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妖幻ファイターザムシードⅠ 凡人ヒーローと天才美少女の物語  作者: 上田 走真
番外①・ァタシをプールに連れてって
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番外①-3・5m飛込~泳げない紅葉~カップルを狙う鰻

-午後-


 燕真と紅葉は、水面からの高さ5mの飛び込み台の上にいた。何故、こんな所にいるのかというと、紅葉が「面白そぅだからやってみょぅ!」と誘ったからだ。燕真は「嫌だ!」と即答したが、拒否権は認めてもらえなかった。

 地上から見た高さ5mは大したことないように見えたが、上からプールを見下ろすと結構高く感じる。飛び込みプールの脇で燕真と紅葉を心配そうに見上げている亜美が、実際の距離より小さく見える。興味本位で燕真を引っ張ってきた紅葉だったが、今は少しビビリ気味だ。


「ぇ、燕真、先に行って」

「おいおい、誘ったのオマエだろ?」

「ぅん、そうなんだけど、ァタシ、燕真のぁとがィィ」

「・・・やれやれ、興味だけで突っ走るからそうなるんだ!」


 燕真は、飛込競技などやったことがない。だから、空中で回転するとか、体を捻るなんて器用な芸当は出来ない。だが、格好は二の次で。飛び込めば良いだけだ。妖幻ファイターとして、もっと高い場所から飛び降りるなんて日常茶飯事なので、高さに対する恐怖はそれほどでもない。

 何をやっても極めることができないが、代わりに、何をやっても赤点にもならない。全般的に平均点をクリアするのが佐波木燕真なのだ。

 ジャンプ台の上に立ち、息を大きく吸って、躊躇わずに一気に踏み込んで空中に飛び出し、頭の上に真っ直ぐに伸ばした手を添えて水面に向ける!


「無様に失敗しやがれっ!!」


 遠目に眺めていた永遠輝が、呪いの言葉を浴びせる!・・・が、特に、異変が起こることは無く、燕真は、空中で姿勢を崩さないように心掛けて手の先から着水!若干角度が悪くて、水で胸を打ち、格好良い飛び込みとは言えないが、不格好でもない。可も不可も無く、如何にも燕真らしい飛び込みである。燕真が飛び込み用プールから上がると、亜美が「お疲れ様」と言いながら寄ってきた。


「紅葉っ!怖ければ、足を下にして飛び込んでも良いんだぞ!」


 2人は、飛び込み台の上で待機をしている紅葉を見上げる。


「え~~~~~~~~っっっ!!チョット待ってょ、燕真!

 なんで先にプールから出ちゃぅの!?」

「・・・・・・・・・はぁ!?」

「ヒーローって、怖がりながら高ぃところから飛び降りる女の子を、

 『大丈夫!俺を信じろ!』って決め台詞を言って、

 両手を広げて、待ってくれるんぢゃないの!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁぁっ!?」


 チョット、紅葉が叫んでいる内容が理解できない。おそらく、「今から飛び込むから、下で受け止めてくれ」と言いたいのだろうが、それは無理だ。紅葉を受け止める為にプールに入ったら、監視員さんに「危険だから出ろ!」と怒られてしまうだろうし、5m上から落ちてくる人間なんて受け止めたら、お互いに怪我をする。・・・てか、飛び込み用のプールは、水深がかなり深い。立って、手を広げるなんて不可能だ。


「おいおい、アイツ(紅葉)、決まりごとや、水深も知らないで、

 飛び込みするつもりだったのか?」

「紅葉らしいと言えばらしい・・・けどね~。」


「飛べないなら、諦めて階段で下りてこい!」

「ふぬぅぅぅ~~~!飛べるモン!!

 燕真が飛んだんだから、ァタシだけ置いてかれたくなぃモン!」

「無理をするなって!!」

「ムリしてなぃっ!燕真と同じがィィ!!

 ・・・ぃっくぞぉぉぉっっっ!!!とわぁぁぁっっっ!!!」

「・・・・・・・・あっ!」


 紅葉はジャンプ台の後方まで下がって、助走を付けて、ウルトラマンが空に飛び立つような格好で華麗にダイブ!空中で助走の推進力が無くなって、腹を下に向けたまま、水面目掛けて自由落下開始!


「・・・ところで、いつ、紅葉のカナヅチを克服させてあげたんですか?」

「・・・・・・・・・・・・・へ!?何の話?」

「あの子、スポーツは全般に得意なのに、

 小さい時から泳ぎだけはダメで、プール嫌いだったんですよ。

 でも、今回は楽しそうにしてるから、

 佐波木さんが特訓してあげたんだろうな~~って思いまして。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そ、そんな特訓は・・・してない」


ばっしゃ~~~~~~~~~~んっっっ!!!

 亜美のカミングアウトを受けて青ざめている燕真の眼前で、俯せの姿勢で派手に着水する紅葉。痛々しく水を打つ音と共に大量の水しぶきが上がり、落下速度と浮力が相殺されて僅かに水中に沈む。見事なくらいに正真正銘の腹打ちである。しかも、水深が深いプールにも関わらず、紅葉はカナヅチらしい。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 心配そうに、しばらく様子を見る燕真と亜美。紅葉は、背中を上にしてプッカリと浮かんだまま、ピクリとも動かない。


「水泳の特訓・・・してないんですか?」

「してない。アイツ(紅葉)がカナヅチってこと、知らなかった。」

「なら、泳げませんよね?」

「泳ぐ泳がない以前に、多分アレは、モロに腹を打って気絶してんぞ。

 あのバカ、なんで、そんなんで飛び込むんだよ!少しは自重しろってんだっ!!」

「佐波木さんを信頼していたからでは?」

「この状況で信頼されても困るっ!」


 仕方なく、監視員さんの止めるのを無視して、紅葉を救出する為にプールに飛び込む燕真。案の定、紅葉は、体の前半分を真っ赤っかにして気絶していた。

 その後、命知らずな紅葉と、保護者の燕真は、監視員さんにコッテリと30分ほど説教をされたのだった。




-十数分後-


 仲間達はスライダーや流れるプールで遊んでいるのだが、燕真と紅葉だけは、小学生達が我が物顔で騒いでいる25mプールにいた。燕真が紅葉の両手を持って、紅葉はバタ足をしている。


「ふぇ~~~ん・・・ァタシも、ァミ達と遊びたぃよぉ~~」

「ダメッ!泳げないままで良いのか!?

 遊ぶのは、最低でも自力でバタ足くらいできるようになってから!」

「泳げなくても、何にも困らなぃモンッ!」

「だったら、海には連れて行かないぞ!友達とプールにも来られないぞ!」

「浮き輪とかぁるし、燕真が、ァタシと、ずっと一緒にいてくれれば安心だもん!」

「オマエが、友達と一緒に来るプールに、毎回、付いて来いってか?」

「ぅん!」

「絶対に嫌だ!」

「ぶぅ~ぶぅ~・・・燕真のイヂワルぅ~!」

「うるさいっ!いいから、バタ足だけでもできるようになれっ!!」


 日常では、様々なことに優れている紅葉に押されて振り回されっぱなしの燕真だが、紅葉側が劣っていることに関しては、紅葉のワガママを押さえ付けることも可能らしい。たまにはこんな展開も悪くない。文句を言いながらも、懸命に燕真に従う紅葉を見ていると、とても可愛らしく感じてしまう。


「普段からこの調子なら、女子として認識できるんだろうな。」

「ん!?何か言った、燕真!?」

「いや、独り言!」


 懸命にバタ足を続ける紅葉。その腰辺りを、触手状の黒い靄が通過をする。


「わひゃぁっっっ!」


 紅葉が奇声を上げ、バタ足を止めて立ち上がる。


「燕真、今、ァタシのお尻さわったでしょっ!?」

「はぁ?」

「何にも言わないで触るのはヘンタイなんだよっ!」

「言ってることがオカシイ!何か言ってから触ればOKなのかよ!?

 そもそも、俺の両手は、オマエの両手を掴んでいるんだ!

 手が3本無ければ、オマエの尻を触れない!」

「あぁ・・・そっか。

 今、ァタシのお尻の所を、何かが通らなかった?」

「気のせいだろ?何も通ってない。さぁ、練習を続けるぞ!」

「ぅ、ぅん。」


 ウォータスライダーを滑り終えた亜美が、25mプールの脇を通って立ち止まり、楽しそうに特訓をしている燕真と紅葉を、嬉しそうに眼を細めて眺める。


「あ~ぁ・・・やっぱり、あの2人、仲良しなんだな~。

 見た目的にも釣り合ってるし、

 大雑把な紅葉には、面倒見が良い佐波木さんのサポートがピッタリだし、

 あんなふうに男の人に甘えてる紅葉なんて、今までは想像もできなかった。

 こりゃ、残念だけど、永遠輝君が入り込む隙間は全く無さそうだね。」


 中学時代から、かなり沢山の男子から好意を持たれていたにも関わらず、全く浮いた話の無かった親友(紅葉)が、懸命に男性(燕真)を頼っている姿が微笑ましい。

 ウォータスライダーの上では、永遠輝が燕真と紅葉を睨み付けていた。


「クソッ!面白くない!」


 吉良永遠輝は、紅葉と同じ文架東中学出身。中二で紅葉と同じクラスになり、誰とでも分け隔てなく接する紅葉を見ているうちに好きになった。志望する高校は、紅葉と合わせたワケではないが、同じ優麗高に進学できると知った時は「これは運命?」と思えるほど喜んだ。そして、高二でも同じクラスになって接す機会が増え、「ついに俺の時代が来た」と感じた。

 噂によると、紅葉は中学~高校で、様々な男子に告白をされたが、「恋愛にゎ興味無い」と、全て即座に断っているらしい。彼女は、色恋よりも、皆で遊ぶことが好きなタイプ。告白して玉砕して縁が切れるより、同じグループに在籍して接点を作り続けることで、いつかは振り向かせる。それが永遠輝の作戦だった。


「源川・・・なんで、あんなヤツと・・・?」


 しかし、永遠輝が全く気付かないうちに、紅葉は恋愛真っ只中に突入している。ずっと、紅葉に好意を寄せてきた永遠輝には解ってしまう。燕真と2人でいる時に紅葉が見せる‘何一つ隠さない信頼しきった笑顔’を永遠輝は見たことが無い。


「アイツの何が、俺よりも勝っているんだよ?」


 そんな永遠輝の嫉妬など知らず、25mプールでは、燕真&紅葉が相変わらず泳ぐ特訓をしている。


「足が沈みっぱなしだ!それじゃ前には進めないぞ!

 もっと、自然に体が浮くイメージをして!」

「ふぇ~ん・・・体が浮かぶわけないぢゃん!」

「水に逆らわなければ浮くんだよ!」

「難しぃょぉ~~~!」

「泳げるようになったら海に連れててやるぞ!」

「なら、がんばるっ!!」


 紅葉は「燕真と海に行ける」という餌につられ、燕真に手を取ってもらいながら懸命にバタ足をする。しかし、そんな紅葉の気合いを妨げるかのように、50mプールから妖気が発生!


〈ぬっふっふ・・・

 この貯水池(50mプール)の中で、最も絆の強いツガイを断ち切ってやる。〉

「んぇっっ?」


 バタ足を止めて50mプールを眺める紅葉。燕真は、相変わらず何も感じないので、紅葉が練習を放棄したようにしか見えない。


「おい、紅葉!ちゃんと練習を!」

「ヤバいよ燕真!ヨーカイが出るっ!

 50mプールに残った思念に、ヨーカイが憑いているみたいっ!」

「なにっ!?」


 水を掻き分けながらプールサイドまで行ってよじ登り、50mプールに駆けていく紅葉。燕真は、プールサイドに敷いたシートの上に、タオルで隠しておいた妖幻システムを手にして、紅葉を追う。


〈ぬっふっふ・・・一番仲の良いツガイの雌を我が嫁にしてやる。〉

「んんっ!来るっっ!!」


 緊張した面持ちで、50mプールの中央を睨み付ける紅葉。先ほど紅葉が羨ましく感じながら眺めていたカップルがイチャ付いている。


「あははははっ!雌代、好きだよ!」 「うふふふふっ!雄太さん、私も!」


 突然、カップルの目の前に水柱が上がり、中から鰻顔で人型の妖怪=鰻男が出現!悲鳴を上げるカップル!鰻男は、鰻頭を長く伸ばして、雌代(カップルの女)に絡み付き、雄太(男)から奪い取る!


「きゃぁぁっっ!!助けて、雄太さぁんっっ!!!」

「ひぃぃっっっっっっっ!!!!雌代っっっ!!!」


 周りで遊んでいた他の客達は一斉に避難をして、50mプールには、鰻男と、捕らわれた雌代と、彼女を奪われたままフリーズする雄太だけになった!


「やらせないっ!」


 カップルを救出する為に、無我夢中で50mプールに飛び込む紅葉!だが、50mプールの中央付近は最も水深が深い!そして、紅葉は泳げない!チビッコの紅葉では、立とうとしても底に足が届かず、溺れてしまう!


「あのバカ!少しは考えてから行動しろっての!」


 燕真が勢い良く50mプールに飛び込んで、ジタバタと藻掻いている紅葉を後から引っ張って救出!そのままプールサイドまで連れて行こうとする!


「アホッ!泳げないのに飛び込んで、余計な仕事を増やすな!」

「ふぇ~~~ん・・・ごめぇ~~~ん!」


〈最も絆の深いツガイ・・・。〉


 鰻男は、雌代(カップルの女)を解放。燕真によってプールサイドに押し上げられている最中の紅葉に、長い首を絡みつけて引っ張った!


「んぇぇぇっっっ!!!なんでっっ!!?」

「紅葉っっ!!」


 慌てて紅葉を掴む燕真!紅葉も燕真に抱き付くが、鰻男の力に抵抗できず、燕真諸共にプールの中に引き込まれてしまう!その間に、最初に襲われたカップルは、プールから脱出をする!


「ザムシードに防水性があるのか知らないけど、やるしかない!」


 水中に沈められたまま和船ベルトを装着して、『閻』メダルを装填!妖幻ファイターザムシード登場!


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