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大ダンジョン時代クロニクル  作者: てんたくろー
第一次モンスターハザード─GUILTY CHAIN─

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30/94

贖罪の始まり(第一部完)

 ──そしてそこからはもはや、ソフィアの独壇場だった。

 チェーホワ宣言を発端に世界規模で能力者の人権を認め、平和的な社会参画が促される形となり、新社会の秩序を構築するための責任者として、彼女が選ばれたのである。

 すなわち国際的な能力者管理機構、国連傘下組織の発足である。

 

 能力者同盟をそっくりそのままその組織にスライドさせてソフィアは、それまでの組織名を改めることとした。

 彼女自身の発案により、能力者への呼び名を変えることにしたからだ。新時代社会における能力者の地位向上とそれまでの悪印象払拭のために執り行われた、一番最初の施策だった。

 

「能力者、改め探査者……ねえ? うちらの組織と、あと各国に設置するっつう専門機関に登録すりゃそう呼ばれるって話だけど」

「そして登録しない能力者はそのまま能力者として呼ばれる、か。登録そのものを法律によって義務付けし、そうしないものはそのまま犯罪者とする仕組みを整えるのだな」

「国際探査者連携機構、通称WSO。我々の能力者同盟はこれからはそのように名を変え体系を変え、いよいよ世界に向けて活動していくわけですね」

 

 スイスはジュネーヴ、能力者同盟改め国際探査者連携機構、WSOと呼ばれることになった組織の本部施設。

 その最奥とも言える、WSO統括理事となったソフィア・チェーホワの執務室にて三幹部は感嘆とも畏怖ともつかないため息混じりに現状をまとめた。

 シェン・カーン、レベッカ・ウェイン、そして妹尾万三郎の三人である。

 

 ここに来てとうとう、ソフィアが目指すものの形、理想とする社会の輪郭や雛形が見えてきたように彼ら彼女らには思えていた。

 能力者をWSO、および各国の専門組織に登録することで"探査者"として管理。彼らに継続的なダンジョン探査とモンスター討伐の任務を与えることで社会的な役割と地位を生じさせる。

 

 その上で探査者として登録しない能力者は国際法における犯罪者として定義づけし、取締の対象とすることで先だっての人為的スタンピード事件、今となってはモンスターハザードと呼ばれる一連の騒動のような事態に対処しやすくする、と。

 既存社会を大きく変貌させるこうした施策を、能力者大戦を終焉に導いた圧倒的な手腕とカリスマでもっていよいよ実現に至らせようというのだ、彼女は。

 

「途方もない話だ……! 能力者大戦を終わらせるという時点で大言壮語も甚だしいと正直なところ、思っていたのだが。そんな地点など通過点ですらないような光景を見ているのですね、ソフィア様」

「うふふ……ええ、そうよカーンくん。あなた達にさえ詳しく話せるものではないけれど、それこそが私とヴァールの使命であり責務。そして贖罪でもあるのよ」

「…………」

 

 執務室の奥、一等大きなデスクに優雅に座るソフィアが、カーンの言葉に微笑みとともに答える。

 その口調はあくまで静かで穏やかだが、それでも滲む信じ難い重みに、三幹部達は事情を知らないまでも気圧されていた。

 

 使命、責務……ましてや贖罪とは一体、何に対しての? ソフィアばかりか裏人格のヴァールでさえも、そのような想いでこれまで活動し、そしてこれからも歩いていくのか。

 老いることない身体で、見果てぬ地平を思い描いていついつまでも、永遠にも近しい時間を。


 そのあまりにも過酷な、そして寂しい道程を思い絶句する三人。

 けれどやはりソフィアは言うのだ。すべての重荷を、自分一人で背負うかのような透き通った笑顔で。

 

「そのためとは言わないけれど、あなた達はあなた達にできることをしてくださいね? WSOに残るつもりならばそれでも構いませんが……三人とも、それぞれ別の道を行くのでしょう?」

「え、ええ。私は里に戻り、本格的にシェン一族をまとめ鍛え上げていきます」

「私も故郷に戻ってダンジョン探査していきますよ。弟子の一人でもそろそろ取りてぇなー」

「日本に戻り、モンスター研究を続けることにします。まあ、並行して鍛錬もしていきますが」

 

 それぞれにそれぞれの進路を答える三人。そう、彼らは能力者同盟が正式にWSOとして国連に組み込まれていくなかで、組織を離脱して独立した活動をすることを決めていた。

 カーンは中国に帰還してシェン一族の取りまとめを。レベッカは北欧に戻りモンスターの相手を。そして妹尾は日本に戻り、モンスター研究に精を出すつもりなのだ。

 

 ソフィアには、弟子とも呼べる三人のそうした志を止めるつもりはなかった。むしろ快く見送り、その行く末に幸いあらんことを祈るばかりですらある。

 能力者──否、探査者達がこれから先、長く世界で活動していく上で彼らの自由な切磋琢磨が、さらなる可能性をこの世界にもたらしてくれるはずだ。


 そしてそれは、それこそは己の使命を果たすにあたり重要な役目を果たしてくれる。

 そう、彼女は信じていた。きっとヴァールもだと、もはや意思疎通のできないかけがえのないもう一人の自分をも想って。

 

 だから。ここが一つの区切りなのだ。

 ソフィアは窓から外を眺め、青く透き通る空を見上げた。

 

「ようやく、始まる……ここからなのね。大ダンジョン時代は」

 

 万感の想いを込めるにはあまりにも早い。ここから数百年、数千年の時をかけてでも成し遂げなければならないのだ。

 それでもやっとスタートラインに立てたことに、ソフィアは静かに吐息を漏らしたのであった。

 

 1945年8月。能力者大戦終結と同時に第一次モンスターハザード事件解決。

 ここから12年後。第二次モンスターハザードが引き起こされるまでの間……ソフィアも仲間達も、各々の道に邁進するのであった。

これにて第一部完!ご愛読ありがとうございました!

第二部は2025年8/1から開始!

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― 新着の感想 ―
改めてソフィアさんこそが真の英雄だなと思いますね 矢面に立ってきた重みが違いすぎる
祝!第一部完!お疲れ様でしたー! 次回はお盆に第二部!もしや、ラストはお盆に第八部!?
2025/01/30 18:42 こ◯平でーす
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