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番外②-3・峠レース~Yミュージアムで親睦

-十数分後・文架市と鈴梅市の境の峠道-


 カーブの続く上り勾配の道を、燕真の駆るホンダVFR1200Fが法定速度を無視して、数台の車輌を追い抜いて走る。「峠道を攻める」という、一般車両から見たら何の価値も無い愚かな行為なのだが、燕真は「俺って凄い」と少しばかりイキリたい年頃。愛車を信じ、自分なりのテクニックを駆使して、できる限りスピードを殺さず、ブレーキをギリギリまで我慢して、アウトインアウトでVFR1200Fをスピードに乗せたままカーブを突破する。


「良い調子だ!・・・・・・ん?」


 背後に排気音が近付いてきたのでバックミラーを確認したら、白くて小さなバイクが猛スピードで接近をしてきた。スズキのギャグという1986年に発売されてた原チャリである。「勝負を挑まれている」と判断した燕真は、アクセルを捻ってペースを上げるが、後方にピタリと付かれた後は、幾ら飛ばしても振りきれない。


「何だ、あの原チャリ!?・・・ちっこいのに、何て速さだ!?」


 排気量差を物ともせず、ギャグはVFRと互角に走った。パワーが段違いなので直線で離されるけど、コーナーになるとキッチリ追いつく。


「5年以上も前に生産が中止されたマシンなんて敵じゃない!!」


 VFR1200Fに食らいつく昭和の原チャリ。数分前までは調子に乗っていた燕真だったが、小さなバイクがエンジンに無理をさせて懸命に付いてくる様子が憐れに思えて、急速に冷めていく。

 性能差を考えれば勝って当然。もし負けたら、「性能の良いマシンなのに腕が悪いから負けた」って解釈になってしまう。ハイリスク・ローリターンの勝負になど付き合ってられない。


「勝っても嬉しくない。」


 やがて道は下り坂となり、排気量ハンデが無に等しくなる。コーナーが迫り、燕真は減速とシフトダウン。だがギャグは止まらないで、オーバースピードで突っ込んだ。小型・軽量ボディにABS付き強化ブレーキ組んでるので、制動距離の短さで差をつける。


「もらったっ!!」


 ギャグは、早目に減速したVFRを抜いて、「ヤバくね?」ってくらいコーナーに接近してからシフトダウンとブレーキング。タイヤを鳴らしながら深くバンクさせてコーナーをクリア。そこから先は、軽量車に有利な下り勾配で差が広がる一方だ。

 燕真は、遠ざかっていくギャグのテイルを眺めながら、ヘルメットの下で自省の苦笑するしかなかった。


「勝負を吹っ掛けられたのは、調子に乗って走っていた俺にも問題はあるか。

 今後は、無意味な喧嘩を売られないように気を付けなきゃだな。」


 一方、黒いスズキ・ギャグを駆るバンダナの少年=鈴木良太は、非力なマシンを腕でカバーして勝ったことを誇らしく感じていた。

 下り坂でも攻めの走行をして、峠道が終わって最初に見付けたジュースの自販機前で愛車を停めて、飲料水を購入して一休みをする。先ほどオーバーテイクをしたVFRは、何分遅れで下りカーブをクリアさせて通過するだろうか?


「下手クソがマシンの性能に振り回されてるって感じじゃなかったから、

 1~2分で来ると思うんだけど、どうだろう?」


 良太の予想に反し、2分以上遅れて、すっかり安全走行で落ち着いたVFR1200Fが南側から走ってくるのが見える。


「ん?あの少年は??」


 燕真は、白くて小さいバイクよりも、その脇に立って飲料水を飲んでいるバンダナ少年に興味を持ったので、愛車を減速させて接近する。


「えっ?近付いてきた?マジか!?」


 煽られて頭に来たので喧嘩を吹っ掛けるつもりか?良太は焦ったが、ヘルメットのバイザーを上げたVFRの搭乗者の顔を見て、鈴梅市のイベントで助け船を出してくれた青年と気付いて驚いた。


「よぉ!誰かと思ったら君だったのか?何か縁があるな。」

「アナタは、さっきの!?」

「うん、一緒に御当地アイドルを応援した佐波木燕真だ。

 バイクテク凄いな。全然適わなかったよ。」

「ああ・・・いえ・・・なんかスンマセン。」


 良太は、「見ず知らずのイキった奴」ではなく、「助けてくれた顔見知り」にバイク勝負を挑み、内心で小馬鹿にしてしまったことを恥ずかしく感じてしまう。


「お、俺、鈴木良太って言います。」

「君も文架市に住んでんのか?」

「はい、佐波木さんも?」

「うん、鎮守の森公園の近く。」

「マジで?近いですね。俺もです。」

「御当地アイドルの追っ掛けって感じじゃなかったけど、

 鈴梅市のイベントには遊びに?」

「ヒーローショーを見たくて。」

「へぇ・・・ヒーロー目当てか。可愛いとこあるじゃん。

 俺は、仕事の帰りに、たまたま寄ってさ。

 チビッコの為に、オタ相手に食い下がってる君を見付けて、

 放っておけなくなってね。」

「え?そうだったんですか?」


 燕真は、「自分が少年だった頃に同じことができたか?」と考える。多分、空気の読めない大人に対して、遠くから睨むくらいはしても、注意なんてできないだろう。


「君、勇気あるよな。感動しちゃったよ。

 俺、少年の頑張りを無視するような大人にはなりたくなくてさ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 助け船を出してオタを説得してくれて、一緒にイタい応援に巻き込まれてくれて、しかもバイクテクで喧嘩を吹っ掛けたことに文句は言わず、勇気とテクニックを褒めてくれる。良太は、燕真の対応に感動してしまう。


「なぁ、これから行くところあるのか?」

「いえ、特にありません。」

「帰る方向、一緒だよな。これも何かの縁だ。

 バイクテクを披露してくれた礼に、近所の店で飯おごってやるよ。」


 燕真が「付いてこい」と合図してVFR1200Fをスタートさせたので、良太はギャグで付いていく。




-YOUKAIミュージアム-


 駐車場に燕真がバイクで乗り入れ、続けて良太のバイクが入って来る。


「この店だ。融通が利くから飯食ってけ。」

「あれ?ここって、前は変な博物館でしたよね?」


 良太は、何度か店の前を通過したことはあったが、喫茶店があることを初めて知った。以前は博物館だと思っていたのだが、客が入らなくて潰れたのかな?


「今も『変な博物館』だ。」


 燕真が店に入ると、カウンター席で粉木が新聞を読んでおり、隣に座っていたメイド服姿の紅葉が詰め寄ってくる。


「ァタシを置いてくなんてヒドい!」

「鈴梅市までワープしなきゃなんだから仕方無いだろ!」

「お土産ゎ!?」

「隣の市に行っただけで、土産なんて買ってくるわけ無いだろ!

 事件の報告は後回しだ。友達連れてきた。」

「トモダチ?燕真、トモダチいたの?」

「うるせ~な。さっき、できたんだよ。」


 出入口の扉が開いて、バンダナ少年が入って来る。


「あれぇ?」

「ん?キミは?」

「え~~っと、ミキとユーカと同じクラスのスズキリョータ?」

「B組の源川さんか?」

「知り合いか?」

「ぅん!同じ学校のヒト。塾も一緒。

 燕真とスズキ君ゎどうして?」

「鈴梅市で出会って、意気投合してね。一緒に帰ってきたんだ。」

「イキトーゴー?」

「大雑把に説明すれば、戦友ってヤツかな?」

「センユー?」

「金はちゃんと払うから、飯を食わせてくれ。

 俺はナポリタン大盛。彼にはメガトンハンバーグスパゲティーを頼む。

 あと、アイスコーヒー2つ。」

「んぁ?自分の分くらい自分で作りなよ。」

「オマエは、客に調理をさせる気か?」

「燕真、お客さんぢゃなくて、従業員ぢゃん。」

「俺は客として注文してるんだぞ!」

「うわっ!モンスタークレーマーだっ!」

「クレームじゃなくて、客として当然の権利だ!」

「スズキ君の分ゎ作ってあげるけど、燕真のゎ燕真が作れっ!」

「解った解った。オマエと話していたら、いつになっても飯が食えん。」


 燕真は、良太に「その辺の席に座って待っていてくれ」と言ってから、エプロンを着けてカウンターの内側に入った。粉木が、読んでいた新聞をカウンターに置いて、燕真を睨み付ける。


「自分で作るのは構わんけど、金は払えよ。」

「えっ?自分で作るのに金払わなきゃなの?」

「当然や。」

「お客なんだから、当たり前でしょ。」

「なんつー店だ。食べログで‘接客が最悪’って低評価すんぞ!」


 良太は、適当なテーブル席に座って、呆気に取られながら燕真と紅葉のヤリトリを眺める。源川紅葉と言えば、優麗高2学年で、男子からはトップクラスの人気を誇る美少女だ。


「源川って、ここでバイトしてたんだ?」

「バイトってより、粉木の爺ちゃんのお店で、お手伝いしてんの。」

「店長さんや佐波木さんとは仲良いんだ?」

「ぅん!仲良しっ!・・・あっ!燕真、まだ調味料入れるの早いよ。」

「どうせ俺が食うんだから、ナポリタンは適当でイイよ。

 メガトンハンバーグスパゲティーは、ちゃんと作ってくれよ。」

「ぅん、もちろん!」


 並んで調理をする燕真と紅葉。頃合いを見計らって、粉木が2人分のアイスコーヒーを準備する。

 良太は、燕真が小煩い紅葉の尻に敷かれつつ、大人の対応で適度に受け流している雰囲気から、2人の仲の良さを感じ取って羨ましく思えた。それが、「学年のマドンナに絶対的な信頼を寄せられている燕真」への嫉妬なのか、「一人っ子の良太にとって良き兄貴分になってくれそうな燕真を独占している紅葉」に対する嫉妬なのか、或いは両方なのか、よく解らない。


「さぁ、できたぞ。食おう。」

「・・・うわぁ~~。マジっすか?」


 燕真が自分用に運んできたのは大盛のナポリタン。紅葉が運んでテーブルに置いたのは、「これ何人前?」「みんなで食うの?」と聞きたくなるような、メガトンハンバーグスパゲティー。


「こ、これは一体?」

「この茶店の名物だ。若いんだから、それくらいは食えるだろ?」

「まぁ・・・食えますけど。」


 良太は、フォークを握って、メガトンの名に恥じないレベルの量を誇るスパゲティーの攻略を開始する。

 食べながら、燕真とサシで会話をして、燕真のことをもっと知りたい良太だったが、自分用のコーヒーを準備した紅葉が、相席をしてしまう。良太は、嫉妬の対象が、「紅葉に信頼される青年」に対してではなく、「燕真にベッタリと纏わり付く少女」に対してだと実感をした。


「鈴木君、頭のバンダナって、普段からしているのか?」

「ぅん!スズキ君ゎ普段からバンダナしてるよ。」

「何で紅葉が答える?オマエには聞いてない。」

「ああ・・・これ(バンダナ)っすか?」

「なんでバンダナしてんの?目立ちたいの?

 それとも、額にも目があって、それで隠してるとか?」

「額に目?俺は宇宙人じゃねーぞ。」

「紅葉は口を閉じてろ。

 オマエが会話に参加すると、2~3言で終わる会話が数倍の長さになる。」


 内心で「燕真の言う通り」と思いながら、良太はバンダナを外した。眉間のやや上に少し目立つ傷跡がある。


「第三の目を、バンダナで封印してるんぢゃなかったんだね。」

「俺は中二病か?

 1年くらい前に、チョットやらかして切っちゃった傷跡です。

 色々と詮索されたくないので、バンダナで隠しているんです。」

「そっか・・・。なんかゴメン。喋りたくないことを聞いちゃったな。」


 燕真は、足元の袋から赤いバンダナを引っ張り出して良太に差し出した。そのバンダナには、鈴梅市のイベントでライブを披露した御当地アイドルの名前と、メンバーをキャラクター化した柄がプリントされている。


「さっき、CDを買った時に特典でもらったんだ。

 鈴木君がバンダナのコレクターならあげようと思ってさ。」

「えっ?もらっても良いんですか?

 巻いてる目的は傷を隠す為ですが、

 服に合わせて選ぶので、種類が増えるのは嬉しいです。」

「なら、お詫びになるか微妙だけど、受け取ってくれ。」

「ありがとうございます。」


 良太は、今まで巻いていたバンダナをポケットにネジ込み、嬉しそうに燕真の差し出したバンダナを受け取って、早速、ビニールの梱包から引っ張り出して頭に巻いた。折り方と表面に来る向きを考えれば、それなりに格好良く装着できそうだ。


「燕真、なんのCD買ったの?」


 紅葉が、燕真の足元にある袋に勝手に手を突っ込んで、KangoGIRLS(文架市と同じ県にある環宕市出身者で結成された御当地アイドル)のCD3枚を引っ張り出した。


「あっっ!俺の荷物を勝手に漁るな!」

「んぉっ?燕真ってKangoGIRLSのファンなの?」

「ファンじゃねーけど、ライブ見た記念に買ったんだよ!」

「ファンぢゃないならちょうだい!」

「なんで、買ったばかりのCDを、

 一度も聞かずにオマエにやらなきゃならないんだよ!?」

「スズキ君にバンダナあげたぢゃん!ァタシにゎCDちょうだいよ!」

「ソレとコレとは別の話だ!」

「スズキ君と一緒に鈴梅市まで行って、KangoGIRLSのライブ見てたの?

 いつの間に、そんなに仲良くなったの?」

「一緒には行ってないけど、結果的には、一緒に見て仲良くなったな。」

「ズルい~~!ァタシも連れてってよ~~!」

「えっ?オマエを置いて鈴梅市に行ったところまで話を戻す?」

「KangoGIRLSのライブに連れてってくれなかったのはムカ付くケド、

 お土産にCD買ってきてくれたなら許してあげる。」

「・・・・・・・・・・・・・もうそれでいいや。」


 話は燕真がYOUKAIミュージアムに到着した直後まで戻り、買ったばかりの御当地アイドルのCDは紅葉に恐喝されてしまった。

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