21-2・ガルダの覚悟~EXエクソシズムキック
-境内-
進行方向から、幾つもの闇の塊が押し寄せてきた!ガルダは、バイクから降りて鳥銃を構える!闇塊の1つから、いきなり風を纏った無数の衝撃波が飛んで来た!
「残る幹部・・・金熊か!」
ガルダは衝撃波を回避しつつ発砲!標的は楽々と光弾を回避するが、その真後ろを飛んでいた別の闇塊に着弾!不運な闇塊は、悲鳴を残し、実体化をすることなく消滅をした!
「あっ!ちゃんと避けろよ、ウスノロっ!」
「オマエが邪魔で、後のヤツには俺の攻撃が見えなかったんだ!
尤も・・・オマエが避けても後ろに当たるように撃ったのだがな!」
「ズルいぞ狗塚の小僧っ!!」
「先に仕掛けておいて、よく言う!」
飛び掛かって来る数体の闇塊を、ガルダは発砲で牽制しながら距離を空け、妖槍ハヤカセを装備!大きく振り回して、群がる闇塊を退けた後、正面から突っ込んでくる闇塊目掛けて穂先を伸ばした!闇塊は穂先を回避して、ガルダの懐に飛び込んでくる!ガルダは、伸びた槍を短縮させつつ、石突き側を振るって牽制!闇塊の中から出現した金熊童子の拳と、ガルダが突き出した石突きがぶつかった!ガルダはすかさず、通常サイズに戻った妖槍を振るって穂先側を向けるが、金熊童子は数歩後退をして回避する!
「チィ・・・先ほどの壁役とは違うか!」
部下の鬼達が実体化をしてガルダを囲もうとしたので、妖槍を伸ばしながら振り回して退け、囲いから脱出する!
「雁首を揃えて、虎熊の仇討ちか!」
「イバさんからは、虎さんの仇討ちの命令は出てないよ!
言われたのはオマエの足止めだけだ!」
ガルダは、短い言葉のヤリトリから、金熊童子の戦法を察知する。「仇討ち」や「雌雄を決する」ならば、その他の鬼達に手出しをさせないような挑発をできる。討伐が目的ならば、「数の有利」という慢心を突いて脱出する作戦を考えれば良い。
しかし、ハナっから「足止め」を目的にされてしまうと、脱出の隙は作りにくい。虎熊童子の時とは違って、壊滅させなければ先には進めない。
「茨城童子・・・相変わらず小賢しい!」
ガルダは、妖槍を振り回して、寄せてくるモブ鬼達を叩き伏せる!だが、トドメの追い撃ちを掛ける前に、金熊童子に接近をされ、拳の連打を叩き込まれる!
「おいおい、失礼なヤツだな!
褒めるなら、イバさんじゃなくて、目の前にいるオイラを褒めろよ!」
「・・・くっ!」
ガルダは数歩後退しつつ、翼を展開させて上空にジャンプ!しかし、ガルダの動きを読んでいた金熊童子が、風を纏った拳の衝撃波を撃ち出してガルダの翼に直撃させる!ガルダは、飛翔を妨害されて地面に墜落!
すかさず、妖槍を振るって、金熊童子を牽制!その間に、先ほど叩き伏せたモブ鬼達に体勢を立て直されてしまう!
「・・・キリが無い!」
総大将(酒呑童子)や上級幹部(茨城や四天王)さえ潰せれば、烏合の衆と化した鬼族は、統率や協調する意思を失って各地に散っていく。だが、多勢に無勢すぎて、攻撃が幹部クラスまで届かない!
波状攻撃を仕掛けられている現状では、妖砲にエネルギーをチャージする時間を稼げない。
「金熊だけでも倒せれば、突破口を作れるのだが・・・!」
金熊童子を睨み付けるガルダ!しかし、数秒前までいたはずの場所に、金熊童子の姿が無い!
「なに?見失った?ヤツは何処に!?」
ガルダの周りにも空にも、金熊童子の姿は無い!警戒しながら妖槍を振るって、襲いかかってきたモブ鬼2匹を退け、真正面に突っ込んできた大柄の鬼を貫く!
「これくらい避けろよな、ウスノロ!
危なく、オイラまで刺されるところだったぞ!」
大柄鬼の背中から金熊童子が飛び出す!モブ鬼に融合をして姿を隠していたのだ!金熊は、ガルダの懐に飛び込んで拳の連打を叩き込む!全身から幾つもの小爆発を起こして地面を転がるガルダ!
「ぐはぁっっ!!」
やはり、多勢に無勢では、どうにもならない。霊力を込めた銀塊で妖幻システムへのパワーの補充をしながら戦いを維持してきたが、残された銀塊は数えるほどしかない。残りの補充量を考えると、大技を打てても、せいぜい1~2回程度だろう。
逃走は可能だが、鬼の討伐を宿命と考えるガルダには、「鬼から逃げる」選択肢は無い。しかし、金熊童子すら破れないようでは、鬼の本陣を制圧することなど不可能だ。
「せめて・・・相打ち覚悟で、金熊だけでも・・・。」
ガルダは妖槍を杖代わりにして立ち上がり、数歩退きながら構えた。銀塊を握り閉めて念を送り、いくばくかのパワーを補充しながら、鬼の軍勢を睨み付ける。退治屋本部の第一次討伐隊は壊滅したが、数日中には第二次部隊が編成されて文架市に来るだろう。一体でも多くの幹部を倒しておけば、退治屋は有利に戦えるようになる。
-回想-
幼い雅仁が物陰に隠れて、父と退治屋達が鬼達との死闘を繰り広げる様子を眺めている。
妖幻ファイターガルダ=狗塚宗仁は、数本の刀で体中を貫かれ、既に死に体だった。霊力も、妖幻システムのエネルギーも尽きていた。次の一撃を繰り出すパワーも無い。
しかし、1つだけ残された手段があった。メダルの重ね掛けによる、妖幻システムの暴走。変身者の魂が食われることを前提にした禁断の一撃。
「倒れるわけにはいかん!!オマエを倒すまでは!!」
ガルダは、胸プロテクターの窪みに白メダルを、鳥銃・迦楼羅焔に雷メダルを、妖槍に風メダルをセットして構える。妖幻システムは、メダルの重ね掛けをできない。多大な負荷から使用者の生命を守る為に、メダルの複数使用をすれば、自動でリミッターが掛かってしまう。
だから、リミッターを強制解除する。ベルトのバックルに、禁断のメダルを装填。安全装置が解除される。
同時に、ガルダの全身は、天狗の強大な妖気に覆われ、狗塚宗仁の肉体を浸食する。
「うぉぉぉぉぉっっっっっっっ!!!」
ガルダは、全身を一筋の流星に変えて、酒呑童子目掛けて突っ込んでいく。
ガルダの命を賭けた一撃は、酒呑童子に大ダメージを与えた。だが、当時の妖幻システムでは、酒呑童子を討伐することはできなかった。雅仁の父・狗塚宗仁は、志半ばで倒れる。
-回想終わり-
「志半ば・・・父と同じか。」
父・狗塚宗仁は、退くことよりも、命を糧にして一矢報いる選択をした。
改めて考えれば、現在に至るまで鬼が存在している事実を考えれば、一族の全てが、宿命を果たせず、志半ばで倒れたということなのだろう。
「それが宿命・・・なのかもしれんな。」
最大の奥義・アカシックアタック(突撃技)を使えば、この場にいる半数は仕留める自信がある。しかし、同時にエネルギー切れを起こして変身が解除されてしまい、敵陣のド真ん中で為す術を失う。
「だがそれでも・・・鬼に背を向けるよりはマシだ!!」
ガルダは、Yウォッチから白メダルを抜いて、決意を込めて握り閉める。このメダルを胸部の窪みにセットした時点で、最大の奥義が発動される。
その後は・・・枯れた家系の末路は、もう、考える必要が無い。間違いなく、残った鬼に、生命をもぎ取られるだろう。
「粉木さんと紅葉ちゃんは無事だろうか?
佐波木はどうなった?」
きっと、何も手を施せない状況で燕真の命は失われ、紅葉は泣いているのだろう。続けてガルダまで命潰えたら、彼女は悲しんでくれるのだろうか?
「・・・フン!俺らしくない感傷だな。」
ガルダが、最期の決意を固め、鬼達を睨み付けた直後!
〈聞こえるか、狗塚!!
死にたいなら勝手にすりゃいいが、それは、身を屈めてから考えろ!!〉
「・・・・なっ!!?」
〈ワカンネ~奴だな!そこに突っ立ってたら邪魔なんだ!!
背中に気を付けろ!!〉
Yウォッチに入った通信が「どけ」と告げた!反射的に背後を振り返るガルダ!
「佐波木かっ!?」
ブォォォォォォンッッ!!
総門屋根で、EXザムシードが駆るマシンOBOROが宙高く飛び上がる!バイクは、放物線を描くように落下をして、咄嗟に回避したガルダの真横を通過!ハンドル脇のスロットに『炎』メダルを装填して、朧ファイヤーを発動させ、スピードを緩めることなく鬼の軍団に突進!金熊童子は、想定外の乱入に驚く!
「何でオマエが!?オマエは、イバさんの闇に食われて死する運命だったはず!!」
「色々あって死なずに済んだんだ!」
「そんなバカな!?有り得ない!
イバさんの闇を祓うなんて、イバさんよりも上位妖怪でなければ不可能だ!!」
「信じられなくても事実なんだよ!」
EXザムシードは、タイヤスモークを上げながら180度ターンをして、正面で構えていた金熊童子を含む鬼達を炎を帯びた後輪で弾き飛ばして、ガルダの脇に戻ってきた!直撃を喰らった鬼達が、闇霧となって蒸発をする!
「・・・・生きていたのか?」
「心配掛けてすまない!」
「その姿は?」
「俺にも説明できね~けど、こうなった!
・・・乗れ、この先に行きたいんだろ!?
まさか、俺と2ケツするくらいなら死んだ方がマシ・・・なんて言うなよ?」
2人の妖幻ファイターは、互いの眼を見て頷き合い、ガルダがマシンOBOROのタンデムに飛び乗る!真っ直ぐにマシンを走らせるEXザムシード!目指すは仏殿の上にある巨大な闇の真下!目的は酒呑童子復活の阻止!
「い、行かせるかよっ!」
その真正面、行く手を阻むように、半身の焼け爛れた金熊童子が立ち塞がる!
「さすがに、朧ファイヤーだけじゃ倒せないか!」
「当然だろ!オイラは強いんだ!」
「だったら、もっと強烈なのをくれてやる!・・・狗、運転を代わってくれ!」
「・・・なに!?」
走行中のマシンOBOROのシートの上に、器用に立つEXザムシード!Yウォッチから白メダルを抜き取り、身を屈め、ブーツの窪みにセットする!
「・・・閻魔様の!!」
「おいおいおいおいっ!!」
慌ててタンデムから、EXザムシードが放棄したハンドルを握るガルダ!マシンOBOROと金熊童子の間に、炎の絨毯が出現して、マシンの加速度を後押しする!
「裁きの時間だ!!」
「無茶苦茶な!!」
顔を上げ、標的を睨み付けるEXザムシード!ガルダは、懸命にステップに足を伸ばし、ハンドルを操作して、マシンOBOROを操作するが、シートの上に立つEXザムシードが邪魔で前が見えない!
EXザムシードは、両足を揃えて空高くジャンプ!踏み台にされたマシンOBOROは、フラフラと蛇行をする!EXザムシードは、空中で一回転をして金熊童子に向けて右足を真っ直ぐに突き出した!
「うおぉぉぉぉっっっっっっ!!!
エクソシズムキィィーーーッック!!!」
それは、これまでのエクソシズムキックに非ず!新たなる力エクストラ・エクソシズムキック!
破壊力が跳ね上がった必殺の蹴りは、金熊童子の防御を弾き飛ばして胸に炸裂!金熊童子は、宙高く吹っ飛ばされて地面に叩き付けられ、苦しそうに唸り声を上げながら立ち上がる!
「おいおい・・・嘘だろ?
御館様が復活をする祝いの日なのに・・・?」
金熊童子は、脱力して両膝を着き、断末魔の悲鳴を上げて爆発四散!爆発を背に受けながら、ポーズを決めるEXザムシード!撒き散らされた闇霧が、EXザムシードのブーツに嵌められていたメダルに吸い込まれるようにして完全に消える!
「わぁぁぁっっっ~~~~~~~~~~・・・無茶しすぎだ!!」
EXザムシードの背後で、ガルダを乗せたまま操作不能になったマシンOBOROが、山門脇の回廊に突っ込んでいく!ただでさえ、ガルダが満足に操縦できていない状況で、EXザムシードがジャンプ台にして走行バランスが崩れたのだから、当然の成り行きだろう。
ドォカァッ!!ガラガラガッシャ~~~~~ン!!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ!」
言うまでもなく、粉木自慢の彼岸カバーは粉々だ。
「狗塚・・・・・オマエの所為だからな、弁償しろよ!」
「バカを言うな!間違いなく君の所為だ!
わざわざ、バイク上からキックをする意味が無い!地面に降りてからやれ!」
朧車が憑けない状態に成ったホンダVFR1200Fが虚しく横たわる。仕方が無いので、ガルダのマシン流星で、EXザムシードがタンデムに乗り、この先の仏殿へと向かった。