いつもの光景
名前 エリス・モリガナ レベル162
称号 聖女
スキル
名称 念動力
名称 気配感知
名称 環境適応
称号 聖女
効果 任意の相手にこの称号を継承させる。継承後、元の保持者の称号が《元聖女》になる
スキル
名称 念動力
効果 掌を翳した対象を自在に操る
──ニルギルド・ゲルズの捕縛以降、一旦リトアニアにて腰を据えてのスタンピード対応と修業の日々に費やした数ヶ月間。
それをもってエリスの実力は、ステータス上のレベルという見える形でも、また戦闘技術という見えない形でも大きくその実力を向上させていた。
具体的に言うならば、先輩探査者であるシモーネ・エミールが近頃、エリスとの戦闘訓練の後には必ず疲労困憊してしまっているのがいい証拠と言えるだろう。
対するエリスは未だ余裕のある様子で、レベッカはすっかり感心してヴァールに話しかけていた。
「モンスターを相手にすること前提の、一般的な探査者って感じの強さならそりゃもちろんシモーネのがまだまだ上だが……エリスちゃんは人間相手には特に刺さる戦い方を得手にするようになりましたねえ。相性差で完全にシモーネをも完封してますよ」
「うむ、そうなるようにワタシが仕向けたところはあるからな。本来ならばエミールのスタイルこそが探査者としての理念に叶うため、エリスの現在の方向性はある種の邪道ですらあるのだが……今この状況においては、これこそが最適解だ」
「能力者解放戦線。モンスターを地上に誘き出してスタンピードを引き起こしてやがる連中こそが、エリスちゃんの主たる敵ですからねえ。少なくとも今は」
ある意味、年の離れた妹弟子にも等しいエリスのスタイル。それは能力者解放戦線メンバーを相手取ることを前提とした、対人戦特化の戦法だ。
去年から今年にかけて北欧全土で頻発するスタンピードを、意図的に引き起こしているテロ組織の構成員を倒し切るためだけに、ヴァールはエリスにそのノウハウを叩き込んでいるのである。
その甲斐もあり、モンスター戦においてはシモーネの足元にも及ばない彼女だが人間相手の戦いならばこの通り、シモーネをも一方的に下してしまえるほどに極端な相性有利を身に着けた。
ひとまずはある程度完成したと言えよう探査者としての姿にヴァールは無表情ながら満足気にうなずき、レベッカはひとしきり豪快に笑い──
シモーネはそして、悔しさに呻いた。
「くっ……!!」
「シモーネさん、今日もご指導いただきありがとうございました! 本当に、いつもとても勉強させていただいています」
「……いやぁ〜そんなことないよ、エリス。でもアレだね、いつも言ってるけど調子に乗らないようにね? こんなのしょせん付け焼き刃、本当の対人戦になると一味違うからねー」
「は、はい! ……せめて、みなさんの足手まといにならないよう精一杯努めます」
内心に渦巻く複雑な想いを、それでも隠してシモーネはエリスに向き直る。
どこまでも美しく清らかでそして裏表のない素朴な姿に、どうにも親しみと嫌悪という相反する二つの感情を覚えてしまうっていた。
この数ヶ月あまりの間、各地のスタンピードをともに鎮圧するなかでシモーネはたしかにエリスと、仲間として友として打ち解けた。
なるほどレベッカやヴァールが惚れ込むだけのことはあるだろう。素晴らしい少女だし、一人の人間として尊敬に値すると。
ともに肩を並べて苦境に立ち向かうなかで、そう認めるに至ったのだ。
しかし、同時にだからこその鬱屈もある。どうしても自身にはない美貌、そして特殊な強さ。何より人を魅了するある種のカリスマ性への羨望だ。
それらに対してどうしても抱いてしまう卑屈な想いもまた、常に渦巻いている──元よりシモーネから見たエリスは、根本的に性格面での相性が悪かった。
ゆえに誰からも愛されるエリスという少女を彼女もまた愛しながら、裏腹に苛立ちと憎しみとを例えようもなく募らせていたのである。
どれだけ親しくなっても変わることのない苦手意識と嫌悪感をひた隠しにしつつ、からかうように皮肉を口にする。
「統括理事直々にものを教わってるだけの素人村娘なんだしね、エリスは! 精々調子に乗って前に出過ぎないように──」
「おいおいシモーネよう、オメーさんも人のこと言える立場かぁ? エリスちゃんをいつまでも素人扱いできるほどの腕でもねぇだろうによう」
「シモーネのバカー! ボクのお姉様にひどいこと言うなよなー!」
「レベッカさん、それにラウラ……はいつものことか! 本当のことなんですから仕方ないでしょう!? 二人ともエリスが、ちょくちょく突撃してるの見てるでしょー!」
そんなやっかみと、裏腹にたしかにあるエリスへの後輩、仲間としての情が入り混じったひねくれ口を叩けば、即座に師匠のレベッカとついでにエリスの妹分を自称するラウラからの窘めが飛んだ。
これもまた、この数カ月の間に定着した馴染みの光景だ。奮闘するエリスに先輩として振る舞うシモーネ。そして時折彼女の口が過ぎれば、すぐさまそれを叱るレベッカと噛みつくラウラ。
そこからさらに、見かねたヴァールないしソフィアとエリスが止めに入る。
あるいは今ここにいないもう二人の仲間、妹尾万三郎とトマス・ベリンガムをも交えてのそれが、このパーティのいつもの光景だった。
「ラウラ。止めなさい、シモーネさんに失礼ですよ。私の身を案じてのアドバイスなのですから、それは真摯に受け止めるべきです」
「レベッカも落ち着け。エミールの言うことには一理ある。エリスは近接戦特化ゆえ、どうしても時折踏み込みすぎるところがあるのはお前も知っているだろう」
「むっ……いやそりゃそうですが、それを加味してもシモーネもシモーネで偉そうに言ってんじゃねえって話をですねえ」
「お、お姉様、でもぉ……」
師弟揃っての制止と苦言に、二人並んで口元をもごもごさせるレベッカとラウラ。
この光景もまた、すっかりいつものものだ。軽く笑いながらもそれを眺めるシモーネだったが、やはりその瞳にはどこか、明るい光と裏腹の暗さが差していた。




