表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/106

Ⅰ-2・アデスの誕生~アポロ登場~滋子との再会

-神殿広間(人間界)-


 選ばれし者達の中に、経典に同調するフリをして息を潜めている若い女性がいた。 厳密には、彼女を含めた仲間達が、カルト教団事件の本部を探る為に信者のフリをして潜入をしたのだが、「資格有り」に選別をされて神殿に連れてこられたのは彼女だけだった。


(マズいわ!尊さん、早う来て!

 お調子者ふうの関西人がインバージョンワールドに引き摺り込まれた!)


 女性の名は、砂影滋子。彼女の服には、発信器内蔵のボタンが縫い付けてある。



-神殿の外-


「此処か!?ワルキューレのアジトは!」


 スズキ・TSハスラーⅢを駆る青年=本条尊が、発信器から発せられる電波を追って敷地内に到着!バイクから降りて、神殿に駆け込む!




-神殿広間(異世界)-


 しばらくは逃げ廻った勘平だったが、違和感を感じて手を見て、自分の体が粒子化をして蒸発していることに気付く。異世界インバージョンワールドに受け入れてもらえない生命が、消えかけているのだ。


「ひぃぃっ!何がどうなっとるんや?」


 動揺で足を止めてしまった為、毒蛾人間に掴まり、首を絞められて持ち上げられる!両足を振って抵抗をするが、毒蛾人間はまるで動じない。それどころか、足を振る行為そのものが絞められた首に体重をかけ、圧迫を助長してしまう。


「ぐ・・・ぐぅぅ・・・」


 首をへし折られる?窒息させられる?怪物に食われる?勘平は、「この先の自分の運命」に「生き残る」を想像することができなかった。


「嫌や・・・こんな所で殺されるわけにはいけへん。」


 自己保身で死にたくないわけではない。人生の平穏を望むならば、安定をした仕事を選んでいる。勘平が今の仕事を続けてきた理由は、他者に足並みを合わせずに金を稼げる気楽さと、「世間に潜む悪を暴きたい」という少しばかりの正義感の為。


「怪物の存在を・・・世間に伝えなならん。

 こんなワケの解らん怪物に世界が食い物にされるなんて、冗談ちゃう!」


   『進退が窮まったら使え。』


 薄れゆく意識の中で、勘平は、ローブ姿の男の言葉を思い出した。提供された物を求めてポケットに手を突っ込み、カードケースを引っ張り出す!途端に、勘平の全身が乳白色の光に包まれた!




-神殿広間(人間界)-


 粉木が押し込まれた鏡が乳白色に歪み、弾き飛ばされた毒蛾人間が転がり出した!続けて、鏡の中から、蝙蝠の意匠を持つ青い西洋甲冑の戦士が出現をした!


「あら・・・尊さんとおんなじ?」


 驚く中年男性と選ばれし者達。砂影滋子は、息を飲んで西洋甲冑の戦士を見詰めた。西洋甲冑の戦士は、鏡に映った自分の姿を眺める。


「まるで、子供向け番組のヒーローやな。

 ワシに力を与えてくれたのが神か悪魔かは知らんが・・・形勢逆転や。」


 気持ちを切り替え、サーベルを構えて毒蛾人間に突進をする西洋甲冑の戦士!切っ先が、毒蛾人間の胸のど真ん中を貫いた!手応えを感じて、毒蛾人間からサーベルを抜いて数歩後退!毒蛾人間は、苦しそうな悲鳴を上げて爆発四散をした!


「ヌゥゥ・・・貴様、異獣サマナーか?」


 例の中年男が、甲冑戦士を睨み付ける。


「なんや、よう解らん。ワシは異獣サマナーって言うもんになったんか?」

「異獣サマナーは、1人ではなかったのだな?」


 丹田に力を込める中年男!全身が青白く発光をして、狼の顔をした人間=ワーウルフへと姿を変えた!


「貴様を倒し、サマナーシステムを手に入れれば、総帥がお喜びになる!」

「なにっ?人間が怪物にっ!?」


 ワーウルフの行動は早かった!甲冑戦士が警戒をするよりも早く、甲冑戦士に突進して懐に飛び込む!そして、甲冑戦士が防御態勢を取る前に、甲冑戦士の腹に蹴りを叩き込んだ!弾き飛ばされ、壁に激突をして床に落ちる甲冑戦士!


「速いっ!」


 毒蛾人間とは強さのレベルが違う!甲冑戦士が顔を上げた時には、ワーウルフは眼前まで踏み込んでいて、為す術も無く拳の連打を叩き込まれた!

 せっかく人智を越える力を得られたのに、全く歯が立たない。進退窮まったからカードケースを使ったのに、事態が好転しない。全身が痺れ、意識が朦朧として、握っていたサーベルを足元に落とす。


「そこまでだ、ワルキューレ!!」


 神殿内に勇ましい声が鳴り響いた!入口に、バッタをモチーフにした朱色の戦士が立っている!


「貴様・・・異獣サマナーアポロ!!」


 甲冑戦士への蹂躙を止め、アポロを睨み付けるワーウルフ!


「・・・アポロ?」


 膝から崩れ落ちる甲冑戦士。変身が強制解除をされて、粉木勘平の姿に戻る。勘平は、都市伝説で‘朱色のアポロ’の噂は聞いた事があった。だが、それが実在したことを初めて知る。


「滋子っ!その青年(勘平)を連れて外に逃げろ!彼には聞きたいことがある!」

「はいっ!」


 勘平が「好みのタイプ」と評した女性が駆け寄ってきて、倒れている勘平に肩を貸して立たせ、神殿から退避をする。


「オマン・・・なにもんや?洗脳をされた憐れな信者じゃないのか?」

「アポロの協力者ちゃ。

 カルト球団の件ちゃ、以前から怪しいて思うとって、潜入捜査をしとったが。」


 滋子と勘平の退避を見送った後、アポロは見栄えのするポーズを決めて、ワーウルフへの突進をする!振り返った勘平は、「形だけの自分とは違う、本物のヒーロー」を見た気がした。




-数分後-


 神殿から爆炎が上がり崩れ始める。内部から逃げ出す選ばれし者達。全員が退避をした後、アポロが悠然と脱出をする。


「尊さんっ!」


 勘平と並んで待機をしていた滋子が、アポロに駆け寄る。


「ワーウルフは?」

「すまん、逃げられた。」


 アポロは、ワーウルフをあと一歩の所まで追い詰めた。だがトドメを刺す寸前で、部下の怪物3匹に邪魔をされた。アポロが3匹を倒してワーウルフに挑みかかったが、ワーウルフは神殿を爆破して逃走をした。


「だがこれで、カルト教団の野望は潰えた。

 ワルキューレの作戦は阻止されたのだ。」


 頷く滋子。アポロと共に、崩壊する神殿を眺める。


「あっ!そう言えば!」


 滋子が振り返った時、その場に勘平の姿は無かった。

 勘平は恩人に礼を言うことも無く、愛車のドリームCB250に乗って、戦場から離れていた。滋子が、信頼でアポロを見る眼と、敗者の勘平を労る眼を思い出す。勘平は、自分の非力を感じながらも、その差が不満だった。


「狼の怪物は逃げたのか。・・・ヤツはワシが倒す!」


 アポロと同じ能力を持ったのだから、アポロのように強くなってワーウルフを倒す。そうすれば、砂影滋子は自分を認めてくれるはず。この時の勘平は、アポロへの対抗意識で心を煮えたぎらせていた。




-数日後-


 橋の上をドリームCB250が疾走する。シフトダウンして左折。小気味よい排気音を響かせながら堤防道をに入り、しばらく走って停車。搭乗者の勘平が、眼前の工場を睨み付ける。


「暴いたるで、狼野郎!」


 カルト教団騒ぎと同時期、世間では「この付近の河川敷で珍種が発見される」という騒ぎが発生していた。当時は、水俣病やイタイイタイ病が話題になっていた為、勘平は「珍種も、その類いの物」と考えていた。しかし、ワルキューレなる秘密結社の存在を知った今は、未処理廃水の事故で隠蔽をした実験に感じられてしまう。


「確か、ワルキューレとか言っていたな。

 人の死後に神の国に連れていく魂を選ぶ者。」


 勘平は、社会悪の糾弾や、特ダネや、興味の類いではなく、ワルキューレと接触をして戦う為に、疑わしき場所を探っていた。


「あら?あの人は?」


 河川敷に停められていたセダンの車内で、助手席に座っていた女性が、身を乗り出して堤防上の勘平を見詰めた。


「知り合いか?」


 運転席の男性が尋ね、助手席の砂影滋子が頷く。


「先日話した謎の異獣サマナーちゃ。尊さんとは違うて、えらい弱かったけど。」

「・・・彼が?」


 乗り合わせている男性は、葛城昭兵衛。異獣サマナーアポロに変身をする本条尊の理解者であり、砂影等と共に「ワルキューレ打倒」のサポートをしている。

 今は、「工場にワルキューレが出入りしている」という情報を聞きつけて、滋子と共に張り込んでいた。


「弱いとは言っても、彼もサマナーなんだろ?

 我々と一緒に活動をしてくれれば心強いのだがな。」

「頼んでみましょうちゃ。」

「うむ、そうだな。」


 2人は車から出て、勘平に声を掛けながら堤防に駆け上がる。一方の勘平は、滋子を見て顰め面をした。昭兵衛が「共に戦おう」と勧誘をするが、勘平の態度は冷めていた。


「どうせ、新入りのワシは後輩扱いなんやろ?冗談やない。

 ワシはワシでワルキューレの悪事を暴く。」


 既存チームに入ったところで、アポロがトップで、自分はサブに廻されるのは眼に見えている。「好みのタイプ」の傍で、二番手以下に甘んじる気は無い。


「アンタ等がおるってことは、

 『この工場はワルキューレと関係有り』で間違いなさそうやな。」


 バイクから降り、工場に向かって歩き出す勘平。滋子と昭兵衛が止めるが、聞く耳を持たずに進んでいく。


「もうっ!仕方無いわね!」

「おい、追う気か?滋子!」

「アイツ(粉木)、なんか、手の掛かる弟みたいな感じがして放っておけないの!」


 勘平を追って工場に潜入をする滋子。昭兵衛も後から続く。後ろから来る2人を見た勘平は、「邪魔な奴等が来た」と小さく舌打ちをした。


「あっ、・・・アイツ。」 「むぅぅ・・・ヤツは?」


 敷地内に入ってきた高級車の後部座席から例の中年男性が降りて、工場内に入って行った。勘平と滋子は、「この工場はワルキューレが関与している」と確信をする。中年男性を尾行して、入った部屋の扉に耳を押し当て打合せを盗み聞きして、「この工場では、生体を変化させる薬品が作られていること」を突き止めた。


「盗み聞きとは行儀が悪いな!」


 中年男性が勢い良く扉を開け、夢中で聞き入っていた勘平&滋子&昭兵衛が部屋に雪崩れ込む。室内を見廻した粉木達は驚いた。声しか聞こえなかったので解らなかったのだが、中年男性から指示を受けていたのは、ワルキューレの怪物達だった。


「ちょうど良い実験材料が転がり込んでくれた。早速、投与をしてみよう。」

「くっ!尾行がバレていたのか!」

「取り押さえろ!」


 襲いかかる怪物達!勘平は拳や蹴りで抵抗をするが、滋子と昭兵衛はアッサリと掴まってしまう!仲間ではないが、見捨てるわけにはいかない!勘平は、ポケットからサマナーホルダを取り出して翳した!


「変身っ!」


 勘平の全身が乳白色の光に包まれ、中から蝙蝠の意匠を持つ西洋甲冑の戦士=異獣サマナーアデス登場!サーベルを装備して、怪物達に叩き込み、滋子と昭兵衛を救出する!


「逃げろっ!」


 滋子達を庇うように構え、逃走経路を確保するアデス!だが、攻勢はそこまでだった!中年男性がワーウルフに変化をして突進!アデスでは対向できずに叩き伏せられてしまい、滋子達は再び怪物に掴まってしまった!


「そこまでだ、ワルキューレ!!」


 工場内に勇ましい声と同時にバイクのエンジン音が鳴り響き、異獣サマナーアポロの駆るハスラーⅢが通路を爆走!床を這うアデスの真横を通過して、瞬く間に怪物2匹を撥ね飛ばして、滋子と昭兵衛を救出する!


「結局は、アイツの前座扱いかいな?腹立つ。」


 お粗末だが、「負けて、助けられて、あとは見ているだけ」なんてプライドが許さない。潜入をした目的は、ワーウルフを倒す為。アデスはサーベルを拾い上げて、ワーウルフに対して構える!


「ハイビーストは俺がやる!

 君は、アナザービーストを頼む!」

「はぁ?アナザーナンチャラってなんや?

 よう解らんけど、狼男はワシの獲物や!」


 アデスは、アポロの言った専門用語を聞いた事が無い。だが、「ボスは自分が担当するから、ザコと戦え」と言っているくらいの想像はできる。聞く耳を持たず、ワーウルフに突進をするアデス。


「オマンの部下になった覚えはない!」


 アデスのサーベルとワーウルフの爪がぶつかる!アデスの剣を3回ほど弾いたワーウルフは、次の剣閃を見切ってサーベルの刀身を掴んだ!


「チィッ!」


 アデスは蹴りを放つが、もう片方の手で受け止められてしまう!


「クックック・・・魔の力を得たとはいえ、

 抵抗できるのは、ポーン(兵士)クラスまで。

 人間如きでは、俺のようなナイトクラスには対応できまい!」

「ハイナンチャラだの、アナザーナンチャラだの、ポーンだの、ナイトだの

 ・・・ワケが解らん!日本の言葉で喋れ!」

「要は、オマエでは俺の相手にならんと言うことだ!」


 ワーウルフの強烈な蹴りがアデスの腹に炸裂!弾き飛ばされ、窓を突き破って屋外に転がり出すアデス!辛うじて立ち上がるが、構える前にワーウルフに接近をされ、蹴り上げられて宙を飛び地面に落ちる!


「武器はサーベルだけではないはずだ!カードを翳せ!」


 屋内で怪物達と戦っていたアポロが、アデスに向けてアドバイスを送る!


「カード!?」


 先日の敗戦の時は、いつの間にか変身をして、ワケも解らずに戦った。その後、カードケースの中身を確認して、数枚のカードが有ることを知った。

 アポロのアドバイスの従うのは不満だが、また敗北をするよりはマシ!アデスは、腰にぶら下げられたカードケースから、蝙蝠が描かれたカードを引いて翳した!上空に歪みが発生して、蝙蝠の怪物=ヤイバットが出現!突進をしてきたワーウルフに体当たりをして弾き飛ばし、続けて超音波を発してワーウルフを牽制する!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ