表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖幻ファイターザムシードⅠ 凡人ヒーローと天才美少女の物語  作者: 上田 走真
第6話・英雄って何だろう(vs鵺)
22/106

6-1・鵺撤退~依代を祓う?~メダルおはじき

 駐車場に出て、戦況を見守る紅葉にとって、その光景は、彼女が思い描いた物とはあまりにも違っていた。

 ワンサイドバトル!ザムシードは手も足も出せず、一方的に嬲られ続けている!


「燕真っ!!!」


 地面に両膝を着くザムシードの腹を蹴り上げ、浮き上がったところに拳を叩き込むヌエ!


「うわぁぁぁっっ!!!」


 ザムシードは、全身から火花を散らせながら弾き飛ばされ、何度も駐車場を転がる!


「ガォォォォォォォッッッ!!」


 ヌエは、ひと飛びでザムシードに近付き、何度も何度も背中を踏み付ける!


「行くで、燕真っ!タイミングを合わせぃ!!」


 粉木が御札を取り出して翳しながら指で印を結んで、ヌエ目掛けて飛ばす!御札はヌエの背中に命中して小爆発を起こした!一声嘶いて仰け反るヌエ!


「クッソォ・・・いつまでも、調子に乗ってんな!!」


 その隙を突き、ザムシードは、背中の痛みに耐えながらYウォッチから『炎』と書かれたメダルを抜き取って、空きスロットルに装填!

 妖幻ファイターは、武器として使用するメダルの他に、攻撃力に添加する『炎』『風』『雷』『水』『氷』『地』『閃』『斬』等の属性メダルを所持しており、ザムシードには『炎』メダルが支給されている。


「吠え面かかせてやんぜぇっ!!喰らえ、猿顔野郎!!」


 ザムシードの両手甲と脛当てから炎が発せられる!仰向けに体を捻りながら、ヌエが踏み降ろした足を左腕で軽く弾いてバランスを崩させ、右拳を突き出した!拳から打ち出された炎が、ヌエの上半身を包む!


「ガォォォォォォォッッッ!!」


 掻き毟るようにして炎を振り払うヌエ!ザムシードは、その隙に裁笏ヤマを拾ってヌエ目掛けて突進し、その体に一閃を叩き付けた!大きく吼えながら後退りするヌエ!かなり強靱らしく、まだ仕留め切れない。だが、ようやくダメージを与えた手応えを感じる!

 間髪入れずにもう一閃叩き込もうと踏み込むが、これまでに受けたダメージが重くのしかかり、足がもつれて片膝を着く!その顔面にヌエの蹴りが炸裂!仰向けに転倒するザムシード!

 一方のヌエは肩で息をしながら大地を蹴り、博物館の屋根に着地をして、そのまま、幾つもの屋根を飛び越えて逃走をする!そして、一定の距離まで離れたところで、闇の渦化をして空中に消えた!


「何だよ、アイツ・・・今までのヤツと全然違うじゃね~か!!」


 ザムシードは、ヌエの妖気反応が消えたことを確認して変身を解除。燕真の姿に戻り、全身で息をしながら、その場で大の字に寝転がった!


「燕真、だぃじょぅぶ!?」


 紅葉が駆け寄ってきて、燕真を抱き起こす。


「あぁ・・・何とかな!

 だけど、何がなんだかワカンネ~よ!解るように説明してくれ!」

「・・・・ぅ・・・ぅん」


 燕真の問いに対して、紅葉は表情を曇らせながら小さく頷いた。3人は、駐車場から事務室に場所を移す。


「なぁ、何がどうなって妖怪が現れたんだ!?

 刀を盗んだアイツは何だったんだ!?

 俺にも解るように説明してくれよ!?」

「・・・そうやな。」

「・・・ぅん」


 燕真の質問を受けた粉木と紅葉は、テーブルを挟んだ向かい側のソファーに並んで腰を下ろして、先ずは粉木が説明を始めた。紅葉は口を閉じたまま俯いている。


「あの男は、お嬢が連れてきおった霊体のボウズを狙いおったんや。

 アイツ等がどんな関係かは解らんけど、

 恐らく、霊祓いの刀でボウズを祓うつもりでな。

 せやけど、ボウズが妖怪になったから、あの男は祓えずに逃げたんや。

 逃げる時に刀を持ち逃げしよったさかい、またボウズを狙うつもりやろな。」


 だいたいの話の流れは解ったが、紅葉の表情が浮かない理由は解らない。「子供が妖怪に憑かれていた&自分が連れ込んだ子供が妖怪に憑かれていた」という条件は、カマイタチ事件と同じ。紅葉は困惑するどころか、率先して事件を解決する為に動き回った。なら何故、今回は、困惑をしているのだろうか?


「ねぇ、粉木のおじいちゃん・・・」


 しばらく俯いていた紅葉が、顔を上げて口を開いた。


「なんや、お嬢?」

「カマィタチの時みたぃに、

 憑ぃてぃる妖怪を先にやっつけたり、弱らせたりしちゃえば、

 ユータくんの望みを叶えてぁげられるんだょねぇ?」

「あぁ・・・そうや。」

「だったら、憑ぃてぃる妖怪が強すぎてやっつけられないと、どうなるの?」


 燕真は、紅葉の質問を聞いて、何を困惑しているのかを理解した。先に妖怪を叩いて、依り代をフリーにすれば、依り代は希望を叶えて、「御祓い」ではなく「未練を断ち切る」形で見送れる。

 しかし、妖怪が強い場合、もしくは、絡新婦の時のように隠れている場合は、退治屋は依り代を先に消滅させて、妖怪を炙り出す手段を選択する。単独では現世に留まれない妖怪は、依り代を失った途端に、急激に能力を低下させて倒しやすくなる。これは、妖怪退治の視点で考えれば、間違いなく有効的な手段だ。

 ただし、依り代の残した未練は無視をされる。元々現世に存在してはならない物として、その都合に関係無く‘撤去’をされてしまうのだ。

 紅葉は、「自分を頼ってくれた少年が、なんの望みも叶えられずに祓われてしまうこと」を想像して、困惑している。


「解ったよ!・・・俺がもう少しシッカリすりゃ良いんだろ!?

 次は、あの猿顔を、問答無用で叩き潰してやるよ!!」

「・・・ぅん!!」


 燕真の答えを聞いた途端、紅葉の表情は明るくなった。例え強かろうと、妖怪さえ先に倒してしまえば、霊体少年の望みを叶えてやれる。燕真の言葉で、紅葉はそれを理解したのだ。


「さてと・・・そうと決まれば、何よりも動くことが先決だ!

 窃盗男に事情を聞くにしても、ガキの話を聞くにしても、

 探し出さなきゃ何にも始まらないからな!

 なぁ、紅葉、軽く一回りしてくるから付き合え!!」

「ぅん!!」


 2人は、博物館から飛び出して、ホンダVFR1200Fに跨がり、公道に飛び出していった!


「なぁ、紅葉・・・シッカリ捕まって、目でも瞑っておけ!

 オマエなら意識を集中させれば、ガキが近くにいれば感じられんだろ!?」

「ぅん!!」


 紅葉は、燕真の背中に寄り添って、腰に手を回して力を込め、目を閉じて意識を集中させる。今まで何度か紅葉をタンデムに乗せてきたが、これまでは肩に掴まらせる程度で、ピッタリと密着をされるのは初めてだ。がさつで残念すぎる女だが、彼女から少し信頼と期待をされているように思えて、燕真は少しばかり嬉しい。


 一方、燕真達を見送った粉木の表情は冴えない。頭を空っぽにして動くことで得られる物もある。それが若者達の特権でもある。確かに、燕真が言い切ったように、妖怪を先に叩いて依り代が解放されれば、紅葉の望みは叶えてやれるだろう。

 だが、先程の戦いは、粉木の援護が無ければ、ザムシードは負けていた。辛うじて追い払えただけ。今回の戦いで見た「妖怪のパワー」と、一昨日の燕真からの報告で受けた「バイクの体当たりを凌ぎきったタフネスぶり」、そして燕真の妖幻ファイターとしての未熟さを考慮すると、力の差を覆すのは難しい。ヌエは、絡新婦やカマイタチに比べて、間違いなく数ランク格上の妖怪である。

 気合いや前向きな態度だけでは、どうにもならない差がある。退治屋の優先事項は妖怪退治であり、依り代の都合は二の次なのだ。




-数十分後-


 燕真が、山逗野川の堤防沿いでバイクを走らせていると、タンデムの紅葉が、肩を軽く叩いて「停めて欲しい」と合図をしてきた。バイクを停車させると、紅葉はタンデムから飛び降りて、川側の斜面を駆け下りて中腹で腰を下ろす。


「いた・・・・のかな?」


 燕真はヘルメットを脱ぎ、ハンドルに肘を突いて凭れ掛かりながら、紅葉の背中を眺める。退治屋の定石を考えれば、今ここで、問答無用で‘彼’を祓うのが一番早い。しかし燕真には、その気は無い。紅葉との約束を優先させたいと考えている。妖怪が霊体少年に憑いているのならば、野放しにするより、身近でキチンと管理をした方が良い。


「なぁ、紅葉!もし、ガキがいるなら伝えてくれ。

 行く場所が無いならアパートに来いってさ!」


 燕真は「紅葉経由」と言いながらも、自分には見えない霊体少年に話し掛けるように提案をしてみた。その言葉が霊体少年に届いたかは解らないが、紅葉が「どうする?」と語りかけているので、おそらく言葉は届いたのだろう。しばらくの後、紅葉が堤防の斜面を駆け上がってきて、霊体少年と話した内容を燕真に説明する。

 霊体少年・ユータくんは、自分に妖怪が憑いていることを知っている。妖怪に支配されないように抵抗はしているが、憎しみや恐怖に駆られてしまうと、抑えられなくなってしまう。退治屋に見付かれば、消されてしまうことも知っている。だからこそ、燕真のアパートや粉木の自宅には行きたくない。

 抵抗できずに、妖怪に支配されてしまったのは計2回。昨日の利幕町の事故と、先程の博物館での騒ぎだ。紅葉が、「何が原因で支配されたのか?」と訪ねたが、「話したくない」と、下を俯いてしまったらしい。


「そっか・・・まぁ、誰だって、自分を消そうって奴と一緒にはいたくないよな。

 なぁ、紅葉、ガキに伝えてくれ!

 自分の意志で妖怪を暴れさせてんじゃないのなら、俺を怖がる必要は無い。

 どうにか、妖怪だけを退治するから、信用しろってさ!」


 燕真は、再び、「紅葉経由」と言いながらも、見えない霊体少年に直接問うように提案をしてみた。

 存在しないはずの物を家に招き入れるのは、正直、あまり良い気分はしない。しかし、話に聞く限り、霊体少年は悪い奴では無さそうだ。存在を感じることができないのだから、彼が部屋に数日間居候しても、特に生活リズムが変わるわけでもない。

 紅葉は、見えない少年がいる方向を見てコクリと頷き、今度は燕真を見て、もう一度頷いた。霊体少年の同意が得られたらしい。


「部屋ん中で何をやっても構わないが、

 昨日みたく、勝手にいなくなるのだけは勘弁してくれよ!」


 18時半を過ぎていた。依り代消滅を考えるであろう上司には、霊体少年を見付けたことを報告をしにくい。「見付からなかったが、定時を過ぎたので直帰する」と電話で粉木に伝えて了解を得たので、そのままアパートに戻ることにした。


 コンビニに寄り、霊体少年用のプリン2個と、燕真の夕食用の弁当と、紅葉が勝手に買い物籠に入れたスナック菓子を購入し、レンタルDVD店で幼児向けアニメを3本ほど借りて、アパートに到着した頃には19時を廻っていた。

 先ずは、幼児向けアニメをDVDプレイヤーに入れて再生し、プリンの蓋を開けてテーブルの上に置き、燕真は弁当を食べ始める。紅葉はスナック菓子を食べながらアニメを鑑賞して笑い、空気中に話し掛けている。どうやら、霊体少年もアニメを楽しんでくれているようだ。・・・・が、まさか紅葉は、アニメが終わるまで居座るのだろうか?


「ねぇねぇ、燕真。ユータくんと遊ぶからYメダルを貸してっ!」

「・・・はぁ?なんで?」

「い~から、い~から!」


 1本目のアニメが終わると、紅葉がYメダルのオネダリをしてきた。最初は渋っていた燕真だったが、紅葉がしつこく頼んでくるので、仕方なく『閻』『蜘』『朧』『炎』のメダルを渡す。紅葉はメダルをテーブルの上に並べて、『蜘』メダルを指で弾いて見せた。すると、今度は、『炎』のメダルが勝手に動いて、先ほど紅葉が弾いた『蜘』メダルにコツンと当たった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」

「このメダルゎね、霊的な力が入ってるから、ユータくんにも触れるんだょぉ!」

「あ~・・・なるほど。」


 Yメダルは現世と常世の中間の存在。見えない少年が干渉できても不思議ではない。Yメダルをオハジキにして遊ぶのは罰当たりな気もするが、他に燕真と霊体少年が共有できる手段が無いのならば、これはこれで有りなのかもしれない。

 燕真は、テーブル側に体を向け、『閻』メダルに指を添え、先ほど霊体少年が動かした『炎』メダルにパチンと当ててみた。紅葉が『蜘』を指で弾いて『閻』に当て、テーブルの縁ギリギリに追い詰める。『炎』が勝手に動いて『閻』をテーブルの外に弾き落とす。


「ありゃ、俺のメダルが!」

「ぁははっ!やりぃ!燕真の負け!ユータくん上手い!!」


 見えない存在とのオハジキ遊び、それは燕真にとっては不思議な感覚だった。しかし、見えなくても間違いなく其処にいる。同じ時間を楽しく共有している。それは、決して悪いことではないように思えた。Yメダルによるオハジキは、紅葉が帰宅をした後も、しばらく続けられる。




-翌朝・YOUKAIミュージアム-


 本日は土曜日。朝一で紅葉が燕真のアパートに顔を出して、霊体少年の存在を確認する。今回はキチンと室内にいてくれたらしい。燕真は、朝食用のプリンをテーブルに置き、霊体少年をアパートに残して、紅葉と共に博物館に出社をした。

 昨日夕方の捜索と隠蔽でスッカリ忘れていたが、戦闘時に出入り口ドア(ドア枠含む)の破損と、窃盗犯に館内を荒らされた為に、本日は急きょ閉館だ。今日は壊れた扉を仮補強して、2~3日中に入れ替えをすることになった。

 朝食を終えた燕真達は、粉木邸から事務所に移して、パソコンで検索を掛けながら打合せをする。


「・・・有ったで、これや!

 もう10年以上も前やさかいスッカリ忘れておったが、確かに有ったわ!」


 一昨日の大型トラック事故が発生した場所は、確か以前にも事故があったような気がする。粉木のうる覚えの記憶を頼りにしてネットで検索をしたら、一件の交通事故がヒットをした。


【親子を救った英雄

 20××年12月23日、

 文架市利幕町の交差点で、大学院生の○○さんが・・・】


「なぁ、じいさん・・これって?」

「せや、一昨日の事故と同じ場所や!」

「何だかイマイチ話が見えないけど、行ってみるしかなさそうだな!」


 粉木は、燕真&紅葉を見送ったあと、再びパソコンの前に座る。妖怪の依り代に襲い掛かった窃盗犯のことも放置できる事案ではない。彼が残していった自転車の防犯登録から検索依頼をした結果の答えが、そろそろ届く頃だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ