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番外②-7・火像討伐~ザムシードvsルナティス

南真草なまぐさ寺―


 鎮守の森公園の北側に南真草寺と言う寺がある。その現住職が、推しのいる風俗に通う為に玄関から出て来たら、不意に地鳴りみたいな音がして、前方に黒い巨大な渦が湧いたので、「何事か?」と立ち止まって首を傾げる。


「パオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!」

「なっ、なんだあっ!?」


 渦の中から現れたのは、どう見ても象なんだけど、目が吊り上がり、口が耳まで裂けて尖った歯が生え、口の中で炎が燃え盛っていた!妖怪・火象かぞうが、啼きながら生臭坊主に迫る!




-YOUKAIミュージアム-


ピーピーピー

 紅葉が燕真のバイクのタンデムに乗り、皆で現地に向かおうとした矢先に妖怪発生の警報音が鳴った。


「どこかで鈴木君ルナティスが暴れているのか?」


 燕真の表情が緊張で硬くなる。


「場所は川東地区の南真草寺や。ルナティスとは、ちゃうようやな。」

「そっか、復帰の肩慣らしには、ちょうど良い!」

「妖怪討伐が前座扱いかいな?大きく出よったな。

 まぁイイ。オマンのマシンOBOROなら、間に合うはずや。」


 燕真はザムシードに変身をして、タンデムの紅葉に降りてもらい、マシンOBOROが発したワームホールに飛び込む!




-小拓町・鈴木家-


 良太は、自室のベッドに寝転んで、スマホで卑夜破呀事件の記事を読んでいた。玉兎が絨毯に寝そべり、生野菜が盛られた皿からブロッコリーを取って食べながら話しかける。


「サッキノハ チト ヤリ過ギダッタナ?」

「どうして?あんな奴等、粛正されて当然だろ?」


 罪の無い子供達や保護者を守る為に戦ったのだから、自分が正義に決まっている。クズ共に人権なんて要らない。クズの怪我を悲しむ家族がいたとしても、身内の非道な行動を黙認している時点で、同情の余地は無い。


「記事のコメントだって、俺を称賛してくれてるぞ。」

「批難モ 有ルンジャネーノカ?」

「俺の正義を理解できないバカなんて無視すれば良い。

 そーゆーヤツは、事件に巻き込まれても、助けてやらねーよ。」

「・・・・・・・・・・・・」


 ルナティスが称賛をされているのは、コメ主達にとっては、ルナティスと卑夜破呀がアカの他人であり、且つ、ルナティスを人間として認識していないから。

 ルナティスが人間と知られれば正体探しが始まり、正体が判明すれば気味悪がられるだろう。だが良太は、「世間の残酷さ」を全く予想していない。自分が正しいと信じ、皆が自分を尊敬すると甘い妄想をしている。


「マァ・・・オマエガ満足ナラ ソレデ良イ。

 ダガ コレデ 退治屋ハ 本腰ヲ入レテ 叩キニ来ルゾ。」

「妖幻ファイターってヤツな。来ても、また返り討ちにしてやるよ。」

「ソノ 妖幻ファイターガ出動シタヨウダ。」

「どこに?もしかして、ここに?」

「イヤ タチノ悪イ妖怪ガ出現シテ 制圧二向カッテイル。

 イイ機会ダ。退治屋ノ本気ッテノヲ 一度 見テオケ。」

「弱いヤツに興味無いけど、ウサがそう言うなら・・・。」


 良太はガレージに降りて愛車のギャグを引っ張り出し、ウサが指定した方向へと向かう。




―南真草寺―


 住職は、どうにか境内を逃げ廻って丸焼きにされるのを凌いでいた。しかし、塀際に追い詰められて、逃げ場無し。腰を抜かして座り込んだところで、火象が口の中に火を溜める!


「うおぉぉっっっっっ!!!」


 火象の真後ろにワームホールが発生して、中からマシンOBOROを駆るザムシードが出現!勢いを止めることなく、火象に前輪で体当たりを叩き込んだ!


「パオオオオ?」

「くそっ!デカすぎて弾き飛ばせないか!」


 巨体ゆえに、火象は、僅かに蹌踉けた程度!ザムシードは、マシンOBOROから降りて、妖刀ホエマルを構えた!火象は、長い鼻を振り回して叩き付けようとするが、ザムシードは後退をしながらホエマルで鼻先を弾く!


「坊さん!今のうちに逃げろ!

 コイツは、アンタの‘生臭’に誘き寄せられたらしい!

 今回は助けてやるから、露呈した生臭っぷりは恥じてくれよな!

 改めずに、別の火象に襲われたら、その時は見殺しにするぞ!」


 ザムシードは、住職を庇いながら火象を牽制!住職が逃げたタイミングを見計らって、勢い良く踏み込み、火象に妖刀の乱打を叩き込む!火象は、長い鼻を振り回してザムシードを退け、鼻で身近な墓の竿石を掴んで放り投げた!


「げっ!マジかっ!?」


 慌てて横っ飛びで墓の影に回避をするザムシード!投げられた竿石は、ザムシードが隠れた墓の石碑に当たって共に砕け、中台の影に隠れていたザムシードに破片が降り注ぐ!ザムシードは破片を却けながら墓陰から飛び出して火象に突進をするが、再び竿石を投げられて回避をする!回避をせずに、拳や妖刀で叩き砕けるだろうけど、罰が当たりそうな気がして尻込みしてしまう。


「くそっ!あんにゃろう・・・。俺は何も壊してないぞ。

 呪うなら、アイツ(火象)か、アイツを呼び込んだ住職を呪ってくれよな。」


 これ以上、墓を壊されると気分が悪いので、ザムシードは接近を諦めて、弓銃カサガケを装備!強弩モードでエネルギーをチャージして、墓の陰から半身を出して火象を狙い撃った!

 直撃を受けた火象が、悲鳴を上げて数歩後退!被弾した部位から、闇霧が血飛沫のように上がる!


「パオオオオッ!」


 火象は苛立ちながら火炎を吐いて、ザムシードを牽制しつつ、巨体に合わぬ俊足で逃走をする。狭い墓地で戦ったら狙い撃ちにされると判断をしたのだ。

 ザムシードは、逃がすつもりは無いが、墓地を荒らされるのは嫌なので、広い場所に出るまで、付かず離れずに追い立てる素振りで、マシンOBOROを駆って追走する。




―数分後・文架市街地付近の採石場―


 ウサの案内で良太が到着をすると、ザムシードと象の怪物が戦っていた。良太は岩陰に隠れて見守る。


「あの象が妖怪か?」

〈火象ダ。〉

「へぇ・・・見せてもらおうかっ!妖怪退治の専門家が温存した戦闘力とやらを!」


 鼻を振り回して突進をする火象に対して、ザムシードは、後退で距離を確保しつつ、弓銃カサガケ・強弩モードにエネルギーをチャージさせて強力光弾を放った!しかし、火象は、予想に反する素早さで回避をする!

 ザムシードは、弓銃を小弓モードに切り替えて、光弾の連射を浴びせた!火象は、大きな図体に相応しい体力と防御力を備えているらしく、致命的なダメージは通っていない!だが、一定の痛みに悶え、苛立ちながら炎を吐き出す!


「・・・くっ!」


 ザムシードは後退で回避をしつつ、弓銃を放棄して腰に帯刀された裁笏ヤマ(ナイフ型の木笏)を握り、グリップの窪みに、属性メダル『炎』を装填した!裁笏ヤマの刀身から炎が発せられる!


「熱さの我慢比べだっ!」


 炎を吐きながら迫ってくる火象!ザムシードはお構い無しに炎の中に突っ込んで、裁笏ヤマの刺突を放った!炎の剣が、火象の眉間を貫く!火象は悲鳴を上げながら、渾身の力で今まで以上の炎を吐いて抵抗!熱さに耐えきれなくなったザムシードが、大きく後退をして片膝を地面に付いた!


「我慢比べはオマエの勝ちかもしれないが・・・」


 両膝を地面に降ろす火象!プロテクターの表面だけを焦がされたザムシードに対して、火象は急所に致命打を喰らったのだ!


「・・・勝負はあったな!」


 ザムシードは、Yウォッチから白メダルを引き抜いて、右足ブーツのくるぶし部分にある窪みに装填する!


「閻魔様の・・・裁きの時間だ!!」


 ザムシードの右足が赤い光を纏い、周囲に幾つもの小さい火が上がり、炎の絨毯を作る!


「パオオオオッ!」


 炎を吐いて牽制をする火象!しかし、吐き出した炎は、ザムシードが地面に召喚した炎によって掻き消されてしまう!


「オマエのは、ただの炎!こっちは地獄の炎!格が違うんだよ!」


 腰を落として構え、顔を上げるザムシード!火象目掛けて突進してジャンプ!幾つもの火柱が上がり、体を押し上げられたザムシードが、空中で一回転をして火象に向けて右足を真っ直ぐに突き出した!


「うおぉぉぉっっっっ!!!エクソシズム(闇祓い)キィィーーーッック!!!」


 ザムシードが火象を貫通!火象は苦しそうな嘶きを上げて爆発四散!爆発によって撒き散らされた闇は、ザムシードのブーツに収束して、セットされていたメダルに『象』の文字が出現をした!



「なんだよアイツ・・・メチャクチャ強いじゃん。」


 物陰から「弱いヤツの戦いを高みの見物」くらいのつもりで観察をしていた良太は驚愕をする。ルナティスの戦闘力で、あれほど簡単に火象を倒せるとは思えない。


「コレデ解ッタダロ。奴トハ 絡ムナ。」

「ふ、ふざけんなよ。アイツ、俺をザコ扱いして、片手間で戦っていたのか?」


 玉兎は「立ち去れ」とアドバイスをするが、良太は聞かない。前回の戦闘でのザムシードの腑抜けた戦いぶりが、腹立たしく思えてくる。攻撃的な眼をして、頭に巻いたバンダナを外す良太。


「オイ!ドウスルツモリダ!?」

「決まってんだろう!戦って勝つんだよ!

 アイツがいたら、ウサが取り上げられちゃうんだろ!?冗談じゃない!

 なら、本気のアイツと戦うしか無い!」


「ヤレヤレ 頃合イ・・・カ。」


 良太の全身から邪気に似た闘気が発せられる。依り代と妖怪が協力関係でも、憑かれているという事実は変わらない。良太の負の感情は、玉兎の妖気に蝕まれ始めていた。


〈コイツヲ 俺カラ 解放シテヤッテクレ。〉


 ザムシードは、聞き覚えの無い自分だけに届いた声を聞き、同時に妖気の発生を感知。振り返ると、ルナティスが立っていた。首には、燕真が贈ったバンダナを巻いてある。


「君の方から姿を現すなんて、どういうつもりだ?」

「越えたくなったんだよ。アンタという壁をね。」

「壁になったつもりはないんだけどな。

 ・・・まぁ、呼び出す手間が省けて助かる。」


 構えるザムシード。連戦はキツいが見逃すつもりは無い。まだ迷いはあるが、手を抜くつもりも無い。一方のルナティスも、ザムシードに対して構える。

 火象の妖気反応を追って来た粉木と紅葉が、スカイラインから降りて、離れた場所で見守る。


「なんでウサギヤロー?別のヨーカイぢゃなかったの?」

「よう解らん。

 退治屋の責務を果たすか、また迷って負けるか、燕真にとっての正念場や。」


 しばしの睨み合いの末、ザムシードが気勢を上げて突進をする!ルナティスは「懐に呼び込んで、得意の少林寺拳法で崩す」と算段をするが、ザムシードは距離が10mほどまで接近したところで、裁笏ヤマを装備して振り上げた!


「少林寺拳法相手に、丸腰で突っ込むつもりは無い!」

「拳じゃ適わないから武器か!?

 だけど、俺は、武器に対する護身だってマスターして・・・」


 武器ごと腕を弾けば良いだけ!ルナティスは、裁笏ヤマの切っ先に神経を集中させる!だが、距離が3mまで狭まったところで、ザムシードは裁笏ヤマを投擲した!


「なにっ!?」


 想定外を喰らったルナティスは、手刀を振るって裁笏ヤマを弾き落とす!次の瞬間、裁笏のみに集中をしてしまったルナティスに、ザムシードの上段蹴りが炸裂した!


「ぐわぁっっ!!」


 弾き飛ばされて地面を転がるルナティス!ザムシードは、追い撃ちを掛けることなく構える!


「これで、拳法であしらわれた借りは返したぞ!

 まぁ・・・少年に対して、チョット大人げ無い気もするが・・・。」

「・・・くっ!」


 立ち上がって構えるルナティス。ザムシードが妖刀を装備したので、ルナティスも魔王剣を召喚して握る。


「守主攻従・・・だっけ?先手は苦手なんだよな?なら、こっちからいくぞ!」

「お気遣いどうも。でも苦手なわけじゃない。」


 突進をするザムシード!ルナティスは、魔王剣でザムシードの妖刀を受け止める!互いの剣がぶつかった衝撃で、力負けをしたルナティスが半歩後退!ルナティスは、今の激突で「ザムシードが前回よりも攻撃的」と感じる!


「パワー勝負では分が悪いか・・・」


 ザムシードの振るう妖刀を魔王剣で受け止めつつ、押し込んでくる勢いを利用して大きく飛び退くルナティス!


「だけど、スピードなら俺がっ!」


 魔王剣を逆手で持ち替えて構えるルナティス!一方のザムシードは、勢いを付けて飛び掛かる!ルナティスの思惑通りだ!


「魔王剣っ!!ルーンキャリバー!!」


 突進を開始した次の瞬間には、ルナティスはザムシードの懐に飛び込んでいた!目にも止まらぬスピードで魔王剣を振るうルナティス!だが、ザムシードは、素早く幾重にも振るわれる剣閃のうちの、正面に飛んでくる数閃を弾き、ルナティスの体勢を崩して、胸に刺突を叩き込んだ!


「なにぃっ!?」


 胸プロテクターから火花が散り、数歩後退をして尻餅をつくルナティス。前回はザムシードを沈黙させたはずの必殺剣が、簡単に攻略されてしまったことが信じられずに、ザムシードを見上げる。


「無数の剣閃のうちの大半が威圧の為の目眩まし。無視をしても問題無い。

 しかも、素早さを優先するあまり、打ち込みが軽くて簡単に弾ける。

 人間相手なら、その威力で充分だろうけど、俺には通用しない。」

「クソッ!・・・だったら!」


 ルナティスは間合いを開け、剣を逆手に持って身を低くして構えた!



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