数ヶ月後のパーティメンバー
リトアニアの夏は短く、そして涼しい。概ね5月から気温が高まっていくのであるが、それでも最盛期にあたる7月8月でも20度半ばが限度であり、以後は氷点下付近にまで気温が落ちていく冬を迎える。
6月を迎えるこの頃、首都ビルニュスにおいても気候は穏やかな熱を孕んでいた。寒さを越え、一時の夏に向けて人々もまた、町を行き交いのびのびと暮らしている。
そんな大通りを、一人の少女が駆け抜けていた。ブラウンの髪を短く切り揃え、ボーイッシュなシャツと短パンを着こなす活発な印象の15歳だ。
息せき切って、快活な笑顔とともに走る彼女が向かうのはビルニュス近郊、人通りの少ない草原である。山盛りの食材が詰め込まれた紙の買い物袋を抱きしめて、爆走する彼女は探査者だった。
「えっへへへ……!! 姉様っ! エリスお姉様ーっ!!」
勢いを落とさずに町の外へと抜けながらも、彼女はある名前を叫んだ。彼女が敬愛して止まない、姉のように慕う女性。
数ヶ月前、ドイツから流れ着いた自分が食いに困った時に助けてくれてから、ほとんど弟子入りに近い形で少女はその女性──エリス・モリガナに引っ付いて行動をともにしている。
同性ながら見惚れるほどの美貌、誰にでも優しく慈悲深く接する心根の清らかさ。そして何より、他の先達探査者達とも肩を並べるほどの実力、強さ。
そのすべてが少女、ラウラ・ホルンの心を掴んで離さない。まさしくカリスマたるにふさわしい姉だと、彼女は本心からエリスを信奉していた。
草原に出ればすぐ、その愛するエリスの姿が見えてきていた。朝に聞いていた通り、他のパーティメンバーと戦闘訓練を行っている。
これもまた、豪華な面々だ……探査者になって半年も経たないラウラにはとんとピンと来ないが、界隈でもずいぶんなビッグネームの揃い踏みらしい。この場にいないもう二人の仲間も含め、非常な面々という。
エリスを筆頭に、そんな彼女達がラウラに反応して手を挙げる。
「ラウラ。お帰りなさい、お疲れ様でした……ありがとう、買い出しを引き受けてくれて」
「大事なかったか、ラウラ? ……レベッカ、やはり一人で行かせるのは今後控えても良いのではないのか? この町は治安は良いがそれでも不安なのだが」
先述の通り敬愛するエリス・モリガナ。そしてその師匠にあたるWSO統括理事ソフィア・チェーホワ。
いや、実際にはソフィアの裏人格ヴァールが今は顕現しているのであるが、ラウラには二重人格という現象がどうにも実感できないまま、なんとなくでソフィアともヴァールとも対応していた。"口ぶりと顔つきが違う時は別人? "くらいの認識である。
そんな二人はそれぞれナイフと鎖を携えて、探査者二人と相対している。
こちらも女性達だ……縦にも横にも大きな、山を思わせる巨躯と、そばかすが印象的な成人コンビ。
北欧最強と名高きレベッカ・ウェインとその弟子、シモーネ・エミールである。
「ヴァールさん、いい加減過保護すぎってなもんですぜソイツぁ……おう、ラウラちゃんお帰り! 怪我ぁなかったよな? 変なやつとかに出くわしたりもしてないね?」
「うん! ボク、言われたとおりにちゃんとお買い物できたよレベッカさん! それにヴァールさんも!!」
「ぜぇ、ぜぇ……と、とかなんとか言ってさあ、実は裏でこそっと余計なもの買い込んでんじゃないのラウラ……お菓子とかお菓子とかお菓子とか」
「えっ……べ、別にぃ? そんなわけないじゃんシモーネ、ボク変なもの買ってないよー?」
ヴァールに苦笑いしながらもラウラを出迎えるレベッカはともかく、激しく息切れしつつからかってくるシモーネにラウラは口笛を吹いてそっぽを向いた。
図星だった。もちろん彼女自身のポケットマネーでだが、市場にて買い出しを行っていた際に好みのチョコレートを見つけ、ついこっそりと買い込んだのだ。咄嗟に言い逃れようとしたが、根が幼く素直な少女ゆえにわざとらしい反応になってしまっていた。
訓練のなか、エリスとの間で激しい戦闘になったことにより荒くなった息を整えつつ、シモーネは手にしていた剣を収め肩をすくめた。
リトアニアに滞在してそろそろ4ヶ月が経過するが、その間加入したこのラウラという少女とはどうも折り合いが悪い節がある──そもそもエリスを姉と慕っている時点で仕方ないのだが。
その上でこちらをあまり好いていない様子の小生意気な小娘に対して、苦い思いがその胸中にはあった。
「語るに、落ちてるってのまったく……ふぅ、あーしんど。ちょっと休憩しましょうよレベッカさん、統括理事」
「あぁ? ……まあ、そーすっかぁ。エリスちゃんの動きに翻弄されちまって、正味な話ちょいと疲れちまったところはあるしなぁ。よく頑張ってるぜ実際、エリスちゃんはよう」
「うむ。ワタシの目から見ても、このリトアニアでの修行の甲斐もあり相当実力が高まっているからな。やはりお前を見出したことに間違いはなかった、エリス」
「い、いえ! あの、恐縮ですみなさん……これからも精進します、よろしくお願いします!」
誰にも悟らせない程度のやっかみを込めた提案に、気づくことなく師匠と統括理事が応える。
シモーネからしてみればやはり面白くない、エリスへの賛辞をそれぞれに伴いながらだ。
この数ヶ月、リトアニアを中心にバルト三国でのスタンピードを鎮圧しつつ暇を見つけては修行に明け暮れてきたエリス。
その実力は、ヴァールが言うようにシモーネやレベッカに対しても互角以上に立ち回れるほどにまで進化していた。




