エアーズロックの戦い
そして、決戦の時が訪れた。
1945年、5月上旬。オーストラリアはエアーズロック近郊にて、能力者同盟と委員会の最後の戦いが行われようとしているのだ。
周囲一帯はすでにモンスターが100匹近く蠢き、あたり構わず誰彼構わず殺意と殺気を振りまいている。
ダンジョンから引きずり出せても、制御したり手懐けられないがゆえの、これは当然の光景だった……委員会が引き起こしたスタンピードは常に無差別、かつ無軌道な破壊だけを残してきたことからもそれは伺える。
決して許すことのできない犯罪。能力者同士の世界大戦の裏で好き放題していた者達の最後のあがきを目の当たりにし、能力者同盟の戦士達は静かに闘志を燃やした。
「連中、まだこんだけ隠し玉を控えてたってんですかい……クソッタレめ! 妹尾を助けなきゃならねえってのに有象無象がわらわらと!」
「だが委員会の者どもとて、モンスターを意のままに動かすことはできていない。つまりは今、眼の前に広がるモンスターの群れをどうにかするまではあのワルド・ギア・ジルバもアーヴァイン・マルキシアスも出ては来ないだろう。三つ巴の乱戦になるだけだからな」
モンスターが蠢く荒野を見下ろす小高い丘。幾人かの戦闘経験を積んだ能力者および、それを率いる幹部のレベッカ・ウェインとシェン・カーンが言葉を交わす。
二人の関心、目的は眼前のモンスターにはなく、もっぱら敵構成員ワルド・ギア・ジルバによって攫われた妹尾万三郎の救出にあった。
ソフィアを、そして能力者同盟をこの決戦に誘き出すための人質として捕縛された彼を、なんとしてでも救わなくてはならないと二人は燃えている。
それは同時に、ワルドによる奇襲でものの見事に敗北を喫したことに対するリベンジへの意欲とも言いかえられるだろう……妹尾を救い出す道のりで必ず、ワルドをも打倒してみせるという執念が彼と彼女を突き動かしていた。
そこに、冷水を浴びせるように冷徹な声がかけられる。
ソフィア・チェーホワの裏人格、この時代における真の最強の能力者、ヴァールだ。
「連中は間違いなくこの場、このタイミングで雌雄を決するつもりだ。その真意がどこにあるかはさておき、逃げる気がないというならばこちらとしても好都合。妹尾の救出も大事だが、地上を闊歩するモンスターもろとも、やつらの忌々しい計画も作戦も叩き潰すことは忘れるなよ」
「そうですね、ヴァールさん……もうこれ以上、人間とのいざこざはゴメンだ」
「能力者大戦も間もなく終りを迎える。であればこの戦いも、これ以上長引かせていてはいけませんからね」
妹尾の身の安全ももちろん優先事項だが、この場における最優先事項は無論のこと、今この時この戦いですべての決着をつけることだ。
ワルドにしろ、アーヴァインにしろその他の構成員にしろ……これ以上野放しにするつもりは、ヴァールには一切ない。
ゆえに、念押しする。能力者大戦勃発から3年ほどの期間、夥しい犠牲と平和への希求にすべて報いるために。
最後の戦いにしなければならないのだ。そう告げる彼女に、レベッカもカーンも強くうなずく。
「《鎖法》。先手はこちらが打つ。まずはモンスターどもを一匹残らず丁寧に、取り残しなく倒しきれ。その間に委員会構成員が仕掛けてくるならこれを迎え撃ち、そうでなければ周辺の警戒を怠るな。特にアーヴァイン・マルキシアスおよびワルド・ギア・ジルバの姿があればワタシとレベッカ、カーンで対処する」
「ワルドの野郎はヴァールさんと力比べしたいようだがよ、そうは問屋が卸さねえ」
「いつぞやの借りは返させてもらう……! その上でなお我ら二人を下すのならば、済みませんがヴァールさん、その時にこそ頼みます」
「任せろ。だが言わせてもらうぞ……ワタシにまでお鉢が回ることはまずないと信じている。平時の君達であれば、問題なく倒せるとな」
「謝謝ッ!!」
「期待には応えますぜぇっ!!」
スキルによる鎖を顕現させながら指示を出す。ヴァールもまた気合十分、今ここで委員会との決着をつけるつもりでいる。
であるならばもはや問答は無用だろう。能力者同盟構成員達が、次々に戦闘態勢に至る──戦闘開始だ!
小高い丘から戦場に向け、一斉に、彼ら彼女らが飛び込んだ!
「鉄鎖乱舞ッ!! さあ、最後の時だ委員会!!」
「まずは雑魚散らしだ! 舐めてんじゃねぇぞモンスターども、ウルァァァァッ!!」
「星界拳の名を、今こそ歴史に刻む時ッ!! ゆくぞ委員会! 星ィィィ界! 龍ゥゥゥ拳ンンンンンンッ!!」
ヴァールが鎖の華を咲かせ、レベッカが大剣にて旋風を巻き起こし、そしてカーンの星界拳が大地を揺るがす。
まずは前哨戦、モンスターの群れを相手取って能力者同盟は、持てる力のすべてをもって打倒委員会、そして世界平和の実現に向けて疾走り始めた!




