異色のタッグ
ヴァールとレベッカの予想を裏切り、エストニア北西部は自然公園にてスタンピードが発生した。
これを受けて対能力者解放戦線チームはひとまず二手に分かれて行動することとなった。エリス、レベッカが先に現地に向かいスタンピードに対処し、ヴァールとシモーネが最寄りのWSO施設に向かい、もう少し詳細な情報を集めるのだ。
「緊急事態だ、移動の手間は取らせん──《空間転移》! 開け、ワームホール!!」
「ヴァールさん!?」
「うわわわっ、何もないところに大穴!?」
手分けしての行動に際して、ヴァールは普段使うことのない手の内を一つ、味方に対して晒した。
スキル《空間転移》。遠く離れた二地点をつなぐワームホールを生成し、瞬間移動あるいはワープめいたショートカットを可能にする能力だ。
このスキルは大ダンジョン時代が始まった1935年から1957年現在にかけて、未だにヴァールだけにしか与えられていない超レアスキルだ。
それゆえ、そのようなスキルが存在することさえ公には明らかにされていない。ヴァール自身も滅多なことで使用することのないような、まさしく切札の一つと言えるスキルなのだった。
長い付き合いゆえ、ワームホールについてすでに知っているレベッカはともかく。初めて見るエリスとシモーネは息を呑むばかりだ。
宙に開いた人間大の穴──その向こうの景色は、どこぞかの自然公園を遠くに臨む広野だ。そしてそこからモンスターの気配を無数に感知できて、二人は慄然と叫んだ。
「────件のスタンピードが起きている場所ですか!? こ! こんなスキルが、いえそれよりも!」
「も、ももモンスターの数おかしくないですか!? 私の《気配感知》、ぶっ壊れちゃってます!?」
「スキルが壊れるかァ!! 私にも感じ取れてるよ、案の定うじゃうじゃって感じじゃねえかよ、おう!」
探査者ならば概ね標準的に習得していると言っても過言ではない、モンスターの気配を感じ取るスキル《気配感知》。それが読み取ったワームホールの向こう側にいるモンスターの数の夥しさが、事態の深刻さを否応なく一同に示してくる。
シモーネなどはスキルの不調すら訴えるほどだが、すぐさま師匠のレベッカに一喝された。現実逃避が許される状況など、とっくに超えてしまっている数である。
ワームホールを隔てて見据える遠目にも、波のようなモンスターの群れが見える。そしてそれに果敢に立ち向かう探査者数名の姿もまた。
瞬間、エリスは堪らず駆け出してワームホールを潜り抜けた。愛用のナイフを懐から取り出し、《念動力》を駆使してエネルギーブレードを形成する。
臨戦態勢だ!
「エリス!」
「今は行動の時のはずです!! ヴァールさんとシモーネさんは情報収集に、私とレベッカさんはこのまま、戦いますっ!!」
「っ──よく言ったぜエリスちゃん! こンのレベッカ様ともあろう者が、まさか新米に先越されるたぁなっ!! だははははは!!」
「レベッカさんまで!?」
眺めている場合ではないと叫ぶエリス。ヴァールも当然すぐ行動に移る予定だったが、それよりはるかに早く反応した少女を内心にて讃える。
レベッカなどはもっと直截に高笑いして後に続く──直情的な自覚がある自身よりもなお即断即決でモンスターに向かっていくエリスに、心の底から感動しながらだ。
こればかりは持って生まれた才能とも言えるだろう。置かれた状況を前に、成すべきことを成すため全身全霊で突撃する姿勢。
少なくともシモーネにはない素質だ。彼女は良くも悪くも慎重で、それはヴァールについて情報収集に動くことからも伺える。
もちろんその選択も正解の一つではあるのだが、彼女の場合は荒事に率先して乗り込みたくないという本音も絡んでいるだろう。そこについては、弟子として指導する数年のなかではっきりと見抜いていた部分だった。
可愛い弟子だ。それはたしかだが、それでも今回のこの動きについては……エリスのほうが、レベッカの気質に合致している。
また一つ、ヴァールがエリスにここまで期待を寄せる理由が分かったと内心にてつぶやく。
なるほど将来が楽しみな嬢ちゃんだと、レベッカ自身もエリスの可能性にどこか、魅せられるものを覚えつつも──ワームホールを抜けた彼女は、エリスに並び駆けながら仲間達へと告げるのだった。
「やるぜエリスちゃん、モンスター退治だぁ! ヴァールさん、シモーネんこと、頼みますぜぇ!」
「任せろ! ワタシ達もある程度状況を把握できればすぐに向かう、それまでどうか持ちこたえてくれ!」
「あいよ! おうシモーネ、こっち来るまでに腹ァ括っとけよっ! エリスの嬢ちゃんに気合でもう負けてんじゃねーかよぉ!!」
「うっ……は、はいー!」
ヴァールとシモーネに叫びながらも駆け抜ける。もちろんエリスも同様だ、揃っていつでも戦えるよう準備は整えている。
エリスはナイフ、レベッカは剣。お互い初めて肩を並べる形の、異色のタッグによる戦線への介入である。




