番外②-6・良太慢心~ルナティス暴走と燕真の決意
―数十分後・川東の一軒家―
鎮守の森公園より北側の小拓町にある、何の変哲もない建売住宅。ガレージには、白いスズキ・ギャグが止まっている。
その家の2階にある一室。壁にはロボットや特撮のポスターが貼られ、棚にはロボットやヒーローのフィギュアが飾られた部屋で、良太がベッドに引っくり返って天井を眺めていた。
本職ヒーローみたいなヤツと遭遇して驚いたが、戦ってみたら凄く弱かった。あんなので本職を気取れるなら、自分はもっと上の大ヒーローになれるのではないか?気がついたら、自然とニヤケ顔になってた。傍らの床では、玉兎がニンジンを食べながらマンガ読んでる。
「今日は、今までで1番充実してたな。」
「満足カ?」
「そりゃそうだろう。妖怪を祓う専門家より強いってのを証明できたんだぞ。
俺とウサのコンビは、向かうところ敵無しってことじゃん。」
「奴トハ 二度ト戦ウナ。」
「ん?どういうこと?邪魔してきたら、また倒せば良いだけじゃん。」
「奴ハ マダ余力ヲ残シテイタ。」
「は?手を抜いて戦ってたってことか?」
「ソウ言ウ事ダ。」
「意味がわかんね~よ!
負けた時の言い訳をする為に、本気を出さないような腐った奴か?
それとも、俺を舐めて、本気を出す前に負けたマヌケか?」
「サァナ。ソコマデハ 解ラン。」
「なんか、腹立つな。」
「ソウ言ワズ 勝チ逃ゲデ 終ワラセテオケ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ウサは悪気の無い注意喚起のつもりなんだろうけど、せっかく良い気分が害されてしまった。
「あのさぁ、ウサ・・・こ~ゆ~時は、俺の戦術がアイツの真価を封じて・・・。」
母親が階段下から「良太~っ!お風呂入っちゃいなさいっ!!」と、大声で呼ぶ声がする。
「はいよっ!大声出さなくても聞こえてる!」
溜息を吐いて起き上がる良太を、玉兎が目を細め、チラッと見上げながら言う。
「鈴木良太・・・・平凡ナ名前ダヨナ」
「・・・それ言うなよ、気にしてんだから。」
第一印象からして平凡。良太は、それが嫌なので、拳法を習ったり、バイクに乗るなど、周りの同世代とは違うことをして「平凡ではない自分らしさ」で承認欲求を満たそうと心掛けている。
「でもさ、あの人は、普通なのに格好良いんだ。」
佐波木燕真は違った。名前は非凡で、容姿は合格点だが、あとは全て平凡。だけど、承認欲求を満たす為に自分を大きく見せるワケでもなく、だからと言って平凡な自分にイジケているわけでもない。
良太は‘燕真に貰ったバンダナ’を頭から外して見詰める。平凡な燕真に親しみやすさを感じ、且つ、ありのままの自分をキチンと受け入れている燕真に、ある種の格好良さを感じていた。
-本陣町・燕真のアパート-
燕真は、寝転がったままボケッとテレビを眺めていた。
「俺の方が普通・・・全然似てない・・・か。」
紅葉に言われた言葉を思い出す。「似ている」と、良太にシンパシーを感じていたのは燕真だけで、傍から見たら全く別物で、良太は「似ている」と思われることを迷惑に感じているのだろうか?
「あ~~っ!ムシャクシャする!!」
粉木に退職届を提出するつもりは無いが、まだ「割り切る」という答えには辿り着けていない。
部屋の中でボケッとしていても、余計なことばかり考えてしまう。こんな時は、何も考えずに汗をかいた方が良い。燕真は、ジャージに着替えてジョギングに出掛ける。
-数日後・駅の西側にある町-
良太がバイクを走らせていると、子供神輿を担ぐ十数人の子供達と、それを囲んで誘導する保護者達が見えた。近くの広場では屋台の出店も出ている。町内会や子供達を中心にした町内の祭りが行わるようだ。
「わっしょい!わっしょい!」×たくさん
良太は、特に興味を示すでもなく、一定の気を遣って、超過気味だったバイクの速度を落として、横目で見ながら脇を通過した。
「・・・ん?」
しばらく直進をすると、対面から明らかな‘違法改造されたバイク’の集団が連なって、蛇行運転をしたり、爆音やクラクションを鳴らしながら走ってくる。
「ひゃっはぁ~~!!」
「わっ!危ねっ!!」
車線からはみ出して、対向車線の良太や一般車両を威嚇しながら通過していく者もいる。前の車のブレーキランプが点灯して、路肩に停車して改造バイク集団の通過を待ったので、良太もバイクを路肩側に寄せる。その脇を、改造バイク集団が通り過ぎていった。
「迷惑な連中だ。」
改造バイク集団は、【卑夜破呀】というチームの暴走族だ。意味も無く走行中の一般車に絡んだり煽るのは日常茶飯事の連中なので、良太は絡まれずに通過してくれたことを安堵する。だが、直後に、先ほど通過したばかりの子供神輿を思い出した。意味も無く対向車を威嚇する者達が、反撃能力ゼロの子供神輿を見たらどうなるのだろうか?
「チィ・・・嫌な予感がする!」
思い過ごしで済めばそれで良い。良太は、次の交差点でUターンをして、念の為に、子供神輿の安全確認に向かう。
-子供神輿-
地響きみたいなエンジン音が鳴り響く。楽しむ子供達と見守る保護者達は、「何事?」と眺めると、対面側から改造バイク集団が走ってくる。一方の【卑夜破呀】は、子供を中心とした集団や広場の出店を見付けて、対向車線を無視して押し寄せてきた。リーダーらしき奴が金属バットを振り回して号令する。
「ガキ共の祭りなんてブッ壊せ!!これが、俺等の祭りだぁっっ!!」
「ひゃあああああああっっっはああああああああああっっっ!!!!!」×いっぱい
突然破壊された楽しい時間。泣き喚く子供達。金属バットやバイクが相手では、保護者達は対抗する手段が無い。子供達に神輿を放棄させて、抱きかかえて逃げる。金属バットで無残に叩き壊され、バイクで踏み潰される神輿。【卑夜破呀】メンバーの数人が、出店を叩き潰す為に、広場に乗り込んでいく。
「やめろぉぉぉっっっっっっ!!!!」
レプラスを猛スピードで駆るルナティスが突っ込んできた!子供達に襲いかかる数人を弾き飛ばしてからレプラスを回頭して、再び突っ込み、納刀したままの魔王剣を振るって【卑夜破呀】メンバーの数人を薙ぎ倒し、出店前を破壊する連中を成敗する為に広場へと向かう!
一方、好き勝手に暴れ回っていた【卑夜破呀】は、リーダー格の合図で、広場に入ってきたルナティスを取り囲んだ!
「先日の銀行強盗と、鎮守の森公園のナンパを妨害したのはテメーか!?」
「だったらどうした!?」
「ダチに恥をかかせやがって!」
「・・・狙いは俺!?」
銀行強盗と、鎮守の森公園の暴漢は、【卑夜破呀】のメンバーだった。奴等は、ルナティスに倒された仲間の復讐をする為に、大掛かりな破壊活動をして、ルナティスを誘き出したのだ。
「気に入らないな!だったら、最初から俺を狙えってんだ!」
自分を誘き出す為に、無関係な子供達にトラウマ級の恐怖を与えたと思うと、腹が立って仕方が無い!ルナティスは、怒りで震えながら、全方位を囲んでいる【卑夜破呀】を睨み付けた!
-鎮守の森公園-
燕真がジョギングをしていた。一定の霊感があれば、何らかの胸騒ぎくらいは感じるのだろうが、燕真にそれは無い。ルナティスの出現など、一切気付かずに、イヤホンで好きな曲を聞きながら走り続ける。
運動が好きというわけではないが、家の中で悶々と塞ぎ込んでいるのは嫌い。バイクでカッ飛ばして気を紛らわせるのも嫌いではないが、結局は、気分転換にはならなかった。それならば、物に頼るより、身一つで、体力を追い込んで鬱憤を吐き出したい。
「あの防犯灯から神社までダッシュ!」
ノルマを課し、ジョギングからダッシュに切り替える。直後に、ポケットの中のスマホが、紅葉専用の着信音を鳴らしたので、ペースを落として通話に応じた。
〈燕真!ニュース見た!?〉
「見てない。今は出先だ。」
〈大変だよっ!〉
「なにがっ?」
〈ウサギヤローが事件起こしたのっ!〉
「・・・・・えっ?」
燕真は、立ち止まり、通話状態のまま、ニュース記事を検索する。
【文架市郊外の祭りで大乱闘 暴走族と謎の人物の抗争 30人重傷・5人重体】
『【卑夜破呀】の呼ばれる暴走グループが、町内の祭りを妨害した。そこへ【ウサギ仮面】が駆け付けて乱闘になり、メンバー30人が、骨折や火傷などの重傷。5人が意識不明の重体』って内容だった。
いくつかの画像や動画がアップされており、現場検証に追われてる警官達の姿や、粉々になった神輿、打ち壊された出店、そして、そこかしこで大破したバイクが転がっていて、現場の物々しい様子が充分に伝わってくる。
現場は、祭りの広場だけではないらしい。広場での乱闘のあと、逃走する卑夜破呀と、追うルナティスのバイクチェイスに発展をして、文架駅の西側で卑夜破呀の被害が出ていた。信じたくないが事実らしい。
「・・・鈴木君が?」
〈どうすんの、燕真?〉
記事のコメント欄では、「卑夜破呀なんて罰を受けて当然」などのルナティス擁護意見もある。燕真も内心では同意見。だけど、例え一般人を守る大義があっても、私刑は許されない。ルナティスの力が有れば、卑夜破呀の戦闘能力だけを奪って、警察に引き渡すことだって可能なはずなのに、あきらかに過剰攻撃をしている。
数日前に粉木が言った「共存状態でも依り代は妖怪の影響で精神を闇に落とす」という言葉を思い出す。
「・・・憑いた妖怪の干渉か。」
〈そうみたい。〉
ザムシードと対峙をした時のルナティスも攻撃的だったが、暴漢に対しては軽傷で抑えていた。だが今回は違う。あきらかに、自制できなくなっている。
今更、「良太から妖怪を奪わなければならない理由」が理解できた。初対峙の時に、迷わずにルナティスを倒せていれば、今回の事件は起こらなかったのだ。燕真の甘さが、良太を加害者にしてしまったのだ。
〈やっぱり、やっつけなきゃみたいだね。〉
「・・・だ、だけど、相手は鈴木君なんだぞ。」
〈だからなに?〉
「友達なんだ。」
〈シッカリしてよ燕真!いつまでもムラムラしてないでっ!〉
「ムラムラはしていない!」
〈燕真ゎ諦めちゃダメなの!〉
「オマエに俺の何が解・・・」
〈燕真ゎ0点でも最後まで頑張るヤツなの!!
今は、ウサギヤローを止めなきゃダメな時ぢゃん!
燕真らしく止めて、文句言われちゃったら、次は退治屋と戦えば良いぢゃん!〉
「そんなムチャクチャな!」
〈燕真ゎそ~ゆ~ヤツなの!0点でも、ァタシが応援してあげるからっ!〉
〈・・・紅葉。〉
年下の小娘にここまで言われてしまったら、もう、迷ってる暇も、言い訳をする気も無い。燕真はジョギングを中断して駆け出し、自宅経由でYOUKAIミュージアムに向かう。
-YOUKAIミュージアム-
「燕真ゎ絶対来るのっ!だから、もうチョットだけ待ってっ!」
燕真が到着すると、車で現場に向かおうとする粉木を、紅葉が通せんぼして止めている。紅葉は、「優しい燕真が、この事態を放置できるわけがない」と確信していたのだ。
「爺さん!紅葉っ!」
「割り切れたんか?」
「正直言って、完全に吹っ切れたわけじゃない!
でも、やらなきゃならないことは解っている!」
「そうか。やったら、行動で証明してみぃ!」
粉木は、車の助手席に置いてあるYウォッチを手に取って、燕真に投げて渡す。燕真は、返されたYウォッチを握り締めて粉木を見詰めた。
「・・・粉木ジジイ。」
「誰が子泣き爺や。
依り代は、妖怪の影響で攻撃的になっている可能性が高い。
ほぼ確実に戦いに成るぞ。」
「そのつもりで、俺はYウォッチを受け取りに来たんだ。」
燕真が駆け付けることを想定していなければ、Yウォッチは事務所内に保管されているはず。紅葉だけでなく、粉木も「燕真は来る」と信じていたことを、燕真は理解する。