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大ダンジョン時代クロニクル  作者: てんたくろー
第二次モンスターハザード後編─犯した罪に、等しき罰を─

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とある未来を見た女

「そしてまた、時代のうねりは訪れる。一時の休息もまた、終わりを告げるのね」


 ノルウェー北部地域、一般にノールノルゲと呼ばれる土地のある都市にて。古びた洋館のリビングに一人、女が佇んでいた。

 黒いヴェールを頭から被り、ローブに身を包むその姿はさながら占星術師を思わせる出で立ちだ。その表情は神秘的に隠され、ただ夜風を思わせる静かな声だけが、その空間に響いては溶けていく。

 

 1957年、夏の訪れをもう少し待つ頃合い。しかして彼女がいる土地は寒冷地域であり一年を通して暑さが到来することはまずない。

 この時期でも、本当に厳しい冬の季節に比べればいくらか温かいといったところだろう。肌寒さに女は身を震わせ、そしてまたつぶやいた。

 

「……あまりにおぞましいナニカ、得体の知れないモノ。そしてそれに立ち向かい、今なお抵抗している方々。ああ、だからこそ私は罪を重ねなければならない。"確定させてしまった"、その罪を贖うために私は自ら罪を背負う……」

 

 涙すら一筋流して、女は祈るように跪いて呻いた。その心には無限の罪悪感と、そして使命感が去来している。

 まったく、そんなつもりはなかった。悪意あっての発動ではなかった。それでもソレは発動してしまい、彼女は決して見てはならないモノを一瞬だけだが、たしかに見てしまった。

 

 すなわちソレは破滅そのもの。ありとあらゆるものを喰らい、すべてを滅ぼしてなお飢えと渇きが収まることのない怪物。いや、それ以下のケダモノ。

 この世のモノかも疑わしいそんなモノを、彼女は幻視した──してしまった。その瞬間、その光景を確定させてしまったのだと理解しながらも。

 

「私は……すでに狂っている。いいえアレを見れば誰もがきっと狂うはず。アレを打倒すべく定められた者達でもない限り、きっとあのナニカは視認することさえ破滅の呼び水でしかない。ああ、あああ、ああああああ────」

 

 頭をかきむしる。恐怖に満ちる心を吐露すればするほどに、心が壊れ崩れていくのが彼女自身にも分かっていた。それでも止められない。

 いっそ死んでしまえば良いとさえ思える。ガリガリと、狂ったように頭を掻きそのまま血を流し尽くして死にたいとさえ思う。

 逃げたい。逃げたい。あのおぞましいモノの姿から、存在から眼差しから逃げたい!!

 

 ……けれどその手を、そっと押さえて止める者が、いつの間にか背後にいた。

 穏やかな青年。眼差しには慈悲が宿り、そっと女を抱きしめてくる。

 

「閣下。どうかお気をたしかに。大丈夫です、私がついておりますれば」

「イルベスタ……! わたし、私は、私はそれでも、それでも」

「分かっております。すべて、貴方様の想いはぜんぶ」

「まだ死ねないの!! 私は、私の責任を果たさなければならない! いつかの未来に、彼女達が辿り着くその果てに少しでも、少しでも助力しなければ死んだって死にきれない……ッ!!」

「閣下……」

 

 青年──能力者解放戦線メンバー、イルベスタ・カーヴァーンは半狂乱となったその女を強く抱きしめながら、静かに苛立ちに唇を噛んだ。

 敬愛する女性が、心酔する救い主がここまで苦しんでいるのに自分はろくな力にもなれない。それがあまりに苦しく、辛いのだ。

 

 それもこれも、彼女がいつの日にか見てしまった"未来"が原因だろう。己のスキル《念動力》によってそのビジョンを共有することもできるはずだが、女のほうがそれだけは完全に拒否してしまい知ることも叶わない。

 普段は冷静で理知的な、聡明な賢女たる"閣下"をその光景一つが完全に打ちのめしていた。破壊し、混乱させ、その精神を蝕んでいたのだ。

 

 一体何を見たのか。その力──未来予知の超能力にて。

 どんなに希っても絶対に背負わせてくれないその地獄を、せめて安らげるように強く抱きしめて、イルベスタはあやすように耳元で囁いた。

 

「どうか、どうか我らにお任せを。貴方様の思うまま、チェーホワどもを誘導して参りましょう。それが、御身の願いであるならば」

「ええ、ええ……! ソフィア・チェーホワとその仲間達を、どうか導いて……ッ!! 私には見えないナニカを、彼女はきっと理解している。私には立ち向かえないナニカに、彼女はきっと立ち向かうべく奔走している!! 私は、私も────」

「せめて、その一助とならん。そのためにあえて、罪を背負われるのですね」

「それこそが私の罰なの。未来を拓くための彼女の戦いに、私は……せめて越えるべき壁として在るべきなのよ。余計なことをしてしまった私に、課せられるべきそれこそが、罰……」

 

 血を吐くような叫びが、次第に小さく掠れていく。罪悪感と恐怖から、とうとう意識を失ってしまったのだ。

 小さな肩をやはり抱きしめ、イルベスタは唇を噛み切った。愛しい人をこうまで追い詰めるナニモノカ、そしてソフィア・チェーホワと仲間達への怒りと憎しみの籠もった血を舐める。

 

 彼女──能力者解放戦線首魁、オーヴァ・ビヨンド。

 世界のために犠牲になることを選んだ最愛の女性のために、男は静かに殉ずる覚悟を再度固めた。

 第二次モンスターハザード、決戦に向けての戦いが始まる。

あけましておめでとうございます!

本日から第二部後半スタートですー

よろしくお願いしますー

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― 新着の感想 ―
新年早々の敵サイド!でも、別にめでたくもない初火野出はお預け! アレからは死んでも逃げられない…倒さない限りは…… でも、アレを倒すための助力になれたのかどうか……
2026/01/01 08:53 こ◯平でーす
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