番外①-4・一番の絆~永遠輝は無関係
ザムシードに変身をしたおかげで、水中での呼吸は確保された。妖幻システムは、着ぐるみとは違って、水を含んで重たくなる仕様ではないようだ。
「だけどっ!」
紅葉の腹に腕を回して掴んだまま、鰻男に蹴りを叩き込むが、鰻男はノーダメージ!水中では威力の高い攻撃ができない!
「くそっ!」
今のままでは、沈められたままの紅葉が、体内の酸素を失ってしまう。
「紅葉っ!もう少し我慢してろっ!」
「がぼがぼがぼっ!」
ザムシートは、紅葉から手を離し、鰻男の長い首を掴むと、裁笏ヤマを装備して、押し当てて突き刺した!痛みで、紅葉への拘束が緩む!鰻男から手を離して蹴り、再び紅葉を掴んで脱出するザムシード!共に水面へと顔を出す!
「大丈夫か、紅葉!?」
「ふぇ~~・・・死ぬかと思った。」
「よし、大丈夫ってことだな!
早く逃げてプールから出ろ!」
「んぇっ!?1人で逃げるの!?ムリ、ァタシ泳げないっ!燕真、連れてって!」
「バタ足の特訓を思い出して、岸を目標にして進め!」
「で、でもっ!」
「オマエなら大丈夫だ!言った俺と、頑張ったオマエ自身を信じろ!
もしダメだったら、その時は助けてやる!」
「ワ、ワカッタっ!」
ザムシードに後押しされ、プールサイドを目指してバタ足をする紅葉!メッチャ遅いけど、教えられた通りに、両手を真っ直ぐに伸ばして、沈みそうになる足を交互に振って、懸命に泳ぐ!鰻男は、紅葉を捕らえる為に長い首を伸ばすが、ザムシードが抑えるける!
「着いたっ!できたよ、燕真っ!」
「よくやった!」
プールサイドによじ登る紅葉。亜美や仲間達が寄ってきて、手を貸して引っ張り上げる。
「怪我は無い?」
「んっ!ダイジョブ!」
「泳げないのに飛び込むからビックリしちゃった!」
「ゴメンゴメン、心配させちゃったねぇ。」
「佐波木さんは?まさか、変な怪物に?」
「燕真ならダイジョブに決まってるぢゃん!」
50mプールの中央に視線を向ける紅葉。波に揺られるザムシードと鰻男の影だけが見える。これで50mプール内に残ったのは、ザムシードと鰻男だけになった。
「おのれっ!我が嫁をっ!!」
「口説き方がまるで成ってない!
女の子が好きなら、女の子の気持ちも、ちゃんと考えろ!
力任せに水の中に引き釣り込むなんて論外なんだよ!」
水中で裁笏ヤマを振るうザムシード!しかし、水の抵抗が邪魔で、思い通りに攻撃できず、鰻男に回避されてしまう!水中では、鰻男の方が動きが速い!水の抵抗が少ない頭部を突き出して、ザムシードに3発ほど頭突きを叩き込む!
「こんな奴・・・地上で戦えば楽勝なんだけどな!」
「ぬっふっふ・・・観念して、嫁を寄こせ!」
「やらね~よ!」
水中では、できる限り水の抵抗を少なくして戦わなければならない。つまり、裁笏ヤマ(木製ナイフ)よりも刀身の長い妖刀ホエマルでは、振るスピードが遅くなる。弓銃カサガケによる射撃も、水の抵抗で威力が減衰してしまうだろう。
だけど、プールサイドに沢山の人目がある状況で、妖幻ファイターと妖怪の姿は晒したくない。
「それならば、周りから見えなくすれば良いだけだ!」
ザムシードは、Yウォッチから属性メダル『炎』を抜き取って裁笏ヤマに装填!通常時ならば刀身から炎を発するのだが、水中では着火をできない!
「ぬっふっふ・・・なんのつもりだ?
多少の熱を発した程度では、周りの水に冷やされてしまい、我は焼けんぞ。」
「焼くんじゃなくて煮るんだよ!」
裁笏ヤマを水面下ギリギリに翳すザムシード!周りの水が熱せられて、無数の気泡が上がる!
「ぬっふっふ・・・まさか、この貯水池の水を沸騰させる気か?
愚かなり!一体、どれほどの水があると思っているのだ?」
「百も承知だ!煮るのはオマエではない!俺の周りの水だ!」
プール全体を沸騰させるなんて不可能!裁笏ヤマが熱を発し続けなければならないので、必然的にザムシードはエネルギーを消耗させていく!だが、ザムシードは理解をした上で、この選択をした!
「なんの意味があって?・・・ぬぬぬっ?」
いつの間にか、ザムシードと鰻男の周りの水面から湯気が上がり、霧と成ってプールサイドの一般客から隠していた!
「俺が思案していたのは『どうやって身を隠すか』だけ!
ハナっから、オマエのような身勝手な妖怪に、
紅葉を取られるなんて思ってねーよ!」
鰻男の長い首を両腕で抱えるザムシード!水面から顔を出して、力任せに、真上に鰻男を放り投げた!そして、裁笏ヤマに白メダルを装填!力強く底を蹴って、水面上に飛び上がり、真上に突き出した裁笏ヤマで、落ちてきた鰻男のど真ん中を突き刺した!
「・・・ぐぇぇぇぇっっっっっ。」
着水して水中に沈むザムシードと鰻男。真っ白な霧が立ちこめる中で、鰻男は闇霧と成って、裁笏ヤマに填められた白メダルに吸収されて消滅をした。
-数十秒後-
変身を解除した燕真が、まだ湯気の霧の残るプールを悠々と泳ぎ縁に到着。紅葉達に出迎えられる。
「変な怪物はどうなったんですか?」
「佐波木さんも襲われたんですか?」
「ん?怪物?そう言えば謎の生物が目撃されたんだっけ?そんなの見なかったな。」
亜美や仲間達も怪物の姿は見ている。燕真や紅葉が襲われたと思って心配をして尋ねたが、燕真は、今まで戦っていた素振りなど一切見せずにしらばっくれる。
「俺は、泳げないくせにプールに飛び込んだマヌケを助けに行っただけだよ。」
「んぇぇっっ!?マヌケってァタシのこと!?」
「他に誰がいるんだよ?威勢良く飛び込んで、1ミリの泳がずに溺れやがって!」
「でもちゃんと泳げるようになったモン!」
「バタ足10mだけな!せめて、25m泳いでから、泳げるようになったと言え。」
「燕真のクセに生意気~~~~!!」
燕真と紅葉の掛け合いを見て、亜美&美希&優花&行照が微笑む。永遠輝は不満げに視線を逸らすが、紅葉が溺れた時に、驚くだけで何もできなかった自分と、迷わずに飛び込んだ燕真の差は、ハッキリと感じていた。
その後、多数が見た‘謎の生物’の正体を確認する為に、プールの点検と称して入ることが禁止され、係員達が確認をしたが、怪しい物は何も発見されない。
襲われたカップル(雄太&雌代)だけが事情を聞く為に残り、まだ閉館には時間が有るのだが、総点検の為にプール施設は閉鎖をされた。
-十数分後-
着替えを終えた少年少女が、施設の入口に再集合をする。時間が中途半端なので、「もう少し何処かで遊ぼう」という意見も合ったが、紅葉が泳ぎ疲れていたので解散になる。
「んぢゃっ!みんな、バイバ~イ!」
一言の断りも無く、当たり前のように、燕真がバイクに乗るより先に、タンデムに跨がる紅葉。
「帰りも乗るのかよ?」
「もちろんっ!」
西陣織と九谷焼でカスタマイズされたホンダVFR1200Fをスタートさせる燕真。紅葉は、大きく手を振りながら、仲間達に見送られる。
「誰がどう見ても付き合ってるようにしか見えないよね。」
「プールでも、スゲー仲が良かったし。」
「本人は『付き合ってない』って言ってるけどね。」
「付き合ってるかどうかはともかく、
あの人(燕真)が紅葉の尻に敷かれているのだけは確実だね。
紅葉が、あの凡人で良いなら、それで良いんじゃないの?
結構、お似合いだと思うし。」
「美希ちゃん・・・相変わらず毒舌。」
「永遠輝はどう思う?」
「フン!知らね~よ!」
和気藹々と見送る少年少女。永遠輝だけが不満そうに、去って行く燕真を睨み付けていた。
一方、噂の中心にされているなんて知らずに、タンデムの紅葉は、燕真の背中にベッタリとしがみついていた。互いにTシャツなので、燕真は2枚の布と紅葉の下着越しに、紅葉の胸の感触を背中でハッキリと感じてしまう。
「真夏だぞ!暑いからもう少し離れろ!」
「んっへっへ!い~のい~の!
ね~ね~、燕真。ツガイってカップルのことだよね?」
「ツガイ?雄と雌の組合せのことか?」
「仲良しのツガイを狙うんだってさ~。」
「はぁ?何の話だよ?」
「オスタさんとメスヨさんより仲良しなんだよ~!」
「誰だそれ?」
「一番だってさぁ~!」
「何が!?」
「んっへっへ!ヒミツ!」
鰻男が喋り、紅葉は聞いたが、燕真は聞いていないこと。鰻男は、最初は別のカップル(雄太&雌代)から雌代を奪い取ろうとしたが、標的を紅葉に変えた。紅葉は、自分が多少の無茶をしても、燕真ならば絶対に助けてくれると信じている。だから、燕真のいる時は、考え無しに無鉄砲を通せる。鰻男に連れ去られそうになった恐怖より、鰻男に評価された嬉しさの方が優っていた。
「ところでさ、紅葉。」
「んぇ?」
「鰻男の依り代は何だったんだ?やっぱり、永遠輝って少年が・・・」
「ァタシと同じ歳くらいの男の子の思念だよ。
男女グループのァタシ達が楽しそうに遊んでるのを見て、イラッとして、
ビーチボールに妖気を送って、鉄球にしたみたい。」
「えっ?なら、俺が受ける寸前で鉄球に変化したのは?」
「ただのグーゼン。
誰の時に鉄球になっても不思議ぢゃなかったけど、
たまたま燕真の時になっただけ。」
「たまたま・・・で済ますな。」
妖怪からすれば「たまたま」かもしれないが、ビーチボールのつもりで鉄球を受けていたら、燕真は確実に頭が潰れて死んでいただろう。
「性根の悪そうな思念だな。」
「何年か前に50mプールで溺れちゃったみたい。」
「そっか・・・少年は溺死したのか?可哀想な事件があったんだな。
なら、少年の思念が、楽しそうにしている奴等に嫉妬しても仕方無いのかもな。」
「ぅんにゃ、死んでないよ。」
「・・・ん?」
「初デートでプールに行って、格好付けてプールに飛び込んで溺れて、
彼女に超幻滅されて、その場でフラれちゃってね、
しかも女の子は、その場で、別の男子大学生にナンパされて仲良くなったの。」
「そ・・・それは可哀想な事件だ。・・・ある意味、溺死よりも。」
「その時の男子の無念が、ずっとプールに残っていたみたいだね。」
「それで、性根が腐った女好きの妖怪に憑かれたのかよ?
シッカリしろよ、文架市の男子!嘆かわしい!」
会話中、紅葉は、ずっと燕真に密着をしており、燕真は紅葉のBカップ(自己申告はC)の弾力と温もりを感じ続けている。
「暑い!汗ばむ!」
「夏なんだからアツくて当たり前ぢゃん!」
「そ、そうじゃなくてさ!・・・ちょっと、俺の理性の問題で・・・。」
喋らなければ満点の美少女に胸を押し付けられて、意識をしない方が難しい。燕真は、「くっつくな」と要求をするが、紅葉は、燕真の背中を手放す気は無い。
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紅葉を送り届けて帰宅後、燕真は、本日の事件を思い返す。そして、一つの違和感に気付いた。
「んっ?なら、ずっ~と、恨めしそうに俺を睨んでいたアイツは何だったんだ?」
今回の妖怪事件と永遠輝は全く関係無い。
「えっ?えっ?
何か、如何にも、気が病んでいて妖怪に憑かれる伏線みたいになっていたり、
過去のモノローグが入っていたけど・・・関係無いの?」
今回の妖怪事件と吉良永遠輝は一切関係無し。ただ単に、彼は、紅葉がベッタリと懐く佐波木燕真が大嫌いなだけ。