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番外②-1・塾の夏期講習~ルナティスと銀行強盗

※番外は読み飛ばしても後に繋がりに影響が無いストーリーです

-21時過ぎ-


 燕真が駆るホンダVFR1200Fが、幹線道から路地に入り、山頭野川東側の河川敷に到着をする。


「またかよ?」


 妖気センサーの警報を受けて来てみたのだが、妖怪の類いはいない。代わりに、数人のガラの悪い男達が転がっていた。阿呆共なら死んでも構わないってワケにはいかないので、停車させたバイクのライトで照らしながら駆け寄って行く。


「大丈夫ですか?何が有ったんですか?」

「ひぃぃ!」 「命ばかりはお助けをっ!」 「逃げろっ!」

「はぁ?」


 燕真はガラの悪い男達に何もしていない。だが男達は、燕真を何かと勘違いしたらしく、慌てて飛び起きて逃げていった。


「あっ!おいっ!」


 ここ数日間、文架市街では、奇妙な事件が発生していた。市内の各所に配置した妖気センサーが反応をして、YOUKAIミュージアムに妖怪の発生を報せるのだが、現地に駆け付けても、妖怪や依り代ではなく、毎回、頭のネジが数本飛んだ‘ただの人間’が伸されて倒れているだけなのだ。


「妖怪に襲われた・・・のか?」


 ガラの悪いグループ同士の抗争で、片方のグループに妖怪に憑かれたヤツがいる?気にならないと言えば嘘になるが、被害者がガラの悪い連中だけなら、妖怪捜索に躍起になる必要も無い。燕真は、逃げていった奴等を見送った後、ホンダVFR1200Fに跨がってYOUKAIミュージアムに戻った。




-翌日・あやかゼミナール-


 文架駅前商店街の一画に中高生を対象の進学塾がある。入口掲示板には『夏期講習』の張り紙がされており、教室内には、年間を通して学んでいる藤林優花(紅葉の友人)や他の塾生に混ざって、優花に誘われて夏期講習限定で通っている紅葉&亜美&美希の姿がある。


「昨日、兎仮面に助けられたよ。

 真っ暗な土手に連れて行かれてカツアゲされそうになったら助けに来てくれた。」

「マジ!?ナマで見たの!?」

「私も聞いたことある!

 学校の3年の人が、無理やりナンパされそうなのを助けられたんだって。」

「もしかして、文架市を守るヒーローってヤツかな?」


 生徒達が、仲間同士で集まって世間話をしている。紅葉は、他の生徒間で話題になっている「兎仮面」というキーワードに反応をした。

 文架市で紅葉が知るヒーローと言えば、妖幻ファイターザムシード=佐波木燕真のことだが、ザムシードは兎顔ではない。燕真も兎顔ではない。それに、ザムシードは妖怪退治専門のヒーローで、ヤンキーやチンピラの類いなど相手にしていない。つまり、ヒーローを気取ってヤンキーやチンピラを退治している‘兎面の偽ヒーロー’が存在しているってことだ。


「どこのどいつだろ?燕真ぢゃないヤツなんて、ヒーローぢゃないもん。」


 紅葉は「そんなヤツにヒーローを名乗る資格は無い!」と怒鳴りつけたい衝動に駆られたが、チャイムが鳴って教室内に講師が入ってきたので、苛立ちを抑える。


「んぉ?」


ウーウー!ウーウー!ウーウー!

 窓の外で、数台のパトカーのサイレン音が鳴り響く。近くで大きな事件が起きている?窓の外を眺めると、パトランプを点灯させたパトカー数台が、目の前の商店街通りを通過して、数秒後に停車をした。


「スミマセン!

 粉木の爺ちゃんがお巡りさんにレンコーされたので帰ります!」

「ちょっと、クレハ、粉木の爺ちゃんって?」

「知り合いの爺ちゃん!」


 言うまでも無く、粉木は警察に連行などされていない。だが、サイレン音に興味を持った紅葉は、早退を粉木の所為にして教室から飛び出していく。階段を駆け下り、ビルの外に出ると、駅側の路肩に数台のパトカーが駐まっていた。


「マヂか!?大事件じゃん!」


 身近で凶悪事件かもしれないが起きているのに、勉強をやってる余裕なんて無い。もし犯人が体中に爆弾を付けたヤツだったら、文架商店街が丸ごと吹っ飛んで、塾生全員が死んでしまう可能性だって有る(紅葉の妄想)。正確な情報で塾の皆を救う為に、塾生代表として見に行くべき。

 紅葉は、夏期講習を放棄した理由をアレコレと考えながら、駆け足で事件現場へと向かった。




-駅前通りの文架銀行-


 張られたばかりの規制線の手前に到着した紅葉は、銀行強盗が発生していたことを知った。

 銀行の外には警察官達が集まって、籠城中の強盗に対して対応策を練っている。店内は2人組の銀行強盗に占拠されているらしく、行員と客達が人質にされているのが遠目に見えた。


「ヤバいぢゃん!

 ケーサツの人が、早く鉄砲を使って、犯人をやっつければイイのに!」


 紅葉は、日本の警察官が、気軽に発砲をできないことを知らず、ドキドキ&イライラしながら事件を見守る。

 事態が進展をしないまま数分が経過。東側(文架大橋側)から、妙な気配と可愛らしい排気音が近付いてきた。


「なんだぁ?」


 聞き慣れた燕真のバイクのエンジン音とは違う。ザムシードやマシンOBOROの気配とも違う。紅葉が視線を向けると、兎の顔をして、首にマフラーを巻いて、軽装の茶色いプロテクターを装備したヤツが、小さなバイクに乗って接近して来るのが見える。


「んぇ?ウサギちゃん!?」


 兎仮面は、立入禁止を警告する警察官を無視して、規制線をゴールテープのように切って通過。明らかな不審人物なので、バイクを止めた途端に、警察官達に取り囲まれる。


「何だオマエは!?」 「強盗の仲間か!?」


 兎仮面は、真っ赤な吊り目で警察官達を睨み付けた。


「失敬な。あんなクズ共と一緒にしないでもらいたいな。

 俺は、宇宙そらに選ばれし月の使者!獣騎将ルナティスっ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×たくさん


 何か痛々しい台詞を喋ったが、意味が解らない。


「商店街のイベント参加者か?

 危険なので、規制線の外に下がってください。」


 バイクから降りて、警察官達を軽く振り払い、騒然とする周囲を気にすること無く現場を確認する。


「人質がいて、正面突破は危険か。・・・ならば奇襲だ。」


 ルナティスは、犯人から警戒をされている正面は放棄して、建物の裏側へと廻り込み、裏口ドアが力任せにこじ開けて、躊躇うこと無く踏み込んだ。

パーン!!パーン!!パーン!!

 銀行内で耳を劈くような銃声が響き渡る!何が有った?人質は無事か?紅葉や待機をした警察官達が耳を押さえながら眺めると、強盗の1人が慌てて飛び出してきた!片割れは、成敗をされてしまったらしく、床に大の字になって倒れている!


「ひぃぃぃっっっっ!!!」


 逃げた強盗は、直ぐ近くのコインパーキングに駐めた車の助手席に飛び込むと、待機をしていた運転担当が車が急発進させ、自動精算機を無視して駐車場から脱出!

 ルナティスが銀行から出て来て、逃走車を睨み付ける!


「闇に踏み込んだ愚か者に、明日があると思うな!

 トオオッ!!・・・・・・ウェイクアップ!!レプラスっ!!」


 ルナティスは、高々とジャンプをして、路駐していたバイクに飛び乗った!レプラスと名付けられたバイクは、妖気を受けて禍々しい姿に変形して走る!


「んぉっ!バイクの形が変わった!燕真のマシンOBOROみたいっ!」


 紅葉が見守る中で、ルナティスが駆るレプラスは、たちまち逃走車に追いつき、後方で追尾!腰に携えた剣を鞘ごと外し、剣が鞘に収まった状態で構えて気合いを込める!抜刀をした瞬間、刀身が輝いて刃が巨大化!鞘を空高く投げ、レプラスを加速させて、逃走する車の助手席側で並走する!


「オマエ等にあるのは‘朽ちた今’のみ!!

 はああああああっ・・・・・魔王剣っ!!乱舞の太刀っ!!」

「ひえええええええええええええええっ!?!?」×2


 逃走車に巨大剣を振るうルナティス!巨大剣が通常サイズに戻ったところでレプラスを止め、刀身を上に向けたら、空を舞っていた鞘が計算したかのように落ちてきて、刃に被さる!


「成敗っ!!!」


 逃走車のボンネットが切断されて、エンジンルームの機械が飛び散り、左側のフロント&リアタイヤが外れ、助手席のドアが脱落して、走行能力を失ってガードレールに激突!

 警察官達は、犯人を確保する為に、逃走車に寄っていく。どんな斬られ方をしたのかは不明だが、強盗達は無傷のまま、エアバッグと座席で挟まれて動けなくなっていた。


「すげぇ~~~~っ!!!!ウサギちゃんすげぇ~~~~~~~~~~っ!!!!

 アイツも妖幻ファイター!?文架市に、第2のヒーロー誕生!?」


 一部始終を眺めてた紅葉は興奮気味にルナティスの勇姿を撮影しようとスマホを取り出したが、いつの間にかルナティスの姿は消えていた。




-数分後-


 燕真が駆るホンダVFR1200Fが到着をした時、既に強盗事件は解決をしていた。


「また終わったあとかよ?」


 規制線の外側で、バイクに跨がったまま、後片付け&現場検証中を眺める燕真。バイクのエンジン音で燕真の接近を把握していた紅葉が寄ってくる。


「燕真っ!ァタシが心配で助けに来てくれたの?」

「オマエがいると思ってなかった。そう言えば、塾の近くだっけ?

 もしかして巻き込まれていたのか?」

「ぅんにゃ?見ていただけ。」

「なら『心配』して『助ける』必要無いだろ。何が有ったんだ?」

「2号が銀行強盗をやっつけたの。」

「2号?なんだそれ?」

「ウサギ仮面だよ!

 え!?燕真の家来の妖幻ファイターぢゃないの?」

「兎仮面?そんなの知らないよ。

 妖幻ファイターになって数ヶ月の俺が、弟子なんて持てるわけないだろ。」

「あ~・・・そっかぁ~~~・・・。燕真0点だもんね~。

 燕真の家来になってくれる人なんているわけ無いよね。」

「正解なんだけど、面と向かってハッキリ言われると腹が立つ。」


 燕真は、兎仮面の出現による妖気反応を受け取って出動をしたので、銀行強盗が発生していたことすら、現地に来て初めて知った。


「そもそも、妖幻ファイターは、妖怪退治専門だ。

 妖幻システムを使って、強盗を成敗するのは規定違反になってしまう。」


 燕真は、過去にザムシードに変身をしたまま、亜美を襲おうとした連中に罰を下す為にデコピンして、「治安を守る‘守護者’が民間人を暴行した」とマイナス査定をされたことがある(第1話)。


「んぇぇっ?

 なら、もしァタシがヨーカイぢゃなくて強盗に襲われたら助けてくれないの?」

「生身の状態で助けに行くしかない・・・かな。」

「えっ?なら、強盗が鉄砲持ってたらど~すんの?

 燕真、撃たれて死んぢゃうじゃん!」

「オマエの場合、大前提として、自分から事件に首を突っ込むのを控えろ!

 それを気を付けるだけでも、巻き込まれる可能性は大幅に下がる!」

「答えになってなぁ~い!」


 質問の答えは「マイナス査定なんて関係無く、どんな手段を使っても助ける」なのだが、聞くと調子に乗りそうなので伝えるつもりは無い。


「塾はどうしたんだよ?今日は、もう終わったのか?」

「・・・終わってない。」

「だったら、何でこんな所にいるんだよ。」

「事件見たかったから・・・」

「そ~ゆ~興味本位で首を突っ込むのを控えろって言ってんだよ。

 母親に、近くで事件があったから塾をサボったと報告するつもりか?

 まだ授業中なら、サッサと塾に戻れ!」

「ん~~~~~~~・・・ワカッタ。」


 燕真は、紅葉が空返事だけをしてサボる可能性を考慮して、塾の前まで送り、紅葉が入ったのを確認してから、バイクに乗ってYOUKAIミュージアムに帰宅する。




-あやかゼミナール-


 紅葉が戻ると、亜美&美希&優花が心配そうに寄ってきた。紅葉は、授業を抜け出したので怒られると予想していたが、授業そのものが中断されていたので、少し拍子抜けをする。


「銀行強盗だったんでしょ?」

「ぅん、そうだよ。」


 近所で強盗事件が発生した状況では、生徒だけでなく講師も混乱して通常の授業どころではなく、だからといって「今日は休み」と生徒を塾から追い出すこともできず、安全が確認されるまで休講状態のまま、生徒達は教室の中で待機をしている。


「犯人はどうなったの?」

「ウサギちゃんが来てやっつけられたよ。」

「ウサギちゃん?」×3


 窓際の席に座っている頭にバンダナを巻いた少年が、窓の外を眺め、満足そうな笑みを小さく浮かべながら、紅葉達の会話に聞き耳を立てていた。


「良太~!アンタ、さっき来たばっかりだよね?」

「鈴木君も、事件を見てたの?」


 美希と優花が声を掛けると、バンダナ少年は興味無さそうな表情を作って振り返った。


「ああ・・・まぁ、遠くからな。」


「ミキとユーカ、あの人と友達なの?どっちのカレシ??」

「彼氏じゃないって。優麗高の人だよ。」


 バンダナ少年の名は、鈴木良太。美希&優花と同じ2年D組に所属をしている。特に目立つわけでもないが、地味ってわけでもない普通の生徒だ。友達の知り合いと把握した紅葉が、早速、話し掛ける。


「スズキ君、バイクに乗ったウサギちゃん見なかった?見てるよね?

 次の死者、ぢゅうきそールナティックって名前だっけ?」

「死者?」 「ぢゅうきそーって何語?」

「ルナティック=Lunaticって、狂気って意味だよ。

 そんな変な名前だったの?ソイツ、バカなんだね。ヤバいじゃん。」


 頬杖で表情を固定して平静を装いつつ、心を躍らせながら「正義の味方の話題」を聞いていた良太が、軽くずっこける。


「そんな変な名前じゃない!月の使者・獣騎将ルナティスだ!」

「そうそう!それそれ!やっぱり見てたんだ?」

「遠くから見てただけだから、詳しいことは解らん!」


 その後、塾長の判断で本日は正式に休講となり、保護者が迎えに来た生徒から順次帰宅をするように通達をされた。生徒達は、それぞれで保護者に連絡をして、紅葉は燕真に電話する。


「燕真~。今日ゎ保護者がお迎えに来た人から帰るんだってさぁ~。

 だから迎えに来てよ。」

〈なんで俺が?保護者ってのは親のことだぞ。母親に迎えに行ってもらえよ。〉

「ママ仕事!燕真迎えに来て!

 そ~しないと、ァタシが、生き残った強盗に誘拐されちゃうよ!」

〈何の警戒もせずに事件を眺めに行ったオマエが、良くそんなこと言えるな?〉

「怖いから迎えに来てっ!」

〈無理!今からジジイに事件の報告しなきゃなんだよ!〉

「なら、事件を見たァタシが報告してあげる。

 燕真ゎ、重要参考人のァタシを、迎えに来てあげなきゃだね。」

〈それを言うなら目撃者な。

 重要参考人ってのは、被疑者の可能性があるヤツのことだ。〉

「何でもイイや。早く来てっ!」


 YOUKAIミュージアムに到着した直後だった燕真は、迎えに行く気は全く無かったのだが、紅葉のしつこさに根負けをして、仕方無く、ホンダVFR1200Fを駆って、もう一度、文架商店街へと向かう。

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