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妖幻ファイターザムシードⅠ 凡人ヒーローと天才美少女の物語  作者: 上田 走真
第8話・紅葉がアイドル(vs枕返し)
31/106

8-2・食レポ~オーディション勧誘~カラオケ

-11時・YOUKAIミュージアム-


 それは、華やかなオーラを纏って現れた。出入口が開き、TVで見たことのある容姿抜群の3人の女性が入店をして、紅葉の度肝を抜き、店内の客達をどよめかせた。


「こんにちは~。

 今、町ぶらのロケをやっているんですけど、店内の撮影はOKですか~?」

「んぇ?・・・えぇぇっっ!!!?」


 人気アイドルの真倉英理まくら えいり芹田楠美せつだ くすみ栄木羊えいぎ よう。それぞれが、あざと可愛い系、クール系、エレガント系のファッションをバッチリと着こなし、仕事中ゆえに芸能人のオーラ全開で、柔やかな笑顔を振りまいている。


「じ、じいちゃ~ん!お店がTVに映ってもイイの~?」


 2階勤務の燕真も、1階の普通ではない空気を感じて降りてきた。近年のTV事情に疎い粉木だけが、状況に取り残されている。


「何や、燕真?どういうこっちゃ?」

「芸能人が、この店で飯ロケをしたいから、撮影して良いか聞いているんだよ。」

「なして、こない店で?」

「適当に町を歩いていて、目に付いた店に入ったり、

 適当にインタビューして、お気に入りの店を紹介してもらう番組なんだ。」

「あの子等は?」

「人気アイドルグループ・ハニートラップの真倉英理と、芹田楠美と、栄木羊。

 実物を見られるとは思ってなかった。」

「イヤな名前のグループやのう。」


 紅葉と店内の一般客達は「まさか、英理ちゃん達を追い返さないよね?」と言いたげな眼で粉木を見ている。


「イイよね、じいちゃん?」


 紅葉にオネダリをされた粉木は、「店内を撮影されたくらいで、退治屋の存在が公になることはない」との自信があるので、OKサインを出す。芸能人の1人が、店の外に顔を出してスタッフ達を呼び込んだ。直後に、紅葉は「ミスった」と気付く。


「ど~も~!ご協力、感謝しま~す!」


 呼ばれて入ってきたのは、昨日、紅葉を勧誘した連中。TVトキオの割井プロデューサーと、木源AD。


「俺、寝違えちゃったみたい。」

「俺も。おかげで首が回らないよ。」

「はははっ!そりゃ、借金してるからじゃね~のか?」


 その後から、その他のスタッフ達が、よもやま話をしながら続く。


「・・・げっ!千切れた5千円札っ!」

「なんやなんや?大所帯やのう。」


 大義名分を得た彼等は、ロクな説明も無いまま、一般客達を押し退けて撮影を開始。アイドル3人の中でも特に可愛らしい真倉英理が、カメラに向かって喋り始めた。


「ここは、文架市の東にあるYOUKAIミュージアムという

 変わった名前の喫茶店です。」

(喫茶店やのうて、博物館なんやけどな。)

(TVでサテンて紹介されたら、もう誰も博物館とは認識しなくなりそうだな。)


 引き気味で様子を見ていた粉木に、英理が話しかける。同時に、集音マイクとテレビカメラも粉木に寄ってきた。慣れていない粉木は戸惑ってしまう。


「このお店には看板メニューがあるって聞いたのですが、

 どんなメニューなんですか?」

「えぇっと・・・パワフルビザトーストと、メガトンハンバーグスパゲティーと、

 モンスターパフェやな。」

「なら、それを1つずつお願いしま~す。」


 注文をしたところで、一旦撮影中止。アイドル3人は席に座り、撮影スタッフ達や、メイク係が囲む。割井と木源は、しばらく段取りの打ち合わせをした後、紅葉のところに寄ってきた。


「やぁ、源川紅葉ちゃん。突き止めたよ。」

「えっ?ど~ゆ~ことですか?」

「偶然ロケで寄った店に、たまたま君がいる・・・なんて有り得ないって事。

 最初っから、君がいる店を選んで来たんだよ。

 テレビ的には華やかな絵面が欲しいからさ、

 料理の説明は、マスター(粉木)や兄さん(燕真)じゃなくて、君がやってね。」

「はぁ・・・はぃ。」


 いつもは強気にな紅葉が、TVマンの強引さに押されている。カウンター内の厨房で粉木と燕真が、パワフルビザトーストと、メガトンハンバーグスパゲティーと、モンスターパフェを作り、アイスコーヒーとセットにしてテーブルに並べたところで、撮影が再開された。

 既に運び終えていて見て知っているのに、カメラが廻った途端に、量の多さに驚いた演技をする3人のアイドル。カメラアングル内には紅葉も立っており、段取り通りに英理に尋ねられて、「当店自慢の~」と説明をする。

 説明が終わったところで、「いただきます」と合掌をして、美味しそうに食べながらレポートを開始。数口食べたところでカメラが止まる。


「ごちそうさま。」

「尺は取れましたよね?」


 まだ料理は半分以上残っているが撮影は終了。英理達はアイスコーヒーだけを完飲して、取り巻きのスタッフを連れて店から出て行く。


「次はこの近くに有る大きな公園でのロケになるから、

 しばらく車の中で休んでいて。」

「は~い」×3

「私達、大食い王じゃないんだから、こんなに食べられないよ。」

「なに、あの店員。チョット可愛いからって私達より目立っちゃダメでしょ。」

「ウェイターの若い男、チョット格好良かったよね?」

「どこが?普通だよ。」


 店内では愛想良くしていた3人だったが、店から出た途端に、燕真&粉木が聞きたくないことを喋り出した。


「ァタシ、あの子達より目立ってた?そんなことないよね、燕真?」

「さぁ、どうだろ?チョット微妙というか、彼女達が嫌がる気持ちは解るかな。

 ・・・てか、俺、普通かよ?」


 3人とも容姿端麗だが、せいぜいで80~90点。見た目だけに限定すれば、「黙っていれば満点」の紅葉と同一のカメラアングルに収められるのは些か気の毒に思える。

 大量の残されたパワフルビザトースト&メガトンハンバーグスパゲティー&モンスターパフェがカウンターに下げられ、考案者の紅葉は不満そう。店内に残った割井と木源が、支払いの為に寄ってきた。


「あ、あの・・・ど~して、ァタシが、ココでバイトしてるの知ってるんですか?」


 紅葉が、割井に質問をする。


「君の画像をアップしていた奴に、金を払って聞いたんだよね。

 バイトの時間帯は、君のXで確認した。

 ここまで言えば解るだろうけど、撮影のついでに、君に会いに来たの。

 いや・・・君に会いに来るついでに、ここで撮影したってのが正しいかな。」


 随分と失礼な物言いだ。YOUKAIミュージアムでの食事はオマケ扱いらしい。

彼等は周到だった。いきなり店に押し入って紅葉を口説けば、「営業妨害」と店から追い出すこともできたが、撮影付きで、客として振る舞ってきたので、キチンと接客をするしかなかった。言うまでもなく、昨日のように逃げ出すことはできない。


「・・・むぅ~~~~~」


 燕真の危惧は正しかった。紅葉がアカウント全消去をして話は終わったと思っていたら、考えが甘かった。ツーショットを要望した客のソーシャルサービスから、身元を突き止められてしまったのだ。


「とりあえずさ、今は夏休みで時間が有るだろうし、

 何事も経験って事で、ダメ元でオーディションだけでも受けてみなよ。

 嫌だったら、途中で辞退すれば良いんだからさ。」

「ん~~・・・ホントに、有名人に会えますか?」

「番組で成功を収めれば、共演だって可能だ。英理達は、俺の番組出身だ。

 少しは興味を持ってくれた?」

「・・・ぅん。チョットだけ。」

「おぉっ!いいね、いいね!

 実は、一次選考の書類審査は締め切っているんだけどさ、

 君だったら、書類審査無し。俺の顔で通過させてやれるよ。

 来週が面接と希望曲で歌唱力の審査だ。オーディション会場で待ってるよ。」

「・・・はい。」


 紅葉の了承を得た割井達は、支払いを済ませて領収書をもらい、次の撮影の為に足早に店から出て行った。


「目当てはお嬢だけ。

 せっかく作ったモンを大量に残して、金さえ払えば、相手の気持ちなど関係無し。

 ・・・失礼な連中やのう。」

「『スタッフが美味しくいただきました』ってゆ~の・・・ウソだったのかな?」


 紅葉は不満そうにカウンター席に座って、カウンター台の上に置かれたピザトーストを摘まんで口の中に放り込んだ。


「ホント・・・ムカ付く。」


 燕真は、てっきり「紅葉は断る」と思っていたので、紅葉の想定対の対応に困惑気味だ。


「オマエ、オーディション受けんのか?」

「ホントゎイヤなんだけどさぁ。」

「だったらなんで?」

「アイツ等、きっと、ァタシが『うん』ってゆーまで居座るもん。

 あんなヤツ等がいたら、他のお客さんが迷惑しちゃう。」

「・・・言えてるな。」


 燕真は、紅葉が軽薄な連中の口車に乗ったワケじゃないと知って、少し安心をした。フォークを取って、「もったいない」と言いながら8割ほど余ったスパゲティーを食べようとしたが、紅葉に手を叩かれてフォークを落とす。


「芹田楠美と間接チューになるからダメ。」

(・・・くそっ!魂胆がバレた!)


 紅葉が粉木に視線を向ける。粉木も紅葉を見つめて小さく頷いた。


「ねぇ、じいちゃん?

 アイツ等が住んでんの東京だけど、こ~ゆ~場合はどうなんの?」

「事件が文架市で起こらな、ワシ等の管轄には成れへん。

 だけど、解っとって放置するわけにはいけへんやろうな。」

「ん?ジイさん、紅葉、何の話だ?」


 ノールックのまま、手の平でカウンター台を叩く紅葉。派手な音が店内に響き渡る。


「おいおい、物に八つ当たりすんなよ、凶暴娘!」

「チガウよぉ。

 アイツ等にくっついていた子妖が、お店に置いていかれちゃったのっ。」

「えっ?マジで?」

「燕真、ァタシをどんな目で見てんの?

 ァタシ、イライラしただけでカウンターを叩くほど凶暴ぢゃないってばぁ!」

(・・・凶暴だろ。) (凶暴やな。)


 燕真には見えないが、紅葉の手の中で、祓われた闇が消滅をする。


「ヤツ等の何人かが、子妖に憑かれとる。」

「ネチガエタって言ってたヤツがいたでしょ。多分、子妖のせいだよ。」

「本体は解らんかったか、お嬢?」


 子妖は、本体から離れすぎることはできない。つまり、本体が文架市外に存在して、子妖に憑かれた連中だけが文架市入りをするのは不可能。


「上手に隠れてるみたいで、全然わかんなかった。」


 憑いている子妖を祓うことは可能。だが、手、もしくは、祓い棒で叩かなければならない。子妖を、初対面の客ごと殴るわけにはいかないので、紅葉には手を出せなかったのだ。まぁ、初対面じゃなくても、客を殴っちゃダメだが・・・。


「東京の本社には連絡をしとく。

 だけど、事件が大きなる前に処理する為には、

 こっちで動くしかあれへんやろうな。」

「そっかぁ~・・・やっぱりそうなっちゃうんだぁ?

 塾終わったらカラオケ行くからさぁ・・・燕真、付き合ってね?」

「はぁ?急に何の話?」

「アイドルオーディションの二次が、フリーの歌唱力審査なの。

 三次審査が課題曲の歌唱力とダンス、最終審査が演技力。

 二次審査で落選して、ヨーカイの関係者に絡めなくなるのは困るし、

 ど~せオーディション受けなきゃなら、ちゃんとやりたいからさ、

 歌の練習に付き合ってよ。」

「なるほどな。言ってることは理解できた。

 でも何で俺が、付き合わなきゃならない?」

「なに言うてんねん?お嬢のサポートは、オマンの最重要任務や。」

「えっ?俺がサポート役?一緒にカラオケに行くのが仕事?」

「言わんでも解っとるやろうが、

 お嬢がオーディションで東京に行く時は、オマンが付き添うんやで。」

「ぅん!燕真がァタシに付いてきてくれるんだよ!」

「いやいや、解ってね~よ!なんで、小娘の東京引率が、俺の仕事なんだよ!?」

「オーディション中にお嬢が襲われたら、オマンが守ってやるしかないやろ。」

「・・・だぞっ!燕真っ!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「お泊まりで行く?」

「宿泊費は支給されんから自腹やで。」

「・・・日帰りに決まってんだろう。」


 燕真の東京出張が決まった。仕事の内容は紅葉の送迎と子守。燕真にしか熟せない凄まじく難易度の高い(?)任務だ。全く客が来ないYOUKAIミュージアムの2階で、1日中ボケッとしていた方が数倍マシである。




-19時・川東にあるカラオケボックス-


 燕真と紅葉が、2時間でソフトドリンク飲み放題のコースで受付をして、指定された部屋に行く。燕真がソファーに腰を降ろすと、直ぐ隣に紅葉が座って、早速、リモコンで曲の検索を開始した。


「トップバッター、ァタシでイイ?」

「リモコン占拠しといて、それを聞くか?

 オマエの練習の為に来たんだから、好きなだけ歌え。」

「んっ!アリガトっ!」


 紅葉は慣れた仕草でリモコンを操作して1曲目をエントリー。更に、曲が準備されるまでと、前奏の時間を利用して立て続けに計5曲をエントリーしてから、マイクを握って立ち上がった。


「5曲連続?・・・歌う気満々だな。」


♪~♪~♪~

 聞いた事のある‘3人組テクノポップユニットの曲’だ。リズムのテンポが良く、聞き馴染みのある曲なので、アイドリングに選ぶにはちょうど良い曲。いきなり、バラードやマイナーな曲を選ばない辺りは、ちゃんとマナーを心得ているようだ。燕真は、「紅葉の趣味はコレ系か」「友達と来ても、このパターンかな」と、自分が見ている時以外の紅葉のプライベートを垣間見た気がした。


「♪~」


 元々、甲高い金切り声からドスの利いた低い声まで、声量の振り幅が広い紅葉だが、リズムの乗せると聞き心地が良い。音程は、たまに外れる程度。最初は適当に聞き流すつもりだった燕真が、歌う紅葉の迫力に飲み込まれて、モニターに表示される歌詞に見入ってしまう。


「マジか?メッチャ上手いじゃん。」


 その後、紅葉は同ユニットのノリの良い曲ばかりを計4曲歌いきってから、ソファーに座ってマイクを置いた。


「ふぅ~・・・チョット休憩!次!燕真の番ねぇ!」

「えっ?俺、エントリーしてないんだけど。」

「ァタシが入れといた。」


 後奏が終わって、次に始まった前奏は、燕真が好んで聴くバンドの曲だった。歌うつもりが無かった燕真は少し驚いてしまう。


「なんで、俺の趣味を知っている?」

「前に、燕真のおうちに行った時に、CDがあるのをチェックしといた。」

「目聡い・・・と言うか怖いよオマエ。」

「い~から、い~から!歌って!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 燕真は、就職をして文架市に来てからはカラオケからは遠ざかっているが、学生時代には、友達とそれなりに歌った。だから、やる気が無い雰囲気で歌うのがNGってことは解る。割り切って立ち上がり、それなりに真剣に歌った。

 その後は、紅葉が8割、燕真が2割くらいの割合で歌う。中盤以降、紅葉は、バラードの選曲もするが、これも上手い。元気で騒がしい曲ばかりが専門ではないことを知った燕真は、聴き入ってしまう。


「燕真、この歌ゎ知ってるよねぇ?」

「いや、初めて聞いた。」

「なに言ってんの?燕真の大好きな清原果緒里ちゃんの歌だよぉ。」

「えっ?彼女、曲出してたの?」


 紅葉はサービスのつもりで、燕真がファンの女優の曲を歌ったが、肝心の燕真は、その女優が歌っていることを知らなかった。計2時間のカラオケで、選曲をミスしたのは、この時のみ。他は、どんなジャンルの曲でも、丁寧に歌っていた。


「二次審査どころか、三次審査も楽に通過できそうだな。」


 カラオケを終え、紅葉を自宅まで送り届けてアパートに戻った燕真が、夜空を見上げる。

 紅葉の楽しそうに歌う姿を眺めいるうちに、いつの間にか燕真自身も煽られて楽しくなった。きっと、紅葉の才能なのだろう。


「アイツ・・・本当にアイドルになれるんじゃね~か?

 退治屋なんかを手伝って、危険な世界に片足を突っ込むより、

 アイドルになった方が、よっぽどアイツ向きかもしれないな。」


 紅葉の容姿が満点なのは、初対面の時点で認めている。歌唱力の高さも文句無し。素で喋ったら全てが台無しだが、紅葉自身がアイドルという偶像を演じれば、クリアできるように思える。


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