!

 今からぁ、冷た~~ぃ息を吹きかけてぇ、茂作と燕真を殺しちゃぃまぁ~す。」

(粉木のじいさんは役名だけど、俺は名指しかよ!?

 ・・・てか、うるさい雪女だ!)


 燕真はツッコミを入れたかったが、話が先に進まないので、もう少し我慢をすることにした。

 紅葉(雪女)は、先ずは粉木(茂作)の元に行き、両膝を付いて顔を覗き込み、ふぅ~っと息を吹きかける。燕真(巳之吉)は居間(山小屋)で起きている異常に気付いて、ハッと起き上がった。

 粉木(茂作)を凍死させた紅葉(雪女)は、立ち上がって燕真(巳之吉)を見つめる。本来なら、白ずくめで冷たい目をした長い黒髪の美女なんだけど、燕真の目の前に居るのはブレザー姿で血色の良い紅葉。美女という共通点以外には雪女の要素は一つも無い。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 30秒ほどの沈黙のあと、死体役の粉木が、溜まりかねて薄目を開けて呟く。


「燕真・・・オマンの台詞じゃ」

「あぁ、そうだっけ?・・・え~~~~っと・・・・

 ひぃぃぃ・・・お・・・おっ父・・・」

「ぶぅ~~~~~~~~~~~~~!カット!!

 ちょっとぉ、燕真、気持ちを込めて真面目にやってょぉ!

 そんなんぢゃ練習にならなぃょ。」

「おいおい、オマエの練習なんだから、俺の演技力は関係無いだろ!?」

「ダメっ!ちゃんとやって!!」

「そうや、燕真!お嬢の為に、もうちっと真面目に付き合ってやりや!」


 粉木までもが起き上がり、紅葉に味方をして、燕真にダメ出しをする。粉木は、寝転んで息を吹きかけられて死ぬだけの役。いい気なもんだ。


「ならジジイが巳之吉役をやれよ!」

「そいでは、お嬢が役作りをできへん。」


 その後、ほぼ時間の無駄としか言えない‘雪女ごっこ’は2時間ほど続く。




-翌日の15時過ぎ・YOUKAIミュージアム-


 本日は定休日なのだが、昨日の妖気発生の件があり、燕真は粉木邸で待機をしていた。待機とは言っても、何も起こらなければ、居間で寝転がってセンベイを食べながらテレビを見ている程度である。

 休日跨ぎで妖怪が絡むと、必然的に粉木邸に待機になってしまい、どこにも遊びに行けなくなってしまう。


「まぁ・・・待機料がもらえるから、文句は言えないけどさ・・・。」


ピーピーピー!!!

 事務室に備え付けられた警報機が妖怪の出現の発信音を鳴らす。すかさず、粉木が情報を確認して、燕真に指示を出した。燕真は起き上がり、食べかけのセンベイを口の中に押し込む。


「反応は御領町、お嬢の学校のあたりや!!」

「了解!!」


 燕真は、ホンダVFR1200Fに跨がり、妖怪の出現場所の向けて走り出した!・・・が、僅か3分後、燕真が鎮守の森公園沿いの大通りに差し掛かる前に、粉木から「反応が消えた」との通信が入った。


「またかよ!ったく、何だってんだよ!」

〈念の為に、お嬢の学校付近を巡回してくれんか?

 何かあったら、また連絡をするよってな。〉


 粉木の指示に従い、周囲への警戒をしながら文架大橋西詰~御領町を見て回ったが、特に異変らしいものは無い。一応、優麗高付近をもう一度巡回して、正門前にバイクを止め、ヘルメットを脱いで一息ついてから校舎を眺める。


「そう言えば、今日、雪女役を決めるとか言ってたっけな。

 結果はどうなったんだろ?

 まぁ、アイツにゃ無理だろうけどな」


 しばらく眺めていたが、下校の生徒が正門から出て来たり、吹奏楽部の演奏の音が聞こえてきたり、運動部の威勢の良い掛け声が聞こえてくる程度・・・至って平穏で、特に問題は無さそうだ。


「アイツはもう帰ったかな?まぁ、どうでもイイか!」


 ヘルメットを被り直して、進行方向を帰路に向けて走り出そうとしたその時、スマホが着信音を鳴らした。ディスプレイには‘源川紅葉’と表示されている。燕真は、若干「面倒臭い」と感じながら、通話に応じる。


「・・・どうした?」

〈迎ぇに来てくれたのぉ?〉

「チゲーよ!」

〈アリガト~!今行くから待っててねぇ!〉

「だから違うって!」


 燕真には紅葉を発見できていないが、紅葉は燕真を発見したらしい。正門側に振り返ると、校舎2階の窓で、満面の笑みを浮かべた紅葉が顔を出して大きく手を振っていた。


「そういや今朝も雨が降っていたな。今日もバス通か?」


 5分後、紅葉が、友人を伴って駆け寄ってきた。燕真の肩や膝に触れるなどのスキンシップを取りながら馴れ馴れしく話をする。その喋り方は、学校内の皆に知る、少し早口で喋る紅葉とは違い、甘えた口調だ。紅葉を知る者からすれば、紅葉がバイクの男に、気を許して素の自分を見せているのがいるのが解る。


「彼氏か?」 「兄弟か?」


 校内でもトップクラスに入る美少女が、見知らぬバイク男と笑顔で会話をする光景。下校中の生徒達が興味津々に眺める視線が、燕真に突き刺さって痛い。


「・・・あ、そう言えばどうなった?」

「なにが?」


 燕真は、楽しそうに話し掛けてくる紅葉の背後で、無言で立っている友人に気を使い、共通になりそうな会話を振ってみた。


「雪女役だよ。特訓の効果はあったのか?

 まぁ、オマエが選ばれるとは思えないけどさ。」

「ん~~~~~~~~・・・ムカ付くけど、セーカイ!なんで解ったの?」

「オマエの昨日の演技で選ばれるワケ無いよ!」

「迫真の演技だと思ぅんだけどなぁ~~」

「いやいや、演技する気あるのか?ってレベルだ!」


「・・・わたくしの名は、お雪。」


 2人が会話をしていると、それまで、紅葉の後で黙っていたボブカットの友人が、小さく声で変な自己紹介をしてきた。燕真は、彼女が「お雪」ではなく「平山さん」と知っている。


「彼女、急にどうしたんだ?」

「ぉ雪役ね、アミに決まったの。」

「あれ、彼女も立候補してたのか?」

「昨日ゎしてなかったけど、今日になって急に立候補して、

 ァタシとアミとミミとモコでオーディションして、アミに決まったの。」

「へぇ・・・まぁ、オマエよりは、雪女役が似合いそうだな。」


 つい先程(放課後)、クラスメイト全員の前で立候補者達が‘雪女初登場シーン’を演じて、投票により平山亜美が選ばれたらしい。案の定、紅葉は雪女の要素ゼロの元気いっぱいな雪女を演じた為に、「やる気無いんじゃね?」と判断されて、再下位落選となったようだ。

 亜美が「お雪」なんて名乗っているのは、おそらく、役を勝ち取ったテンション&彼女なりのジョークなのだろう。燕真は、亜美に話を合わせて、ジョークを被せる形で返事を返した。


「あぁ、どうも!初めまして、お雪さん!俺を凍死させないでくれよ!あははっ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 亜美からの反応は無い。クスリとも笑わない。元々物静かでおとなしい娘とは思っていたが、無反応で返されると会話は続かない。

 一方の紅葉は、スペアのヘルメットを取り出して小脇に抱える。燕真が何を言おうとお構い無しでタンデムに跨がってくるのが、毎度のパターン。迷惑なりに慣れてきた。


「しゃ~ね~な~!乗・・・・・・・・・・・」


 しかし、いつものパターンと違った。スペアヘルメットを亜美に渡して「被れ」と促している。


「今から、クラスの発表会実行委員のみんなで、

 ァミのバィト先のDOCOSに行って打合せなんだけど、

 ォーディションに時間が掛かっちゃって、ァミがバィトに遅れそぅだから、

 まずゎァミを送ってぁげて!

 ァタシは、すぐそこのコンビニで待ってるから、その後で送ってもらえばぃぃょ!

 他のみんなゎ自転車だから心配しなくても大丈夫!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」


 聞き間違いだろうか?それとも、この女の頭がオカシイのか?今、この娘は、随分と不可思議なことを当たり前のように言った気がする。紅葉を乗せるのは想定内のつもりだったんだけど、なんか、違うことをほざいてないか?


 今の紅葉の言葉をジックリと訳してみよう。

 先ずは「実行委員のみんなで、ァミのバィト先に行って打合せをする」と言っていた。この件に関しては、YOUKAIミュージアムは定休日だから、紅葉がどこに遊びに行こうとも問題無い。「ご自由にどうぞ」である。

 次に「ァミがバィトに遅れそぅだから、まずゎァミを送ってぁげて」はどうなんだ?なんで俺が、大して会話をしたこともない紅葉の友人のバイトの時間まで心配しなきゃならない?これはオカシイだろう。紅葉は俺のことをタクシーか何かと勘違いしてないか?

 おまけに「ァタシは、すぐそこのコンビニで待ってるから、その後で送ってもらえばぃぃょ」に至っては、上記と総合で判断すると、友人を送ったあと、もう一度ここに戻ってきて、今度は紅葉を乗せて友人のバイト先に行けと言ってるのだろうか?何故、俺が、学校と友人のバイト先を2往復もしなきゃならないんだ?

 「他のみんなゎ自転車通学だから心配しなくても大丈夫」は、紅葉と亜美以外は、打合せ先まで自転車で行くってことだろけど、ハナから知らん奴の心配など一切していない。つ~か、なにか?「他のみんな」が徒歩の場合、「全員を送れ」と言うつもりだったのか?

 この女は何様のつもりなんだろうか?恋人か妻にでも気取ってるつもりなのか?・・・てか、恋人や妻だとしても、これは無いだろう!


「はぁぁっっっっっ!!!!なんで俺が!!?」

「ィィから、早く早く!ァミがバィトに遅刻しちゃぅょ~!」

「・・・・・・・・・・・・・問答無用かよ?」


 紅葉は「早く行け」と催促するし、亜美はチャッカリとタンデムに跨がっている。 何一つ納得できないのだが、ここで問答をしていても話は先に進まないので、仕方がなく亜美をバイト先まで送ることにして、バイクを走らせた。当然と言えば当然だろうけど、亜美は、紅葉ほど背中に体を預けず、遠慮がちに肩に手を乗せる程度だ。

 ちなみに打合せ場所の‘DOCOS’とは、文架大橋東詰から北側にあるファミリーレストランのことだ。川を挟んで、優麗高のちょうど対面にあるので、川を横断できれば10分で往復出来るのだが、もちろんそんなことは不可能で、文架大橋を迂回しなければならないので、往復で20分以上は掛かるだろう。


「なぁ、平山さん。紅葉のお雪役はどうだった?」


 どんな会話をすれば良いのか解らないが、バイト先までずっと無言では苦しいので、当たり障りが無くて共通の会話になりそうなキーワードを選んで話し掛けてみた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「再下位落選て言ってたけど、紅葉の演技は、そんなに酷かったのか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 反応は返ってこない。亜美はベラベラと喋るタイプではなさそうだし、大して親しくもない燕真とは話しにくいんだろうけど、無視は酷くないか?


「平山さんて、DOCOSでバイトしてたんだ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「今度食いに行くから、フライドポテトでもサービスしてくれよな!」

「うるさい、黙れ若僧!馴れ馴れしく話し掛けるな!殺されたいのか!?」

「・・・・・・・・・・え~~~~~~~~~~~~」


 慈善事業をしているつもりなのだが、やっと反応が返ってきたと思ったら、スッゲー睨み付けながら、凄まじい悪態を吐いてきた。


(俺、何か悪いことでもしたか?)


 この場で放り出したい気分だ。「活発で性格に難のある紅葉」と「穏やかで性格の良い亜美」と考えていたが違ったらしい。こっちはこっちで頭がオカシイみたいだ。優麗高って知恵遅れの集団なのだろうか?

 その後、一切の会話が無いまま、DOCOSに到着。亜美は一礼どころか振り返りもせずに、ヘルメットだけ置いて、店内に入っていった。


「・・・無愛想すぎだろ。俺のこと嫌いなのか?」


 燕真は大きく溜息をついて空を見上げた。緊張や怒りで気付かなかったが、体はスッカリ冷え切っている。今は10月。もう秋なのだから、涼しくて当たり前なのだが、急激に冷え込んできたような気がする。


「まるで冬みたいに寒いな。今日って、こんな天気だったっけ?」


 もう一度優麗高に行って、今度は紅葉を乗せなければならない。燕真は、手のひらで軽く両腕を擦ったあと、バイクの進行方向を、来た道に向けて、再び走り出した。


「俺・・・なにやってんだろ?」


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