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妖幻ファイターザムシードⅠ 凡人ヒーローと天才美少女の物語  作者: 上田 走真
第1話・ヒーローは閻魔様(vs絡新婦)
3/106

1-2・報酬は20円~ツインテールと60点

-YOUKAIミュージアム-


 その建物は文架市あやかしの郊外・陽快ようかい町にひっそりと建っていた。掲げている看板は立派だが、それほど知名度の高い博物館ではない。建物の面積は各階100㎡程度の2階建て。極端に狭いわけではないが、ミュージアムと呼べるほど広いわけでもない。正面には車が5~6台駐められるくらいの駐車場がある。

 妖怪好きの老人が趣味で始めた個人経営の博物館で、妖怪が描かれた掛け軸、館長が作った子泣き爺の像、市販品の妖怪のフィギュア、有名な妖怪漫画のパチモンのグッズ、館長いわく妖怪が宿っている石、館長いわく妖怪が宿っている刀、館長いわく妖怪が宿っている人形、妖怪とは全く関係無い古い巻物等々が陳列をしている。

 週末に数組程度の市外の客が見に来てガッカリして帰って行く、場合によっては一通り見学を終えた客に「YOUKAIミュージアムは何処ですか?」と聞かれるような有様なのだ。ここ数年は、ドサクサに紛れて、TVゲームやアニメで有名になった妖怪作品の玩具やガシャポンを扱っている為に辛うじて利益を保っている。


 その事務室で、今風の容姿の青年=佐波木燕真さばき えんまがソファーにドッカリと腰を下ろし、テーブルを挟んだ向かい側にミュージアムの館長=粉木勘平が座っている。


「駄賃や」

「どうも!あの程度の仕事で報酬貰えるなんて、ありがたいっすね!」


 一仕事を終えたふうの表情をした若者は、館長が差し出した封筒を受け取り、早速中身を確認する。出てきたのは10円玉が2枚。


「なぁ、粉木の爺さん・・・札、入れ忘れてんぞ」

「忘れておらん。そいで全部じゃ。」

「・・・・・・・・・・・・はぁ?報酬20円て。

 粉木じじいが生まれた頃なら20円は大金だったかもしれないけど、

 今の時代じゃガキのおやつ代にすらなんね~ぞ。」

「誰が子泣き爺やねん!・・・貰えるだけでもありがたく思わなあかんで、燕真!

 これ見てみいや!今回の出動に掛かった経費や!

 ワシの世話役代を考えれば赤字やで!!」


 粉木がテーブルの上に置いた報告書類と先程妖怪を封印したメダルに眼を通す。


 +出動費(退治査定込み)

 +民間人救助費(成功)

 +妖怪封印後のメダル価値

 -妖怪による民間人被害(無し)

 -出動時のマイナス査定(デコピン+女性放置)

 -白メダル作成費

 =20円


「・・・・・・・マイナス査定・・・デコピン?」

「被害者にデコピンしたやろ?」

「・・・え?ダメなの?」

「当たり前じゃ!治安を守る‘守護者’が民間人しばいてどうすんねん!」

「だって、あれは」

「『だって』やない!ダメなもんはダメじゃ!

 それに、蜘蛛に憑かれたオナゴ、放置してきたやろ?」

「してね~よ!女はちゃんとベンチに寝かせて来た!」

「風邪を引いたらどうすんねん?」

「んなもん知らね~よ!」

「キチンと保護せいや!」

「どうやって!?」

「此処に連れて来るんや!」

「気絶した女なんて拾ってきたら、かえって怪しいぞ!このスケベじじい!」

「誰がスケベじじいじゃ!」

「アンタだよ!」

「封印メダルかてただやない!こないなクズ妖封印しても価値あらへんねん!」

「・・・クズ?」

「メダル見てみいや!妖怪封印で変色しとるけど、文字が浮かんでないやろ!」

「あぁ・・・うん」

「封印したのは本体が生んだ子妖怪や、オナゴに憑いとったんは子妖やで!

 んなもん封印せんと退治せいや。

 子妖なんぞいちいち封印しとっらた、メダル費だけで赤字やで。

 封印すんのは消滅させられへん本体だけ。

 子が封印されたメダルなんて白メダル以下の価値や。」

「メンドクセーー・・・!

 だけど、赤字とかなんとか言うなら、

 先ずはこの胡散臭いミュージアムの赤字をなんとかしろよ!

 こんな酷い集客力で、館内係員の俺の給料出るのか!?」

「オマン・・・受付に座ってスマホ弄って暇潰ししているだけで、

 給料をもらえると思っとるのか?」

「・・・おいおい。」


 燕真は手の平にある20円を眺めながら溜息をつく。これ以上話しても進展は無さそうだ。

 佐波木燕真は、対外的にはYOUKAIミュージアムの従業員という肩書きを持ちつつ、館長の粉木と組んで妖怪退治の仕事をしている。理由は「成功時の報酬が良いから」と「ほんのちょっとの正義感」。・・・とは言っても、この仕事を始めたのは3ヶ月前。研修を経て、2~3日前に実戦投入されて、今回が初ミッション。記念すべき初報酬は20円だった。


「さっきのは子妖?・・・なら本体が何処かに?」


 バカ共へのお仕置きや、女性をお持ち帰りしなかった件までマイナス査定されたり、メダルの価値等々、言いたい不満は沢山あるのだが、それ以上に気掛かりなことがある。


「あぁ・・・子が繁殖しているからには、

 子を憑かせた本体が、オナゴの周りにおるで!

 憑かれてたんは何処のオナゴや?明日からはオナゴの身辺調査やな!」

「知らね~よ!・・・あ!だけど、高校のブレザー着ていたな。」

「生活範囲は家、学校、友達、塾やバイト先。そんなもんやろな。

 人が集まりやすくて子を憑かせやすい場所・・・

 一番可能性が高いのは学校やな。何処の高校や?」

「知らね~よ!」

「なして知らんねん!?」

「俺が女子高生の制服に詳しい方がオカシイだろう!!」

「しゃ~ないのう・・・明日、同じ制服の娘を見付けて突き止めや!」

「・・・俺が!?」

「他に誰がおんねん!?

 なんなら、学校で何かおかしいことがないか聞いてみてるのもアリやな!」

「・・・俺が!?」

「他に誰がおんねん!?

 ほら見てみいや、憑かれた娘を連れてきて、事情を聞いておれば、

 こない面倒にはならへんねん!」

「気絶した子を拾ってきちゃったら、別の意味で面倒になんだよ!」


 館長の粉木について、燕真は何も知らない。燕真と出会うまでの数年間、日本中を旅していたとか、世界中を走っていたとか、あとで伏線をどうとでも作れそうな「いかにも」な過去があるらしいが、今のところ興味もない。常にフザケていて、関西弁で、会話の所々に変なギャグを挟む。「粉木のジジイ」はOKだが「粉木ジジイ」と呼ぶと怒る。時々、相手をするのが面倒臭く感じるが、仕事上のパートナー件、上司なので、あまり邪険にもできない。


「・・・やれやれ、本体を放置しとくわけにはいかない!解ったよ!」


 言いたいことは多々あるが、それよりも今は‘本体’を突き止めて退治する方が大事。燕真は、渋々ながらも‘明日の調査の提案’を受け入れた。




-翌日・AM7:30-


 燕真がバイクを駆って、鎮守の森公園に到着する。公園で待機する理由は、昨夜の憑かれた女子高生が通学してくるのを待つ為。非常に安直だが、帰宅時に通ったんだから通学でも通るはず。

 愛車はホンダVFR1200F・・・なのだが、西陣織のカバーを貼ったシートと彼岸花を描いた九谷焼のサイドカバーが行き交う人々の注目を引く(変身前なので鬼カウルと骨タンクは無い)。皆、奇行仕様のバイクをジッと眺め、バカでも見るような表情で通り過ぎていく。恥ずかしいので外したいが、バイクを支給してくれた粉木から「妖気反応が強くなるから付けなアカン」と釘を刺されているので外せない。成功報酬でガッツリ儲けて、支給品ではなく自費でバイクを買いたい・・・そんな心情である。


「ぅわぁ!なに、このバィク!?」


 黄色い声がする。派手な西陣シートと九谷焼サイドカバーが注目を引いているようだ。燕真は「どうせバカにしてんだろ?」と思い、声を無視して遊歩道の向こうから昨日の女子高生が歩いてこないかと待ち続ける・・・つもりだった。


「すっげ~!西陣織と九谷焼だぁ!!かっこぃぃ~~~!!」


 意外にも、黄色い声の主は、奇行仕様をバカにするのではなく評価をしている。乗り主の燕真ですら格好悪いと思っているのに、他人目線で何処がどう格好良いのだろうか?まだ常識を知らない女子小学生か、随分と奇特な女、もしくは中二病を患った子だろう。

 「どんな娘だ?」との好奇心溢れる表情を隠し、声のする方に振り返ってみる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」


 ツインテールで整えられた髪形で、かなりの器量で、小柄の細身。頭の天辺にピョコンと髪の毛が立っているのが寝癖と言えば寝癖なのだろうか?俗に言う美少女の部類である。「違う子かな?」と周囲を見回すが、他に黄色い声を発しそうな人物はいない。つ~か、その寝癖でツインテールの美少女が、こちらを見詰めている。間違いなく黄色い声の主はこの娘だ。

 何故、こんな普通(よりも上)の娘が、こんな奇行バイクを高評価するのだろうか?からかっているのか?


「・・・あの?」

「ん~~~~~~~~~~~バィクは100点、乗ってる人ゎ・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・60点・・・・・かなぁ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」


 ちょっと待って欲しい!自慢じゃないが容姿には自信がある!今日だって、鏡で‘イケメンな仕上がり’を確認してから出て来た!100点は言い過ぎだが、万人から80点以上の評価をいただく容姿だ!

 やはり、からかわれているだけなのだろうか?それにしても「見た目が赤点」の評価は酷すぎる。


「60って、オマエ・・・」


 燕真が文句を言いかけたところで、自転車に乗ったボブカットの少女がツインテールの美少女に寄ってきた。2人は「ぉはょー!」「まったぁ~?」等と会話をしながら自転車に乗って去っていく。

 言いかけた言葉を飲み込み、なるほど、寝癖でツインテールの美少女は、ここでボブカット友達と待ち合わせていたんだな?と思いつつ、本来の目的を思い出して‘昨日憑かれていた女子高生’を待つことにした。

 少し離れた所から、ツインテールとボブカットの笑い声が聞こえてくる。視線を向けると、寝癖ツインテールがこちらを振り返っているのが見える。


「どうしたの?」

「ぅぅん・・・バィクは良ぃんだけど乗ってる人がね~」

「そうかな?結構、格好良いんじゃない?」

「悪くゎなぃけどバイクが良すぎて似合わなぃ。絶対ぁの人のセンスじゃなぃよ」


 凄まじい酷評が聞こえるので、イラッとしながら聞こえないふりをする。美少女とは言え、あんな奇特なセンスの持ち主に興味は無い。それよりも、憑かれていたボブカットの女子高生を見付けなければ!


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


チラッとツインテールの後ろ姿を見る。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 もう一度見る。

 ツインテールの美少女が着ているのは昨日憑かれていた娘と同じブレザー・・・と言うか、ツインテールの隣を歩いているボブカットって昨日の女子高生じゃん!なんだこの展開!?寝癖ツインテールのおかしな評論の所為で、初っ端からペースが乱れてしまった!

 燕真は、西陣シートに跨がり、ヘルメットを被って、ツインテールとボブカットを追う為にバイクを走らせる。




県立優麗ゆうれい高校-


 文架駅から徒歩で30分ほどの場所・御領おんりょう町に、その高校はあった。創立当初は女麗じょれい学園と言う名の女子高だったが、文架市の開発に伴い、共学化して名前を改めている。学業では市内2番目の進学校。部活動は「勉強との両立」を前提にしているので、基本的には市内で‘中の上’くらいで、目覚ましい活躍は少ない。


「おはよ~!」 「昨日、テレビ見た?」 「見た見た、アレでしょ~」 

「ユウ高~・・・ファイッ、オー、ファイッ、オー、ファイッ、オー!」


 通学してきた生徒達の挨拶や昨日の話題、部活動の朝練の掛け声など、校庭内では何処にでもありそうな日常が行き交っている。

 早いわけでもないが遅刻寸前でもない普通の時間帯、先ほど燕真を60点扱いしたツインテールとボブカットの少女が登校してきた。


「・・・?」


 正門から校庭内に入る直前、ツインテール少女が怪訝そうな表情をして躊躇う。対照的にボブカットの少女は、何事も無く足を踏み入れ、足を止めてツインテールの少女に振り返る。


「どうしたの、クレハ?」


 紅葉くれはと呼ばれたツインテールの少女は、2~3日前から校庭内に‘漠然とした何か’を感じていた。それが何なのか、ただの気のせいなのかは解らない。昨日がそうだったから、多分今日の同じなのだろう。そんな、口では表現できない不思議な感覚が、校庭内に足を踏み入れる事を一瞬だけ戸惑わせていた。


「ん?ぁ、ごめん、何でもなぃ!」


 ボブカットの友人に呼ばれて、校庭内に踏み込む。やはり昨日と同じ‘モヤッと湿った感覚’に包まれる。気持ち悪いのだが、心地良い空気だ。


「ねぇ、妙に汗臭くなぃ?」

「誰が?もしかして私が?」

「違ぅ違ぅ!」

「なら、クレハが!?」

「違うょ!学校が!」

「学校が汗臭いの?何それ?意味わかんないんですけど!」

「・・・だょね、あははははっ!」


 ツインテールの少女は、上手く表現のできない感覚を‘汗臭い’と表現した。特有の表現なので、それでは友人には伝わらない。それどころか、友人は違和感は少しも感じていない。

 昨日、下校後に2人でカラオケに行った帰り際、ツインテールの少女は、ボブカットの友人にチョットした‘いつもと違う雰囲気’と‘少しだけ変な影があるような表情’を感じていた。気にはなったけど「カラオケでテンションを上げて歌いすぎて疲れたんだ」と解釈して別れた。今朝会ってみたら‘いつもと違う雰囲気’と‘少しだけ変な影があるような表情’は少しも感じない。ツインテールの少女は「やはり、ただの気のせいだった」と解釈をした。

 友人の表情も、学校の雰囲気も全て気のせい。ツインテールの少女は、そのように考える。


モゾモゾモゾッ

「ひゃっ!」   パチン!


 不意に、虫のような物が首筋に止まって、襟足から背中に入っていこうとする感覚になったので、背筋をピンと伸ばして、反射的に首筋を叩いた。手の平には小さな虫を潰してしまった時の‘プチッ’とした嫌な感触が残る。ツインテールの少女は気付いていないが、手の平で叩いた場所に小さい闇の渦が発生して空気中に解けるように消滅をする。


「ぅわぁ~~~朝からサィァクなんですけどぉ~~」

「どうしたの?クレハ。」

「虫潰しちゃったょぉ~」


 ツインテールの少女が手の平を見るが、そこには残骸的な物は何も残っていない。「ん?」と首を傾げ、今度は首筋を触るが、やはり残骸の感触は何処にも無い。


《おぉぉぉぉっっっ・・・何故、コノ娘ニハ憑ケナイ!?》


 不気味に澱んだ声が聞こえたような気がする。


「ん!?何か言った!?」

「何が!?」

「『ムスメには付けない』とかなんとか?」

「言ってないよ!何を付けないの?」

「ワカンナイ!」

「何それ、変なの!」

「だょね!?アミ(ボブカットの友人)の声じゃなかったもん!

 ん~~~~空耳かな?」


 学校の雰囲気も、昨日の友達の表情も、虫の感触も、澱んだ声も、全ては気のせいなのだろうか?少女は、もう一度首筋を触って首を傾げた後、ボブカットの友人の後を追うように校舎内に入っていった。


 しかし、ツインテールの少女が感じた感覚は‘気のせい’ではなかった。校舎内のあちこちの隅、廊下や教室の天井、教員や生徒達の首筋から背中、ボブカットの友人の耳の裏あたり・・・至る所で‘小さい蜘蛛’がゴソゴソと動き回る。

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