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妖幻ファイターザムシードⅠ 凡人ヒーローと天才美少女の物語  作者: 上田 走真
第6話・英雄って何だろう(vs鵺)
24/106

6-3・ユータと裕太~鵺が燕真を呼ぶ

-30分後(AM11時半)-


 燕真と粉木がアパートに到着。だが、霊体少年の姿は無かった。


「やはり・・・」

「・・・どういうことだよ?」

「気付かんか?・・・ボウズと窃盗犯の名前から。」

「ガキの名前はユータ・・・窃盗野郎は香山裕太・・・・・同じ名前?」


 燕真は、状況を理解できずに首を傾げた。



-駅西の国道より更に西側にある廃倉庫-


 紅葉がビニール紐で後ろ手に縛られて座っており、少し離れたドラム缶の上に窃盗犯=香山裕太が腰を下ろしていた。


「こんなことして、ごめんな。だけど、僕はどうしてもアイツを消したいんだ。

 だけど、1回失敗をしたから、次は僕がアイツに近付く前に、

 アイツは僕に気付いて逃げてしまうだろう。

 だから、僕が探すのではなく、他人に探して連れてきてもらうしかない。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「君のツレが僕の要求に従えば、君に危害を加える気は無い。」


 今のところ、追跡時に体当たりをされてナイフで脅された以外には、危害は加えられていない。しかし、この様なひとけの無い場所で、いつ事態が急変するか?、香山裕太の要求が通らない場合はどうなるのか?

 不安で仕方がないが、取引が成立すれば、ユータくんは香山裕太に消されてしまう。それは納得ができない。紅葉は、恐る恐る、香山裕太に尋ねてみる。


「ねぇ・・・なんでユータくんを消したぃの?」

「へぇ~・・・名前まで知ってるんだ?

 なら、僕とアイツの関係、だいたい想像ついてんだろ?」

「ユータくんゎ・・・ァンタの分身。」


 紅葉の発言に対して、裕太が頷く。



-燕真のアパート-


 燕真の前で、粉木の勘と経験に裏打ちされた推測が続けられている。


「・・・そや、同じ名前、あの2人は同一人物なんや!

 せやから、香山裕太の考えちょる事は、ボウズの意識にも流入する!

 香山裕太が自分を消そうとしよると知って逃げたかて、

 なんも不思議なことはあれへん!

 ましてや、既に1回襲われとるんやからな。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「香山の家主の話・・・

 おそらく、香山裕太は、十数年前の事故の呪縛に取り憑かれてしもうとる。

 自分が許せなくて、自分を憎むようになり、

 やがては、その罪の意識から逃れる為に、

 十数年前の自分を別人格のように切り離し、

 十数年前の香山裕太を憎むようになったんや!」

「・・・それが、ユータってガキ?」

「そういうこっちゃ!

 憎まれるだけの為に生み出された思念!しかも十数年も蓄積された膨大な思念や!

 妖怪にとっちゃ、これほど憑きやすく、力を発揮しやすい依り代は無いやろな!」



-駅西の国道より更に西側にある廃倉庫-


「そう、アイツは僕の分身だ!

 僕を助けてくれた英雄のように、僕も英雄になる・・・

 そんな下らないことを考えてるカスだ!

 そんな、立派なものになんて・・・なれるわけがないのに!」



 平凡な自分では、どんなに頑張っても英雄にはなれない。

 どうすれば英雄になれるのだろう?もし今、目の前に轢かれる寸前のアカの他人がいたら、命を投げ出してまで助けられるのか?答えはノー。そんな勇気は無い。

 英雄を追い続けた少年は、成長の過程で理想と現実の狭間で藻掻き、到達のできない事実に気付いてしまった。


 香山裕太は、、永久に英雄にはなれない。英雄になることを諦めた。

 英雄は、こんなちっぽけな命を庇って死んだ。なんの役にも立たないクソのような命の為に、英雄は死ななければならなかった。あの時、自分がいなければ、英雄は死ななかった。自分が死んでいれば、英雄は死なずに済んだ。

 その結果、青年は自分を恨むようになり、やがて英雄の命という重荷に耐えられなくなった香山裕太は、自分自身ではなく、幼き日の香山裕太を、自分ではない別の個体として恨むようになる。その苦しみと恨みが、強い思念となり、少年の霊体を生み出した。


 一番悪いのは、少年時代の香山裕太。



「僕が自分を憎んで憎んで憎み続けたら、ある日、目の前にアイツがいた。

 アイツは、僕にとっては一番許せない汚点だ!

 最初は、見るのも気分が悪いから遠ざけていた。

 だけど違うんだ、僕の手でアイツを始末しなきゃ、一歩も先には進めないんだ!

 変な怪物とグルになったアイツを消せば、僕は、この苦しみから抜け出せる!

 僕は、過去の自分との決別と同時に、怪物退治をして英雄になれる!!

 これは、過去に縛られた僕にとってのチャンスなんだ!!」

「・・・だから・・・博物館の刀を?」

「そうだ!調べたら解ったんだ!

 アイツみたいな物は、普通の武器では倒せない!

 だから僕は、霊祓いの刀で!!」


 自分の行動を正当性を語る裕太。紅葉は、その大義名分に嫌悪を感じる。


「・・・・・・間違ってる。」

「なに!?」

「そんなの絶対に間違ってる!!」

「なんだと!?」

「アンタは、みんなユータくんの所為にして、自分ゎ関係無いってフリをしてる!

 ユータ君のことを自分の分身て言いながら、まるで他人扱いしている!

 ユータくんを消して、それで英雄にでもなるつもりなの!?

 ・・・そんなの絶対に違うっ!!」

「だ、だまれぇ!!」


 神経を逆撫でされた香山裕太は、苛立ちを募らせながら紅葉に駆け寄り、その頬を力いっぱい引っ叩いた!


「・・・んわぁっっ!」

「僕の気持ち1つでどうなるか解らない分際で、調子の乗るな!!」


 香山裕太は、紅葉の胸ぐらを掴み、顔を近付けて睨み付ける。そして、しばらくの後、紅葉から手を離して髪の毛を掻きむしりながら遠ざかった。


「オマエと話すとペースが乱れる!!無事でいたかったら僕に話し掛けるな!!」




-燕真のアパート-


 室内に霊体少年の姿は無く、彼を最も感知できる紅葉は拉致されている。燕真には霊的な存在を捜す能力は無く、粉木でも捜索には時間がかかりすぎるだろう。妖幻ファイターに変身をすれば、索敵力は高まるが、同時に捜索相手からも感知をされてしまう。

 妖怪ヌエが暴れれば、直ぐに妖怪センサーが反応して居場所を特定できるが、それを待つわけにも行かない。

 打つ手無し。しかし、何もしないワケにはいかない。何もせずにはいられない。


「燕真、こうなりゃ、やる事は1つや!意地でもボウズかお嬢を捜し出すんや!!」


 確率は極端に低いが、動き回れば、粉木の霊感に霊体少年が引っ掛かるかもしれない。紅葉や香山裕太の手掛かりが見付かるかもしれない。燕真と粉木は別行動で、駅西地区を中心に街中の捜索を開始した。




-1時間後・駅西地区-


 利幕町の交差点、香山宅の周辺、国道・・・燕真は思い付く場所を中心にして、ひたすらバイクを走らせるが、手掛かりは何も得られず焦りばかりが募る。


「クソッ・・・どうすれば良いんだ!?」



-更に1時間後・利幕町の交差点-


 燕真は、紅葉捜索の過程で何度も通過をした交差点に戻っていた。何処を捜せば良いのか全く解らない。何も想像できないなりに導き出された答えは、紅葉が「この交差点にはユータの念が残ってしまった」と言ったこと。眼を瞑り‘自分には認識できない物’への交信を試みるが、やはり何も感知できない。

 妖幻ファイターに変身をすれば、多分何かが解る。だけど、本当にそれで良いのか?ユータを見付け出して、祓って、事件終了。・・・燕真には、どうしても、それが正解とは思えない。


「なぁ・・・ユータ・・・

 オマエなら紅葉と窃盗野郎の居場所・・・

 もう1人の自分が隠れている場所・・・解るんだろ?

 紅葉を助けたいんだ・・・頼む、教えてくれ。

 俺にはオマエの声は聞こえないけど・・・

 一度だけで良いから、オマエの声を聞かせてくれ。」


 それは、無意識から出た燕真の本心。


 霊感の無い燕真には、どんなに近くにいても、霊体少年の声は聞こえない。しかし、ほんの僅かな時間でも霊体少年と心を通わせた燕真の声は、どんなに遠くにいても彼の心に届いた。




-駅西の国道より更に西側にある廃倉庫-


 その場の空気が変化をして、紅葉の前に、それまではいなかったはずのユータが立っている。


「ユータ・・・くん?」

「燕真お兄ちゃんが困っている・・・

 僕に『お姉ちゃんの居場所を教えて欲しい』ってお願いしてくれた。」

「こんな所に来ちゃダメだよ、ユータくん・・・逃げて!」

「・・・オマエ!!」


 ユータの出現に気付いた香山裕太が、盗んだ霊祓いの刀を持って近付いてくる。しかし、ユータ少年は、もう1人の自分を一瞥もせず、紅葉を見詰めて話し続ける。その体の中心には、闇の渦が出現をしている。


「一度目は、13年前の事故の交差点で、

 同じように突っ込んでくるトラックを見た時・・・

 事故のことを思い出しちゃったら、何がなんだか解らなくなって、

 妖怪に乗っ取られちゃった。

 二度目は、もう1人の僕に襲われた時・・・

 もう1人の僕の憎しみの心が入り込んできたら、

 何がなんだか解らなくなって、妖怪に変身しちゃった。

 だからきっと・・・また、もう1人の僕に会えば、僕は僕じゃなくなっちゃう。」

「ダメだよ、ユータくん!

 大丈夫だから・・・ヒドイことされてないから・・・

 心配しなくて良いから・・・」

「ぽっぺのアザ・・・もう1人の僕がやったんでしょ?

 隠しても解るよ・・・だって・・・もう1人の僕も僕なんだから。」


 ユータ少年の体に出現した闇の渦が大きく膨らんでいく!


「どんなに頑張っても、憎いって心に勝てなくなっちゃう。

 でも・・・そうすれば・・・燕真お兄ちゃんに、この場所を教えてあげられる。」

「ゴチャゴチャと煩い!!オマエのような奴は、僕の手で始末してやる!!!」


 迫ってきた香山裕太が、刀を抜き、頭上高く振り上げて、ユータ少年目掛けて振り下ろした!




-駅西区・利幕町付近-


ピーピーピー!

 Yウォッチから発信音が鳴る。燕真は、直ぐにバイクを路肩に停車して応答をした。


「じいさん、何か解ったのか!?」

〈燕真、妖怪出現や!この反応は、この間と同じヌエやで!!

 場所は、国道西の廃倉庫!!〉

「クソッ・・・こんな時に!!」

〈そうとも言えんで!

 今回の出現場所は、今までのような街中やあらへん!何も無いところや!!

 もしかしたら、其処にお嬢と香山裕太がおるのかもしれんで!!〉

「解った!直ぐに向かう!!」


 燕真は、バイクに跨がったまま『閻』と書かれたメダルを抜き取って、和船バックルの帆の部分に嵌めこんだ!


「幻装っ!!」


 燕真の体が光に包まれ、妖幻ファイターザムシード登場!直ぐに朧車を召還して、ホンダVFR1200FをマシンOBOROに変身させ、黄泉平坂フィールドに飛び込んだ!




-廃倉庫-


「ガォォォォォォォッッッ!!」

「ひぃ・・・ひぃぃぃぃっっっ!!!」


 ユータ少年は妖怪ヌエに変化をしてしまった為、霊刀程度では刃が立たず、香山裕太は眼に涙を浮かべながら逃げ惑っている!

 ヌエは鼻をクンクンと嗅いで、依り代が最も望む(憎む)餌=走行中の大型トラックを捜す。直ぐ近くでは、その匂いは感じられない。しかし少し離れた高速道路上に美味そうな標的が何台も走行をしている!


「ガォォォォォォォッッッ!!」


 ヌエが雄叫びを上げて移動しようとしたその時!


「うおぉぉぉぉぉっっっっっっっっっっっっっ!!!」


 時空の歪みからザムシードの駆るマシンOBOROが出現をして、タイヤを炎で包みながら、ヌエにフライングボディープレスを叩き込んだ!


「ガォォォォォォォッッッ!!」


 しかし、着弾寸前でヌエは両手でカウルを押さえ込み、そのまま横倒しにマシンOBOROを放り投げる!マシンOBOROは転倒して、ザムシードは地面に投げ出されながらも体勢を立て直して構えた!直撃による致命傷は与えられなかったが、炎とタイヤで一定のダメージを与えた手応えはある!


「相変わらず・・・すげーパワーだな!!

 だけど・・・ガキを祓うならともかく、妖怪退治なら願ったり叶ったりだ!

 オマエを封印して、ガキを解放してやる!」


 見回すと、手首を拘束された紅葉と、腰を抜かした香山裕太の姿を確認できる。


「紅葉、もうちっと待ってろ!!」


 ザムシードは、Yウォッチから白メダル取り出して、ブーツの窪みに装填!ザムシードとヌエの間に炎を絨毯が出現をする!


「ゴチャゴチャした戦いは抜きだ!一発で決めてやる!!」


 ヌエに体の正面を向け、ゆっくりと腰を落として構え、顔を上げ、標的を睨み付ける!


「閻魔様の・・・裁きの時間だ!!」


 ザムシードは炎を絨毯を踏み、ヌエ目掛けて突進してジャンプ!幾つもの火柱が上がって体を押し上げる!空中で一回転をしてヌエに向けて右足を真っ直ぐに突き出した!


「うおぉぉぉぉっっっっっっ!!!」

「ガォォォォォォォッッッ!!」


 インパクトの直前に、ヌエが振り回した蛇の尾が、ザムシードの側面に炸裂!ザムシードは弾き飛ばされて何度も地面を転がる!更に、突進してきたヌエに蹴り飛ばされ、壁に激突して、砕けた壁の破片と共に屋外に投げ出された!


「くそっ!やはり強いっ!」


 その間に、一足遅れて到着をした粉木が駆け付けて、紅葉の拘束を解いて保護をする。そして、座り込んだまま俯いている香山裕太に手を差し伸べ、引っ張り起こした。


「なぁ・・・香山、これはオマンが起こした騒ぎの顛末や!シッカリと見ときや!」


 粉木の発言に小さく頷く香山裕太。3人は、廃倉庫から出て、戦闘中のザムシードを見守る。


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