星界拳、奥義!
カウンター気味に直撃したワルドの猛攻に、レベッカの全身は刻まれ鮮血の飛沫が飛び散る。
鍛え抜かれた肉体の素地を、レベルでもってブーストした彼女の耐久力は金剛石さながらだ。にも関わらず今の連撃には堪らず、苦痛に叫ばざるを得なかった。
「ぐっ、うっ! ──うぉおあああああっ!!」
「っ、レベッカくんっ!!」
「ざまを見ろ、小癪な女がぁっ!!」
その場に崩れ落ちるレベッカに、叫ぶカーンとワルド。しかしてそこから両者の動きは、まったく隙がなく互いへと向かい合っていた。
返す刀で振り返り、カーンにも斬りかからんとするワルド。しかしてその時にはすでに、星界拳の次の技が放たれていた──当然だ。レベッカの剣戟と同時に放ったのを、ワルドは完全に無視して動いたのだから。
そして仲間が倒れるのを見て、咄嗟に叫んだカーンに動揺はない。どれだけのことが起きようと、今なすべきはたった一つだと心得ているがゆえに。
すなわちワルドを蹴り伏せること、その一点であると信じるがゆえに!
「星界ッ!! 八卦脚ゥゥゥッ!!」
「カーンッ! 貴様も────ぬぐぐあぁぁぁっ!?」
「しぃぁぁああっ!! しゃぉらぁあっ! ──しゃあぁぁぁぉぉぉっらぁぁぁぁっ!!」
反応しきれない敵を、決して逃がしはしないと連撃を放つ。星界八卦脚、最近開発したカーンおよび星界拳の新技だ。
側頭に鋭い回し蹴り、往復しての踵蹴り。顔面をたっぷり揺らして後、回転の勢いを乗せての後ろ回し蹴り。そこからさらに股間部、鳩尾、喉元へまっすぐ下から上へ突き刺す足刀。
この時点でワルドの意識は吹き飛ぶ寸前だ。そこにトドメとばかりに加えられる、顎をかちあげるサマーソルトキック。
最後にその勢いで天高く舞ってからの飛び蹴り──8連撃の大掛かりな構成だ!
「ぐ、く、くっかあぁ……ッ!?」
「ワルド・ギア・ジルバ!! どうだこれこそ星界八卦脚ッ!!」
「が。ぐ。ぎ…………!!」
すさまじい威力。まさしく豪脚をこうまでくらっては、ワルドも決してノーダメージとはいかない。
元よりレベルがそこまで開きがなく、さらに武術家として日頃培っている技と心身の練度も桁違いのカーンだ。一撃一撃に必殺の意志が込められた蹴りの数々は、どれ一発とっても異様な破壊力となっている。
そんなモノを喰らえば、さしもの"最強の能力者"とてただでは済まない。
あっという間に失神寸前となり、どうにか意識を繋ぎ止めても体内にて増幅される痛みは発狂ものの衝撃だ。
……それでも。ワルドはなおも倒れることはなくその場にて踏みとどまった。
そしてあろうことかそのカーンの脚、技を放ち終えて着地せんとしたそれを、剣を手放して掴んだのだ。
「何ぃっ!?」
「シェンッ、カァァァァァァンッ!!」
ほとんど無意識での行動と叫び。最強の能力者であるという自負が、カーンになど負けるものかというプライドが、意地が。男を条件反射的に突き動かしていた。
もはや執念めいた強さへの意志、最強への妄念、そして勝利への欲望。力を振り絞り、右手に握った槍を突き出さんとするワルドへ、カーンは敵ながら天晴だと思わずにはいられなかった。
差し向けられる槍の切っ先。
まともに受ければこの体勢では心臓にまで届きかねない。
「無念、なれど、見事……!」
ここまでか、と。
星界拳への志も道半ばにして終わることを直感し、無念に唇を噛みしめるカーン。しかしてこれほどの男が最後の敵だったことをどこか誇らしくも思いながら彼は、静かに死という敗北を認めようとしていた。
「────じゃねえんだよ! 諦めてんじゃ、ねぇぇぇっ!!」
けれど、次の瞬間。
ワルドの右腕を、背後から振り下ろされた剣が一撃で斬り飛ばした。
生命を奪う槍ごと、カーンに向けられた腕が消失したのだ。
目を見開く二人。
ワルドの背後からそれを為した、血塗れの剣とその持ち主を見る──レベッカ・ウェイン!
切り刻まれ、身体中から流血してもなお絶えぬ闘志が。はるか格上の敵に、一矢報いてみせたのだ!
「き、さ、ま……こ、小娘……」
「やっちまえ……! やれってんだよ、シェン・カーンッ!!」
「レベッカ……!」
流血の量、夥しく。それゆえか明らかに朦朧とした、血の気の引いた顔でレベッカはそれでも叫んだ。カーンを、呼んだ。
それを受け、星界拳士の身体に今一度の熱が籠もった。年下の同志が、異郷の友が、こうまでして自分の背を押してくれている。
敵を倒せと、使命を果たせと。
妹尾を救えと、呼んでいる!
「応えぬわけにはいかん、報いぬわけにはいかんッ!! ワルドよ、これが最後だッ!!」
「シェン……カーンンンンっ!?」
「星界拳、その奥義を受けよ!!」
全身の力を振り絞り、カーンはただ、一撃にすべてをかけた。全身全霊、後先も考えずに今、この時にすべてを出し切る。
星界拳奥義。己が立ち上げた拳法における最強の、そして最高の型。幾年も積み重ねた功夫を練り込み、その技を叫びとともに放つ。
「────星界盤古拳!!」
右脚に、微かな蒼炎さえも灯して。
現時点でカーンに至れるだけの最高到達点ですらある蹴りが、ワルドの胸を直撃した。
決着である。




