番外②-5・敗北~Yウォッチ没収~燕真は超普通
ザムシードは、Yウォッチから属性メダル『炎』を抜き取って空きスロットに装填!気合いを発して、両拳に炎を纏い、ルナティスに突進をする!
ルナティスは、「ザムシードの動きは先程までと大して変わらない」と判断して、ザムシードの拳を上受で弾いた!受け流されたザムシードの拳が、ルナティスの顔の真横を通過!
「なにっ?」
炎属性を帯びた拳が、ルナティスの仮面を熱する!
「今までと同じと思うな!」
2発目のパンチがルナティスの顔面を襲う!ルナティスは、頭を下げて回避!「ルナティスの構えを崩した」と判断したザムシードは、上段蹴りを放った!ルナティスは、弾かずに両腕をクロスさせてガードするが、力負けをして3歩ほど後退をする!
「獣の習性?・・・そんなに炎が怖いか?それとも、顔面を狙われたくないのか?」
両腕のガードを解いて、再び身構えるルナティス。ザムシードの視線が、ルナティスの首に巻かれた‘赤いマフラーのような物’に奪われる。
「・・・ん?」
ルナティスが防御のペースを乱してまで、守りたかったのは、顔ではなく首のマフラー?
「炎の拳に対して、拳では分が悪いか。・・・魔王剣召喚!」
ルナティスが左腕を前に出したら、光と共に剣が出現!切っ先をザムシードに向けて中段に構える!ザムシードは、Yウォッチから『蜘』メダルを抜き取って空きスロットに装填!目の前に出現した妖刀ホエマルを握り締め、同様に中段で構えた!
「はぁっ!!」 「やぁっ!!」
ザムシードは、ルナティスのマフラーを気にしながら突進!妖刀ホエマルと魔王剣がぶつかり切り結ばれ、ルナティスのマフラーを、ザムシードは間近で確認する!
「・・・これって?」
それはマフラーではなくバンダナだ。ザムシード(燕真)は、模様を確認せずにプレゼントしてしまったが、そのバンダナに見覚えがある。
「・・・オマエ?」
「隙ありっ!」
ルナティスは、ザムシードが動揺で僅かに力を抜いた隙を見逃さず、力押しでザムシードの体勢を崩し、更に、蹴りを放ってザムシードを突き飛ばした!魔王剣を腰の鞘に納刀したルナティスが突進をする!
「魔王剣・・・・・ルーンキャリバー!!」
疾風のように駆けながら抜刀!瞬く間に、ザムシード目掛けて、何十回と剣を振るった!
「う、うわあああああああああっ!!!!」
魔王剣の乱打を喰らって弾き飛ばされ、地面を転がるザムシード!
「やはり、上っ面だけが立派で中身の無いヤツだったようだな!
我が裁きの爪によって朽ちろ!」
ルナティスが魔王剣に気を込めたら、刃から光球が出現!八卦先天図に変形をする!
「獣化転神っ!!!」
叫んで八卦先天図に飛び込んだルナティスが‘炎の獣’に姿を変え、ザムシードに突っ込んできた!ザムシードはホエマルを構えて迎撃の体勢になるが、炎の獣は真っ直ぐ突撃と見せかけて、途中でジャンプをしてザムシードを飛び越えて着地!残像が見えるようなスピードで走り回って撹乱をする!
「くっ!本体はどれだっ!?」
「絶望の深淵で瞑れ!!最終奥義っ!!バニング・バスタァァァァァァッ!!!!」
ザムシードの死角から飛び込む炎の獣!バニングバスター炸裂!
「ぐはぁっっ!!」
ザムシードが、大きく弾き飛ばされた!炎の獣が解除されて姿を現したルナティスの背後で、ザムシードが全身から無数の火花を散らせながら墜落!ルナティスは、魔王剣を振り上げて、大ダメージを受けて動けなくなったザムシードに突進をする!
「俺の正道を阻む者は何人たりとも許さんっ!これで終わりだ!!」
ウ~ウ~ウ~
「ケーサツが来るぞっぉ~!!」
「お巡りさん!喧嘩はこっちです!」
サイレン音がと通行人の叫び声が耳に届いて、ルナティスが我に返る。先ほど助けた女子高生が通報したらしく、遠くにパトランプの点灯が見える。
暴漢共を成敗するだけなら1分もあれば完了させて、人が集まる前に退散することができたが、人外相手に時間を掛けすぎてしまった。批難されるような悪いことはしていないが、ヒーローが正体を晒して警察の事情聴取を受けるわけにはいかない。
「チィッ!・・・ここまでか!」
ルナティスは、ザムシードへのトドメを諦め、颯爽と駆けて去っていく。
「ウサギヤロー行ったよ、ジイチャン!」
「おうっ!」
通行人のフリをして警察を呼び込んだ2人組=紅葉と粉木が、茂みから顔を出して、ルナティスの撤退を確認。ザムシードに駆け寄って、粉木が和船バックルからYメダルを抜き取り、変身を強制解除させた。
「燕真、ダイジョブ?」
「立てるか?」
「辛うじて・・・な。」
ウ~ウ~ウ~
警察の事情聴取を受けたくないのは、粉木達も同じ。ダメージを受けて脱力をした燕真に肩を貸して、近付いてくるサイレン音と反対側に逃走をする。
-YOUKAIミュージアム・事務室-
粉木と紅葉が並んでソファーに座り、対面側のソファーに疲れた表情の燕真が深々と腰を降ろす。紅葉と粉木は、今回のザムシードの敗北が不満だ。燕真が、疲れているのを承知の上で、強い口調で詰め寄る。
「どういうこっちゃ、燕真?」
「ウサギヤロー、強かったかもしれないけど、
燕真がボッコボコにされるほど強いわけじゃないでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「共存とは言うても、所詮は、人間に妖怪が憑いただけの存在や。
なんぼ素体の人間が強かったかて、1+1は2。
戦闘目的で開発された妖幻システムとは違うて、
妖怪が憑いて何十倍にも戦闘力が上がるわけちゃう。」
「それなのに、なんで負けたの?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「ワシには、戦闘を放棄しとったようにしか見えへんかった。」
「そうなの?燕真?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「納得できるように説明せんかい。」
燕真は話しにくそうに俯いていたが、粉木と紅葉に睨まれ、観念をして口を開く。
「ゴメン。ジイさんの言う通りだ。戦えなかった。」
「なんで?」
「ルナティスは、多分、正義の為に戦っている。
そんなヤツから、妖怪を取り上げるのが正しいのか解らなくてさ・・・。
どんなヤツが変身してるのか気になって、様子を見ながら戦っていたら、
気が付いた時には、完全にアイツのペースに嵌まっていた。」
「そんなん、言い訳にならんで。」
「妖怪に憑かれた人間は精神を闇に落とすから、妖怪を封印しなきゃ成らない。
頭では解っていたつもりだったけど、実際に接触したら迷っちゃって・・・。」
「ちゃんとしなきゃダメぢゃん。」
「解ってる。・・・でもアイツ、多分・・・。」
ルナティスが首に巻いていたバンダナは、戦闘の数分前に、燕真が良太にプレゼントした物と同じだった。ルナティスの出現タイミングと、出現した場所、そして接触して感じたルナティスの人間性。燕真は、ルナティスと良太を重ねて、戦えなくなってしまったのだ。
「俺さ・・・アイツ(良太)の『強くなりたい』って気持ち共感しちゃうんだよ。」
燕真は、普通の中で藻掻き、「人の為に役立つ何かを突出させたい」って願望を持つ少年の気持ちが、自分と同じだからこそ理解できる。ルナティスが言った「力愛不二(力を伴わない心は無力)」に共感ができてしまう。
「ちょうど良い弟分ができたってくらいに思ってたのに、
よりによって、アイツがルナティスなんて皮肉だよな。」
「・・・燕真。」
銀行強盗事件でルナティスが出現したタイミングと、良太が塾に遅刻をしたことを考えると、紅葉にもルナティス=良太は納得ができる。燕真が、楽しそうに良太と会話をしているのを思い出して、燕真の優しさを理解して何も言えなくなってしまった。
だが、粉木は違う。燕真の情に理解を示さず、真っ直ぐに燕真を睨み付けた。
「燕真、オマンの言いたいことは、よく解った。
それならば、Yウォッチを渡せ?」
「おぉっ!カイゾーしてパワーアップすんの?
特撮ヒーローあるあるだね!」
「ちゃうわ!
オマンには、退治屋の資格があれへんさかい、
妖幻システムは預けられへん言うてるんや。」
「えっ?」
「退治屋はボランティアやない!仕事や!
気分次第で職務放棄をするアホウに、任せられるわけがないやろ!」
「だ、だけど、ルナティス以外なら、ちゃんと・・・」
「これは代価を得て営む仕事や!例外は無い!
戦いを迷うヤツに、仕事は任せられん!さっさとYウォッチとよこせっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
粉木の言い分は不満だが、燕真には返す言葉が無い。言われた通りに、左腕に填めたYウォッチを外して渡す。
「オマンが、ルナティスとの戦いを割り切るまでは、預かっとく!」
「・・・うん。」
「んぇ?燕真、ザムシードやめちゃうの?」
いきなり三行半を言い渡さないのが、粉木なりの優しさだ。燕真は、それを理解したので、黙って受け入れる。本当は、「戦える」と言って妖幻システムの返却を拒否をしたかったが、今の燕真には良太との戦いを割り切る自信が無い。
「帰って、自分が何をしたいのか、ジックリ考えろ。
それで考えがまとまらんなら、退職届を持ってこい。」
「んぇ?燕真、おうちに帰っちゃうの?喫茶店とミュージアムのお仕事ゎ?」
「退治屋の‘ついで’の仕事など、退治屋をできん状態でやる必要は無い。」
燕真は立ち上がり、やり切れない表情で事務室から出て行く。
「燕真っ!待ってよぉっ!」
追っていく紅葉。粉木は顔を向けないまま、険しい表情をして、目だけで2人を見送る。
燕真が躊躇うなら、粉木がルナティスを倒すという選択肢もある。だが、それでは、燕真が成長をできない。ルナティスの一件は、「割り切れずに離職する」「辛い思いをしても退治屋を続ける」のどちらかを、燕真に選択してもらわなければ成らないのだ。
数ヶ月前まで大学生だった青年が、甘さを捨てきれないのは理解ができる。だが、社会人なら、いつまでも理想や妄想を追っていられない。特に、燕真が足を踏み入れた世界は、義務を優先させなければ成立をしない。
-YOUKAIミュージアム・駐車場-
「待ってよ、燕真っ!」
バイクに跨がろうとした燕真に、紅葉が駆け寄る。
「今から、燕真のおうちに遊びに行ってもイイ?」
「良いわけ無いだろ。空気を読め!」
「空気読んだから言ってんの。」
「仕事、クビになりかけてんだから、少しは1人で悩ませろって言ってんだよ。」
「一緒に悩んであげる。」
「直帰をする気は無い。だからオマエは帰れ。」
「どこ行くの?」
「バイクでひとっ走りして、気分転換するんだよ。」
「水くさいなぁ。最初からそう言えば、付いていってあげるのに。」
「オマエ、俺の話、どう聞いてた!?
オマエに遠慮をしているつもりも、付いて来いと言ってるつもりも無い!」
「1人でバイクで山とか海に行って、ムラムラしてダイブしたら困るぢゃん。」
「欲情して飛び降りるってどんな状況だ!?
そーゆー時は、ムラムラじゃなくてクヨクヨ!
そもそも、そこまで思い詰めてねーよ!」
「いーから、いーから!GoGo!」
燕真は許可をしていないのだが、紅葉はタンデムに跨がってヘルメットを被り、出発するように催促をする。
「全くもうっ!オマエの所為で俺がムラムラしても知らねーぞ!」
不満だが、「一緒に行く、行かない」の議論をしても無駄な時間が経過をするだけなので、「タンデムに乗っているのは人ではなく荷物」と考えるようにして、燕真はホンダVFR1200Fを発車させた。東側に向かい、生活道を抜けて国道へ。バイクのスピードを上げて、流れる町並みと空を眺める。
「・・・鈴木良太か?」
「なんか言った!?」
「独り言だ!」
燕真はバイクを駆りながら、良太のことを考えていた。ヒーローショーに場違いなアイドルオタ達に注意をする行為は、誰にでもできることではない。燕真は良太の勇気を評価している。銀行強盗が出現したり、暴漢に襲われている人がいた時、「自分に人智を越える力が有れば、利用をして悪い奴を倒したい」なんて、誰でも考えること。
「力を伴わない心は無力・・・か。その通りだ。言われなくても解ってる。」
「えぇっ!?なんか言った!?」
「だから、独り言だ!イチイチ口を挟むな!」
「独り言なら心の中で言ってよねっ!ァタシにコクってるのかと思っちゃった!」
「自意識過剰すぎる!今の独り言をどう聞けば、告白の言葉になるんだよ!?」
高校の3年生の時、同じクラス内にスクールカーストの一軍を気取った問題児集団がいた。小中学校時代ならともかく高校になると、中身が無い口先だけの連中など、クラスの中心にはなれない。燕真や大半の生徒は、彼等の機嫌を損ねないようには気を付けたが、協調よりも勢いと暴力で自己満足を優先させる彼等を、ただの脱落者と考え、一軍とは思っていなかった。
ある日、地味なクラスメイトが、問題児集団に目の敵にされる。皆が、クラスメイトを助けたかったが、問題児集団が怖くて助け船を出せずにいた。
燕真も同じだった。問題児集団の糾弾をして根本解決をさせられず、地味なクラスメイトに優しく声を掛けてやることしかできなかった。超能力とか、漫画のヒーローみたいな凄い力が有れば、問題児集団を問答無用で黙らせることができるだろうに、燕真にはそんな力は無かった。
自分の無力を知っている燕真には、良太の気持ちが解る。妖怪が力を貸してくれるという条件が目の前にあれば、燕真だって受け入れた可能性は高い。
「なぁ、紅葉?」
「・・・・・・・・・・・・」
「おい、紅葉、聞いてるのか!?」
「また独り言!?」
「独り言でオマエの名前を口に出していたら、色々と病んでるだろう!
オマエに話し掛けてんだよ!」
「なになに?ついにコクるの!?」
「チゲーよ!」
走行時の風と、真下から発せられるエンジン音に妨げられる為、次第に大声に成る。
「オマエさ、もし俺が退治屋してなかったら、どうしてた!?
退治屋と無関係なら、俺の所に押し掛けていないよな!?」
「退治屋してなくても、燕真ゎ燕真ぢゃん!」
「回答の意味が解らん。」
「質問の意味がワカンナイから、他に答えらんないのっ!」
紅葉が退治屋に興味を持って押し掛けたのは、あくまでも、燕真との接点を作る為のキッカケにすぎない。答えは、「燕真が退治屋じゃなかったとしても押し掛ける」なのだが、それでは燕真への気持ちがバレてしまうので内緒にしておく。
「俺と鈴木君って似てるよな?」
「なんで急にスズキ君?」
「・・・なんとなく。」
「顔?全然似てないじゃん。もしかして生き別れの兄弟なの?」
「チゲーよ!アカの他人だ。
顔じゃなくて雰囲気だよ。似てると思わないか?」
「燕真の方が普通ぢゃん!全然似てないよっ!」
「俺、今、バカにされた?」
「バカにしてないよぉ。」
紅葉は、普通を拒否して、無理に特別感を演出している良太より、普通を受け入れて普通の中で藻掻いている燕真の方が格好良いと思っているのだが、それをキチンと表現できるほどの語彙力が無い。
「超普通って言って褒めてあげたのっ。」
「褒めてねーだろ。」
幾分かは気が紛れたが、根本的な打開策は思い付かないまま、1時間程度バイクを走らせてから、紅葉を自宅に送り届けて、燕真は帰宅をした。