ゴールデンアーマー
木々を抜けて駆け抜けるヴァール、エリスの両名は、すぐさま感知するままにモンスターの元に辿り着いた。
大多数をヴァールの《鎖法》によって倒したものの、範囲外にいたために仕留め損ねたモノ達──残党とも言うべき怪物達を、今ここで撃滅し尽くすのだ。
しかして視認したモンスターのなかにも、それなりに恐るべき難敵はいる。
ヴァールは見えてきた敵、木々に紛れてこちらを伺う殺気立った一団を見て、エリスに話しかけた。
「見えるか、エリス! ……ゴールデンアーマーだ。他の取り巻きどもは大したこともないが、アレだけは別格だぞ。気をつけろ」
「そう、なんですか? たしかに一体だけ、明らかに風格があるような」
「本来ならば腕利きの探査者が複数人がかりで仕留めるようなモノだな。ワタシ一人でも問題はないが、しかし……」
敵の群れに紛れて一体、金色に輝く鎧がいる。ゴールデンアーマーと呼ばれるそのモンスターなのだが、これがまた厄介なのだとヴァールは言う。
探査者制度が確立され、ダンジョン探査が業務として為されるようになって12年。その間にも収集されたデータから、このゴールデンアーマーは数あるモンスターのなかでも一際強く厄介な類だというのはすでに周知されているのだ。
とにかく強い。攻撃は鋭く動きも速く、あげく生半可な攻撃など跳ね返してしまうほどに堅牢な鎧をも備えている隙の無さ。
1957年現在においては、出くわしたらどうにか逃げてやり過ごすことさえ推奨されるほどの難敵。実際このゴールデンアーマーは後の世において、モンスターが強さごとに級区分された際には準最強格にあたるB級モンスターの筆頭格として扱われることになる。
そんなものさえダンジョンから抜け出て地上をうろついている始末。
こればかりは本気で洒落にならないと、ヴァールは足を止めて敵と一定の距離を保ちつつ舌打ちした。
「ふざけているな……これもやつらの、能力者解放戦線とやらの仕業とでも言うのか」
「能力者解放戦線って、こないだテレビに出てたっていう人達ですか? 私の村だと、村長の村に一台きりしかテレビなんてありませんから、なんだか噂話程度でしかないですけど」
「まだ数日前の話でもあるからな。だがモンスターハザードは聞いたことがあるだろう? 12年前に起きた騒動の再来だ、このスタンピードは人為的に引き起こされている可能性がある」
「そんな……! こんな大変なことが、人為的に!?」
話を受けてエリスは呻いた。彼女の故郷は田舎の寒村、ろくに世間の情報も入ってくることはないのだがそれでも、何やら都会のほうではおかしな騒ぎが起きているらしいというのは風の噂で聞いていた。
しかしまさか、こんな地獄を意図的に引き起こしている人間がいるかも知れないとは! ……まさに今しがた死の恐怖を味わった者として、エリスは驚きと困惑、そして怒りを禁じ得ないでいた。
逆手に持ち、《念動力》の刃を伸ばしたナイフを構える。ヴァールも同様だ、《鎖法》にて顕現した鎖を巻き付けた左腕を眼前、ゴールデンアーマーを始めとするモンスター達へ差し向ける。
お互いに初めて組む相手だが、それでもなんの躊躇いも迷いもない。やるべきこと、モンスターを倒してこの地に平和をもたらす使命を全力で果たすのみだと信じているからだ。
「事実がどうであれ、今目の前にある光景がすべてです……この地に平和を取り戻すため、一歩も引く気はありません!」
「無論だ……! そうして背後に何者かがいるというなら、それは戦いの先に自ずと辿り着ける。人々を守るためにも、この騒動の元凶を叩くためにも、まずは眼前の敵を粉砕する!」
「やりましょう、ヴァールさん! 《念動力》!」
「《鎖法》! 鉄鎖よ、ここに華開け──鉄鎖乱舞!!」
ゆえに、二人は突撃した。エリスはナイフを手にゴールデンアーマーへと斬りかかり、ヴァールは左腕から幾重にも鉄鎖を放ち、周囲の木々ごとモンスターを貫き薙ぎ倒す。
見るからに一対一が得手だろうエリスを、ヴァールがフォローする形だ。とはいえゴールデンアーマー相手に彼女一人で立ち向かえるとも思っておらず、同時に駆け出す。
対するモンスター達も当然ながら反抗するが、大半はそのまま鉄鎖乱舞に飲み込まれて光の粒子へと変じていく。
唯一、反撃らしい反撃をしかけるのはやはり、ゴールデンアーマーのみだろう。自身めがけて迫る鉄鎖を手にした金色の剣にて切り払い、さらに向かってくるエリスに対しても逆に、突進してきたのだから!
「────────!!」
「《念動力》の刃、たとえ格上相手でもッ!!」
真正面からかち合う形となったが、それでもエリスも怯まない。スキルによって形成したエネルギー・ブレードで、まっすぐに敵を切り裂く。
それに応じる金色の剣がぶつかり合い火花を散らす。膂力は互角──いや、やはりゴールデンアーマーのほうが上だ。たった一合だがそこには絶対的な力の差が現れていた。
弾かれるエリスのナイフ。エネルギーの刃こそ健在だが、その体はにわかにたたらを踏む。
さらにゴールデンアーマーが前進した、肩口でタックルを放とうとしているのだ。直撃すれば死にこそしないだろうがタダでは済むまい、そんな勢いだ。
しかし。
エリスはそれを冷静に見て対処した。体勢を大きく崩したにもかかわらず、信じられないほどに軽やかな動きで宙を舞い、ゴールデンアーマーの頭上高くを飛び越し跳ねたのである。




