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大ダンジョン時代クロニクル  作者: てんたくろー
第二次モンスターハザード前編─北欧戦線1957─

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31/94

プレリュード1957

第二部前編、はじめますー

 1945年、能力者大戦第終結──それと同時に終結した、第一次モンスターハザードから12年が経過する頃。1957年の新春。

 それはすなわちソフィア・チェーホワを頂点とする世界探査者連携機構、通称WSOが大戦後に世界の潮流を牽引するようになって早、12年ほどの時が流れたことを意味していた。

 

 スキル、レベル、称号などを総称してのステータスを保持し、世界中に発生するダンジョンに潜りモンスターを打ち倒す能力を与えられた存在。能力者あらため、探査者。

 WSOが構築した大ダンジョン時代社会における、まさしく主役と言える彼らの活躍は、この頃にはすでに社会に浸透しきったものとなっている。

 

 しかしてこの頃、ようやく安定し始めていた社会に再び争乱の兆しが見え始めていたのを、他ならぬソフィアとその裏人格ヴァールはすでに把握していた。

 スイスはジュネーヴにあるWSO本部施設。その最奥にして中核である統括理事室にて、デスクに着いている彼女は受け取った報告から暗雲の気配について指摘した。

 

「……北欧にてスタンピード現象が頻発か。どうにもきな臭い、というレベルを超えているな。現地の様子はどうだ、レベッカ」

「大分まずいことになってますよ、ヴァールさん」


 ウェーブがかった長い金髪の、西洋人形のように美しく無機質な無表情の美少女。WSO統括理事ソフィア・チェーホワに潜むもう一つの人格、ヴァールが顕現している。

 そして彼女の問いに答えるのは、レベッカ・ウェイン。WSOの前身たる能力者同盟の頃からソフィアとヴァールに協力している仲間であり、ある種の教え子でもある。


 縦にも横にも大きな女傑で、筋骨隆々にして勢いよく豪快な気質でもあるレベッカだが、今この時ばかりは神妙な面持ちで、深刻な空気を出している。

 実際、大事だった。ダンジョンから大量にモンスターが出てきて地上で暴れまわるスタンピード現象が、今や北欧地域では頻発しているのだから。


 その地域を代表する探査者とされる彼女にとっては、まさしくこれは他人事などではないのである。

 だからこそこうして、ソフィアとヴァールに直談判の形で接触してきたのだ……苦々しくも続ける。


「WSOや現地の全探組も、モンスター対策のために探査者をあちこちの町や村に配置してますが。スタンピードともなりゃあ数人がかりでどうにかなる程度の話じゃない。早晩崩壊しますぜ、社会が」

「まずいな……しかしどうしたことなのか。これほどまでの連続スタンピードだ、もしかすると人為的なものかもしれんが、だとするとなぜ今になって。かつての似たような事件からもう、12年も経過するのだぞ」

「あん時よろしく委員会が関わってるってんなら、ほとぼりが冷めたしそろそろってノリかもしれません。あるいはまた別の組織が絡んでるかもわかりゃしませんし、そもそも何者かの悪意が関わっているかどうかも分かりません」

「うむ。だがどうあれ言えることは、このままでは北ヨーロッパは未曾有の大被害によって混乱の極致へと至るということだ。ならばワタシのやるべきことはひとつ、WSOの総力を挙げて事態の迅速なる解決を図る」

 

 レベッカとの話にひとつうなずき、ヴァールは立ち上がった。無表情ながら漂う闘志、戦意に、長年の付き合いであるレベッカは息を呑んだ。

 最初のスタンピード事件を経ての能力者大戦終結、そしてWSO発足から12年……不思議なことに姿こそかつてとなんら変わらないソフィアとヴァールだが、政治組織のトップということもあり荒事からはすっかり離れていたはずだ。

 

 だというのにこの威圧感はどうか。あれからもひたすらモンスターを相手にし続け、36歳を迎えて肉体的にも精神的にも実力的にもピークを迎えた感のあるレベッカだが、今でも目の前の少女と戦ったとして勝てるかどうか怪しいと思える。

 悔しさはなく、むしろ頼もしい限りではあるのだが。どうにも得体の知れない不気味さも感じ取ってしまい、自然と彼女も立ち上がった。

 内心を表に出すことなく、ただ感謝のみを告げる。

 

「動いてくれるんですね、ヴァールさん! ありがとうございます!」

「最低限の引き継ぎと入国の手続きを行い、さっそく向かう。さすがに二日は準備に時間がかかるが、お前はどうするレベッカ」

「先に現地のフィンランドに行ってお待ちしてますよ! 自慢の弟子、シモーネ・エミールも連れてね!」

「ああ、以前にも手紙をくれたな……優秀らしいな。会えるのが楽しみだ」

「きっと気に入りますよ! かわいがってやってくださいな、ガハハハハハハ!!」

 

 豪快に笑うレベッカ。12年前はソフィアやヴァールの薫陶を受けた彼女も今では師匠として、人を育てる立場にもなっている。

 時間の流れを実感して、ヴァールはわずかに目を細めた。彼女なりの微笑みである。

 

「本当に、楽しみだ……何が待ち受けているか知らんが、また力を貸してくれ、レベッカ。安定している今この世界を、再び混乱に陥れさせるわけには断じていかない」

 

 強い使命感の眼差しと言葉。ヴァールには、そしてソフィアにも目的がある。

 この世の誰も知らない、世界を護り抜くための使命。ようやく土台を構築し、これから果てしない未来をも見据えて動かなくてはならない時期を、邪魔立てさせはしない。

 

 決意とともにヴァールは窓から空を見た。冬の空、遠い蒼穹への眼差しもまた、遠く。

 ──かくして二日後、WSO統括理事ソフィア・チェーホワはスイスから北欧はフィンランドへと向かうのである。

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― 新着の感想 ―
おお!遂に出番か!織田!!(まだ早い。むしろ、よく動かずにいられたものだと言えるぐらいにヤバい事態)
2025/08/01 08:03 こ◯平でーす
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