番外②-4・良太と玉兎~ルナティスは正義の味方
-数十分後-
食事を終えた良太が、燕真&紅葉に見送られて、愛車のギャグに乗ってYOUKAIミュージアムから去って行く。メガトンハンバーグスパゲティーは、ちゃんと美味しかったし、無事に攻略できたが、腹はパンパン。夕食は放棄することになりそうだ。
「佐波木・・・燕真さんか。」
燕真から貰ったバンダナに触れようとして頭に手をやり、ヘルメットが遮蔽物になっていて触れないことに気付く。御当地アイドルのグッズ云々より、燕真が、良太のことを思いやって提供してくれた気持ちが嬉しい。
「・・・源川紅葉か。」
燕真には妙なシンパシーを感じており、もっと色んな話をしたかったので、いちいち会話を脱線させる紅葉のことは、ず~っと邪魔だった。嫌いになったわけではないが、学年トップクラスのマドンナってイメージは、今日を経て、だいぶ変わった。
良太の駆るギャグは、生活道から主要道に出て、鎮守の森公園を右側に眺めながら走る。文架大橋東詰の交差点で信号待ちをする為にバイクを停車させたところで、目の前の燃料タンクの上に闇霧が発生して、兎の妖怪が出現をした。
「オイ、良太。」
「・・・ん?どうした、ウサ?」
兎の妖怪=玉兎は、ちょっとした悪戯が好きなだけの、たいして害にもならない妖怪だ。良太は「ウサ」と名付けて友達扱いしている。
「男ハ問題無イガ 小娘トハ アマリ接シタクナイナ。」
「同感だ。」
「ソレニ アノ店(YOUKAIミュージアム)ハ 居心地ガ悪イ。
アマリ 行カナイデクレ。」
「佐波木さんとは会いたいけど、
源川がいるんじゃ話にならないから、用が無ければ行かないよ。」
「ソウシテクレ。」
良太は単純に小煩い紅葉を敬遠しているだけだが、玉兎の場合は、紅葉が発する妙なプレッシャーや、YOUKAIミュージアム(退治屋とは気付いていない)の雰囲気を嫌っていた。
-YOUKAIミュージアム-
良太の見送りを終えた紅葉が、脱力した仕草で、カウンター席に腰を降ろす。
「ふぇ~・・・緊張したぁ~。」
「なんだ?珍しいな。同じ学校のヤツの接客だから緊張したのか?
それなら、会話に割り込まなくても良かったのに。」
燕真が、紅葉の隣の席に腰を降ろす。
「チガウよ~。気持ち悪かったねぇ。」
「体調悪いのか?」
「チガウチガウ!スズキ君が気持ち悪かったの。」
「はぁ?可哀想な事言うな。
どこが気持ち悪いんだよ?なかなかの好青年じゃん。」
燕真の文句に対して、カウンター内の粉木が口を挟む。
「燕真・・・やはり、気付いておらんかったか?
あの少年、妖怪に憑かれとるで。」
「えっ?マジで??」
「そやから、お嬢は、オマンを心配して、ずっと会話に割り込んどったんや。」
「そうだぞ~!感謝してよねぇ!」
「紅葉が会話に割り込んでたのは、単に喋りたかったからだろ?
俺と鈴木君の親睦会なのに、後半はオマエしか喋ってなかったじゃん。」
紅葉は、隙があれば良太に憑いた妖怪を祓うつもりで、ずっと同席をしていた。だが、紅葉の警戒心は、妖怪には威嚇と判断されて息を潜め続けたので、祓うどころか、本体か子妖かすら判別することができなかったらしい。
「温和しゅうしとって、直ぐに彼を乗っ取る様子は無さそうやが、警戒は必要や。」
「そっか。解った。」
「それよりも燕真。今日は‘例の日’や。」
「ああ・・・そうだっけ?」
「レイノヒ?爺ちゃんの誕生日?」
「ちゃうわ。この歳になって、祝いの催促なんてせんわ。」
文架市は、龍脈と龍穴が整っており、風向きや他の条件により、妖気溜まりになりやすい大きな龍穴が数ヶ所ある。古い時代から、文架駅、優麗高、鎮守の森公園の3ヶ所。川東の大型ショッピングモールが完成してからは、広い建造物が壁に成って東側河川敷にも妖気が停滞しやすくなり、計4ヶ所が文架市街の警戒地域に指定をされている。
今日は、そのうちの一つ、鎮守の森公園が警戒日なのだ。そんな日の夕方以降は、霊感の強い者や、邪な心を煽られた者が引き寄せられ、警戒地域での事件発生率が上がる為、妖怪事件が発生していなくても退治屋は待機状態に成る。
「へぇ~・・・納得ぅ~!
時々、学校や公園がモヤモヤなのは、そのせいだったんだね。」
「とりあえず、1回パトロールしてくるよ。」
「ァタシも行く!」
「オマエ、爺さんの話を聞いてた?
邪な心を煽られたヤツが引き寄せられるんだぞ!
犯罪が発生しやすい日に、犯罪が発生しやすい場所で、女子が野次馬をするな!」
「ァタシならダイジョブだよぉ~!」
「却下!何がどう大丈夫なのか解らん!」
燕真は、「紅葉が勝手に動かないように」と粉木に監視役を頼み、バイクに跨がって単身で鎮守の森公園へと向かう。
-文架大橋の東詰交差点-
5台ほどの改造バイクが文架大橋を渡って、直進車を無視して乱暴に交差点を右折。信号待ちをしている良太の対面車線を走り去っていく。
改造バイク集団は、文架市を中心に、近隣都市で最凶最悪と恐れられてる【卑夜破呀】というチーム名の暴走族だ。良太は「物に頼らなければ承認欲求を得られない阿呆共」と解釈している為、普段なら「バカが走ってる」程度にしか感じないのだが、今日に限っては、気になったので振り返って行き先を目で追った。公園内は車輌乗り入れ禁止にもかかわらず、連中はバイクで公園内に押し入っていく。
「なぁ、ウサ?今日は妖気が濃い日か?」
「公園ガ妖気溜マリダ。」
「・・・そっか。正義の味方の出番だな。」
良太は、バイクをUターンさせて、卑夜破呀の後を追う。
-亜弥賀神社付近(鎮守の森公園中央)-
少女が歩いていたら、後からガラの悪いバイク集団が押し寄せてきた。
「ひゃっはぁ~」 「夜は、これからだぜ~」
「えっ?えっ?」
直ぐには状況を理解できなかった少女だったが、自分の身が危機に瀕していると気付いて走って逃げ出した。しかし、2台のバイクに追い越されて進行方向を塞がれ、残る3台に左右と背後を塞がれてしまう。
「来ないでっ!誰か助けてっ!!」
「一緒に遊ぼうよ~っ」 「断っても、力尽くで遊んじゃうぜ!」
青ざめる少女。バイクから降りた男達が迫る。
「そこまでだ!悪党共っ!!」
20mほど離れた大木の影に身を隠した良太が、気持ちをONに切り替えて、大声で牽制。男達は、邪魔者の存在を認識して、ナイフを出して警戒をする。その隙に、少女は逃げていった。
「ん~?」 「誰だあ~?」
「人知れず、影となりて、悪を討つっ!!」
「隠れて、何イキってんだよぉ~っ!?」 「やるなら、出てこいやあ~っ!!」
男達のうちの2人が、ナイフを構えて、良太の隠れている大木に近付いてきた。
「フン!揃って滅びを望むか。ならば、お相手しよう!」
良太はトレードマークのバンダナを外して、気合いを込める。
「覚醒っ!!獣将チェンジっ!!」
良太のコールを合図にして、玉兎が闇霧化をして良太の全身を覆い、ウサ耳&真っ赤な吊り目で、茶色い軽装のプロテクターの人外が出現!最後にバンダナを首に巻き付けて変身完了!大木の影から飛び出して、男達の前に立ちはだかる!
「月の使者!!獣騎将ルナティスっ!!」
-鎮守の森公園・南側の入口-
燕真が到着をした途端に、公園内から怒鳴り声が聞こえた。燕真は、公園に乗り入れたところでバイクを駐めて、中央に向かって走る。
ピーピーピー
Yウォッチが着信音を鳴らしたので、燕真は走りながら応答をする。
「どうした、爺さん?
こんな時に『妖怪が発生したから急行しろ』なんて言うんじゃないだろうな?
公園で騒ぎが起こっているみたいだから、こっちを処理してからでも良いか?」
〈その公園で妖怪出現や!おそらく、発生している騒ぎは、妖怪絡みやで!〉
「妖怪事件なら、頭のネジが飛んだ暴漢相手とか違って、
こっちも堂々と変身できるから好都合だ!」
〈ワシ等も直ぐに向かう!〉
「了解!爺さんが到着する前に、事件を解決させるつもりだけどな!」
燕真は、走りながら専用ベルトを腰に巻き、Yウォッチから『閻』メダルを抜いて和船バックルに装填!
「幻装っ!」
全身が輝いて妖幻ファイターザムシード登場!数十メートル先の公園中央の広場に妖気反応をキャッチ!強化された脚力で走るペースを上げる!
「ひぃぃっ!逃げろっ!!」 「おっ、覚えてろっ!!」
ザムシードが現場に踏み込ん時には、既に‘悪’は成敗されて、這々の体で逃げていく最中だった。奴等が乗ってきたのだろうか?あちこちに、原形を失った改造バイクの残骸が転がっている。
「・・・オマエは?」
逃走者達とは別で、堂々と立つ人型人外が一体。ザムシードの存在に気付いて、ゆっくりと振り返った。兎顔と軽装のプロテクター。紅葉の証言と一致する。
ザムシードは、それが‘ルナティス’と把握した。討伐対象だが、ルナティスが自分なりに正義の為に戦っていることを、ザムシードは知っている。
「なぁ・・・爺さん」
〈どないした、燕真?〉
Yウォッチを通して、粉木に話し掛けるザムシード。
「発生した妖怪はルナティスだ。
多分、妖気溜まりに吸い寄せられて、悪さをしようとした連中を成敗したんだ。」
〈それがどないした?〉
「悪いヤツを倒したんだよ。そんなヤツを倒さなきゃダメなのか?」
〈当然や。疲れた依り代が闇に飲まれるんは説明したやろ。〉
「う、うん・・・やっぱ、倒さなきゃ・・・だよな。」
ザムシードが、ルナティスに対して構えた。
「オマエが悪人じゃないのは知ってるつもりだけど・・・
憑いている妖怪は没収させてもらう。」
「・・・は?」
ザムシードが何者なのかを把握できずに眺めていたルナティスが、ザムシードの宣戦布告を受けて構える。
「俺と似たヤツが現れたから、同志かと期待したけど・・・違うみたいだな。」
「俺は、妖幻ファイターザムシード。
オマエみたく、人間に憑いた妖怪を祓う専門家だ。」
「獣騎将ルナティス。俺は憑かれてるんじゃなくて、協力してもらってる。
だから、専門家に祓われる理由は無い。」
「オマエがそう思っていても・・・憑かれていることに変わりはないんだよ。」
「だったら・・・アンタのやろうとしてることを阻止するしかないな。」
「まぁ・・・当然、そうなるよな。」
燕真は、ルナティスから妖怪を奪う方針に戸惑いを感じ、自分なりの答えを見つけ出せない。
「うおぉぉぉっっっっっっっっっっ!!!」
胸につかえた迷いを腹から発する大声で押し出す様な気持ちで、ルナティスに向かって突進をするザムシード!
「守主攻従(防御から反撃へ)!」
ルナティスは、ザムシードの動きを冷静に見て、「無策に突っ込んできているだけ」と判断して、開足中段構のままザムシードの接近を待つ!
「はぁぁっっ!!」
パンチを発するザムシード!ルナティスは、軽く後退をしながら、1発目のパンチを下受で下に弾き、2発目を内受で脇に弾いて、ザムシードの顔面に上段振子突の2連打を叩き込んだ!ザムシードは半歩後退して体勢を整え、蹴りを発する!しかし、ルナティスに上受で弾かれてバランスを崩したところに、中段蹴上を喰らって弾き飛ばされた!
「メッチャ弱いじゃん。立派なのは見た目だけかよ!?」
「舐めるなっ!」
ザムシードは、倒れたまま足払いをしてルナティスを退かせ、立ち上がって再び拳を繰り出すが、下受で払われ、手首を掴まれて関節技を決められたまま倒され、顔面に正拳突きを喰らった!足を引っ掛けてルナティスの体勢を崩して、どうにか関節技から脱出する!
「オマエ・・・拳法を?」
「力愛不二(力を伴わない心は無力)!
弱くちゃ、何もできないからな!少林寺拳法を少々!」
「・・・なるほどな!」
たかが妖怪の力を借りただけの人間と、最新の戦闘システムを装備した自分。ザムシードは、「楽勝」とルナティスを舐めて、戦闘力の差を見せ付けて降参させるつもりだったが、甚だしい勘違いだったようだ。
「拳法家相手に素手は厳しいか。」
ザムシードは、Yウォッチから属性メダル『炎』を抜き取って空きスロットに装填!気合いを発して、両拳に炎を纏い、ルナティスに突進をする!