番外②-2・依り代と妖怪は共存NG~否哉~鈴梅の出会い
-数十分後・YOUKAIミュージアム-
到着をした燕真と紅葉は、早速、ルナティスと銀行強盗事件について報告をした。粉木は険しい表情で、紅葉の話を聞く。
「そらおそらく、妖怪が依り代を一方的に支配するのやなしに、
力を貸してるんやろうな。」
「へぇ・・・そんなパターンもあるんだ?」
「依り代の人間と妖怪の相性がええと、希に共依存になる場合があるんや。」
「いいヨーカイってこと?」
「いや、そうとも言われへん。
素の状態で共依存が成立したら、
退治屋は、妖怪を支配して扱う必要が無うなってまう。
妖怪は、あくまでも‘支配と屈服’状態にするさかい、扱えるんや。」
「なら、キョーイゾンだと、どうなんの?なんか、ダメになっちゃうの?」
「現実的には共依存は不可能やねん。
支配される場合と違うて、依り代の人間は妖怪を抵抗せずに受け入れてるさかい、
妖怪に支配する気ぃ無うても、
徐々に妖怪の干渉を受けて精神が闇に染まってまう。」
「ヤベーぢゃん。いつも通り、やっつけなきゃってことだね。」
「そう言うこっちゃ。」
方針の決定に対して、燕真は表情を曇らせる。
「なぁ、爺さん。
出動しても、ガラの悪い連中が倒れているだけってのが何回か有ったけど、
それって、ルナティスってヤツの仕業かな?」
「情報が少なすぎて何とも判断でけへんが、可能性は有りそうやな。」
「そ~いえば、塾の人が、ヤンキーにカツアゲされそうになって、
ウサギ仮面に助けられたって言ってたよ。」
「・・・そっか。助けられたんだ?」
「ど~したの、燕真?なんか悩んでんの?」
「いや、悩んでるってわけじゃないけどさ。」
ルナティスは、妖怪の力を借りて、自分なりに正義の為に戦っている。妖怪との共存を続けさせてやれないのか?燕真は、ルナティスから妖怪を奪う方針に戸惑い、且つ、ルナティスの依り代と会って、どんな奴なのか見定めたいと考えていた。
-数日後・鈴梅市(文架市の隣)-
一級河川・山頭野川は、古くから生活水の取得地であり、水上輸送の要所。必然的に山頭野川の周辺の平地に人が集まって村になり、村が集まって都市に発展をして、現在に至る。それは、文架市だけではなく、隣接する鈴梅市も同じ。
その日は、河川敷で開催されるイベントがあり、出店やステージが準備され、若者や親子連れや近所の住人が集まっていた。
ステージ上では、ヒーローショー、及び、御当地アイドルのライブが行われる予定だ。ヒーローショーの開始時間までは、まだ30分以上あり、御当地アイドルのライブは、その後なのに、推しアイドルを応援したい気の早い若者達は、既にステージ最前列をキープしていた。
「ん?なんだ?」
ステージ中央に闇の霧が発せられて人型を作り、女物の和服を着た後ろ姿が出現。一見すると美しい女性っぽいのだが、振り返ったら女装をしたオッサンだった。女装のオッサンは、ステージ上で、しゃなりしゃなりと優雅に踊り始める。
「あれ?オッサンが踊るプログラムなんてあった?」
「ステージイベントってヒーローショーからじゃなかったっけ?」
ステージ前に集まった若者達は、「オッサンが踊るショー」と判断して、「お呼びじゃねーよ」と感じながら興味無さそうに眺めている。
すると、ステージ端にワームホールが発生して、マシンOBOROを駆るザムシードが出現!
「妖怪が目立つな!」
「いやや~~~~っっ!!」
女装のオッサンは妖怪・否哉。ザムシードは、減速すること無く、バイクで否哉に体当たりをして、前方に発生させたワームホールに否哉諸共に突入をして消えた。ステージ前に集まった若者達は、僅か2秒間の出来事を、何が起きたのか理解できないまま呆然と眺める。
「猛スピードのバイクがオッサンを轢いた?」
「今の、もしかしてヒーローショーか?」
「最近のヒーローショーって過激だな。」
ヒーローショーではなく、退治屋と妖怪のガチ衝突なのだが、世間一般に、退治屋や妖幻ファイターの存在は浸透していない。ザムシードは、「注目度満点のステージ上で戦うのは拙い」と判断して、否哉を連れたままワープをしたのだ。
-イベント会場から2キロ程度離れた河川敷-
ワームホールが開いて、ザムシードがマシンOBOROで否哉に体当たりをしたまま出現!周りに人目が無いことを確認してから、フルブレーキングでバイクを停めた!押し込まれていた否哉が、慣性で弾き飛ばされて地面を転がる!
「妖怪なら人目が無いところでコソコソと動け!
・・・と言っても、人の注目を集めて驚かせるのが趣味の妖怪だから無理か?」
ザムシードは、マシンOBOROから降りて、柄に白メダルを装填した妖刀ホエマルを装備して突進!否哉に鋭い斬撃を叩き込んだ!
「イヤヤァ~~~!」
否哉が闇霧化をして、妖刀の白メダルに吸収されて消滅。ザムシードは変身を解除して燕真の姿に戻る。
「夜中に、往来が少ない場所で、2~3人を驚かすくらいなら、
見ないフリをしてやったんだけどな。」
退治屋支部の所在は各県平均で2ヶ所。文架市と隣接をして、妖怪発生事案の少ない鈴梅市は、文架支部の管轄になっている。
「滞在時間5分弱で、1時間かけて帰宅か。」
次の目的地(文架市)に妖怪が発生しているならともかく、特に急ぐ必要の無い帰路では、ワープを使わずに一般人と同じ手段で帰らなければならない。高速道路の料金など、必要経費として認めてもらえず、言うまでも無く自腹で払う気も無い。
燕真は、憑依が解除されたホンダVFR1200Fに跨がり、ノンビリと帰るつもりで、文架市に向けて出発をした。2キロほど進むと、先ほどのイベント会場でヒーローショーが始まろうとしていたので、堤防上から遠目に眺める。
「うわぁ~・・・痛い連中がいる。」
ステージ前には、ヒーローを応援したいチビッコ達が集まっているにもかかわらず、ヒーローショーの次に催される御当地アイドル目当ての若者達が最前列を陣取り、チビッコ達の壁になりながら、興味無さそうにヒーローとは全く無い会話をしながら時間を潰していた。
「最前列がアレじゃ、チビッコと、ヒーローの中の人が可哀想だな。」
痛いファンの存在を想定せずに、ヒーローショーと御当地アイドルライブのスケジュールを連続させてしまった主催者側にも問題はある。燕真は、若干は気にしつつ去ろうとしたが、バイクを走らせる寸前で思い留まった。
「・・・ん?」
観客席の後方でショーを見ていた少年が、不機嫌な表情で、最前列の若者達に話しに行ったのだ。最初は、御当地アイドルオタ達の仲間かと思ったが、違うようだ。頭にバンダナを巻いた少年は、ヒーローショーに場違いな若者達に注意をしている。
「君達の目的は、ヒーローショーの次なんだろ!?
子供達に最前列を譲ってやれよ!」
「はぁ?何だオタク?」
「推しを目の前で応援する為には、今から最前列をキープしなきゃなんだよ!」
「俺は、君達の自己満足の為に、子供達の邪魔をするなって言ってんだよ!」
バンダナ少年は、アイドルオタ達に睨み付けられながら頑張っているようだ。
眺めていた燕真は、少しばかり心が痛い。少年がチビッコの為に頑張ってるなら、大人の自分が素通りはできない。イベントの駐輪場にバイクを止めて、ステージに駆け寄る。
「俺も、少年の意見に賛成だな。」
「アナタは?」 「何だオタク?」
「え~と・・・俺は、通りすがりの、ヒーローにもアイドルにも興味の無い一般客。
少年の言い分は正しいけど、言い方がちょっとマズいかな。
チビッコ達の邪魔になってるのは事実だけど、
この人達はこの人達で、推しを応援する為に必死なんだろうからさ。」
「なら、どうしろって言うんですか?」
「う~~~~ん・・・
アイドルの子達って、最前列以外の人には興味が無いのかな?」
「そんなわけ無いだろ!○○ちゃんは、みんなの物だ!」
「だったら、最前列じゃなくても、熱い気持ち応援を受け取ってくれるよな。」
「まぁ・・・そうだな。」
「むしろ、アンタ等の好きな○○ちゃんは、
ファンのアンタ等が、他のお客さんの迷惑になっているのを悲しむんじゃね?」
「俺が提案したい解決策は2つ。
何がなんでも最前列をキープしたいなら、
チビッコと一丸となって、ヒーローを熱く応援する。
もしくは、善良、且つ、熱いアイドルファンとして、最前列に拘らない。」
バンダナ少年は、燕真がアイドルオタ達の面子を保った上での交渉を、「なるほど、こんなふうに説得すれば良いんだ」と、少し感動をした表情で聞き入っている。
「あははっ!オタク、面白いな。」
「どうする?ヒーローも応援する?」
「ヒーローショーを応援するような痛い大人には成りたくないな。」
燕真やバンダナ少年から見れば、ヒーローを全力で応援する大きいお友達と、アイドルオタに大して違いは無いのだが、彼等には彼等のプライドがあるらしい。
「解った!俺達は分別の解る大人だ!
オタク等の意見を汲んで、最前列は子供達に譲ろう!
だが、代わりに条件がある!」
「俺で可能なことなら聞くよ。」
納得をしたアイドルオタ達が最前列をチビッコ達の為に空けてくれた。チビッコと同伴をしていた親たちが、燕真&バンダナ少年&アイドルオタ達に礼を言う。礼を受けたアイドルオタ達は「ちょっと良いことをした」気分になったようだ。
「さて・・・問題はこれからだな。」
「なんか、俺の主張に巻き込んでしまってスミマセン。」
「気にすんな。彼等を目障りに感じたのは俺も同じ。
乗りかかった船だよ。」
アイドルオタ達の提示した条件は、後方からでも、ステージ上の御当地アイドルに存在感を示す為に、燕真とバンダナ少年にも応援団に加わること。
ヒーローショー終了後、燕真達は、全く興味の無い御当地アイドルを応援する為に、予備のハチマキを借りて、生粋のアイドルオタ達に混ざり、借りたケミカルライトを、曲に合わせて全身を使って汗ダクになりながら振り廻す。
「コイツ等、命懸けでオタ芸パフォーマンスをやってるけど、
ちゃんと曲は聞いているのか?」
「リズムを取る程度にして、静かに歌を聴いた方が、良いような気がしますね。」
燕真達には理解ができないが、これが正解らしい。ライブが終わる頃には、アイドルオタ達と妙な友情を育んでいた。
ちなみに、「子供達に最前列を解放した美談(?)」は御当地アイドル達に伝わっており、MCで紹介したり、歌いながら燕真達に手を振ったり、ウインクをしてくれたので、アイドルオタ達は大満足をしていた。
「・・・妖怪退治より疲れた。」
存在すら認識していなかった御当地アイドルのライブにチョット感動した燕真は、ライブ終了後に、本人達による手売りCDを3枚ほど購入して、バンダナ少年とオタ達に別れを告げ、イベント会場から去る。