21-3・闇の巨人~茨城脱落~決戦
-仏殿正面-
EXザムシードとガルダが山門を通過して、上空に伸びた闇の柱に接近をする。闇の柱は仏殿の屋根を突き破って立っていた。
「酒呑童子のメダルは仏殿の中ってことか。」
「簡単には回収できそうにないけどな。」
構えるEXザムシードとガルダ。待ち構えていた百鬼夜行が襲いかかろうとするが、仏殿の屋根に立つ茨城童子が振り返って制止をかけた。
「まさか、金熊童子まで倒されるとはな。
私が、貴様等を過小評価しすぎていたということか。」
茨城童子は、ガルダを睨み付けた後、EXザムシードに視線を移す。
「小僧・・・ザムシードとか言ったな。
貴様が、生きて、再び私の前に立つとは思いもしなかった。
素直に認めねば成るまい。
たかが人間が、私の想定できぬことを起こしたと・・・。」
未だ酒呑童子は復活をしていない。残る幹部は、あと1体。だが、追い詰められたはずの茨城童子は闇の柱を見て嘲笑う。
「想定外の戦闘能力を得た貴様等に対して、
虎熊童子と金熊童子は、よく戦ってくれた!
おかげで、時間は稼げた!」
「なにっ!?」
「刻は来た!!もはや、余力は必要有るまい!!」
茨城童子が闇の柱に渾身の妖力を注ぎ込んだ!主を復活させる為ならば、自身すら贄にする!それが茨城童子!
「ハハハハハッ!私の勝ちだっ!!」
ドォォォンッ!!
途端に、地面が闇で染まり、黒い炎が上がって、EXザムシードとガルダを弾き飛ばす!茨城童子は消耗をした表情でEXザムシードとガルダを見下ろし、勝ち誇って頭上高く拳を掲げた!
「拝顔するが良い!・・・御館様が・・・降臨をする!!」
不気味な地鳴りがして、仏殿を中心に富運寺全体が大きく揺れる!
「間に合わなかった!?」
立ち上がり、地鳴りの中心を睨み付けるEXザムシードとガルダ!仏殿の屋根に空いた大穴から、禍々しい闇の霧が立ち昇る!
そして・・・
屋根の穴から、EXザムシードより二回りほど巨大で真っ黒な手が出現!続けて、屋根を突き破りながら、真っ黒な顔ともう片方の手、そして巨大な上半身が現れて闇夜を覆った!全長40mほどの巨人だ!
「オォォォォォォォォォォォォッッッッッッッン!!!」
低く不気味な咆吼が、文架市内に響き渡る!
「な・・・なぁ、狗塚?酒呑童子って、あんなにデカイのか?聞いてないぞ。」
「俺も聞いてない。過去に見た酒呑童子は、父より2廻り大きい程度だった。」
「念の為に聞くけど・・・狗塚家の技術に巨大化とか無いのか?」
「有るわけ無いだろ!そんな物が有れば、とっくに活用している。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だよな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「どうやって倒すんだよ!?あきらかに、範疇じゃないだろう!!」
想定外すぎる巨大妖怪を目の前にして、動揺をするEXザムシードとガルダ!しかし、この状況に動揺をしたのは彼等だけではなかった!
「御館様が、ただのモノノケに!?・・・そんなバカな!?何をしくじった!?」
巨人の出現は、人間サイズの酒呑童子の復活を画策した茨城童子にも想定外だった!懸命に主君の名を呼ぶが、巨人は聞く機能が無いらしく、茨城童子の呼び掛けには一切耳を傾けない!それどころか、一番身近にある獲物と判断して、手を振り上げ、茨城童子目掛けて叩き付けた!
屋根が潰れて轟音が鳴り響く!辛うじて、巨大掌の直撃を回避する茨城童子!しかし、崩壊をした仏殿の瓦礫に巻き込まれて吹っ飛ばされ、境内に落ちて転がる!
「オォォォォォォォォォォォォッッッッッッッン!!!・・・足リヌ」
闇の巨人は、山門近くで呆然と見上げていた百鬼夜行を発見!巨大な手を伸ばして、まとめて鷲掴みにした!
「ギャァァァッッッ!!」 「ヒィギィィィィ!!」 「グゲェェ!!」
鬼軍団は、巨大な手に包まれた瞬間に塵芥に変わり、巨人に吸収されてしまう!回避をした鬼達は、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う!しかし、次々と巨人が伸ばした手に掴まれ、闇に取り込まれていく!
「オォォォォォォォォォォォォッッッッッッッン!!!・・・違ウ、コレデハナイ」
EXザムシードとガルダは、その光景を見て生唾を飲み、数歩後退する。巨人が退治屋の味方をしてくれるとは思えない。
「お・・・おかしい。鬼が鬼を食うなど・・・聞いたことがない。
目に映る全て破壊しようとしているのか?」
「アイツ(巨人)、何か探しているのか?」
-YOUKAIミュージアム-
粉木が異常を察知して空を見上げる。夜の帳が降りた空だが、暗く輝く巨大化怪物の姿がハッキリと見えて、地の底から響く地鳴りが体に伝わる。
「なんや・・・あれは?燕真達は、何と戦っておるんや!?」
いくぶんかは体力を回復させた紅葉は、巨人の出現を境にして苦しそうに蹲る。
「く・・・苦しい・・・体が・・・怪獣に引っ張られる・・・。
気が・・・遠くなる!!」
「しっかりせい、お嬢!
チィィ・・・体力が消耗しとるお嬢では、
あんな邪気に当てられたら、一溜まりもないがな!」
粉木は、紅葉を庇うようにして立ち、足元に護符と銀塊を並べて、呪文を唱えながら空中で印を切った。淡い光の障壁が発生して、闇の干渉から粉木と紅葉を守る。
「ワシができる最大の防御や!?これでちっとは楽になるはずやで!」
「・・・ぁ、ぁりがとぅ・・・じぃちゃん」
-富運寺-
EXザムシード、ガルダ、茨城童子を除いて、敷地内にいる全ての異形が巨人の中に取り込まれた。次の餌を求めて周囲を見回す闇の巨人。
「こんなハズではない!!
御館様!!私です、貴方の忠臣・茨城童子です!!お解りにならぬのですか!?」
奧社の屋根に飛び乗り、大振りのアピールで呼び掛ける茨城童子!同時に、巨人の次の餌が決まった!忠臣の忠節は、闇の巨人には‘餌のある場所を教えてくれる合図’になってしまった!闇の巨人が、巨大な手を振り上げ、茨城童子目掛けて振り下ろす!
「オォォォォォォォォォォォォッッッッッッッン!!!・・・オマエナノカァァッ」
「御館様ぁぁぁっっっ!!!・・・・うわぁぁぁっっっっっっっ!!!」
轟音が鳴り、地面が揺れる!闇の巨人が手を上げた時、其処には茨城童子の姿は無かった!
「く・・・食いやがった。」
「小賢しく翻弄してくるヤツだったが・・・随分と呆気ない最期だ。」
敷地内に残るのは、2人の妖幻ファイターだけになる!
「・・・どうやって倒す?アンタなら、何か思い付いているんだろ?」
「あの巨人は、酒呑童子のメダルを依り代にして集まった闇の塊。
依り代を潰せば、巨人は消滅する!・・・多分な。」
「・・・で、メダルはどこに?」
「・・・巨人の中だろう。」
「巨人を倒さなきゃ・・・依り代を潰せないってか?」
「・・・そうなるな。」
「それは・・・大変・・・・だな。」
絶望に近い状況であり、否定的な意見しか出ない。だが、妖幻ファイター達の意思は固まっていた!互いの目を見て頷き合い、素早く散開する!
「死力を尽くして、ここで巨大な化け物を倒す!」
ガルダは闇の巨人の正面に立ち、鳥銃・迦楼羅焔を構えて光弾を連射する!通常攻撃程度では、ダメージが全く通らないのは想定済み!あくまでも、注意を引く為の行動だ!
案の定、知性を感じられない闇の巨人は、ガルダ目掛けて巨大な手を伸ばしてきた!ガルダは、数歩後退しつつ翼を展開して飛翔!掴みかかってくる巨大な手を回避する!
その間に、EXザムシードは闇の巨人の真横に移動して、妖刀オニキリを装備!柄の窪みに『炎』メダルを装填する!
「うぉぉぉぉっっっっっ!!!」
炎に包まれた妖刀を構えて、闇の巨人に突進するEXザムシード!飛び上がって、巨人の太股に鋭い一撃を叩き込んだ!!
「ウオォォォォォォォォォォォォッッッッッッッン!!!」
苦しそうな咆吼を上げる闇の巨人!手応え有り!着地をしたEXザムシードは、すかさず間合いを空けて、次の攻撃のタイミングをはかる!
闇の巨人は、EXザムシードを睨み付け、細い眼を大きく見開いて、両手で掴みかかる!
「オォォォォォォォォォォッッッン!!!・・・オマエノ纏ウ妖気ハ!」
ガルダのハンドガン連射に続き、EXザムシードの斬撃も揺動だ!
本命の攻撃はこの次!ガルダが、マシン流星を呼び寄せて妖砲イシビヤ(大砲)に変形させ、白メダルを装填して巨人の後頭部に狙いを定める!
「吹っ飛べぇぇっっ!!!」
ガルダが放った一撃は、ガルダの身長の倍もある闇巨人の頭部の上半分を吹っ飛ばした!頭を失って生態機能を維持できるわけがない!
離れて構えていたEXザムシードが、サムズアップをしてガルダ健闘を称える!
・・・が!!
闇の巨人は動きを止めない!酒呑童子のメダルに集まった闇の塊に、姿態という概念は無い!頭部の喪失などお構い無しに巨大な両手を伸ばして、「勝利した」と確信して足を止めたEXザムシードを掴んだ!
「うわぁぁぁぁっっっっっっ!!!」
「佐波木ッッッ!!!・・・・し、しまったっ!!」
更に、背中から何本もの触手が伸びてきて、動揺するガルダに絡みつき、体内に引き摺り込む!
「くっ!食われてたまるかっ!」
ガルダは、周囲に防御の結界を張って闇の侵食を防ぎ、翼を展開させて闇の巨人の背中から空に脱出!巨人の手が届かない高さから見おろす。
結界術の使えない燕真(EXザムシード)が、闇に飲まれて生きていられるはずがない。「既に闇に吸収されてしまったのだろう」と諦めの感情が込み上げる。
-YOUKAIミュージアム-
「燕真・・・狗塚・・・」
戦場の方角を見つて案じる粉木に、紅葉が応える。
「大丈夫・・・だょ・・・」
「・・・ん?」
その眼は「信頼しきった自信」に満ちあふれている。
「アイツは燕真なんだもん・・・絶対に大丈夫!」
7年前のあの日、「最後まで走ることを止めなかった」ように、紅葉の声に応えて「絶望的な闇から帰還した」ように・・・燕真は必ず笑顔で帰ってくる。紅葉は信じる。
「燕真君・・・貴方に、こんな戦いで倒れてもらっては困るの。」
少し離れた紅葉の死角では、紅葉の母・有紀も固唾を飲んだ。
対照的に、周りの町並みは、普段と何も変わらない。文架市の人々は、いつも通りの夜を過ごしている。
戦場となっている富運寺には鬼の結界が張ってある。その為、妖幻ファイターや一定の修業をした退治屋、そして特殊な能力を持つ紅葉以外は、今の文架市で起こっている異常事態には気付いていない。
人によっては、妙な胸騒ぎを感じたり、「何処かで雷が鳴った?」と思う程度。
妖怪は、いつの間にか、平穏な生活に忍び寄るもの。そして、妖幻ファイターは、人知れず命を掛ける。