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妖幻ファイターザムシードⅠ 凡人ヒーローと天才美少女の物語  作者: 上田 走真
第4話・お嬢ちゃんと少年(vs鎌鼬)
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4-1・紅葉の母~モーニングコール~神社の御守り

-文架市・広院ひろいん町-


 鎮守地区にある鎮守の森公園の南側、その住宅地の一角にある中層マンションの一室で、朝から、元気声が響き渡り、デニムのミニスカートとラグランTシャツで決めた少女が飛び出していく。


「ぃってきま~すぅ!」

「こら、紅葉!脱いだ服くらい片付けていきなさい!!」

「ぅん!帰ってきたら片付けるねぇ~!」


 紅葉の母が、脱ぎ散らかされた玄関のスリッパとリビングのジャージ(寝巻き)を整える。

 娘の容姿の良さは親も認めている。しかし、如何せん、性格ががさつ過ぎる。年頃の娘がリビングで着替えて、脱いだ物は放りっぱなし。風呂上がりはほぼ全裸に近い状態で歩き回る。自室はゴミなのか必要なのかよく解らない物が散乱しており、「片付けろ」と言っても「今度ね」と言う返事しか返ってこない。

 各部屋のあちこちには、鎮守様(亜弥賀神社)の御札が貼ってあるのだが、紅葉の部屋には、御札と並べて、アイドルグループやイケメン俳優のポスターが貼ってあり、ありがたみも何も有ったものではない。

 たまにラブレターを貰ってくるが、封を切った形跡もないまま、ゴミ箱に捨てられている。ベッドや布団の下で、埃まみれになったまま、存在すら忘れられたものまである。本人いわく「面倒臭い」らしい。

 このままでは我が子はマズイと思い、最低限度の一般常識や人目を意識するクセを育てる為に、バイトを勧めたところ、比較的卒無くこなし、物覚えも早いと安堵したのも束の間、金曜日の帰宅後に「セクハラな社長をパイプ椅子で殴ったらクビになっちゃった」と笑いながら話していた。


 ちなみに友人(亜美)との交流が始まったキッカケは、小学校中学年時代に、公園で男子上級生にいじめられていた亜美を見た紅葉が、上級生達を蹴っ飛ばして泣かせて助けて以来らしい。


「これは、当分は男の子は寄ってこないわね~。」


 慌ただしく駆け出していく紅葉を見送りながら、母は深々と溜息をついた。




-陽快町・YOUKAIミュージアム-


 紅葉の自宅から南東側(郊外側)に10分~15分ほど自転車を走らせたところに、新しいバイト先(本人談)がある。まだ、開場時間までは時間があるが、昨日、粉木宅のキッチンで作った朝食が高評価だったので、本日も‘スッカリその気’になって、朝食前の時間帯に合わせて訪れたのだ。


「・・・・・ん?」


 紅葉が敷地内に自転車で乗り入れると、駐車場にポツンと立って博物館の方を眺めている少年がいる。


「ぁ!・・・昨日の子だぁ!チィ~~~ス!」


 元気な挨拶を受けた少年が振り向く。紅葉は「ちょっと待ってね」と言って、自転車を博物館前の駐輪スペースに止めてから少年に近付いた。


「昨日ゎビックリしたでしょう?ぁのぁと、どこに行っちゃったの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 少年は、しばらくは無言のまま紅葉を見詰めていたが、やがてポツリと呟いた。


「・・・・お嬢ちゃんになら話してもいいよ。・・・俺ね・・・」

「ぁ!今から朝ご飯なんだけど、君も食べるょね?

 ・・・ぉぃで!食べながらぉ話ししょぅ!」

「・・・・ぁ、でも」


 紅葉は、やや困惑する少年の手を引っ張り、粉木宅に上がり込む。


「チィ~~~ス!」


 玄関から聞こえてくる金切り声と、騒がしく廊下を走る足音で、燕真は目を覚ました。目を覚ましたと言っても、ロクに寝ていない。時計を見ると8時半を示している。昨日、寝入った直後に、粉木の妨害を喰らって寝そびれしてまった。「今日は朝食は要らない。開場ギリギリまで寝ていよう。」と、2度寝を気も込もうとしたが、そうは問屋が卸さない!


「燕真~~~!!朝だぁぁ~~~~!!!

 おっきろぉぉ~~~~~~~~~~~~!!!」


 クソ騒がしい金切り声の主が、足音を立てながら枕元に立ち、両手に持っていたフライパンと玉杓子を打ち鳴らす!騒がしくて仕方が無い!


「頼むからもう少し寝かせてくれ。」


 燕真が頭まで布団を被ると、今度は、足元から布団を剥いで燕真の腹に跨がり、玉杓子で燕真の額をゴツゴツと叩き始めた。きっと、端から見れば、バカップルのじゃれ合いに見えるのだろうけど、燕真からすると凄まじい台風が直撃をしたような心境である。


「燕真~~~!!朝だぁぁ~~~~!!!

 おっきろぉぉ~~~~~~~~~~~~!!!」

「あ~~~~~~~~~~もうっ!!!

 解ったよ、起きれば良いんだろ、起きれば!!!」


 たかが玉杓子とはいえ、寝ている間ずっと叩かれ続けるワケにもいかない。つ~か、起きた直後の若い男には、恋人以外には感づいて欲しくない、朝一の生理現象がある。

 軽~く殺意を覚えながら起き上がる燕真。独身の若い男に跨がる美少女なんて、他人が見たら、確実に2人の関係性を勘違いするぞ。「ガキではなく女性」という自覚を、もう少し持って欲しい!・・・てか、朝一の男の事情を理解して欲しい!


「ちょっと待っててねぇ!美味しぃの作ってぁげるからぁ!」


 台所に戻った紅葉は、椅子に腰を掛けている少年の頭を撫でて、調理台の前に立つ。温めたフライパンに放り込まれたキャベツが、ジューッと言う焼音を立てて食欲をそそる。キャベツに火が通って柔らかくなったところに、2つに切ったソーセージを幾つも入れ、塩で味を調えて、簡単ではあるが野菜炒めの完成だ。

 引き続き半熟卵焼きの調理に取り掛かる。白身は焦げ目が出来ないようにキッチリと焼き、黄身はトロトロのままに仕上げ、一つ目の目玉焼きをフライパンから皿に移し、招き入れた少年の前に差し出した。


「おっ!美味そうじゃん!」


 着替えを終えた燕真が台所に入ってきて、冷蔵庫からトマトジュースを持ち出して椅子に座り、コップに注いで飲み干す。続けて、テーブルの上の箸立てから専用の箸を取って、事前に調理が終わっているキャベツ炒めを一口頬張った。

 味付け、火の通し方、共に文句無し。簡単な料理とはいえ、丁寧に調理されていることは歯ごたえで解る。

 見た目は可愛いし、料理はそれなりにできるし、学内で「お嫁さんにしたい候補」のトップ5には入るのではないだろうか?ただし、喋ると全てが台無しになるが。


「あれ?君は食べないの?食べて良いんだよ。」


 紅葉が見ると、少年は朝食には一切手を付けずに、ずっと俯いている。食べるように勧めるが、少年は首を横に振るばかりだ。野菜が嫌いで食べてくれないのだろうか?


「ごめんねぇ・・・ぉ姉ちゃんが作ったの、口に合わない?」


 紅葉は椅子に座っている少年の足元にしゃがみ、少年を見上げながら自分の頭をコツンと叩く。燕真から見て、これがまた可愛い。ただし、それが‘意味不明で電波系な行動’でさえなければ。


「なぁ・・・オマエさぁ、一体、誰と話してるんだ?」

「・・・ん?ぁ、そっか!

 燕真にゎまだ紹介してぃなかったねぇ!この子ゎショータくん!

 朝早くから博物館に遊びに来てくれたから、朝ご飯に誘っちゃったぁ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・しょうた?」


 燕真は、紅葉が手先で示す方向を見詰める。


「しょうたくんて・・・・その椅子が?」


 燕真には、そこには椅子しか見えない。紅葉は、何の変哲もない椅子を擬人化しているらしい。大切なヌイグルミに名前を付けるなら女の子らしくて可愛いが、他人の家の椅子に名前を付けるって、どんだけ電波なんだろうか?


「・・・え?イス??」

「あぁ・・・椅子。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 紅葉は、もう一度、椅子に座っている少年を見て、首を傾げながら口を開いた。


「ねぇ・・・もしかしてショータくんて・・・・人間じゃなぃの?」


 少年は首を縦に振った。


「そっかぁ~・・・燕真にゎ見えなぃ子なんだねぇ~」

「相変わらず、オマンには見えんか?」


 向かいの席の座っていた粉木が口を挟む。


「粉木のおじいちゃんには見えるの?」

「おう、見えるで!半透明やけどな!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 燕真は、それ以上説明されなくても解った。さっきは‘意味不明で電波系な行動’と考えたが違うらしい。紅葉は、燕真には見えない人と話をしていたようだ。


(あぁ~~~、そう言う事ね。

 そういう類の物が目の前にいるんだ~?

 そ~ゆ~のって、夜だけ出現するんじゃなくて、朝一からいるんだ?

 ・・・そっかぁ~・・・ふぅ~ん・・・・・チョットだけ怖い。)


 朝食を終えた燕真達は、居間でテレビを見ながら開館までの時間を潰す。紅葉は、燕真には理解のできない話をしている。燕真の頭が悪くて理解できないってワケじゃなくて、燕真には見えない人と会話をしているから、会話が穴だらけで理解不能なのだ。


「どこに住んでぃたの?」

「へぇ~・・・そうなんだ?この辺のことは詳しぃの?」

「そっかぁ~。」


 テンポ良く長文の言葉が続いているわけではなく、単語に近い言葉ばかりを喋っているので、会話が弾んでいるワケでは無いことは想像できる。


「ありゃぁ~~・・・そうなの?そんな悪い人ぢゃないんだけどなぁ。

 ねぇねぇ、燕真ぁ~。」

「・・・ん?」

「ショータくん、燕真のこと苦手なんだってさぁ~。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 燕真からすれば、いくら見えない相手とは言え、何も悪いことはしていないのに、一方的に「苦手」扱いされるのは、チョットだけ寂しい。


「そう言う情報は黙っとけ、がさつ女!」


 ただでさえ見えなくて距離が開いているのに、そんな余計な情報を聞いちゃったら、もっと距離が開くだろうに!


(この娘・・・なんで、霊体を、自分と同じ種族(人間)のように扱えんねん?)


 粉木は、紅葉の対応や仕草から、自分よりも紅葉の方が霊力が高いことは察していた。しかしそれでも、これまで霊体は霊体として接してきた粉木からすれば、まるで同じ人間のように接する紅葉が理解できない。

 「友人に憑いた子妖の維持」については、その友人の通学路が公園の遊歩道であり、遊歩道は龍脈として強い霊気が流れ込んでいるので、友人が頻繁に霊気を浴びていたと考えれば説明できる。

 だが、「妖怪の索敵能力」「妖怪に最優先で狙われた」「素手で子妖を祓った」は、別の話だ。例え、紅葉が友人と同じように龍脈で霊気を溜めていたとしても、それを能力として開花させることなど有り得ない。


(お嬢は、人が外的要因で得た能力と言うよりも、

 妖怪や、妖怪と同等の力を持つ妖幻ファイターに近い能力の持ち主や。)


 ここ数日間の紅葉との付き合いの中で、粉木は次第に「一般人を深入りさせてはならない」ではなく「彼女からは目を離してはならない」と考えるようになっていた。粉木が紅葉の来訪を拒まず、燕真に「セットで動け」と指示をした理由はそれだ。

 この娘の能力の根拠を知りたい。しかし、変な聞き方をして彼女を不安にさせたくない。粉木は、言葉を選びながら、これまで有耶無耶になっていた話題を蒸し返すことにした。


「・・・なぁ、お嬢?おかんは、お嬢に霊が見えることを知っとるんか?」

「ん~~~~~~~~・・・多分、知らないと思うよ。

 言ったことないからね。・・・なんで?」


 事の重大さを認識していない紅葉からは、アッサリとした答えしか返ってこない。


〈そっか、お嬢ちゃんからは不思議なものを感じると思ってたけど、それだな?〉 

※燕真には聞こえない


 不意に、粉木の疑問を吹き飛ばすかのように、少年がポツリと呟きながら紅葉の胸元を指さした。粉木とは違う存在だからこそ、粉木には解らない何かを察知してようだ。


「・・・・それ?」


 紅葉は、何を言われているのか解らず、しばらく首を傾げて「ん~~」と呻っていたが、やがて思い出して表情を晴らした。

 おもむろに上着の襟元を引っ張り下げて、中に手を突っ込む。粉木は興味津々と覗き込み、会話に参加できずに話が解らない燕真も、思わず紅葉の行動に見入ってしまう。年頃の娘が人前で襟元全開って・・・男なら誰でも見るぞ!もう少し‘女’を自覚しろよ!


「水色の・・・肩紐」

「ん?・・・なんか言った?燕真??」

「・・・い、いえ、別に」


 目を泳がせて訂正するが、美少女の健康そうな肩から鎖骨辺りが見られて、チョット嬉しい。

 紅葉は、首から掛けて服の中に入れてあった物を引っ張り出す。それは、亜弥賀神社のお守りだった。


「これのこと?」

〈うん・・・それそれ。お姉ちゃん、神様に守られているんだね。〉 

※燕真には聞こえない

「これね、ママが、肌身離さず付けてなさいって、

 年に何回か神社から貰ってきてくれるの。」

「なるほどな・・・そういうこっちゃか?」


 確かに、お守りの効力を考えれば、それが目障りと感じた「妖怪に最優先で狙われた」、それがあるゆえに「素手で子妖を祓った」と説明できる。


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