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妖幻ファイターザムシードⅠ 凡人ヒーローと天才美少女の物語  作者: 上田 走真
第6話・英雄って何だろう(vs鵺)
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6-2・香山邸~無礼な燕真と老獪な粉木~紅葉拉致

-AM10時・利幕町-


 現場に到着した燕真と紅葉は、バイクを路肩に停車させ、十数年前の事故があった交差点に足を運ぶ。

 燕真は、交差点歩道に立って横断歩道を眺めるが、相変わらず何も感じない。その場にしゃがみ、「俺だって少しくらいは!」と意識を集中させる・・・が、やっぱり何も感じない。至って普通の横断歩道だ。


「オマエは何か感じるのか?」

「ぅん。・・・前から、ココを通るたんびに感じていた重い空気の原因が、

 十何年か前の事故のせいってことくらいはね。

 ユータ君の念を感じるよ。でも、ユータ君ゎいないの。」

「どういうことだ?」

「十何年か前の事故の時、ユータ君ゎココにいたの。

 だから、ユータ君の念が残っちゃってるの。」


 事故で命を失った本人が思念を残した場合は、事故現場に自縛される。だが、事故に関わった他者の場合は、何らかの目的の為に動き回ってしまうらしい。


ピーピーピー!

 Yウォッチが発信音を鳴らす。


「どうした、粉木のじいさん?」

〈解ったで、昨日の窃盗犯!

 名前は香山裕太。住んでんのはそこから直ぐや。〉

「解った、直ぐに行ってみる!」


 ほどなくして、燕真達は自転車の持ち主の家に到着。表札を確認すると【香山】と書いてある。直ぐにインターホンを鳴らして家主を呼ぶ。出て来たのは父親らしき人物だった。家主の話だと、息子は朝出て行ったっきり戻ってきていないらしい。


「そうですか。」


 燕真は立ち去ろうとするが、紅葉はその場から足を動かさない。そして、頭の中で何一つ纏まっていないまま問いかけた。


「十数年前の事故のこと、教ぇてくれませんか?」


 それまで穏やかに接していた家主の表情が曇った。燕真はその表情を見逃さない。


「君達には関係無いでしょう!」


 家主は、そそくさと扉を閉めようとするが、燕真が手を掛けて閉めさせない。


「アンタ、なんか隠してるな!?」


 扉の閉塞を防いだまま、家主の目を睨み付ける燕真。家主は視線を逸らす。


「何なんですか、君達は!警察を呼びますよ!!」


 家主や警察に「香山家の息子が妖怪事件と関わっている」なんて説明しても、納得をしてくれるわけがない。燕真と紅葉は戸惑うが、直ぐに、背後から援護射撃が入った。


「こんちわ~!川東のYOUKAIミュージアムの館長なんやけど・・・

 ちいと話させてもらえんかのう?」


 聞き慣れた声がする。振り返ると粉木が穏やかな表情で立っていた。家の直ぐ脇の路肩には、粉木の車が駐車してある。


「うちのガキ共が粗相して、すまへんなぁ~!せやけど、悪気はあらへんねん。

 ただ、昨日、うちでちぃ~と盗難騒ぎが有っての、

 お宅んとこの裕太君の事を聞かせてほしいんや」

「・・・と、盗難?・・・裕太が?」


 それまで部外者を拒絶しようとしていた家主の動きが止まり、閉めかけていた扉が開かれる。


「此処で話すのも何なんで、お上がりください。」


 3人を家の中へと招き入れる険しい家主の表情と対応からは、「息子の素行は、以前から何かの問題を抱えていたのだろう」と察せられる。


「えろう、すんまねんなぁ。」


 穏やかな表情のまま軽く会釈をして、突っ立っている燕真と紅葉の間を通過して、玄関に踏み込む粉木。すれ違いながら、燕真と紅葉の後頭部を軽く叩く。


「いてっ!」 「ィタァ!」

「オマン等みたいな小僧が、血相変えて押し掛けてきよったら、誰でも怪しむわ!!

 アホか!もうちっと、考えや!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2


 これが年の功というやつか?燕真と紅葉は、些か不満そうに互いの眼を見合ってから、粉木を追って玄関に上がり込んだ。




-香山邸・客間-


 粉木は、挨拶代わりに、近所で購入した菓子箱を差し出して、早速話し始める。


「昨日ワシの店で盗難があったんや。

 ほんで、うちの物を持ちだした子の乗りほかした自転車が、

 裕太君の物と解りましてな。

 なんか心当たりがあるか思いまして、此処に来たわけです。」


 粉木の問い掛けは、言い回しは穏やかだが、単刀直入だった。後々聞いた話だが、「入るまでは警戒させない」「入ってしまえばこっちのもの」らしい。流石は年配者と言うべきか?


「すみませんでした!!弁償はしますから、このことは!!」


 床に頭を擦り付けて何度も謝罪をする家主。彼の慣れた行動からは、「この父親にとって土下座は初めてではなく、息子の素行がたびたび問題を起こしている」と再確認することができる。


「頭を上げなはれや。取った物は戻してもらえたら警察沙汰にする気はおまへん。

 割られたガラスなんてやすもんやさかい、どうでもええ。

 そやけど、ワシは、裕太君が、なんであんな事をしたのか知りたいんや。」


 燕真は一言も発することなく、老獪な粉木をジッと眺めていた。この老人は、僅かな言葉選びだけで、確実に家主の懐に入り込みながら、盗難事件の核心を突いている。今の自分に、粉木と同じ駆け引きはできない。玄関先で門前払いをされて終わりだろう。

 家主は、俯いて話しにくそうにしている。恐らく、家庭の事情を打ち明けるに当たって、「話し相手に子供が交ざっている事に抵抗があるのだろう」と察した粉木は、紅葉に、「直ぐに終わらせるから、しばらく車の中で待っていて欲しい」と言って席を外させ、再び話を切り出した。


 やがて家主は、それまで腹の中に溜め続けていた物を吐き出すようにして、息子・裕太の事情を語り出した。



 自分を助けてくれたお兄ちゃんのような英雄になる。

 あの日、自らの命を盾にして少年を救ってくれた大学院生は、裕太少年の目標と成った。


「頑張って英雄にならなきゃな!」「英雄はそんなことは言わないよ」


 人の命を背負うなんて、まだ幼い息子には重すぎると考えた父母は、英雄になる目標を持つことで、彼が前向きに育ってくれると思っていた。

 勉強もスポーツもそれなりに頑張った。友達にも恵まれた。

 だけど、そんなものは英雄でもなんでもない。子供から大人になる過程で彼は気付いた。


「平凡な自分では、どんなに頑張っても英雄にはなれない。」


 彼は次第に「英雄の名を語る暴力」に走るようになる。「自分の中の正義」に反する行動を取った者を見ると「英雄」という大義名分を翳して暴力を加えた。しかし、自分が求めた英雄像とかけ離れていることに気付き、やがて笑顔を失った。



「そうか、裕太君には、そんな過去があったんでんなぁ。」

「ふぅ~~~ん・・・英雄ねぇ?

 何で英雄にならなきゃなのかは、よく解らないけど、

 アイツはアイツで苦労してんだな。」


 燕真と粉木は、「自分が他者の死の上に成り立つ辛さ」を背負ってしまった青年に同情をする。




-香山邸・外-


 会話から外されてしまった紅葉が、不満な表情をしながら、粉木の車の後部座席でスマホのゲームをして時間を潰す。仲間外れが面白くない。イライラするのでゲームにも集中できず、すぐにミスをしてゲームオーバーになってしまう。


「ヒマっ!燕真とジィちゃんゎ、まだ戻って来ないの?」


 車内から窓の外を眺めた。50mほど離れた場所、こちら(香山邸)に歩いてくる男と眼が合う。先日の窃盗犯だ。今、紅葉達がいる場所が自宅なのだから、いつ戻ってきても不思議ではない。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ!ァィツ!」


 紅葉は車から飛び出して、窃盗犯に向かって突っ走る!青年は、紅葉の接近に気付き、驚いた表情で逃走をする!


「あの女・・・昨日、博物館にいた奴だ!他のヤツらもいるのか!?」


 青年は住宅地の狭い路地に入り、広い空き地に抜けて、適当な物陰に身を隠す!数秒後に、紅葉が空き地に乗り込んで青年を捜す!息を殺して身を潜めていた青年は、通過直後の紅葉の背中目掛けて突進をして、体当たりで押し倒した!


「きゃぁっ!!」

「暴れたり、大声を出したら、どうなるか解ってんだろうな!?

 オマエ、博物館の女だよな!?

 オマエには聞きたいことがあったんだ!あのガキが見えていたのか!?」

「・・・・・・・・・・・んぅぅぅっ」


 青年は、護身用に携帯しておいたナイフを紅葉の眼前にチラつかせて威嚇をする!




-10分後(AM11時)・香山邸-


 一通りの話を終えた燕真と粉木が、香山邸から出てくる。外に紅葉を待たせている都合上、あまり長居はできないと考え、今日のところは要点のみを聞いて、話を切り上げたのだ。


「アイツ(紅葉)、おとなくし待っているかな?」


 車を見たら、後部座席のドアは開けっ放しになって、紅葉の姿は無い。


「・・・あのバカ、ドアも閉めずに、どこに遊びに行きやがったんだ!?」


 紅葉がジッとしていられない性分なのは気付いていたが、まさか、30分も我慢できないほど堪え性が無いとは予想していなかった。燕真は、大きく溜息をついて、紅葉のスマホをコールする。


「おい、紅葉、何処に行った!?帰るから、すぐに戻ってこい!!」

〈・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・〉

「おい、聞こえてんだろ!?何処をほっつき歩いてんだよ!?」

〈・・・そうか?その声は、博物館にいた男だな!?〉

「・・・・・男の声?・・・・・・おまえ!?」


 様子がおかしい。発信相手を間違えたのかと、ディスプレイを確認するが、発信先は間違いなく紅葉のスマホだ。しかし、知らない男の声がする。


〈ちょうど良い。僕も君達と話したいと思っていたんだ。〉

「・・・・・・・・・アンタ・・・誰だよ!?」

〈僕の声、忘れたのか?昨日、博物館で会ったよね?〉

「・・・昨日?・・・・・・・・・・・・オマエ、窃盗野郎か!?

 何でオマエが紅葉の携帯を持っているんだ!?」

〈簡単なことだ!僕と女は一緒にいる!少し考えれば解るだろ!?

 この女を無事に帰して欲しかったら、昨日の子供を捜して連れて来い!

 あの子供、オマエ等にも見えてんだろ!?〉

「・・・え!?」

〈子供を見付けたら、もう一度、この女のスマホに電話をしろ!

 場所はその時に指示をする!

 いいか、親父や警察には言うなよ!〉

「・・・ちょっと待て!」

〈守られなければ、女の無事は保証しない!!〉

「・・・・・・・・・・・お、おい!!」

プツン・・・ツー・・・ツー・・・


 通話は一方的に切られてしまう。燕真は、悔しそうに表情を曇らせ、握っていたスマホに力を込める。どうすればいい?展開が突飛すぎて、思考が追い着かない。

 それまで、無言で会話を聞いていた粉木が、燕真の肩をポンと叩く。


「話はだいたい解った。今から、オマンのアパートに行くで!」

「・・・・・・・・・・・・・・え!?」

「あのボウズ、オマンの所にいるんやろ!?」

「え!?・・・なんでそれを!?」

「ドアホ!昨日、捜索に出たっきり、アジトに戻らずに直帰したやろ!?

 おおかた、ボウズを見付けたが、ワシには会わしたくない・・・そんな魂胆やろ!

 オマン等の考えてる事くらい、たいていは想像できるわい!!」

「・・・・・ゴメン、でも行ってどうすんだよ!?」

「祓うに決まってるやろ!」

「・・・・・・・・・・・・・・え!」


 粉木は、燕真と窃盗犯の会話の内容や、昨日の香山裕太の行動から、ある程度の状況は把握していた。

 香山裕太が霊祓いの刀を盗んだ理由は、霊体少年を祓いたいから。その為に、紅葉を拉致し、燕真達に取引を持ちかけた。

 香山は、昨日の博物館での紅葉の対応で、紅葉には一般人には見えない物が見えることは把握した。だから、仲間である燕真や粉木にも、同等の力があると考えたのだろう。

 そして、「捜せ」との指示から解ることは、紅葉は、香山には霊体少年の居場所を伝えていない。


「ボウズを庇っとるお嬢の気持ちを無視する事になるが、お嬢を助ける為や!

 ボウズを祓って、そのことを窃盗犯に伝える!

 ボウズがただの霊で、オマン等と友達ごっこをしとる分には、

 何も言うつもりはない!

 オマンがボウズ祓うより、妖怪潰すんを考えよるなら、

 被害が出んうちは、何処までやれるか見物しようとも思った!

 せやけど、もうアカン!

 退治屋が守るんは、残留思念やない!生きた人なんや!」


 燕真は、霊体少年を祓うことには抵抗があったが、粉木の言い分は正論であり、反論の余地はない。依り代を守って紅葉に危害が及んだら、退治屋として、人として、本末転倒だ。


「・・・・・・解ってる。」

「ただなぁ、もしワシの推測が正しければ、

 ボウズはもう、オマンのアパートから逃げとるかもしれん!」

「・・・・・・・・・・・・・え!?」

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