番外②-8・良太の弱点~玉兎浄化~将来は退治屋?~憧れ
「魔王剣!紫電一閃っ!!!」
ルナティスは、瞬間移動にも等しいスピードで駆け、瞬時に間合いを詰めて、ザムシードの眉間目掛けて魔王剣を振り抜いた!だが、同時にザムシードが振るった妖刀のカウンターを喰らう!
「くっ!」 「うわぁっっ!!」
数歩後退をして片膝を付くザムシードと、弾き飛ばされて地面を転がるルナティス!またもや、渾身の一撃が決定打にならず、ルナティスは、上半身を起こして「信じられない」と言いたげにザムシードを見詰めた。
「痛ぇ~・・・目眩がした。・・・だけど。
だいぶペースが乱れてるみたいだな。
君から攻めちゃ、守主攻従とやらができてないぞ。」
「チィィッ!」
「それにさ・・・不殺活人だっけかな?
少林寺拳法のことは解らないなりに調べてみたけど、
武の目的は、正義を守ることであり、人を殺傷するじゃないって意味だよな?」
「それが何だよ!?少林寺拳法を知らない奴が、知ったようなことを言うな!」
「うん、俺は少林寺拳法を知らない。でも、君は知っているって言えるのか?」
「なに?」
「正義の為なら、不殺活人に反して、相手を嬲ってもOKってか?」
「だ、黙れっ!!!」
立ち上がり、ザムシードを睨み付けるルナティス!
「俺、今の攻撃を受けて解っちゃったんだ。
スピード特化の紫電一閃は、相手次第ではカウンターを喰らう危険性がある技だ。
多分、君がもう一回発動すれば、
俺は今以下のダメージでカウンターを叩き込める。」
「ハッタリだ!」
「渾身の真っ向斬りは一撃必殺で相手を倒さなければならない技だ。
紫電一閃を放って、相手に凌がれたら、
次は、相手の眼前で止まっている君が反撃を喰らう。」
「な、何が言いたいんだよ!?」
「ルーンなんとかも・・・紫電一閃も・・・
相手が、君よりも弱くて、喰らえば反撃をできないってのが前提なんだよ。
要は、人間相手に、戦闘力を行使して力に溺れているだけ。
しかも、君自身の内側にある力じゃなくて、妖怪に与えられた力だ。」
「う、うるさい!うるさい、うるさい!!」
「悪人が許せないなら、特別な物に頼らずに、自力で戦えよ!」
「それができないから、ウサの力を借りてるんだ!」
「他の奴が持ってない力に頼れば、他の奴より強くなって当然だ!」
「だからどうしたってんだ!!?」
「あげくに、例え悪人でも、病院送りにしたら、ただの暴力なんだ!
今の君は、力を持つ資格が無いって言ってんだよ!!」
ザムシード(燕真)は、ルナティスの正体が良太と知っている。知った上で、良太が目を覚ましてくれることを信じて、痛烈な批判をしている。これが、この戦いに迷い続けた末に、燕真が燕真なりに導き出した答え。
「だったらアンタはどうなんだよ!?
アンタだって、他の奴が持ってない力に頼ってるだろうに!!」
「だから、君の気持ちが解っちゃって、前回は満足に戦えなかった。」
「俺の・・・気持ち?まるで、俺を知っているような・・・」
「でも違うんだ。俺が間違ってた。
俺は、退治屋の力を妖怪退治にしか使わない。
もし、身近に居て大切な奴(紅葉)が暴漢や強盗に襲われたとしたら、
守る為には使うかもしれないけど、相手を痛め付ける目的では使えない。
それが、他の奴が持ってない力を行使する者のルールだと思っている。
不殺活人って、そう言うことだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ルナティスは、厳しく批判をされながら、不思議な思いに駆られていた。
ザムシードは、その気になれば簡単にルナティスを討伐できるだろうに、何故、説教をしている?まるで、知人に性根を質されているような錯覚に陥る。だけど説得をされて終わるつもりは無い。褒めてくれた燕真を思い描いて、「力を貸してくれ」との思いを込めて、首に巻かれたバンダナを握り締める。
「アンタの御高説は立派だよ!
だけど・・・はい、そうですかって、ウサを渡すわけにはいかない!」
「・・・そうか。そうだろうな。
多分、俺も・・・君と同じ立場なら退かないよ。」
ルナティスが魔王剣に気を込めたら、刃から光球が出現!八卦先天図に変形をする!
ザムシードは、Yウォッチから白メダルを抜いて、ブーツのくるぶし部分にある窪みにセットをする!
「獣化転神っ!!!」
「そのバンダナ・・・大事にしてくれて嬉しいよ。
もし、焼けちゃったら、君が望む新しいのを買ってやるからさ・・・。」
八卦先天図に飛び込んだルナティスが‘炎の獣’に姿を変え、高速で残像を作りながら、ザムシードの周りを飛び回る!一方、ザムシードの右足が赤い光を纏い、周囲に幾つもの小さい火が上がり、炎の絨毯を作った!炎獣の残像が、ザムシードの発する地獄の炎に灼かれて揺らぎ、ザムシードには本体のみがハッキリと見える!互いに向かって突進を開始するザムシードと炎獣!
「うおぉぉぉぉっっっっっっ!!! エクソシズムキィィーーーッック!!!」
「最終奥義っ!!バニング・バスタァァァァァァァァッ!!!!」
両者共に空中に飛び上がり、ザムシードが跳び蹴りの体勢になって激突!一瞬の間をおいて、炎獣が闇を撒き散らせながら弾き飛ばされ、地面に叩き付けられて悲鳴を上げた!
炎獣が解除されてルナティスの姿に戻り、首に巻かれていたバンダナが地獄の炎の余韻で焼け、更に、変身が強制解除をされて良太の姿が晒される。
〈アバヨ、良太。楽シカッタゼ。〉
「ウサっ!待ってくれっ!」
ウサの別れの挨拶が聞こえ、良太を覆っていた闇が拡散。ザムシードの足元に集まっていく。
〈アイツノ 精神ヲ 闇ニ落トス ツモリハ 無カッタンダケドナ。
残念ダガ 人間ト妖怪ハ 共存デキナイヨウダ。〉
拡散した闇は、上手く共存できなかった無念の言葉をザムシードに伝えて、ブーツの白メダルに吸収された。
「そうでもないさ。アイツ次第だけど、共存できる可能性はあるかもな。」
『兎』の文字が出現をしたメダルを抜き取って見詰めるザムシード。良太はウサもバンダナも失って俯いている。
「・・・なぁ、良太。」
ザムシードは、良太を見詰め、あえて良太の名を呼んだ。
「・・・え?」
「力を使って正義を通したかったら、公で正義の行使ができる警察官を目指せ。
俺に負けたのが悔しいのなら、退治屋になって俺よりも活躍しろ。
そのつもりがあるなら、上司に頼んで、このメダルは君の為に確保しておく。」
「・・・アンタ、一体?なんで俺のことを?」
良太は、問いながら、ザムシードが誰なのか、戦いの途中から気付き始めていた。 説教をされながら、ザムシードと、最近知り合った尊敬できる大人を重ね合わせていた。上半身を起こしてザムシードを見詰める。
「とっくに、ルナティスが良太って気付いていたよ。
だから、気持ちに共感しちゃって、最初の戦いでは迷ったんだ。」
ザムシードは、和船バックルから『閻』メダルを抜き取って変身を解除。燕真の姿に戻った。
「佐波木・・・さん。なんで俺って知ってたのに、教えてくれなかったんですか?」
「俺の正体を言ったら、今度は、良太が、本気で戦えなくなるだろ?
俺は、お互いに本気の状態で戦いたかった。
手を抜いた所為で負けて、後悔をして欲しくなかったんだ。」
「後悔・・・ですか。」
負けて、ウサを没収されて、悔しい気持ちはある。だけど、本気で戦って負けたんだから、「力不足だった」と考え、後悔の念は無い。反省があるとするなら、ウサのアドバイスを聞かずに、ザムシードに挑んでしまったこと。
「自力で帰れるか?」
「はい、帰れます。」
「じゃ、俺、連れを待たせているから先に帰るな。
高校を卒業して直ぐでも良い。大学に行ってジックリ考えてからでも良い。
その気があるなら、何年か先に退治屋の門を叩いて、俺の同僚になれよ。
元々強いんだから、良い退治屋になれると思うぜ。
玉兎は、その時まで預かっとく。」
燕真は、あえて挑戦的な笑みを浮かべて『兎』メダルをチラつかせた後、踵を返して、離れて見守っていた紅葉と粉木に迎えられる。
「燕真、お疲れっ!」
「おうっ!」
「ヒジョーに燕真らしい、檄アマな決着だね!」
「甘くはないだろ?結構、厳しく接したと思うぞ!」
「高校生を勧誘して、勝手に封印メダルを取り置く約束して、
経験年数が半年足らずの新米退治屋が、何様のつもりや?
オマンに、そんな権限は無いやろ。」
「まぁ、その辺は爺さんが、本部と上手く掛け合ってくれよ。」
「余計な仕事増やすな、アホンダラ。」
紅葉に皮肉を、粉木に小言を言われつつ、燕真はバイクに跨がって、タンデムに紅葉を乗せ、粉木は車に乗り、戦場から去って行った。
「・・・退治屋になれば、またウサに会えるのかな?」
良太は、燕真達を見送った後、寝転がって空を見上げた。
-回想-
‘あの日’は、夜の公園でジョギングをしていた。悲鳴が聞こえて、向かって行ったら、女の子が頭の悪そうな男達に‘力任せのナンパ’をされていた。割って入って、女の子は逃がしたが、多勢に無勢で男達にボコボコに伸された。良太は、自分の力不足が悔しかった。もっと力が欲しいと思った。自分の住んでる近所くらいは守りたいと思った。
「オマエガ俺ヲ呼ンダノカ?」
「・・・え?」
声がして、人語を話す妙な雰囲気の兎が、良太の顔を覗き込んでいた。
「力・・・欲シイノカ?」
「・・・う、うん」
良太は驚いたが、やや中二病気味だったので、天から授かった大いなる力(?)を、比較的すんなりと受け入れた。良太とウサの奇妙な友情は、その日から始まる。
-回想終わり-
惨敗をしたが、憑いていた妖怪を祓われた影響もあって、妙に清々しい気分だ。
「くそっ、格好良すぎるだろ。俺もあんなふうになれるのだろうか?」
まだ明確には決めていない。だけど、「ヒーローになりたい」という漠然とした夢しか持っていなかった良太は、将来の候補の一つと、目標にしたい人物を見付けた。
-翌日・あやかゼミ-
紅葉が亜美と共に入館したら、既に良太が来ていて、窓際の席に座っていた。紅葉は、自席に鞄を置いて、良太に寄っていく。
「ちぃ~っす!元気そうだね。」
「おす!まぁ・・・それなりにな。」
ルナティスの正体については、良太以外では、退治屋の関係者しか知らないので、昨日の一件について多くは語らない。
「なぁ、源川?」
「んぇ?」
「佐波木さんって、いつもあんな感じなのか?」
「あんな感じって、どんな感じ?」
「自然体が似合うって言うか、飾ってないのに格好良いって言うか・・・」
「んへへっ!」
「・・・なんで笑う?」
紅葉が邪魔な所為で、燕真をちゃんと観察できないので聞いたのに、何故か満面の笑みで返された。だけど、今の一連で予想できたこともある。
「キミさ・・・佐波木さんのこと、好きだろ?格好良いんだから、惚れ・・・」
「んぇぇぇっっっっ!!!?何それ!?
す、好きチガウ!燕真ゎ0点!カッコ良くない!」
紅葉の露骨すぎる対応で、予想は確信へと変わる。
「もの凄く解りやすい動揺だなぁ~。」
「ス、ス、スズキ君はど~なの!?もしかして燕真好きなの??」
「うん、好きだよ。」
「んぇぇぇっっっっ!!!?何それ!?
ぼーいずLOVE!?ァタシのライバル!?スズキ君、そ~ゆ~ひとなの!?
ダ、ダ、ダメだよ!燕真ゎあげないからっっ!!!」
「キミ、アタマ大丈夫か!?そ~ゆ~『好き』じゃねーよ!
しかも、3秒前に『好きじゃない』って否定したのに、
好きって認めてるじゃん。」
尊敬する燕真との接点は持ちたいが、当分は紅葉に独り占めをされて、キチンとした接点は作れそうにない。ハッキリと言えることは、紅葉はチョット特殊な子だけど、男性を見る目だけは確かと言うこと。良太は、溜息を付きつつ小さく笑う。
-YOUKAIミュージアム-
「ハックション!」
客の居ない店内で、燕真が大きなクシャミをした。
「なんや燕真、風邪か?」
「どっかの美女が、俺の噂をしてんだろ。」
「それは無い。有るとすれば悪口やな。」
「ハックション!」
燕真が再び、大きなクシャミをする。