3-3・紅葉幻装~燕真乱入
一方の紅葉は、勢いよく飛び出して来てしまったが、改めて考えると‘3丁目’と言っても結構広い。直ぐに現場が解ると予想していたが、考えが甘かった。3丁目の何処に行けば良いのだろう?
「ょ~し!ぁの角を曲がってみょっかぁ?ごぉ~~~~!!」
行き先が解らないなら、己の勘に頼るのみ!自慢じゃないが、幼い頃から勘は結構良い。ただし、テスト前のヤマ勘は壊滅的。
狭い路地に入り、スピードを乗せたまま、次の十字路でハンドルを右に切る!
「・・・ぇ!?」
「わぁっ!!」
「きゃぁぁぁぁっっっっ!!」
キィーーーーーーーーー・・・ガラガラガッシャ~~~~~ン!!
曲がった瞬間に少年が飛び出して来た。あわや衝突の寸前で辛うじてブレーキを掛けながらハンドルを切る紅葉。自転車は、あまりの急ハンドル&急ブレーキに耐えられず、バランスを崩してタイヤを滑らせ、近くの道路工事で立てておいた‘この先工事中’や‘ご迷惑おかけします’の看板に激突して薙ぎ倒しながら転倒する。
「ぁ痛っ・・・イタタタタッ!」
貸してもらった巫女の衣装はすり切れているが、お陰で紅葉には、殆ど怪我は無い。腕に負ったかすり傷を摩りながら、ぶつかりそうになった少年を眺める。少年の方も、紅葉を見詰めている。
「ぁ・・・・さっきの?」
先程、博物館の対面で紅葉達を眺めていた少年だ。紅葉は少年に近付いて外傷が無いか探すが、特に怪我は無さそうなので安堵の溜息をつく。しかし、同時に、その少年の寂しそうな表情が目に入る。
「ねぇ、君・・・みんなと遊びたかったの?」
「違うよ。俺は、お嬢ちゃん達がやっていた遊びは知らない。」
「なら、遊んでいた誰かに用があったの?」
「お嬢ちゃんと遊んでいた子も知らない。」
「そっか、知らないんだ?・・・ねぇ?ぉぅちゎ何処?この辺なの?」
「・・・うん」
仲間に入りたくて自分達を眺めていたのかと思ったが違ったようだ。
「だったら・・・何を見ていたの?」
「・・・・うん・・・お嬢ちゃんになら話してやるよ。俺はね。」
「ぁのさぁ・・・
さっきからスッゲ~気になってたんだけど、
『お嬢ちゃん』じゃなくて『お姉ちゃん』じゃね?
ァタシの方が年上だょねぇ?」
少年が紅葉に何かを打ち明けようとしたその時!
「ぎゃぁぁっ!!」 「わぁぁっ!!」
幾つもの男達の悲鳴が上がる!紅葉がその方向に視線を向けると、工事用のヘルメットを被った男達が逃げ、その少し先には、背中から鎌の付いた2本腕を生やした男が暴れ回っている!
「ぁ!・・・妖怪、見付けた!・・・子妖ってヤツかなぁ?」
-YOUKAIミュージアム-
粉木が張り付いていたコンピューターの画面に、妖怪発生場所の詳細情報が表示される。『陽快町3丁目○番地付近』。直ぐに出動中のYウォッチに通信を送る。
しかし、現場に急行中の燕真の耳には、発信音は届いていない。
ピーピーピー!!!
紅葉が転倒させた自転車の籠の中の手下げ袋で、発信音が鳴り響いている。
-陽快町2丁目-
捜索を続ける燕真の胸ポケットで、スマホが着信音を鳴らした。バイクを止めてディスプレイを確認をすると、発信者は‘会社’と表示されている。
「どうした、じいさん?」
〈どうしたもこうしたもあるか!?なんで、Yウォッチに出ぇへんねん!?
いくら通信しても出ぇへんから、携帯に電話したんや!〉
「・・・あ、ワリィ、(左腕に)着けるの忘れてた!」
〈ボケェ!アホンダラッ!!オマン、任務中にどういうつもりや!!?〉
「ワリィって!直ぐに着けるよ!それより、どうしたんだ!?」
〈そう言う問題やない!気が弛んどるんや!!
まぁ、今、ゴチャゴチャ言うてもしゃ~ない!
その件は、あとでキッチリ話付ける!!
妖怪が出おった場所は、陽快町3丁目○番地付近や!!
今、道路工事中やから、行けば直ぐ解る!!〉
「了解・・・直ぐに行く!」
燕真は通話を切り、Yウォッチと和船ベルトを入れてある収納スペースに手を伸ばす。どのみち緊急時は基本的にバイク移動なので、ミュージアムで働いている平常時はバイクに収納しておくのだが、つい、装備するのを忘れていた。我ながら、粉木に「性根が据わっていない」と非難されても反論のしようがない体たらくと感じる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
‘いつもの場所’に無い。青ざめてしまう。どこに置いてきた?自宅アパートか?粉木宅か?博物館事務所か?「装備するのを忘れていた」なんて次元のミスではない。
しかし、立ち止まって頭を悩ませている時間など無い!置いてきた場所の見当がついても、取りに戻るつもりも無い!
「まぁ、なんとかなるだろう!
最悪、バイクで体当たりをするくらいはできる!」
現場に到着してから、その後のことを考える!燕真はヘルメットを被り直して、再びバイクを走らせた!
-YOUKAIミュージアム-
燕真の不真面目っぷりが心配になった粉木は、「燕真は何処にいるのか?」と考え、GPSでYウォッチの現在地を探す。まだ通信を終えたばかりの燕真では、現場には到着できないはず。しかし、ウォッチの反応が、妖怪発生現場にあるのを見て、頭を抱え込んでしまう。
「・・・・・・・・・・・・・・・あんのバカ共がぁ~~」
-陽快町3丁目○番地付近-
ピーピーピー!!!
紅葉が転倒させた自転車の籠の中の手下げ袋で、発信音が鳴り続けている!
紅葉は、今朝初めて「燕真に霊感が全く無い」と聞かされて驚いた。「見える」と言ったのが嘘だったので驚いたワケではない。妖怪退治屋を名乗っているのに、妖怪を感じる能力が欠片も無いことに驚かされた。
そのクセして、妖怪出現現場に相乗りをしようとしたら、理由も聞かずに置いて行きやがった。一緒に行けばサポートできる自信はあるのに・・・。見返してやりたい。役に立つところを見せ付けてやる。
燕真でも務まるのなら、自分にならば、もっと上手くできるはずだ。変身アイテムの隠し場所は、以前、燕真が出し入れしているのを見たので知っていた。
「霊感ゼロの燕真にでも出来るんだから、
ァタシなら、もっと上手に出来るはず!!」
‘背中から鎌付きの手を生やした男’を警戒しながら自転車に近付く紅葉!手下げ袋の中に手を忍ばせて、発信音が鳴り続けるYウォッチと和船ベルトを取り出す!
「燕真の変身ゎ見た!ァタシにだってできる!!」
紅葉は左手首にYウォッチを取り付け、『閻』と書かれたメダルを抜き取って、和船を模したバックルの帆の部分に嵌めこんだ!!
「げ~んそうっ!!」 《JAMSHID!!》
ザムシード(紅葉)を敵と見なした子妖が、背中の鎌を振り上げながら襲い掛かってくる!応戦すべく子妖に立ち向かっていくザムシード(紅葉)!しかし、その突進は鈍足&不格好そのもので、燕真が変身した時と同じような雄々しさと軽やかさは全く無い。想定していたのとはだいぶ違う。身に纏った装備が重く感じる。
「やぁぁぁっっっっ!!」
「うぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!」
装備の重さも手伝って、まるで腰の入っていないパンチを繰り出すザムシード(紅葉)!しかし、アッサリと回避され、胸プロテクターに左右の大鎌を叩き込まれ、悲鳴を上げながら弾き飛ばされて無様に地面を転がる!
「なにこれ・・・ちっとも強くならなぃ!」
ザムシード(紅葉)は、重さとダメージに支配され、満足に立ち上がることすらできない!子妖が突進してきた!
「ヤバいっ!!」
マスクの下で目を瞑る紅葉!直後に、バイクが激しい排気音を響かせながら突っ込んできて、子妖に憑かれた男を弾き飛ばし、タイヤを横滑りさせながら、倒れているザムシードを庇うように止まった!搭乗者は、ヘルメットを脱ぎながらバイクから降りて、ザムシード(紅葉)に向けて手を差し出す!
「オマエ、紅葉だよな!?何だよ、オマエが持ち出していたのかよ?」
「・・・燕真」
「あとは俺がやる!ソイツをよこせ!」
「ぅ・・・ぅん!」
変身を解除した紅葉から、Yウォッチと和船ベルトを手渡される燕真!ベルトを腰に廻し、『閻』と書かれたメダルを、和船バックルの帆の部分に嵌めこんだ!!
「幻装っ!!」 《JAMSHID!!》
燕真の体が光に包まれ、妖幻ファイターザムシード登場!
すかさず、一歩踏み込むながら身を屈め、突進してくる‘鎌を生やした男’に足払いを掛けて転倒させ、力任せに地面に押し付ける!
「直ぐに後ろのもん祓ってやるから、おとなしくしてろ!」
ザムシードは、裁笏ヤマを男の背中に叩き込み、飛び出して来た鎌付きの子妖を貫く!子妖は闇に解けるように消滅し、憑かれていた男は意識を失ったまま穏やかな表情を取り戻す!
「うぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!」
子妖を祓って安心したのも束の間、百数十m先で、もう一匹の‘鎌を生やした男’が、ザムシードの方を睨み付けている。
「もう一匹いやがったのか!」
もう一匹に向かって突っ走っていくザムシード!子妖は、2~3歩後退してから背中を見せて、その場から逃走していく!子妖に憑かれている為か、その逃走速度や跳躍力は、人間のとは比べ物にならない!
「ぅゎっ!逃げたぁ!!」
「え~~~・・・逃げんのあり!?掛かって来ないのかよ!?」
逃げて行く子妖を追い掛けるザムシード!しかし、離されないものの、元々100m以上も距離が離れているので、簡単には追い着けそうにない。何処かで曲がったり隠れたら見失ってしまう。
「・・・ならばっ!」
ザムシードは、Yウォッチから『朧』と書かれているメダルを取り出して、Yウォッチの空きスロットに装填!
《オボログルマ!!》
電子音が鳴り響き、時空が歪んで不気味で大きな顔のある牛車の妖怪が出現!停車してあったホンダVFR1200Fの西陣シート&九谷焼サイドカバーに取り憑いた!途端に、カウルに朧車の顔が出現し、エネルギータンクが背骨と肋骨のような物で覆われる!マシンOBOROの完成だ!
妖怪化をして意志を持ったバイクは自動発進をして、ダッシュ中のザムシードに追い付いて並走をする!ザムシードはマシンOBOROに跨がり、ハンドルを握り、アクセルを噴かす!
「頼むぜ、OBORO!アイツの匂い(妖気)を覚えてくれ!
黄泉平坂フィールドを使って追い付くぞ!!」
〈オ~~~~ボォ~~~~~ロォ~~~~~~~~!!〉
マシンOBOROの進行方向に時空の歪みが出現!そのままOBOROを走らせ、時空の歪みに飛び込むザムシード!時空の歪みの向こう側(黄泉平坂フィールド)に入った途端に、マシンOBOROは搭乗者の周りを牛車形のバリヤで包み、超音速モードに移行して爆走する!
妖怪が通過した後には、2~3分程度だが妖気が停滞をする。そして朧フェイスには、覚えた匂い(妖気)を追跡することができるのだ。
また、人の目には見えないが、人間界には、様々な外的要因で発生した霊気や妖気の停滞しやすい歪みが各所に存在をする。マシンOBOROは、朧フェイスでその歪みを発見・干渉して、その歪みから黄泉平坂フィールドと呼ばれる空間に入り、ボーンタンクに集まる怨念を推進力にして異空間を超音速で走らせることができる。
上記を超解りやすく説明すれば、マシンOBOROは、逃走した妖怪の追跡と、ワープができるのだ。
「・・・た、助かったぁ。」
紅葉はザムシードとマシンOBOROを見送って、危機が去ったことに胸を撫で下ろし、先程の少年を捜す。しかし、少年の姿は何処にも無かった。
「・・・・・・・・ぁれぇ?ぃなぃ・・・・何処に行っちゃたんだろぉ?」